
1. エグゼクティブ・サマリー:材料インフレが「実装コスト」を再定義
2026年3月第2週、プリント基板(PCB)業界は、過去10年で最大規模のコスト・プッシュ型インフレに直面しています。
今週のハイライトは、世界最大級の銅張積層板(CCL)メーカーであるレゾナック(旧昭和電工)が、予告通り3月1日出荷分から30%の値上げを断行し、それが全ての取引価格に適用されたことです。
この動きは単なる一社の価格改定に留まらず、Kingboard(建滔)やNanya(南亜)といった競合他社による10〜15%の追随値上げを誘発し、基板製造コストのベースラインを不可逆的に引き上げました。
また、1月15日から施行されている米国セクション232に基づく半導体25%追加関税の影響により、対米輸出向け製品を製造するEMS(電子機器受託製造)企業は、部品調達ルートの抜本的な変更を迫られています。
2. 基板材料(CCL):レゾナック30%値上げの強行と市場への波及
レゾナック(Resonac):値上げ発動と「選択的供給」への移行
レゾナックは2026年3月1日、銅張積層板(CCL)およびプリプレグの価格を約30%引き上げました。
- 実施状況: 本日時点で、全ての既存顧客に対し新価格での出荷が開始されています。
- 背景の深化: 銅箔やガラスクロスの原材料費高騰に加え、AIサーバー向け材料(低誘電・高耐熱)への需要集中が汎用品の生産ラインを圧迫。レゾナックは「不採算な低付加価値ラインの縮小」を並行して進めており、価格上昇だけでなく**「物理的な供給制限」**が表面化しています。
- 波及効果: この値上げは、HDI基板、ICサブストレート、および高多層サーバー基板など、ハイエンドな製造プロセスに最も強く波及しています。
Kingboard(建滔積層板):中国大手も追随値上げ
世界最大のCCLシェアを誇るKingboard Holdingsは、銅、樹脂、アセトンの価格上昇を理由に、FR-4(40*48インチ)を含む主要シートの価格を一斉に引き上げました。
- 改定内容: シートあたり +10元の値上げを断行(2026年2月〜3月)。
- 市場への示唆: CCLは基板製造コストの約30%を占めるため、基板メーカー(ファブリケーター)による顧客への価格転嫁は、2026年Q2(4-6月)以降に本格化すると予測されています。
【一次ソース】
- Resonac To Increase Sales Prices Of Copper-clad Laminates, Prepregs By 30% Effective March 1 – Nasdaq
- PCB raw price may rise as Kingboard hikes price – Astute Group
3. 地政学的リスク:米国セクション232「半導体25%関税」の現実
2026年1月15日に発効したトランプ政権の「セクション232」追加関税は、米国の製造現場とグローバルサプライチェーンを揺るがしています。
「派生製品」の解釈と課税範囲
- 賦課内容: 特定の先端半導体、製造装置、およびそれらを含む「派生製品(Derivative Products)」に25%の関税。
- 実務上のインパクト: 米国当局のガイダンスにより、AIアクセラレータボードや特定の通信モジュールなどが「派生製品」として判定される事例が出ており、輸入時にBOM(部品構成表)価値に対し25%の税が加算されています。
- 還付(ドローバック)不可の重圧: この関税に対する還付は認められない方針が示されており、米国を拠点とする再輸出モデルはコスト的に維持が困難になっています。
サプライチェーンの「チャイナ・プラス・ワン」加速
関税回避のため、台湾系PCBメーカー(Unimicron, Zhen Ding等)は、タイやベトナムでの生産ライン立ち上げを2026年Q2〜Q3へ前倒ししています。
しかし、材料の多くを依然として日本や中国に依存しているため、材料コストの高騰からは逃れられない状況です。
【一次ソース】
- President Trump orders 25% Section 232 tariff on certain advanced semiconductor articles – White & Case
- New Section 232 Tariffs on Semiconductors Effective January 15, 2026 – Baker Donelson
4. 市場在庫の枯渇:特殊素材「Tガラス」の供給ボトルネック
AIサーバーの爆発的普及が、基板材料の「物理的な枯渇」を引き起こしています。
Nittobo(日東紡):Tガラス供給の独占的制限
AIサーバー基板や先端パッケージに不可欠なTガラス(低誘電ガラスクロス)において、日東紡が圧倒的なシェアを掌握しています。
- 需給状況: 2026年3月現在、需要に対して供給能力が追いついておらず、この不足状態は2027年まで継続すると予測されています。
- リードタイムの爆発: Tガラスを使用した高速伝送用CCLの納期は、従来の12週から 24週〜40週 へと急延伸。
- 影響: NVIDIA、Google、Amazonといった巨大テック企業がNittoboの生産枠を数年単位で予約しているため、一般の産業機器・通信機器メーカーは、材料不足を理由に製造そのものができないリスクに直面しています。
【一次ソース】
- Understanding the T-Glass Shortage and Its Role in AI Growth – Fusion Worldwide
- Nittobo Reportedly Plans 2028 Next-Gen T-Glass; High Demand from NVIDIA, Apple – TrendForce
5. EOL(生産終了)およびPCN(変更通知):今週の重要アップデート
| メーカー | 部品・カテゴリ | 内容 / ステータス | 重要期限 / ソース |
| Renesas | 汎用リニアIC | EOL260002: UPC/REACシリーズの廃止。 | LTB: 2026年3月30日 / Renesas |
| Microchip | パワーIC / MCU | CCB 6482/8077: リードフレームおよびワイヤ材質変更(金→銅パラジウム金)。 | 2026年3月適用開始 / Microchip |
| Central Semi | ツェナーダイオード | PDN01283: SMA/SMBパッケージ品の完全廃止。 | 2月末完了済 / Central Semi |
| Sony | CMOSセンサー | 2026年4月より特定のIMXシリーズの供給制限(アロケーション)を予測。 | Sony Semiconductor |
6. 調達・設計部門への「今すぐ行うべき3つのアクション」
- 基板メーカーからの価格改定要求への戦略的対応: レゾナック等の30%値上げを受け、基板ファブリケーターからの価格改定要求が届き始めています。単なる拒否ではなく、価格上昇を認める代わりに、枯渇しているTガラス等の希少材料の優先確保を契約に盛り込むといった現実的な交渉を推奨します。
- 対米輸出向け製品のHSコード再精査: セクション232の25%関税は、製品の「名称」ではなく「技術的パラメータ(派生製品の定義)」で判断されます。自社製品が意図せず対象に含まれていないか、通関士と最終確認を本日中に行ってください。
- ルネサスUPCシリーズの「最終確保」期限の遵守: LTB(最終受注)期限の3月30日まで残り17日です。汎用オペアンプ等の在庫確保または後継(#GCA製品)への認定を今週中に完了させてください。
【免責事項】
本レポートは2026年3月13日時点の公開情報を基に作成されています。基板材料や地政学的リスクは極めて流動的であり、関税政策も当局の解釈により変更される可能性があります。
最終的な判断は、必ず一次供給元および法務専門家と連携して行ってください。

