偽造チップの見分け方:市場に流通するリマーク品の恐怖

目次

導入:電子部品調達に潜む見えない脅威

現代の製造業において、半導体や電子部品は製品の心臓部といえます。

しかし、近年の世界的なサプライチェーンの混乱や深刻な半導体不足を背景に、市場には偽造品(カウンタフェイト)やリマーク品と呼ばれる不正なデバイスが急速に流入しています。

特に、正規代理店以外の独立系ディストリビューターや二次市場から調達せざるを得ない状況下では、これらの偽造チップを掴んでしまうリスクが飛躍的に高まります。

もし偽造チップが基板に実装され、最終製品として市場に出荷されてしまったらどうなるでしょうか。

製品の早期故障、発火や発煙といった重大事故、そして企業としての信頼失墜や膨大なリコール費用の発生など、その損害は計り知れません。

本記事では、偽造チップ、特に巧妙化するリマーク品の定義とその正体、流通の背景、さらにはそれらを見破るための具体的な検査手法から最新の対策技術までを網羅的に解説します。

この記事を読むことで、調達・品質管理担当者が持つべき防衛知識を深め、リスクを最小限に抑えるための方策を習得することができます。


偽造チップの定義と背景:なぜ今、リマーク品が問題なのか

まず、偽造チップとは何か、そしてなぜこれほどまでに問題視されているのか、その背景を整理しましょう。

偽造チップとリマーク品の定義

偽造チップ(Counterfeit IC)には、大きく分けていくつかのカテゴリーが存在します。

  1. リマーク品(Remarked Products) 最も一般的で判別が困難なものです。安価な下位グレードの製品や、古い製造ロットの製品の表面を薄く削り、レーザー印字を書き換えることで、高価な上位グレード品や最新ロット品として偽装したものを指します。
  2. 再生品(Refurbished / Pulls) 廃棄された電子機器の基板から取り外された中古品です。端子を洗浄・再メッキし、新品として販売されます。内部に熱ストレスや静電気ダメージが蓄積していることが多く、寿命が極端に短いのが特徴です。
  3. 模造品(Copy / Clones) 他社の回路設計を模倣して製造された非正規のチップです。外見は似ていても、内部の回路構造や性能が正規品とは異なります。
  4. 不合格品の流出(Scrap / Non-functional) 本来、製造工程での検査で不合格となり廃棄されるべきチップが、不正なルートで外部に持ち出され、良品として販売されるケースです。

なぜ偽造品が流通するのか

偽造品が流通する最大の要因は、需給バランスの崩れと高い利益率です。

2020年以降の半導体不足により、メーカーのリードタイムが1年以上に及ぶケースが多発しました。

生産ラインを止められないメーカーは、正規ルート以外の市場(グレーマーケット)に在庫を求めます。

偽造業者はこの隙を突き、入手困難な型番を高値で売り抜けます。

また、電子廃棄物(E-waste)の不適切な処理も原因の一つです。

開発途上国に輸出された廃棄基板から、手作業でチップが取り外され、洗浄・リマークされて再び市場に戻るという負のサイクルが出来上がっています。


具体的な仕組み:巧妙化するリマーク・偽造のプロセス

偽造業者がどのような手法でチップを加工しているのか、その具体的なメカニズムを詳細に見ていきましょう。

彼らの技術は年々向上しており、肉眼では判別できないレベルに達しています。

ブラックトッピング(表面処理)

リマーク品の製造において最も多用される手法がブラックトッピングです。

  1. 表面の研磨:元の印字を消すために、サンドペーパーや化学薬品を用いてパッケージ上面を薄く削ります。
  2. コーティング:削った跡を隠すため、エポキシ樹脂などの黒い塗料を薄く塗布します。これがブラックトッピングと呼ばれる所以です。
  3. 再印字:乾燥させた後、高精度のレーザーマーキング機を使用して、大手メーカーのロゴや高性能な型番、新しいデイトコード(製造週)を印字します。

この手法の巧妙な点は、塗料の質感を正規品に極限まで近づけていることです。

顕微鏡で見ても、表面のざらつきや光沢が正規品と見分けがつかない場合があります。

リード(端子)の再生処理

中古基板から剥がされたチップは、端子にハンダが付着していたり、曲がっていたりします。

  1. 洗浄:強力な溶剤で古いハンダや汚れを落とします。
  2. リティニング(再メッキ):端子を再びスズやハンダでコーティングし、新品のような輝きを取り戻させます。
  3. レベリング:曲がった端子を治具で強制的に真っ直ぐに直します。

これにより、見た目だけは新品未開封品のように見せかけることが可能です。

しかし、この過程でチップ内部に熱衝撃が加わり、目に見えないクラック(亀裂)が発生することが多々あります。

パッケージの偽装

最近では、安価な汎用チップを全く別の高級チップのパッケージに封入し直すといった、極めて悪質なケースも報告されています。

また、正規品の空箱やリール、防湿バッグなどの梱包材を再利用し、ラベルだけを精巧に偽造して貼り替える手法も一般的です。


作業の具体的な流れ:偽造チップを見破る5ステップの検査法

偽造品のリスクを回避するためには、入荷時の受入検査が極めて重要です。

ここでは、専門的な検査機関でも行われている標準的な検査ステップを解説します。

ステップ1:外観目視検査(Visual Inspection)

まずは高性能な実体顕微鏡を用いて、パッケージの細部を観察します。

  • 印字の不自然さ:文字のフォント、大きさ、位置、レーザーの彫りの深さをチェックします。正規品のサンプルと比較し、わずかな差異も見逃しません。
  • 表面の質感:ブラックトッピングされた製品は、側面の質感と上面の質感が異なることがあります。また、アセトンなどの溶剤を含ませた綿棒で表面を拭き、塗料が落ちないかを確認する「スワブテスト」も有効です。
  • 金型跡(ディンプル):パッケージの角にある円形の凹みを確認します。ここが塗料で埋まっていたり、不自然に浅かったりする場合は、リマークの可能性が高いです。

ステップ2:端子の状態確認

端子の輝きや形状に注目します。

  • 加工痕の確認:再メッキされた端子には、元のハンダを剥がした際の傷跡や、メッキの厚みのムラが見られることがあります。
  • 酸化具合:長期在庫品を新品と偽っている場合、端子がわずかに変色していることがあります。

ステップ3:X線検査(X-ray Inspection)

非破壊検査として非常に強力なのがX線検査です。

  • 内部構造の比較:同じロットとされる複数のチップをX線で撮影し、内部のリードフレームの形状やワイヤボンディングのパターンを比較します。偽造品が混入している場合、これらがバラバラであることがあります。
  • ダイ(半導体素子)のサイズ:パッケージに対して中のダイが極端に小さかったり、形状が異なったりする場合、中身が別物である証拠となります。

ステップ4:薬液開封検査(Decapsulation)

これは破壊検査になりますが、最も確実な証拠を得る方法です。

発煙硝酸などの化学薬品を用いてパッケージ樹脂を溶かし、内部のダイを露出させます。

  • ダイマークの確認:ダイの表面には、設計メーカーのロゴや版権情報、型番などがエッチングされています。これがパッケージ表面の印字と一致するかを確認します。リマーク品の場合、パッケージは高級品でも、中は安価な旧型品であることが一目瞭然となります。

ステップ5:電気特性試験(Electrical Testing)

最終的に、そのチップが仕様通りに動作するかを確認します。

  • ピン間特性:カーブトレーサーを用いて各ピンの電圧・電流特性を測定し、良品データと比較します。
  • 機能試験:実際に回路に組み込むか、専用のテスターを使用して、全機能が正常に動作し、かつ消費電流などが規格内に収まっているかをチェックします。

最新の技術トレンドと将来性:偽造品とのいたちごっこ

偽造技術の向上に対し、メーカーや業界団体も最新技術を用いた対抗策を打ち出しています。

ブロックチェーンによるトレーサビリティの確保

部品の製造から出荷、流通、最終ユーザーへの到達までの全過程をブロックチェーン上に記録する試みが始まっています。

これにより、正規の流通ルートを外れた瞬間を検知し、製品の真正性を証明することが可能になります。

AIを用いた画像認識検査

顕微鏡画像をAIに学習させ、人間の目では判別できないような微細な印字の乱れや表面の質感の差を自動で検出するシステムが開発されています。

これにより、大量の部品を高速かつ高精度にスクリーニングできるようになります。

DNAマーキング技術

チップのパッケージ樹脂に、特定の塩基配列を持つ人工DNAを混入させる技術です。

これにより、製品が正規品であるかを分子レベルで判定できます。

物理的な加工ではコピーが不可能なため、究極の偽造防止策として期待されています。

業界標準の厳格化

AS6081(航空宇宙・防衛産業向けの偽造品回避標準)やAS6171(検査手法の標準)といった国際的な規格の適用が広がっています。

これらに準拠した認定ディストリビューターや検査機関を利用することが、企業にとっての標準的な防衛策となりつつあります。


よくある質問(FAQ)

Q1. 偽造品は、動作確認(通電)さえすれば100%見抜けますか?

いいえ、残念ながら見抜けません。

リマーク品の多くは、もともと本物の(ただしスペックの低い)チップであるため、基本的な動作はしてしまいます。

しかし、過酷な環境下での信頼性や寿命が保証されていないため、稼働開始から数ヶ月後に故障するといったケースが最も恐ろしいのです。

Q2. 信頼できる販売ルートの見分け方はありますか?

最も確実なのは、メーカーと直接契約している「正規代理店(Franchised Distributor)」から購入することです。

どうしても独立系から買う必要がある場合は、ERAAI(電子機器再利用・リサイクル協会)などの業界団体に加盟しており、かつISO/IEC 17025などの検査体制の認証を受けているサプライヤーを選んでください。

Q3. リマーク品を掴んでしまった場合、どう対処すべきですか?

直ちに使用を中止し、購入先に報告してください。

また、混入経路を特定するために、そのロットの全ての在庫を隔離する必要があります。

証拠として検査レポートを作成し、法的な対応も視野に入れるべきですが、まずは被害を広げないための迅速な情報共有が最優先です。

Q4. 偽造品は安いから流通しているのですか?

かつてはそうでしたが、現在は違います。

品不足の時期には、正規品の数倍から数十倍という法外な価格で偽造品が取引されます。

価格が高いからといって安心できるわけではなく、むしろ「高値で売れる人気型番」ほど偽造のリスクが高まります。


まとめ

偽造チップ、特にリマーク品の問題は、単なる知財侵害にとどまらず、現代社会の安全を揺るがす重大なリスクです。偽造業者の手口は日々進化しており、従来の簡単なチェックだけでは防ぎきれないのが現状です。

製造業に携わる私たちは、以下の三つの柱で自社を守る必要があります。

  1. 調達の健全化:可能な限り正規ルートを利用し、出所の不明な在庫には手を出さない。
  2. 検査の徹底:リスクの高い調達品に対しては、顕微鏡検査からX線、必要に応じて開封検査まで行う体制を整える。
  3. 知識のアップデート:最新の偽造手口と、それに対抗する技術トレンドを常に把握しておく。

偽造チップとの戦いは、終わりのないいたちごっこかもしれませんが、正しい知識と厳格なプロセスを持つことで、そのリスクを限りなくゼロに近づけることは可能です。

信頼性の高い製品づくりは、一つのチップの真贋を見極めることから始まります。

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