次世代パワー半導体パッケージングにおける接合材料の革新:銅シンタリング、高鉛ドロップイン置換、および高信頼性代替合金の台頭

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目次

1. エグゼクティブ・サマリー

電気自動車(EV)の急速な普及と、人工知能(AI)を支えるデータセンターインフラの爆発的な拡大により、パワーエレクトロニクス市場はかつてない変革期を迎えている。

この変革の中心にあるのが、シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)に代表されるワイドバンドギャップ(WBG)半導体の採用である。

これらの次世代デバイスは、従来のシリコン(Si)デバイスをはるかに凌ぐ電力密度とスイッチング周波数を提供する一方で、パッケージング内部の接合部温度(ジャンクション温度:Tj)を175℃以上、将来的には200℃超へと押し上げている 。

このような極端な熱的および熱機械的負荷の増大により、従来使用されてきた高鉛(High-Pb)はんだ、銀(Ag)焼結ペースト、および金スズ(AuSn)合金といった既存のダイアタッチ(チップ接合)材料は、その物理的、経済的、あるいは環境規制上の限界に直面している。

本レポートは、現在海外市場において急激にシェアを伸ばしている3つの次世代接合材料技術について、そのメカニズム、信頼性データ、および市場動向を包括的に分析するものである。

具体的には、高出力モジュールにおける銀焼結から加圧型銅(Cu)シンタリングペーストへの移行、ディスクリートデバイスにおける既存設備を流用可能な高鉛はんだの「ドロップイン置換」技術、そして航空宇宙や医療機器などの過酷環境下で絶対的なシェアを持つAuSnを代替するAuGeおよびBiAgXといった新合金の台頭について深く考察する。

2. 次世代パワーモジュールにおける接合材料のパラダイムシフト

2.1 ワイドバンドギャップ(WBG)半導体による熱的要件の高度化

パワーエレクトロニクスの進化は、接合材料に対する要求仕様を根本から書き換えた。

Si IGBTからSiC MOSFETへの移行というメガトレンドは、モジュールの小型化と高出力化を可能にする一方で、接合部における熱放散と熱応力の管理を極めて困難にしている 。

パワーモジュールは、半導体ダイ、ダイアタッチ材料、基板(Direct Bonded Copper: DBCやActive Metal Brazed: AMBなど)といった異なる熱膨張係数(CTE)を持つ複数の材料で構成されている 。

稼働中の激しい温度変化(パワーサイクル)や製造プロセス中の熱履歴により、これらのCTEの不整合は巨大な熱機械的歪みを生み出し、接合部の疲労、クラックの進展、そして最終的なモジュールの破壊を引き起こす 。

したがって、次世代のダイアタッチ材料には、単に融点が高いだけでなく、極めて高い熱伝導率と、熱応力に耐えうる優れた機械的特性(適切な硬度と降伏強度)が同時に求められている。

3. 加圧型および無加圧型「銅(Cu)シンタリングペースト」の実用化と市場展開

近年、SiCパワーモジュールのダイアタッチにおいて標準的なプロセスとなっていた銀(Ag)焼結ペーストに代わり、銅(Cu)シンタリングペーストが海外の先進的な実装現場で急速に実用化されている。

3.1 銀(Ag)焼結ペーストの限界と課題

銀焼結技術は、優れた熱伝導率と高い融点を提供し、高信頼性モジュールの製造に大きく貢献してきた 。しかし、大量生産とさらなる高密度化が進む中で、いくつかの重大な欠点が浮き彫りになっている。

第一に、エレクトロマイグレーションのリスクである。高電圧と湿気が存在する環境下(EVのインバータなど)において、銀イオンは電界に沿って移動し、デンドライト(樹枝状)の導電性フィラメントを形成しやすい。

これが進行すると、回路の短絡(ショート)という致命的な故障を引き起こす 。

第二に、銀はその主成分が柔らかく変形しやすい性質を持つため、パワーサイクル試験のような繰り返しのON/OFFに伴う熱応力に対して、ダイアタッチ部に疲労が蓄積しやすいという熱機械的な弱点がある 。

さらに、銀の材料コストの高さに加え、Ag焼結を最適化するためにDBCやAMB基板側に高価な銀メッキや金メッキを施す必要があるため、モジュール全体の製造コストを押し上げる要因となっている 。

3.2 銅(Cu)シンタリングの技術的優位性と接合メカニズム

これらの課題を解決するブレイクスルーとして台頭しているのが、銅ナノ粒子またはサブミクロン粒子を用いたシンタリング(焼結)ペーストである。

銅はエレクトロニクス業界で数十年にわたり使用されてきた実績があり、銀に匹敵する熱・電気伝導性を持ちながら、材料コストは銀の約100分の1と圧倒的に安価である 。

銅シンタリングの最大の技術的優位性は、マイグレーションに対する極めて高い耐性にある。

銀に見られるようなイオンの移動による短絡リスクが実質的に排除されるため、長期的な信頼性が劇的に向上する 。

さらに、銅は銀よりも硬度が高く、熱膨張係数(CTE)が低いため、SiCチップやセラミック基板とのCTEミスマッチに起因する応力歪みに対して強い耐性を示す 。

長年、銅シンタリングの実用化を阻んでいたのは、ナノスケールの銅粒子が空気中で容易に酸化してしまうという問題であった。

酸化銅の被膜が形成されると、粒子間の金属結合(定常状態の相互拡散)が阻害され、十分な焼結密度が得られない 。

しかし、近年の材料科学の進歩により、高度な表面修飾技術や特殊なバインダー(還元作用を持つ樹脂など)を用いることで、この酸化問題を克服したペーストが開発されている。

例えば、Resonacの報告によれば、ビスフェノールAエポキシを適切な比率(20 wt%)で配合することで、銅表面の酸化層形成を抑制しつつ接着力を強化し、35.9 MPaという高いせん断強度を達成している 。

3.3 Indium Corporation「InFORCE 29」および「InBAKE 29」の実装プロファイル

この分野の最前線として、米Indium Corporationは2025年から2026年にかけて、「InFORCE 29」などの銅シンタリングペーストをEVインバータやAIサーバー向けに強力に推進している

InFORCE 29(加圧型銅シンタリングペースト) InFORCE 29(製品コード: 107-46-3)は、高電力密度のダイアタッチ向けに開発された加圧型のCuシンタリングペーストである 。

このペーストは有機物含有量を極限まで低減し、85〜87%という極めて高い金属含有量(メタルロード)を実現している 。

これにより、ウェットペーストから焼結後のボンドライン厚さ(BLT)の収縮率を40〜50%程度に抑えることができ、プロセス中の体積減少に伴う空隙(ボイド)の発生や歩留まりの低下を防いでいる 。

推奨されるプロセスフローでは、ステンシル印刷後に100℃で10〜15分間の予備乾燥(Pre-dry)を行い溶剤を揮発させる。その後、窒素(N2)雰囲気下(酸素濃度1,000ppm以下)にて、15〜20MPaの機械的圧力を印加しながら250℃で5〜10分間焼結を行う 。この最適化されたプロセスにより形成された接合部は、極めて低い空隙率と高い信頼性を誇り、-40℃から175℃の熱衝撃サイクル(TCT)を4,000サイクル以上経過した後でも、40MPaから50MPaを超えるダイせん断強度を維持することが実証されている 。重要な点として、InFORCE 29は高価な金や銀のメッキを必要とせず、AMB基板などの裸の銅(Bare Cu)表面に対して直接、強力な焼結結合を形成できるため、多層的なコスト削減を実現する

InBAKE 29(無加圧型銅シンタリングペースト) 加圧プロセスを適用できない高出力LEDや高周波(RF)アンプなどのアプリケーション向けには、無加圧(Pressure-less)での焼結が可能な「InBAKE 29」が展開されている 。

この材料は、窒素雰囲気下(245℃〜250℃で30〜60分間)のバッチオーブン処理により、120 W/mK以上の高い熱伝導率と8.8 μΩ·cmという低い電気抵抗率を達成する 。

4,500サイクルのTCT後には、初期状態(Time Zero)よりもせん断強度が増加するという特異な耐久性を示しており、パワーエレクトロニクスにおける材料の長期安定性を証明している 。

3.4 銅シンタリング市場の拡大と海外動向

加圧型銅シンタリングペーストの市場は、爆発的な成長軌道に乗っている。

市場調査によると、2025年に12億4000万米ドルであった市場規模は、2026年には13億8000万米ドルに達し、2032年までに12.18%のCAGRで27.8億米ドルへと成長すると予測されている 。

別の調査では、2020年から2034年までのCAGRを40.2%と極めて高く見積もるデータも存在する 。

この需要を牽引しているのは、電動化(EV)への移行とAIデータセンターの急増である。

AIサーバーに搭載されるプロセッサやGPUは未曾有の電力を消費し、高密度の発熱を伴うため、熱管理(Thermal Management)の失敗はハードウェアの寿命短縮や致命的なシステムダウンに直結する 。

自動車OEM各社も、800Vアーキテクチャの採用とSiC MOSFETへの完全移行に伴い、接合材料の認証基準(Qualification rigor)を厳格化しており、マイグレーションリスクが低く熱機械的耐性に優れた銅シンタリングの採用を加速させている 。

パラメータ銀(Ag)焼結ペースト銅(Cu)シンタリングペースト (InFORCE 29等)
主な課題・リスクマイグレーションによる短絡リスク、高コスト焼結前の酸化制御(高度なバインダー技術で解決済)
熱機械的特性 (硬度/CTE)柔らかく変形しやすい / CTE差による疲労リスク有硬度が高く、CTEが低いため応力耐性に優れる
基板メタライズの要否銀(Ag)または金(Au)メッキが必須裸の銅(Bare Cu)表面への直接接合が可能
プロセス雰囲気大気中での焼結が可能なものが多い窒素(N2)等の低酸素雰囲気(<1000ppm)が必要
長期信頼性 (TCT試験等)良好だが、材料の軟延性による劣化あり4000サイクル後でも40-50MPa以上の高強度を維持

4. ディスクリートパワー半導体向け:高鉛(High-Pb)の「ドロップイン置換」技術

高出力のパワーモジュールがシンタリング技術へと移行する一方で、より小規模なディスクリートパワー半導体(DPAK、TO-Leadlessなど)の製造においては、数十年にわたり高鉛(High-Pb:鉛含有率85wt%以上)はんだが絶対的な標準材料として君臨してきた

4.1 高鉛はんだ代替における冶金学的ジレンマ

鉛が人体や環境に与える有害性から、エレクトロニクス業界ではRoHS指令などにより鉛フリー化が進められてきたが、ディスクリートパワー半導体のダイアタッチ用途においては、適切な代替材料が存在しないため高鉛はんだの適用除外措置が繰り返し延長されてきた

代替材料の開発が困難であった理由は、ディスクリート部品特有の製造プロセスに起因する「冶金学的ジレンマ」にある。

ダイアタッチ工程で形成された内部の接合部は、その後のパッケージング工程を経て、最終的にプリント基板(PCB)に表面実装(SMT)される。

このSMTリフロー工程では、パッケージ全体が最大260℃の高温に複数回晒される 。

したがって、内部のダイアタッチ材料は260℃以上で再溶融(Remelting)してはならず、溶融した場合、チップのズレやはんだの「スクイーズアウト(はみ出し)」を引き起こし、デバイスを破壊してしまう。

純粋なアンチモン系(SnSb等)の高温はんだは320℃以上の高い融点を持つが、金属間化合物が極めて硬く脆いため、熱サイクル試験(TCT)において巨大なシリコンダイを割ってしまう(ダイクラック)という致命的な欠陥があった

4.2 混合合金技術「Durafuse HT」の微細構造とメカニズム

この相反する要求(高温での強度維持と接合部の延性・柔軟性)を同時に満たすため、欧米のR&Dで注目を集めているのが、粉末冶金のアプローチを応用した「ドロップイン置換(Drop-in replacement)」技術である。その代表例が、Indium Corporationが開発した高温鉛フリー(HTLF)はんだ「Durafuse HT」である

Durafuse HTの革新性は、単一の合金ではなく、融点と特性が全く異なる2種類の合金粉末をペースト内で混合する「Durafuse」技術にある。

  1. 高温マトリックス相(剛性): 326℃の固相線温度と約366℃の液相線温度を持つ、AgおよびCuを含むSnSbベースの高温粉末。これが接合部全体の骨格となり、高温環境下での機械的強度を維持する 。
  2. 低温延性相(柔軟性と濡れ性): 約228℃の低い融点を持つSnリッチのSnAgCu-Sb粉末。この相がリフローの初期段階で溶融し、基板に対する優れた濡れ性(Wetting)を提供するとともに、最終的な接合部に延性(Ductility)を与え、ダイクラックを防ぐ 。

このペーストを従来の高鉛はんだ用プロファイル(ピーク温度350℃〜385℃)でリフローすると、微細構造レベルで、高融点のSnSbマトリックスの中に制御された量の低融点相(Snリッチ相)が埋め込まれた状態の接合部が形成される

4.3 欧米市場での採用事例と信頼性評価

Durafuse HTの最大の商業的価値は「ドロップイン置換」が可能であることだ。

特別な設備投資や製造ラインの変更を一切必要とせず、既存の高鉛はんだ用の印刷機、ディスペンサー、リフロー炉、洗浄プロセスをそのまま流用できるため、メーカーは新材料導入のリスクと市場投入までの時間を劇的に削減できる 。

この混合合金マトリックスは、二次的なSMTリフロー(260℃)に晒された際、一部の低融点相が部分的に溶融するものの、強力なSnSb骨格が形状を保持するため、接合の完全性が維持される 。

実験データによれば、Durafuse HTは280℃から295℃という過酷な高温下においても15MPaを超えるダイせん断強度を維持する。

これは、同温度帯で約5MPaまで強度が低下する従来の高鉛はんだ(Pb92.5/Sn5/Ag2.5)を圧倒的に凌駕する性能であり、Die-Attach 5 (DA5) コンソーシアムが要求する15MPaの基準を完全にクリアしている 。

さらに、ベースとなる錫(Sn)は鉛(Pb)と比較して本質的に電気抵抗率が低く、熱伝導率が高いため、パワーデバイスのオン抵抗(RDS(on))を大幅に低減する 。

AEC-Q101規格に準拠した過酷な温度サイクル試験(-55℃〜175℃、1000〜3000サイクル)を実施した後のX線検査や断面微細構造観察においても、Siダイへのダメージや接合部のコーナーにおけるクラック、層間剥離(デラミネーション)は一切確認されず、モジュールレベルでの高い信頼性が実証されている 。

注意点として、Durafuse HTはTi/NiV/Agなどの一般的なダイメタライズと互換性があるが、NiVバリア層の厚さが極めて重要になる。

NiV層が薄すぎる(例: 200nm)場合、リフロー中にニッケルがはんだ側に完全に溶出(リーチング)してしまい、深刻なデウェッティング(濡れ不良)や巨大な界面ボイドを引き起こすリスクがある。

これを防ぐため、最低でも350nm、理想的には500nmのNiV層厚が推奨されている 。

特性比較従来の高鉛(High-Pb)はんだDurafuse HT (混合合金HTLF)
環境負荷極めて高い(鉛含有85%以上)鉛フリー(RoHS完全準拠)
280℃〜295℃でのせん断強度約5 MPa (低下が著しい)>15 MPa (マトリックス構造により維持)
電気的性能 (RDS(on))基準鉛よりSnの抵抗率が低いため、優れる
既存プロセスの流用完全なドロップイン置換が可能
SMTリフロー(260℃)耐性溶融せず維持骨格構造により接合の完全性を維持

5. 過酷環境向け高信頼性接合:AuSnの代替としての「AuGe」と「BiAgX」

EVやAIサーバー市場が銅シンタリングやSn系HTLF材料へと舵を切る一方で、航空宇宙、防衛、深宇宙探査、さらには人体に埋め込む医療機器や高出力レーザーモジュールといった領域では、全く異なる材料パラダイムが存在する。

これらの分野では、極限のGフォースへの耐性、絶対的な気密封止(Hermetic sealing)、そして数十年にわたるゼロ欠陥の信頼性が要求される。

5.1 incumbent(既存技術)としてのAu80Sn20の絶対的地位と課題

この過酷環境領域において、歴史的に絶対的な支配力を誇ってきたのが「Au80Sn20(金スズ)」共晶合金である。Au80Sn20は、金スズはんだペースト市場全体の約47%のシェアを占めており、280℃という適度な共晶融点、ボイドフリーの接合、卓越した耐熱疲労性、そして他の追随を許さない耐食性を提供する

しかし、Au80Sn20には3つの決定的な弱点が存在する。

  1. 極端な高コストと価格変動リスク: 成分の80%が純金であるため、原材料コストが極めて高く、貴金属市場の価格変動に製造コストが直撃される 。
  2. 機械的脆性: 凝固プロセスにおいて、δ-AuSn相およびζ’-Au5Sn相という非常に硬く脆い金属間化合物を形成する。これにより合金の延性が著しく損なわれ、スタンピングや成形などの加工性が極めて悪化し、熱衝撃に対してクラックが生じやすい 。
  3. 高温限界: 280℃の融点を持つため、300℃を超えるような極限の高温環境(例えば、航空機のエンジン直付けセンサーや地熱掘削用のダウンホールテレメトリーなど)では、安全マージンが確保できず使用が制限される 。

これらの課題を克服するため、海外のR&Dではコスト削減とさらなる高温特性の両立を狙い、AuGe(金ゲルマニウム)BiAgX(ビスマス・銀系) といった新合金の採用テストが始まっている。

5.2 究極の高温耐性を誇る金ゲルマニウム(AuGe)合金

300℃を超える過酷な動作環境での連続使用を想定した場合、Au88Ge12(重量比)の共晶合金が最有力候補として浮上している 。AuGeの融点は356℃と非常に高く、AuSnを大きく上回る熱的バッファを提供する

AuGeペーストの信頼性を決定づける最大の要因は、ダイおよびDBC基板の表面に施される「ニッケル(Ni)メッキ」の種類と、それに伴う金属間化合物(IMC)の形成ダイナミクスである 。

組み立ておよび高温エージングの過程で、AuGeのゲルマニウム(Ge)はニッケル層と激しく反応し、NiGe、Ni5Ge3、Ni2Ge、Ni3Geといった強固なNi-Ge IMC層を形成する。このIMC層の成長速度(活性化エネルギー94.27 kJ/mol)により、強固な冶金的結合が確立される 。

しかし、メッキの選定を誤ると致命的な結果を招く。無電解Ni:B(ニッケル・ホウ素)や純粋な電解Niメッキを使用した場合、Ni-Ge IMCに沿ってニッケル層に向かって大量のボイドが形成され、せん断強度が著しく低下する 。

これに対し、電解または無電解の「Ni:P(ニッケル・リン)」メッキを採用した場合、ボイドの発生が抑制され、300℃および325℃という極限温度で3,000時間のエージングを行った後でも、せん断強度の低下をわずか約30%に抑えることができる 。

破壊モードも脆弱なIMC界面ではなく、Auのバルク内部で発生することが確認されており、AuGeはNi:Pメッキとの組み合わせにおいて航空宇宙向けの究極の高温ダイアタッチ材料となり得る。

5.3 コストと信頼性を両立するビスマス・銀系(BiAgX)技術

AuSnの高コストが許容できない、しかし従来の高鉛はんだでは信頼性が不足するミドル〜ハイエンドのアプリケーション(低電力のディスクリート部品や一部の医療用モジュールなど)において、強力な代替手段となるのがBiAgX(ビスマス・銀系)はんだである

ビスマス・銀(BiAg)合金は高い融点を持つが、単体では銅(Cu)やニッケル(Ni)、銀(Ag)といった一般的なメタライズ表面に対する「濡れ性(Wetting)」が極めて悪いという致命的な欠点があった 。

これを解決したのが、微量の特殊な添加金属粉末(X成分=主にスズ(Sn))を混合したBiAgXペースト技術である。

この添加物Xがはんだ付け中の界面反応を支配し、基板表面に強固なNi-Snおよび(AgAu)-Snの金属間化合物を形成することで、見事な濡れ性と接着強度を実現する 。

BiAgXは、リフロー後の再溶融温度が260℃を超えるため、後工程のSMTリフロー要件を完全に満たす 。

SiCダイとAMBC-SiN基板を用いたパッケージ評価では、室温でのせん断強度が54MPaに達し、250℃の高温下でも16MPaという十分な強度を維持する 。

さらに、200℃や230℃で3,000時間の熱エージングを経た後でも、大幅な強度低下を起こさず、-55℃から150℃の熱衝撃サイクル試験(2000サイクル)においては、従来の高温はんだ(Pb5Sn2.5Ag)を凌駕するパフォーマンスを示している 。

AuGeと同様に、BiAgXも基板のNiメッキとの相性が重要である。

無電解Ni:Pメッキではエージング後にメッキ層の剥離(スパリング)が発生し、両側に脆いNiBi3層が形成されるリスクがあるが、電解Ni:Pメッキを使用した場合、このNiBi3の形成が抑制され、高いせん断強度が安定して維持される 。

BiAgXは高鉛はんだのプロセスをそのままドロップインで利用でき、AuSnと比較して劇的なコスト削減が可能であるため、極限環境とコスト競争力の両立が求められる分野で採用テストが加速している 。

6. マクロ経済的要因とサプライチェーンの制約

これら次世代接合材料への移行は、単なる技術的優位性のみによって推進されているわけではない。

背景には、グローバルなマクロ経済の動向と、決定的な材料である「銅(Cu)」の構造的なサプライチェーン問題が複雑に絡み合っている。

6.1 AIインフラとEVが引き起こす銅の構造的供給不足

銅シンタリング技術がAg焼結を置き換えつつある中、皮肉なことに、ベースメタルである銅のグローバルな供給網は歴史的な危機に直面している。

国際銅研究会(ICSG)や主要な金融機関の予測によると、2025年にわずかな供給過剰または均衡を保っていた世界の精製銅市場は、2026年には15万トン以上の深刻な供給不足(デフィシット)に陥り、2030年代に向けて構造的な不足が常態化すると警告されている 。

この供給不足の引き金となっているのが、メガトレンドである「EV化」と「AIインフラの爆発的拡大」である。

内燃機関(ICE)車が1台あたり約25kgの銅を消費するのに対し、バッテリー電気自動車(BEV)はその3〜4倍の銅を必要とする 。

さらに衝撃的なのはAIデータセンターの消費量である。1ギガワット(GW)クラスのAIデータセンターを1基建設するだけで、配電やトランスフォーマー、高圧ケーブルのために最大5万トンの銅が必要とされる。

データセンター単体での銅需要シェアは、2024年の0.15%から2030年には1%へと急増する見込みである 。

需要が急増する一方で、供給側は深刻な制約を抱えている。インドネシアのグラスベルグ鉱山やコンゴ民主共和国のカモア・カクラ鉱山などでの予期せぬ生産混乱、資源ナショナリズムの台頭、環境規制の強化、そして精錬マージンの悪化が重なり、新たな銅鉱山の開発と拡張が遅々として進んでいない 。

Goldman Sachsの分析では、LME(ロンドン金属取引所)の銅価格は2026年には1トンあたり10,000ドルから11,000ドルのレンジで高止まりし、将来的には15,000ドルに達する可能性が示唆されている 。

6.2 地政学的リスクとレジリエンス戦略

これらの資源制約は、地政学的な動きによってさらに増幅されている。

米国政府は2025年11月に銅を国家安全保障とサプライチェーンの回復力に不可欠な「重要鉱物(Critical Minerals)」のリストに追加し、国内での戦略的備蓄(ストックパイル)の動きを見せている(欧州連合は2023年に既に追加済み)。

さらに、米国における精製銅に対する10〜15%の潜在的な関税導入議論は、材料コストの確実性(Landed-cost certainty)を根底から揺るがし、グローバルな価格裁定取引(アービトラージ)を歪めるリスクを孕んでいる 。

シンタリングペーストに使用されるナノ銅粉末の絶対量は、送電網やEVのモーターに比べればごくわずかである。

しかし、ベースメタルの極端な価格変動と供給不安は、材料メーカーのR&D投資やTier-1パッケージング企業の調達戦略に直接的な影響を与える。

「優れた熱特性」というカタログスペックと同等に、「サプライチェーンのレジリエンス(回復力と安定供給)」と「製造歩留まりの高さ(Manufacturability)」が、材料選定における決定的な競争優位性(Competitive advantage)として認識されるようになっている 。

米国のCHIPS法などに後押しされた半導体製造の国内回帰(ローカライゼーション)の動きも、分断された添加剤のサプライチェーンから、垂直統合されたパフォーマンス重視の材料エコシステムへの移行を加速させている 。

7. 結論

次世代パワー半導体のパッケージングアーキテクチャは、材料科学とマクロ経済が交差する結節点において、不可逆的な転換点を迎えている。

  1. 高出力モジュール領域: マイグレーションリスクと熱機械的疲労という銀(Ag)の根本的弱点を克服した「加圧型銅(Cu)シンタリングペースト(例: InFORCE 29)」が、EVインバータおよびAIデータセンター向け接合材料の新たな覇者となりつつある。高価な基板メッキを不要にするコスト合理性と、高度な酸化制御バインダー技術により、市場は2030年代に向けて驚異的なCAGRで拡大を続ける。
  2. ディスクリートデバイス領域: 高鉛(High-Pb)はんだの規制免除に依存してきた産業構造は、混合合金技術「Durafuse HT」の登場により終焉を迎えようとしている。剛性の高いSnSbマトリックスと延性のあるSnリッチ相をブレンドすることで、既存設備をそのまま流用(ドロップイン置換)しながら、260℃のSMTリフローに耐え、従来の鉛はんだを凌駕する強度と電気的特性(低RDS(on))を実現した意義は計り知れない。
  3. 過酷環境・高信頼性領域: Au80Sn20の独占状態は、コストと機能の両面から切り崩されている。究極の高温耐性(300℃超)が求められる航空宇宙分野では、適切なNi:Pメタライズとの組み合わせを前提に「AuGe」が採用され、コスト制約と高信頼性のバランスが求められる分野では、特殊添加物によって濡れ性を改善した「BiAgX」が台頭している。

パワー半導体の性能を極限まで引き出すためには、革新的な接合材料の採用が不可欠である。

しかし、今後は単なる冶金学的なスペック競争にとどまらず、迫り来る銅の世界的供給不足や地政学的リスクを見据えた「サプライチェーンの強靭化」をいかに材料設計と調達戦略に組み込むかが、メーカーの死命を制することになるだろう。

引用ソース

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  17. Copper Sintering Paste 2026 Trends and Forecasts 2033: Analyzing Growth Opportunities, https://www.archivemarketresearch.com/reports/copper-sintering-paste-644053
  18. SiC Sintering Aids Market is Set to Reach USD 1.8 Billion by 2036 Amid Semiconductor Localization and 800V EV Adoption – EIN Presswire,https://www.einpresswire.com/article/891298587/sic-sintering-aids-market-is-set-to-reach-usd-1-8-billion-by-2036-amid-semiconductor-localization-and-800v-ev-adoption
  19. A Novel Design of High-Temperature Lead-Free Solders for Die-Attachment in Power Discrete Applications – IMAPSource Proceedings, https://imapsource.org/api/v1/articles/68269-a-novel-design-of-high-temperature-lead-free-solders-for-die-attachment-in-power-discrete-applications.pdf
  20. A Drop-In High-Temperature Pb-Free Solder Paste That …https://imapsjmep.org/article/81981-a-drop-in-high-temperature-pb-free-solder-paste-that-outperforms-high-pb-pastes-in-power-discrete-applications.pdf
  21. A Brief Review on High-Temperature, Pb-Free Die-Attach Materials – ResearchGate, https://www.researchgate.net/publication/328153542_A_Brief_Review_on_High-Temperature_Pb-Free_Die-Attach_Materials
  22. Durafuse™ HT – PSMA,https://www.psma.com/sites/default/files/uploads/node/7226/IS10.2.pdf
  23. A Novel High-Temperature Pb-Free Solder Paste with Enhanced Performance for Power Discrete Packaging Applications – IEEE Xplore https://ieeexplore.ieee.org/document/9969496/
  24. Durafuse HT | High-Temperature Solder – Indium Corporation,https://www.indium.com/products/alloys/solder-alloys/durafuse-ht/
  25. Durafuse® HT – Indium Corporation, https://www.indium.com/wp-content/uploads/2025/03/Durafuse-HT-High-Temperature-Pb-Free-Solder-Paste-PDS-100025-R0-1.pdf
  26. Au Sn Solder Paste Market Size Share CAGR 2.4% – Global Growth Insights,https://www.globalgrowthinsights.com/market-reports/au-sn-solder-paste-market-113824
  27. High-temperature creep and hardness of eutectic 80Au/20Sn solder – ResearchGate, https://www.researchgate.net/publication/228568079_High-temperature_creep_and_hardness_of_eutectic_80Au20Sn_solder
  28. AuSn Solder Paste Market Outlook 2026-2034, https://www.intelmarketresearch.com/ausn-solder-paste-market-30758
  29. (PDF) Die Attach for High Temperature Electronics Packaging – ResearchGate, https://www.researchgate.net/publication/229021737_Die_Attach_for_High_Temperature_Electronics_Packaging
  30. Characterization of Bi–Ag–X Solder for High Temperature SiC Die Attach – ResearchGate, https://www.researchgate.net/publication/267333819_Characterization_of_Bi-Ag-X_Solder_for_High_Temperature_SiC_Die_Attach
  31. Reliability of AuGe Die Attach on DBC Substrates With Different Ni Surface Finishes, https://www.researchgate.net/publication/319221164_Reliability_of_AuGe_Die_Attach_on_DBC_Substrates_With_Different_Ni_Surface_Finishes
  32. Materials for High Temperature Electronic Packaging – [Your title here] – Auburn University、 https://etd.auburn.edu/bitstream/handle/10415/5522/final%20dissertation1205%281%29.pdf?sequence=2&isAllowed=y
  33. Perspectives of High-Temperature Pb-Free Bonding Materials – Allen Presshttps://meridian.allenpress.com/ism/article/2018/1/000088/9467/Perspectives-of-High-Temperature-Pb-Free-Bonding
  34. High Temperature Lead-Free Die Attach Materials-A Review – ResearchGatehttps://www.researchgate.net/publication/317542694_High_Temperature_Lead-Free_Die_Attach_Materials-A_Review
  35. Reliability and Corrosion Resistance of High Temperature Lead-Free BiAgX Paste – IMAPSource Proceedings, https://imapsource.scholasticahq.com/api/v1/articles/67444-reliability-and-corrosion-resistance-of-high-temperature-lead-free-biagx-paste.pdf
  36. New constraints in the global copper market – The International Institute for Strategic Studies, https://www.iiss.org/publications/strategic-comments/2026/new-constraints-in-the-global-copper-market/
  37. How Will Tight Copper Market Affect Data Center Growth? – Industrial Info Resources, https://www.industrialinfo.com/iirenergy/industry-news/article/how-will-tight-copper-market-affect-data-center-growth–353673
  38. Copper Price Forecast 2026: Supply Deficit, AI Demand & Market Outlook – Lean Research, https://www.leanrs.com/insights/copper-price-forecast-2026-supply-deficit-ai-demand-market-outlook
  39. Copper in the Age of AI: Challenges of Electrification | S&P Global, https://www.spglobal.com/en/research-insights/special-reports/copper-in-the-age-of-ai

Copper Prices Are Forecast to Decline Somewhat from Record Highs in 2026,https://www.goldmansachs.com/insights/articles/copper-prices-forecast-to-decline-from-record-highs-in-2026

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