RoHS指令の適用除外(Annex)まとめ2026年版:車載・医療・軍事でまだ鉛を使える理由




RoHS指令が施行されてから、電子機器の世界から鉛(Pb)は大幅に姿を消しました。

スマートフォンのはんだ、家電の基板、LEDドライバ。 これらには今や鉛フリーはんだが当たり前のように使われています。

ところが、手術室の医療機器を分解してみると、今も鉛はんだが使われていることがあります。

自動車のエンジン制御ユニット(ECU)の中にも、鉛を含む合金が混在しているケースがあります。

そして防衛省向けの通信機器や軍用センサーには、RoHSの適用そのものがありません。

「RoHSで鉛は全面禁止じゃなかったのか?」

この疑問は、RoHS指令の構造をきちんと理解していないと必ず生まれます。

正確に言えば、RoHSは鉛を「原則として禁止」しているのであって、「すべての製品・すべての用途」で禁止しているわけではありません。

指令の中には「適用除外(Exemption)」という仕組みがあり、代替技術が存在しない、または代替への移行が技術・経済的に困難な場合に、鉛の使用を例外的に認めています。

この記事では、2026年時点での適用除外の全体像を整理し、車載・医療・軍事という3つの分野でなぜ鉛が使い続けられているのかを、法的根拠・技術的背景・実務上の注意点とともに詳しく解説します。


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RoHS指令と「適用除外」の基本構造を整理する

RoHSとは何か:対象物質・対象製品カテゴリ

RoHS(Restriction of Hazardous Substances)指令は、欧州連合(EU)が制定した電気・電子機器(EEE)に含まれる特定有害物質の使用を制限する法律です。

現行の「RoHS 2」は2011年に制定された指令(2011/65/EU)であり、その後2015年の改正(2015/863/EU、通称「RoHS 3」)でフタル酸エステル類4種(DEHP、BBP、DBP、DIBP)が追加されました。

制限される物質は現在10種類です。

鉛(Pb)、水銀(Hg)、カドミウム(Cd)、六価クロム(Cr6+)、ポリ臭化ビフェニル(PBB)、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)、そしてDEHP・BBP・DBP・DIBPの4種のフタル酸エステル類です。

各物質の最大許容濃度(MCV)は、カドミウムが0.01 wt%、その他は0.1 wt%と設定されています。

対象となる製品カテゴリは10区分(旧RoHSの8区分から拡大)あり、大型家電から医療機器、自動販売機まで幅広く含まれます。

ただし、この「対象カテゴリ」の理解が実は最初のつまずきポイントです。

自動車(車両本体)はRoHSの対象カテゴリに含まれていません。

後述するように、車両はELV指令(End-of-Life Vehicles Directive)という別の規制体系が適用されるため、RoHSの適用除外を議論する前に、そもそも適用対象かどうかを確認することが必要です。

公式情報の参照先として、欧州委員会のRoHS公式ページ(https://environment.ec.europa.eu/topics/waste-and-recycling/rohs-directive_en)と、EUR-Lex(https://eur-lex.europa.eu)の条文を必ず一次情報として確認することを強くすすめます。

適用除外(Exemption)とはどういう仕組みか

RoHS指令において、制限物質の使用が認められる根拠は大きく2つあります。

ひとつは「適用範囲外(Out of Scope)」:指令そのものが適用されない製品・用途であること。

もうひとつが「適用除外(Exemption)」:原則として禁止されているが、特定の用途・条件のもとで例外的に使用を認められていること。

この2つは似て非なるものです。

適用範囲外の場合、その製品に対してRoHSの要求事項をまったく考慮する必要がありません。

一方、適用除外は「RoHSの管轄下にあるが、条件を満たせば鉛などの使用を認める」というものです。

適用除外を利用するには、製品の技術ファイルに当該除外の番号と根拠を明記し、CE適合宣言書(DoC)に反映させる義務があります。

また、ほとんどの適用除外には有効期限(Expiry Date)があり、定期的な更新申請によって延長されます。

有効期限を確認せずに適用除外を前提にした設計を続けることは、法規制上の重大なリスクになりえます。

AnnexとArticleの違い:なぜここを混同してはいけないか

「RoHSの適用除外はAnnexに載っている」という説明を聞いたことがあると思います。

正確には、以下の構造になっています。

Articleは指令の「本文条文」です。

製品の適用範囲そのものの除外(軍事・航空宇宙・大型定置型産業用ツールなど)はArticle 2に定められており、これは「適用除外」ではなく「スコープ外」です。

Annexは指令の「附属書」です。

特定の物質・用途に対する使用の例外(適用除外)はAnnex III〜VIに列挙されています。

混同が起きやすいのは、「軍事製品はAnnexの適用除外によって認められている」という誤解です。

実際には、軍事製品はArticle 2(4)(a)によって指令の適用範囲そのものから除外されており、Annexの話ではありません。

この違いを理解しているかどうかで、コンプライアンス対応の精度が大きく変わります。




Annex III:全カテゴリ共通の鉛使用適用除外一覧(2026年版)

高融点はんだ(7(a))と合金素材(6(c))の実務的な意味

Annex IIIはRoHSカテゴリ1〜7および10・11(一般民生機器など)に共通して適用される除外リストです。

このうち鉛に関して特に実務で重要なのが、除外番号7(a)と6(c)です。

除外番号7(a)は「高融点はんだ(鉛が85wt%以上の鉛ベースはんだ合金)」の使用を認めています。

高融点はんだは、パワーモジュールやフリップチップ実装など、製品の動作中に高い温度が発生する箇所で使われます。

現時点で信頼性・耐熱性の観点から代替技術が存在しないため、この適用除外は現在も有効です。

除外番号6(c)は、鉛を含む合金(鋼・アルミニウム・銅合金)の使用を認めています。

具体的には、快削鋼(Pb 0.35 wt%以下)、アルミニウム合金(Pb 0.4 wt%以下)、銅合金(Pb 4 wt%以下)などです。

電子機器の筐体・端子・コネクタには銅合金が使われることが多く、この除外がなければ多くの標準部品の調達が困難になります。

実務上の注意点として、これらの除外を使用する場合は、使用する合金の鉛含有量が規定値以下であることを材料証明書(ミルシート)で確認し、記録として保管することが求められます。

圧電セラミックス・高電圧コンデンサ(7(c))の重要性

除外番号7(c)シリーズは、電子部品のセラミックや特定のガラスに含まれる鉛を対象としています。

7(c)-Iは、圧電デバイスなど、コンデンサの誘電体セラミック以外のセラミックまたはガラス中に含まれる鉛の使用を認めています。

圧電素子(ピエゾ素子)はPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)と呼ばれる材料で作られており、鉛が機能の本質的な構成要素となっています。

超音波センサー、インクジェットヘッド、MEMS素子など、産業・医療を問わず幅広く使われる部品です。

鉛フリーの圧電材料の研究は進んでいますが、2026年時点でPZTと同等の性能を持つ実用的な代替材料はまだ限定的で、この適用除外の重要性は引き続き高い状況です。

7(c)-IIは、定格電圧が交流125V以上または直流250V以上のコンデンサの誘電体セラミックに含まれる鉛の使用を認めています。

高電圧コンデンサはインバータ・電源回路・モーター制御など産業用途に欠かせない部品であり、高電圧・高温環境での代替材料の実用化にはまだ時間がかかります。

適用除外の有効期限と更新申請の流れ

Annex IIIの除外の多くには有効期限があります。

更新申請はメーカー・業界団体などの利害関係者が欧州委員会に提出し、技術的・経済的な代替可能性の評価(通常はFraunhofer IZMやBiPROなどの外部機関が担当)を経て、欧州委員会が延長の可否を決定します。

事業者として重要なのは、使用している適用除外の有効期限を自社で管理することです。

適用除外の失効は公告から一定期間後(多くは1〜1.5年後)に適用されますが、それまでに代替設計への移行、または代替品の調達が必要になります。

適用除外の現在の有効期限情報はEUR-Lex(https://eur-lex.europa.eu)で公開されているEU委員会規則(Delegated Directive)の最新版を確認することが最も確実な方法です。




車載(自動車)分野でまだ鉛が使える理由

RoHSではなくELV指令(2000/53/EC)が適用される理由

自動車(乗用車、バス、トラックなどのM・N・L1カテゴリ車両)に組み込まれた電子部品は、RoHSではなくELV指令(End-of-Life Vehicles Directive、2000/53/EC)が適用されます。

なぜかというと、RoHS 2のArticle 2(3)(a)が、ELV指令の適用を受ける車両を明示的にRoHSの対象から除外しているからです。

つまり、自動車に搭載されたECU(エンジン制御ユニット)、ABS制御ユニット、インフォテインメントシステムなどは、RoHSではなくELVの規制体系のもとで評価されます。

これは実務上、極めて重要な区別です。

例えば、同じ回路基板でも、スマートフォン向けに設計されたものはRoHS準拠が必須ですが、自動車のメーターパネルに搭載される回路基板はELVの基準で判断されます。

ELV指令(https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32000L0053)のAnnex IIに、有害物質の使用制限と適用除外が列挙されています。

ELV Annex IIの鉛適用除外の現状

ELV Annex IIには、車両部品における鉛の使用が認められる多くの除外が含まれています。

主なものとして以下が挙げられます。

鋼・アルミ・銅合金の合金成分としての鉛、鉛蓄電池(スターターバッテリー)の電極材料、振動ダンパーの鉛、電子回路基板上のはんだとしての鉛(一定条件下)、高融点はんだ合金、圧電センサー用の鉛含有セラミック、などです。

ELVの適用除外もRoHSと同様に定期的な見直しが行われ、欧州委員会による改正規則(Delegated Regulation)として更新されます。

2024〜2026年にかけて、ELV指令全体の見直し(廃棄物規制の枠組み改正)が議論されており、Annex IIの内容にも変化が生じる可能性があります。

欧州委員会のELV指令専用ページ(https://environment.ec.europa.eu/topics/waste-and-recycling/end-life-vehicles_en)で最新動向を確認することをすすめます。

車載電子部品をRoHS対象と混同することのリスク

現場でよく見られる間違いが、「車両に搭載されるからRoHSは関係ない」という過信です。

OEM(完成車メーカー)が自動車向けに購入する部品は、確かに車両搭載後はELVの管轄です。

しかし、同じ部品が自動車補修用部品(Aftermarket Parts)として小売市場に流通する場合は、RoHSの対象になる可能性があります。

また、開発段階でRoHS対応のEMC試験ボードや評価用基板を製造する場合も、それが最終的に車両に搭載されるとしても、製品カテゴリの判定は出荷形態・販売先によって変わります。

さらに、日本やアジア市場では「EU向け輸出品はRoHS準拠で、国内向けはELV準拠」という二重管理が必要なケースも多く、部品の仕様書・材料宣言(SDS / IMDS登録)を車両向け・EU市場向けで別途管理することが実務上の標準的なアプローチになっています。




医療機器分野でまだ鉛が使える理由

RoHSカテゴリ8・9の特別扱いとAnnex IV / V / VI

医療機器(RoHSカテゴリ8)と産業用監視・制御機器(カテゴリ9)は、RoHSの中でも特別な扱いを受けています。

一般的な民生電子機器(カテゴリ1〜7)とは異なり、医療機器や精密計測機器には代替技術への移行に時間がかかるものが多く、固有の適用除外が別途設けられています。

具体的には、Annex IIIがカテゴリ1〜7・10・11に共通して適用されるのに対して、カテゴリ8(医療機器)にはAnnex IIIに加えてAnnex IVとAnnex Vが、カテゴリ9(産業用M&C機器)にはAnnex IVとAnnex VIが追加で適用されます。

Annex IVはカテゴリ8・9共通の追加除外です。

Annex Vはカテゴリ8のみの除外です。

Annex VIはカテゴリ9のみの除外です。

この構造を知らずに「Annex IIIを確認すれば医療機器の適用除外は完結する」と思い込んでいると、Annex IVやVの適用除外を見落とすことになります。

具体的な適用除外と対象製品

医療機器向けの代表的な適用除外として以下のものがあります。

Annex IV(カテゴリ8・9共通)には、精密計測機器向けの特定はんだ付け用途における鉛の使用などが含まれています。

Annex V(カテゴリ8:医療機器専用)には、人工内耳(コクレアインプラント)の回路基板のはんだ付けに使用する鉛、インビボ(体内)診断用イメージング機器に使用する鉛、放射線治療装置の高電圧部品、超音波トランスデューサーに使用するPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)系セラミック、などが含まれています。

医療機器に対して鉛の使用が多く認められているのには明確な理由があります。

医療機器は人命に直結するため、「性能・信頼性を犠牲にして代替材料に移行する」という選択肢が取れません。

鉛フリーはんだへの移行で知られるウィスカ(錫のひげ状結晶)問題は、民生機器では許容されることがあっても、植込み型医療機器では絶対に許容できないリスクです。

また、医療機器の設計変更は臨床試験・当局承認を伴うことが多く、材料変更のリードタイムが数年単位になるケースもあります。

このような技術的・規制的背景が、医療機器分野での鉛使用適用除外が幅広く認められている理由です。

2026年時点の更新状況と実務上の注意点

医療機器向けの適用除外も定期的な見直しを受けています。

欧州委員会のデリゲート規則(Delegated Regulation)によって適用除外が延長・修正・削除されます。

2025〜2026年にかけて複数の医療機器向け適用除外の見直しが進行中であり、最新の状況はEUR-Lexの規則データベースで随時確認する必要があります。

実務上の注意点として、使用している部品の適用除外番号と有効期限を製品ごとに技術ファイルに記録することが重要です。

特に受託製造(EMS)を活用している場合、EMS側が最新の適用除外状況を常に把握しているとは限りません。

医療機器メーカー(製造業者)は最終的なコンプライアンス責任を持つため、適用除外の管理は自社の法規制チームが主導して行う体制が必要です。




軍事・防衛分野でまだ鉛が使える理由

「適用除外」ではなく「適用範囲外(Out of Scope)」という重要な違い

軍事・防衛分野における鉛の使用がRoHSで認められている理由は、Annexに列挙された「適用除外」とは根本的に異なります。

軍事目的の製品は、RoHS 2のArticle 2(4)(a)によって、指令の適用範囲そのものから除外されています。

条文は「EU加盟国の安全保障上の本質的な利益の保護のために必要な機器、具体的には軍事目的のために特別に設計された兵器・弾薬・軍事材料」を対象外としています(参照:EUR-Lex https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32011L0065)。

これはAnnexの除外とは本質的に異なります。

Annexの除外は「RoHSの管轄下にあるが、条件を満たせば鉛の使用を認める」という構造です。

Article 2(4)(a)は「そもそもRoHSが適用されない」という構造です。

つまり、軍事製品の技術ファイルにRoHSのAnnex番号を記載する必要はありませんし、RoHSのDoC(適合宣言書)を発行する義務もありません。

この区別を正確に理解していないと、軍事契約において不要なコンプライアンス要求を課したり、逆に民生品向けの仕様書で軍事用の除外論理を誤用したりというトラブルが起きます。

Article 2(4)(a)が根拠:兵器・弾薬・軍事目的の装備

「軍事目的のために特別に設計された(specifically designed for military purposes)」という表現が適用の判断基準です。

ここで重要なのは「specifically designed」という部分です。

一般的な汎用品(民生流用品)を軍が購入して使用するケースでは、この除外が自動的に適用されるわけではありません。

例えば、市販のラップトップPCを軍が事務作業用に使う場合、そのPCはRoHSの適用対象です。

一方、特定の軍事システムに組み込むために専用設計された電子モジュールは、Article 2(4)(a)による除外が適用されます。

防衛装備品の調達を行う際には、製品が「軍事目的のために特別に設計された」ものかどうかを明確に文書化しておくことが、コンプライアンス上の安全を確保する上で重要です。

軍民両用製品(デュアルユース)の判断基準

実務上、最も悩ましいのが「デュアルユース(軍民両用)製品」の扱いです。

例えば、民間の防災・通信インフラにも使われるが、軍の通信システムにも使われる製品はどちらの規制が適用されるでしょうか。

RoHSの観点では、製品の「主たる用途・販売対象」と「設計上の意図」が判断の基準になります。

同一の製品が民生市場にも流通している場合、軍向けに販売する分についても民生品扱いとなり、RoHS準拠が求められる場合があります。

こうしたグレーゾーンは案件ごとに法律専門家の判断を仰ぐことが現実的な対応策であり、「軍向けだからRoHSは不要」と一律に判断するのは危険です。




適用除外の失効リスクと2026年以降の見通し

過去に失効した適用除外の事例から学ぶ

RoHSの歴史の中で、一部の適用除外はすでに失効しています。

以前は認められていた特定の水銀含有蛍光ランプの用途や、一部の鉛はんだ適用除外が、代替技術の普及とともに削除されてきました。

適用除外が失効した際に、メーカーが適時に情報を把握できていなかった場合、RoHS違反状態での製品出荷というリスクが現実のものになります。

これは市場サーベイランス当局による是正命令、製品回収、EU市場からの出荷停止につながる可能性があります。

適用除外の失効は「知らなかった」では済まされない法規制上の問題であり、製品ライフサイクルを通じた継続的なモニタリングが必要です。

更新申請のタイムラインと事業者がすべきこと

現行の適用除外が失効する前に欧州委員会が次のサイクルに向けた評価を開始し、評価機関(BIPROやFraunhofer IZMなど)が代替技術の可用性を調査します。

評価結果をもとに欧州委員会がデリゲート規則の改正案を公表し、パブリックコンサルテーション(意見公募)を経て、最終的な延長または削除が決まります。

このプロセスには通常、数年の時間がかかります。

なお、欧州委員会の発表によると、更新申請は有効期限の18か月前までに提出する必要があり、申請済みの除外については委員会が決定を下すまで引き続き有効とされます(参照:https://environment.ec.europa.eu/topics/waste-and-recycling/rohs-directive/implementation-rohs-directive_en)。

事業者として実施すべきことを以下に整理します。

まず、自社製品に使用しているすべての適用除外番号と有効期限をリスト化した管理台帳を作成します。

次に、有効期限の1〜2年前には、欧州委員会の評価プロセスの進捗を確認し、延長が見込まれるか、または代替設計への移行が必要かを判断します。

そして、業界団体(DigitalEurope、COCIRなど)が適用除外の更新申請をまとめて提出することが多いため、こうした団体の活動に注目することも有効です。

REACHとの関係性:二重管理の落とし穴

RoHSの適用除外を議論する際に見落とされがちなのが、REACH規則(EC No 1907/2006)との関係性です。

REACHは化学物質そのもの(サプライチェーン全体)を対象とした規制であり、RoHSが「製品に含まれる特定物質の濃度上限」を定めているのに対して、REACHは「認可なしに使用できない高懸念物質(SVHC)のリスト」を通じて管理します。

鉛化合物の一部はREACHのSVHCリストに含まれており、成形品(Articles)中に一定量以上含まれる場合にはサプライチェーンへの情報伝達義務(SCIP通知)が発生します。

つまり、RoHSの適用除外によって鉛の使用が認められていても、REACHのSVHC情報伝達義務は独立して発生します。

「RoHSで適用除外が認められているから問題ない」という思い込みで、REACH義務を見落とすケースが実務ではよく起きます。

EU市場への製品輸出においては、RoHSとREACHを並列に管理する体制が必要です。




FAQ:よくある質問と回答

Q1. RoHSの「適用除外」を使うには、当局への申請が必要ですか?

個別の申請・承認は不要です。

Annexに記載された除外番号を技術ファイルと適合宣言書(DoC)に正確に記載し、要件を満たしていることを自己認証する形で運用します。

ただし、市場サーベイランス当局から求められた際に、根拠を示す技術ファイルをすぐに提示できる状態を常に維持しておく必要があります。

Q2. 自動車向けに部品を製造しています。RoHSとELV、どちらを確認すればいいですか?

原則として、車両本体に搭載される部品はELV指令(Annex II)が適用されます。

ただし、同じ部品をアフターマーケット(補修部品市場)に販売する場合はRoHSの対象となる可能性があります。

販売形態・顧客・最終用途を確認し、必要に応じて法務・法規制の専門家に相談することをすすめます。

Q3. 医療機器のカテゴリ8は、いつからRoHSの完全な対象になったのですか?

RoHS 2(2011/65/EU)のもとで、カテゴリ8(医療機器)は2014年7月22日から適用対象となりました。

ただし、インビトロ診断用医療機器とアクティブ植込み型医療機器については、それぞれ2016年・2021年と適用開始時期が異なっていました。

Q4. 軍事向け製品であれば、材料・はんだの制限は完全に関係ないですか?

RoHSの義務は適用されません。

ただし、軍や防衛省の調達仕様に独自の環境・材料要件が設けられているケースがあります。

また、デュアルユース製品や汎用民生品を軍が調達する場合は別途の判断が必要です。

Q5. 適用除外の有効期限はどこで確認できますか?

EUR-Lex(https://eur-lex.europa.eu)で「2011/65/EU」または関連する委員会規則(Commission Delegated Directive)を検索するのが最も確実な方法です。

また、欧州委員会のRoHS適用除外情報ページ(https://environment.ec.europa.eu/topics/waste-and-recycling/rohs-directive/implementation-rohs-directive_en)にも、適用除外の手続き・コンサルテーション状況に関する最新情報が掲載されています。

Q6. SCIP通知とは何ですか?RoHSと関係ありますか?

SCIPはREACH規則に基づく成形品中のSVHC(高懸念物質)情報のECHA(欧州化学品庁)への通知制度です。

RoHSとは独立した義務であり、RoHSの適用除外を受けていても、SVHC情報の通知義務は発生します。

両者を区別して管理することが重要です。

詳細はECHA公式ページ(https://echa.europa.eu/scip)で確認できます。

Q7. 鉛フリーはんだへの移行で「ウィスカ」が問題になると聞きましたが、これはどんなリスクですか?

鉛フリーはんだ(主に錫系)の表面に、ウィスカ(錫の針状結晶)が成長することで、隣接する回路との短絡(ショート)が生じるリスクがあります。

鉛を含む従来のはんだ合金ではウィスカはほとんど発生しませんが、鉛フリー化によってこのリスクが顕在化しました。

医療機器や宇宙・防衛用途でとりわけ問題視されており、医療機器における鉛はんだ適用除外の重要な技術的根拠のひとつになっています。




まとめ:「まだ鉛を使える」のは、代替が困難な用途に限定された例外措置

この記事を通じて整理できたポイントをまとめます。

RoHSの適用除外はAnnex III〜VIに列挙されており、いずれも有効期限があり、定期的な見直しを受けています。

車載製品はRoHSではなくELV指令の管轄であり、これを混同した設計・調達判断は法規制上のリスクになります。

医療機器は人命への影響と代替技術の限界から、Annex IV・Vに多くの適用除外が設けられており、PZTセラミックや特定のはんだ用途で鉛の使用が認められています。

軍事製品はAnnexの「除外」ではなく、Article 2(4)(a)による「スコープ外」であり、この区別を正確に理解することが重要です。

そして、適用除外を使う場合でも、REACHのSVHC情報伝達義務は別途発生します。

「鉛を使えるからOK」ではなく、「どの法的根拠で、どの条件のもとで使えるのか」を文書化し、有効期限を管理し続けることが、持続可能なコンプライアンス体制の根幹です。

RoHSや関連指令は継続的に改正されます。

この記事の情報は2026年時点の情報整理を目的としていますが、最終的な判断には必ずEUR-Lex(https://eur-lex.europa.eu)および欧州委員会の公式ページ(https://environment.ec.europa.eu/topics/waste-and-recycling/rohs-directive_en)での一次情報確認と、専門家への相談をあわせて行うことをすすめます。




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