パワー半導体実装の放熱と課題:SiC・GaN時代の最新技術

パワー半導体実装の放熱と課題:SiC・GaN時代の最新技術

次世代のエネルギー変換を支えるパワー半導体。

その主役が従来のシリコン(Si)から、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)へと移り変わる中、設計者や製造現場を悩ませているのが実装技術、特に熱マネジメントとはんだ付けの信頼性です。

この記事では、パワー半導体業界の専門ライターが、SiC/GaN実装における放熱対策の重要性と、従来のはんだ付けでは通用しない新たな課題、そして2026年現在の最新技術トレンドを網羅的に解説します。

この記事を読むことで、高出力デバイスの実装設計における失敗を防ぎ、製品の長寿命化を実現するための具体的な知識を得ることができます。


目次

1. パワー半導体(SiC/GaN)実装の定義と背景:なぜ今、熱対策が重要なのか

パワー半導体とは、電力を制御・変換するための半導体デバイスの総称です。電気自動車(EV)のインバーター、太陽光発電のパワーコンディショナー、データセンターの電源装置など、現代社会のあらゆるインフラで活用されています。

SiCとGaN:ワイドバンドギャップ半導体の台頭

これまで、パワー半導体の主流はシリコン(Si)でした。

しかし、シリコンには材料特性上の限界があり、より高い電圧、より高い温度、より高速なスイッチングを求める需要に応えるため、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といったワイドバンドギャップ(WBG)半導体が登場しました。

これらはシリコンに比べて絶縁破壊電界強度が大きく、高電圧に耐えられます。

また、バンドギャップが広いため、200度を超えるような高温環境下でも動作可能です。

なぜ実装技術がボトルネックになるのか

デバイス(チップ)そのものが進化しても、それを取り付ける基板やケース、そして接続する材料(はんだ等)がその進化についていけなければ意味がありません。

SiC/GaNはチップサイズを小型化できるメリットがありますが、それは同時に狭い面積から膨大な熱が発生することを意味します(高熱流密度化)。

この熱を効率よく逃がしつつ、高温動作による熱膨張の繰り返しに耐える強固な接合を維持することが、現在の基板実装における最大のテーマとなっています。


2. SiC/GaN実装における放熱と接合の具体的な仕組み

パワー半導体のパッケージ内部は、複数の層が重なり合った構造をしています。

熱はチップから発生し、各層を経由して最終的に外部(ヒートシンクや筐体)へ放出されます。

熱抵抗の連鎖

熱の流れを妨げる要因を熱抵抗と呼びます。実装全体の熱抵抗(Rth)は、以下の各部位の積み上げで決まります。

  1. チップそのものの熱抵抗
  2. ダイアタッチ層(チップと基板を接合する層)
  3. 絶縁基板(DBC基板やAMB基板)
  4. はんだ接合層(基板とヒートスプレッダの接合)
  5. TIM(放熱グリスやシートなどの熱伝導材料)
  6. 冷却ユニット(ヒートシンクや水冷ジャケット)

SiC/GaN特有の接合課題

従来のSiデバイスであれば、動作温度は150度程度が限界でした。そのため、融点が220度前後の鉛フリーはんだ(SAC305など)で十分対応可能でした。

しかし、SiC/GaNは200度以上での動作が想定されます。

175度から200度を超える動作環境では、従来のはんだは強度が著しく低下し、クリープ変形やクラックが生じやすくなります。

また、熱膨張係数(CTE)の差による応力も増大し、接合部が剥離(デラミネーション)するリスクが高まります。

熱流密度の変化

GaNは特に高速スイッチングが可能で小型ですが、チップ面積が小さいため、単位面積あたりの発熱量がシリコンの数倍に達することがあります。

これを効率よく逃がすためには、点ではなく面で、かつ最短距離で冷却体に熱を伝える設計が求められます。


3. 実装作業の具体的な流れ:高放熱・高信頼性を実現する5つのステップ

SiC/GaNパワーモジュールや高出力基板を製造する際の、標準的な作業プロセスを解説します。

ステップ1:絶縁基板の選定と洗浄

まず、熱伝導率の高いセラミックス基板(窒化アルミ:AlNや窒化ケイ素:Si3N4)に銅箔を接合したDBC(Direct Bonded Copper)基板やAMB(Active Metal Brazing)基板を準備します。

接合面のわずかな有機汚染や酸化膜が、後の工程でのボイド(空孔)の原因となるため、プラズマ洗浄や薬品洗浄を徹底します。

ステップ2:接合材料(シンタリング材等)の供給

SiCなどの高耐熱デバイスでは、はんだに代わって銀(Ag)や銅(Cu)のシンタリング(焼結)材が使われることが増えています。

メタルマスクを用いたスクリーン印刷技術により、基板上のパターンに合わせて正確にペーストを塗布します。

ステップ3:チップマウント(ダイアタッチ)

高精度なマウンターを使用し、チップを基板上に配置します。

シンタリングの場合、単に置くだけでなく、所定の荷重をかけながら仮固定する場合もあります。

ステップ4:加熱・加圧プロセス(焼結・リフロー)

シンタリング材を使用する場合は、窒素(N2)雰囲気または真空下で、温度と圧力を精密に制御しながら加熱します。 はんだ付けの場合は、ボイドを極限まで減らすために真空リフロー炉を使用するのが一般的です。ボイド率が5%を超えると、そこが熱のボトルネックとなり、チップの局所的な過熱(ホットスポット)を引き起こします。

ステップ5:インターコネクトと封止

チップ上面の電極と基板を接続します。

従来は太いアルミワイヤによるワイヤボンディングが主流でしたが、最近では電気抵抗と熱抵抗を下げるため、銅クリップや銅リードフレームを用いたダイレクトリードボンディングが採用されます。

最後に、耐熱性の高いエポキシ樹脂やシリコーン樹脂でモールド(封止)し、環境負荷から保護します。


4. 最新の技術トレンドと将来性:はんだ付けを超えた新技術

2026年現在、パワー半導体の実装現場では、これまでの常識を覆す技術が実用化されています。

銀シンタリング(銀焼結)接合

銀シンタリングは、銀のナノ粒子やマイクロ粒子を加熱・加圧によって結合させる技術です。

最大の特徴は、接合時の温度(約250度)よりも、接合後の融点(銀そのものの融点である962度)が圧倒的に高くなることです。

これにより、SiCの高温動作時でも接合部が溶けたり軟化したりすることがなく、極めて高い信頼性を維持できます。また、熱伝導率もはんだ(約50W/m・K)に比べて200〜300W/m・Kと非常に高いのがメリットです。

両面冷却構造

これまで、チップの片面からしか熱を逃がしていませんでしたが、チップの両面をはんだやシンタリングで挟み込み、上下両方向から冷却する構造がEV用インバーターなどで普及しています。

これにより、同じチップサイズでもより大きな電流を流すことが可能になります。

銅シンタリング技術の進展

銀は高価であるため、コスト低減を目的とした銅シンタリング技術の開発が進んでいます。

銅は酸化しやすいためプロセス管理が難しいものの、銀に近い熱導電性を持ち、材料コストを大幅に抑えられるため、大衆車向けEVなどでの採用が期待されています。

基板内蔵(埋め込み)技術

基板の内部にパワーチップを埋め込む技術も注目されています。

配線距離を最短にすることで、GaNの強みである高速スイッチングを妨げる寄生インダクタンスを最小限に抑え、同時に基板全体をヒートスプレッダとして活用するアプローチです。


5. よくある質問(FAQ)

Q1. 既存のシリコン用リフロー炉でSiCの実装は可能ですか?

A1. 基板とはんだの組み合わせによりますが、物理的には可能です。ただし、SiCの特性をフルに引き出す高温動作(200度以上)を前提とする場合、従来のSAC305はんだでは熱疲労耐性が不足します。高耐熱のはんだ材や真空リフローへの対応、またはシンタリング工程への設備投資が必要になるケースが多いです。

Q2. 放熱対策で最もコストパフォーマンスが良い方法は何ですか?

A2. まずはボイド(空孔)の削減です。高価な材料を使う前に、真空リフローによるボイドレス化を徹底するだけで、熱伝導効率は劇的に改善します。次に、TIM(熱伝導材料)の選定を見直すことも効果的です。

Q3. GaNの実装で特に注意すべき点は?

A3. GaNはSiC以上にパッケージが小型(WLCSPなど)であることが多く、基板との熱膨張係数の差による応力が集中しやすいです。アンダーフィル材の適切な選定や、基板のランド設計の最適化が、長期信頼性を確保する鍵となります。

Q4. 試作を依頼する際の注意点は?

A4. SiCやGaNは非常に高価なチップです。実装の失敗によるロスを避けるため、パワーデバイス特有の知見(ボイド管理や高精度マウント)を持つ工場に依頼することをお勧めします。


6. まとめ

パワー半導体(SiC/GaN)の実装において、放熱対策とはんだ付けの課題解決は、もはや避けては通れない最重要事項です。

  • チップの進化に合わせた、シンタリング材や高耐熱セラミックス基板の採用
  • 真空プロセスによるボイドの徹底排除
  • 両面冷却やクリップ接合などの新しいインターコネクト構造

これらの技術を適切に組み合わせることで、次世代デバイスの性能を最大限に引き出すことができます。

製造現場の皆様、設計担当の皆様にとって、本記事が最適な実装手法を選択する一助となれば幸いです。

もし、具体的な試作や量産、基板調達に関するお悩みがあれば、専門の商社や工場へ相談し、最新の知見を取り入れてください。

記事の信頼性について

確認日:2026-01-31 一次情報:各種半導体メーカー(Wolfspeed, Rohm, Infineon等)の技術データシート、JEDEC標準規格を参考に構成しています。

注記:実装条件は個別の設計により異なります。実際の製造に際しては、必ず材料メーカーの仕様書を確認し、試作評価を行ってください。

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