PFAS規制はフッ素樹脂だけの話ではない――電子機器製造が先に備えるべき論点

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PFAS(有機フッ素化合物)の規制強化というニュースを見て、自社には関係ないと考えている製造業の方は少なくありません。

フライパンの焦げ付き防止加工や、アウトドアウェアの撥水コーティングなど、一般消費財の話題として取り上げられることが多いからです。

しかし、この認識は非常に危険です。

電子機器製造、特に基板実装(SMT)の現場において、PFASは極めて広範囲に使用されています。

規制の対象となれば、ある日突然、長年使ってきた副資材が調達できなくなるリスクが潜んでいます。

この記事では、電子機器製造の現場が直面するPFAS規制の真の恐ろしさと、今すぐ備えるべき具体的な論点について解説します。

目次

なぜPFAS規制が電子機器製造業を直撃するのか

欧州REACH規則や米国TSCAが牽引する世界的な規制強化の波

PFASに関する規制は、欧州と米国を中心に猛烈なスピードで強化されています。

その理由は、PFASが「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」と呼ばれ、自然界で分解されず人体や環境に蓄積し続けるという極めて厄介な性質を持っているからです。

たとえば、欧州化学品庁(ECHA:https://echa.europa.eu/ )では、数千種類に及ぶPFASをグループとして一括制限する提案が審議されています。

米国でも、有害物質規制法(TSCA)に基づき、PFASの製造や輸入に関する厳格な報告義務が課されるようになりました。

特定の物質だけを規制していた過去の環境法令とは異なり、今回の規制は対象範囲が桁違いに広いのが特徴です。

グローバルに展開する電子機器サプライチェーンにおいて、欧米の規制をクリアできない部品や製品は、市場から完全に締め出されることになります。

フッ素樹脂(PTFE)という氷山の一角と「隠れPFAS」の存在

PFASと聞いて真っ先に思い浮かぶのは、テフロンなどのフッ素樹脂(PTFE)かもしれません。

ケーブルの被覆や耐熱性が必要な絶縁材料として、フッ素樹脂は確かに多く使われています。

しかし、電子機器製造において本当に恐ろしいのは、意図せず使用されている「隠れPFAS」の存在です。

PFASは、撥水性、撥油性、耐熱性、化学的安定性など、製造業にとって魔法のような特性を持っています。

そのため、目に見えない形で様々な副資材や化成品に添加されているケースが後を絶ちません。

フッ素樹脂という分かりやすい固形の部品だけでなく、液状のケミカル製品にこそ、規制の罠が潜んでいるのです。

表面実装(SMT)や基板実装工程に潜むPFASリスク

防湿コーティング剤や基板洗浄剤への含有という落とし穴

実装ラインにおいて、PFASが最も隠れやすいのが各種ケミカル製品です。

結論から言えば、基板を保護するための防湿コーティング剤(コンフォーマルコーティング)や、フラックス残渣を落とすためのフッ素系洗浄剤には、高い確率でPFASが含まれている可能性があります。

過酷な環境下で動作する車載基板や産業機器向けの基板では、高い防水・防湿性能が求められます。

その性能を担保するために、長年フッ素系のコーティング剤が重宝されてきました。

もしこれらのケミカル製品が規制で使えなくなった場合、ノンフロン系の洗浄剤や、アクリル系・ウレタン系のコーティング剤への切り替えを余儀なくされます。

しかし、材料を変更すれば、硬化時間、密着性、絶縁耐圧などの条件が全て変わってしまいます。

現場の生産タクトを落とさず、かつ要求品質を満たす代替条件を見つけ出すのは、至難の業です。

はんだ周辺部材や半導体パッケージにおける代替の難しさ

さらに視野を広げると、実装される電子部品そのものにもPFASリスクが存在します。

半導体の製造プロセスで使用されるエッチングガスや反射防止膜、さらにはパッケージの封止材の添加剤としてPFASが使われているケースがあります。

また、SMT工程で欠かせないクリームはんだのフラックス成分に、微量のフッ素系界面活性剤が含まれている可能性も否定できません。

はんだ付けの濡れ性を向上させるために、ごく微量だけ添加されている場合があるからです。

顧客であるセットメーカーからの含有調査依頼は、すでに待ったなしで現場に降りてきています。

何百社もの実装工場と取引がある商社やEMSにとって、扱う数万点に及ぶ消耗品すべての含有状況を把握するのは途方もない作業となります。

中小EMSや部品商社が今すぐ取るべき対策と実務フロー

サプライチェーン全体を巻き込んだ含有調査の徹底(chemSHERPAの活用)

対策の第一歩は、現状の正しい把握から始まります。

まずは、自社が購入しているすべての材料、部品、副資材の仕入先に対して、PFASの含有調査を実施しなければなりません。

この際、各社バラバラのフォーマットで調査を行うと、確認作業だけで現場がパンクしてしまいます。

そこで必須となるのが、経済産業省が主導して普及を進めている情報伝達スキーム「chemSHERPA(ケムシェルパ:https://chemsherpa.net/ )」の活用です。

chemSHERPAのような標準化されたツールを使用することで、川上から川下まで、スムーズかつ正確に含有化学物質の情報を伝達することが可能になります。

特に、直接製品を構成しない洗浄剤やマスキングテープなどの「副資材」については、実装工場や商社自身が積極的に調査のイニシアチブを取る必要があります。

実装ラインでの代替品切り替えと品質評価テストの計画立案

含有が判明した場合、次に行うべきは代替品の選定と評価です。

PFASを含む材料を特定したら、仕入先と連携して代替品の開発状況を確認し、サンプルの提供を受けます。

ここで重要なのは、代替品の評価テストには膨大な時間がかかるという事実です。

単に塗って乾かすだけでなく、恒温恒湿試験、熱衝撃試験、絶縁抵抗試験など、実装品の信頼性を担保するための各種テストをやり直す必要があります。

規制が発効してから動き出したのでは、到底間に合いません。

今のうちから先行して代替品の基礎評価を始めておくことが、企業としての最大の防衛策となります。

PFAS規制に関するよくある質問(FAQ)

規制対象となるPFASの種類はどれくらいありますか?

PFASは単一の物質ではなく、炭素とフッ素の結合を持つ有機化合物の総称です。

その数は定義によって異なりますが、数千種類から一万種類以上あるとも言われています。

従来の規制は個別の物質を対象としていましたが、現在の欧州の規制案などでは、これらをグループとして一括で規制する動きが進んでおり、影響範囲が極めて広くなっています。

日本国内の法律や規制の現状はどうなっていますか?

日本国内でも、化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)に基づき、PFOS、PFOA、PFHxSなどがすでに第一種特定化学物質として製造・輸入・使用が原則禁止されています。

環境省(https://www.env.go.jp/ )なども継続的なモニタリングと評価を行っています。

国内法だけでなく、輸出を行う企業は仕向け国の厳しい法規制をクリアする必要があるため、グローバルな基準での対応が不可欠です。

まとめ:環境規制を転換点とし、より強靭なサプライチェーンへ

PFAS規制は、電子機器製造業にとって避けて通れない巨大な壁です。

しかし、これを単なる面倒な規制対応と捉えるか、サプライチェーンを見直すチャンスと捉えるかで、数年後の立ち位置は大きく変わります。

いち早く含有調査を進め、代替材料の評価ノウハウを蓄積した企業は、顧客から圧倒的な信頼を勝ち取ることができるでしょう。

まずは、足元のSMTラインで使われている副資材の安全データシート(SDS)やchemSHERPAのデータを確認することから始めてみてください。

その小さな一歩が、未来の製造ラインを守る大きな防壁となるはずです。

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