
1. エグゼクティブ・サマリー:パワー半導体市場の「断絶」と「再生」
2026年2月第4週、パワー半導体市場は極めて対照的な二極化が進んでいます。
汎用的なシリコンMOSFET(Si-MOSFET)が産業機器の在庫調整により比較的安定している一方で、AIデータセンターの電力供給に不可欠なハイエンド・パワーマネジメントIC(PMIC)や、超高効率なGaN(窒化ガリウム)デバイスは、過去最長のリードタイムと急激な価格高騰に見舞われています。
今週の最重要アラートは、業界最大手Infineon Technologiesによる4月1日付の全製品価格改定です。
この値上げは「受注残(バックログ)」にも適用されるという異例の強気姿勢であり、基板実装現場のBOMコストを根底から揺るがしています。
2. カテゴリ別動向:Infineonの値上げ発動とAIサーバー特需
Infineon:2026年4月1日より「全方位」価格改定
Infineonは今月、顧客に対し2026年4月1日出荷分より、パワースイッチおよび電力制御用ICの価格を改定する旨を通知しました。
- 改定幅: 10〜25%(製品カテゴリにより異なる)
- 対象: 低耐圧・高耐圧MOSFET、IGBT、PMIC。
- 衝撃の「バックログ適用」: 通常、値上げは新規受注から適用されますが、今回は「既存の注文残」にも新価格が適用される方針が示されており、商社・代理店との間で激しい摩擦が生じています。
- 背景: AIサーバー(NVIDIA B100/Rubin世代など)1台あたりに使用される電源ICの数は従来の3倍に達しており、Infineonは増産投資費用を価格に転嫁せざるを得ない状況にあります。
AIサーバー用「DC-DCコンバータIC」の枯渇
AIサーバー(1ラックあたり120kW超)の超高密度電源ユニットにおいて、VicorやInfineon、MPSなどの高効率電源モジュールの納期が 45週〜60週 へと急延伸しています。
- 市場在庫: オープンマーケットでの流通量はゼロに等しく、一部の特定型番(POLレギュレータ)は定価の5〜10倍で取引される事態となっています。
【一次ソース】
- Infineon to Lift Prices Starting April 2026 Amid AI-Driven Power IC Tightness – TrendForce
- Infineon allegedly hikes prices of power switches and ICs amid AI boom – Tom’s Hardware
3. 次世代材料(SiC/GaN):200mmウェハ移行と供給リスク
onsemi / Wolfspeed:SiC市場の「8インチ化」と競争激化
SiC(シリコンカーバイド)市場では、コスト削減を目的とした200mm(8インチ)ウェハへの移行が加速しています。
- onsemi: 韓国・富川(Bucheon)工場の200mmラインが本格稼働。EV向け供給は安定していますが、AIサーバー電源向けの「EliteSiC」ブランドへの引き合いが急増しています。
- Wolfspeed: 2月5日の決算発表にて、旧式のモホークバレー工場(150mm)の閉鎖を早め、200mm特化へ舵を切ることを発表。この移行期間中、旧プロセス製品のEOLが相次ぐリスクがあります。
GaN:データセンターPSUの「標準化」
AIサーバーの電力効率基準(80 Plus Titanium以上)の義務化により、一次側のAC-DC段でのGaN採用率が急増。InfineonがGaN Systemsの買収を完了させたことで、GaNの供給網が集約されつつあり、これが価格交渉力の強化(=値上げ)に繋がっています。
【一次ソース】
- Wolfspeed Reports Financial Results for the Second Quarter of Fiscal 2026 – Wolfspeed
- Infineon First Quarter FY 2026 Earnings Presentation – Infineon Investor
4. EOL(生産終了)およびPCN(変更通知):ディスクリート部品の整理
2026年2月、以下のディスクリート製品において実装設計に影響を与える重要な通知が出ています。
| メーカー | 部品カテゴリ | 通知内容 | 重要期限 / ソース |
| Central Semi | ツェナーダイオード | PDN01283: SMA/SMBパッケージ品を全廃。 | 2026年2月2日 / Source |
| Microchip | パワーIC / MOSFET | CCB 6482: リードフレームパドルサイズの変更(放熱に影響)。 | 2026年2月19日 / Source |
| Renesas | 汎用リニアIC | EOL260002: UPCシリーズ等、SOPパッケージ製品の廃止。 | LTB: 2026年3月30日 / Source |
| Diodes Inc. | 汎用ダイオード | 工場移転に伴う型番変更と生産拠点の集約。 | 2026年2月 / Diodes PCN Search |
5. 地政学的リスクと供給網:Nexperiaの「二分裂」の深刻化
欧州政府による輸出規制を受け、Nexperia(旧NXP)のオランダ拠点と中国拠点の「物理的分離」が、2026年Q1の供給に深刻な影を落としています。
- 影響: 車載用小信号ダイオードやMOSFETにおいて、以前は共通だった型番が「製造拠点別」に分かれ始めています。欧州系メーカーが中国拠点の部品をボイコットし始めたため、オランダ拠点のリードタイムが 24週〜32週 へと急増しています。
【一次ソース】
6. 調達・設計部門への「水曜日の提言」
今すぐ行うべき3つのアクション
- Infineonバックログの価格ロック: 4月1日からの「受注残への値上げ適用」を防ぐため、代理店に対し現行価格での優先出荷、または旧価格での納入確約を本日中に交渉してください。
- ルネサスUPCシリーズの「最終発注」: LTB(3月30日)まで残り約1ヶ月です。産業機器等で長期供給が必要な場合、向こう5〜10年分の在庫を今週中に確保する必要があります。
- パワーICの放熱再設計の確認: MicrochipのCCB 6482など、リードフレーム変更(パドルサイズ変更)は、基板上の放熱設計を狂わせる可能性があります。技術部門にサンプルの早期取り寄せと再評価を依頼してください。
【免責事項】
本レポートは2026年2月25日時点の公開情報を基に作成されています。パワー半導体市場はAIバブルとエネルギー価格の影響を最も受けやすいため、最終的な判断はメーカー公式通知および一次代理店からの回答に基づいて行ってください。

