

プリント基板の設計において、回路が正しくつながっていることは最低条件に過ぎません。
真の設計者の腕が試されるのは、その後の実装工程で「いかに不良を出さないか」という点にあります。
せっかく設計した基板が、工場のラインに流した途端にブリッジやチップ立ち(マンハッタン現象)などの不良を連発し、修正コストや納期遅延に悩まされた経験はないでしょうか。
これらの問題の多くは、実は回路図のミスではなく、部品配置(レイアウト)の不備に起因しています。
この記事では、部品配置によって実装不良を劇的に減らすための具体的かつ実践的なテクニックを解説します。
この記事を最後まで読めば、工場の製造担当者から感謝される「作りやすい基板」を設計するための知識が網羅的に身につくはずです。
部品配置と実装品質の関係:なぜ配置が重要なのか
DFM(Design for Manufacturing)の定義
実装不良を防ぐための設計思想を、業界ではDFM(Design for Manufacturing:製造性を考慮した設計)と呼びます。これは、設計段階から製造工程の制約や特性を考慮し、作りやすさを最適化する考え方です。
基板実装の世界では、0402(0.4mm×0.2mm)サイズのような極小チップ部品や、BGA(Ball Grid Array:底面に球状の端子が並ぶ部品)などの高密度な部品が当たり前のように使われています。
これらの部品は、配置がわずかに不適切なだけで、はんだ付けの品質に致命的な影響を及ぼします。
実装不良がもたらすリスク
不適切な配置によって発生する不良には、以下のようなものがあります。
- はんだブリッジ:隣接する端子同士がはんだでつながってしまう短絡。
- チップ立ち(マンハッタン現象):チップ部品の片側だけが浮き上がってしまう現象。
- 未はんだ:熱容量の差などによってはんだが十分に溶けない、あるいは濡れ広がらない現象。
- 部品の破損:リフロー(加熱炉)での熱ストレスや、個片分割時の応力によるクラック。
これらの不良は、手作業による修正が必要になるだけでなく、最悪の場合は基板そのものが廃棄(スクラップ)となり、多大な損失を生みます。
実装不良が発生する具体的なメカニズム
部品配置がどのように不良を引き起こすのか、その物理的な仕組みを詳細に理解しましょう。
表面張力の不均衡によるチップ立ち(マンハッタン現象)
チップ立ち現象は、主にリフロー工程で発生します。リフローとは、基板にはんだペーストを印刷し、部品を載せた後に炉の中で加熱してはんだを溶かす工程です。
このとき、部品の両側の電極にあるはんだが同時に溶ければ問題ありません。
しかし、配置が原因で片側のはんだが先に溶け、もう一方が遅れて溶けると、先に溶けたはんだの表面張力が部品を引き上げる力として働き、部品が垂直に立ち上がってしまいます。
主な原因:
- パッド(部品の足を載せる銅箔部分)につながる配線の太さが左右で極端に違う。
- 片側のパッドだけが大きな銅箔面(ベタ)に接続されており、熱が逃げやすい。
- リフロー炉内での熱風の流れを遮る大きな部品が隣にある。
熱影(シャドウ効果)とはんだ不良
リフロー炉の中では、熱風が均一に当たることが理想です。
しかし、背の高い部品(電解コンデンサやコネクタなど)のすぐ隣に小さなチップ部品を配置すると、背の高い部品が壁となり、熱風が遮られます。これをシャドウ効果と呼びます。
熱が十分に伝わらないと、はんだペーストの溶融が不完全になり、未はんだや冷はんだの原因となります。
また、フローはんだ(溶けたはんだの槽に基板を浸す手法)の場合は、はんだの波が届かない部分ができ、未はんだが発生します。
はんだブリッジと微細ピッチ
ICの足の間隔(ピッチ)が狭い場合、配置の向きが重要になります。
特にフローはんだ工程では、基板が進む方向に対して垂直に長いピンヘッダやICが並んでいると、後方に余分なはんだが溜まりやすく、ブリッジが発生しやすくなります。
実装不良を防ぐための具体的ワークフロー
高品質な基板を作るための配置ステップを5つの段階に分けて解説します。
ステップ1:製造基準(デザインルール)の確立
設計を始める前に、必ず実装工場の製造基準を確認してください。
工場ごとに、最小部品間隔、最小配線幅、パッドの推奨サイズなどが異なります。
これを無視して設計すると、どれほど高度な回路でも「作れない基板」になってしまいます。
ステップ2:熱バランスを意識したパッド設計
チップ部品の左右の熱容量を等しくすることが、チップ立ち防止の鉄則です。
- サーマルランドの活用:大きなベタ面にパッドを接続する場合は、十字型の細い配線(サーマルリリーフ)を介して接続し、熱が逃げすぎないようにします。
- 配線幅の統一:部品の両端から出る配線の太さは、可能な限り同じにします。
ステップ3:部品の間隔と向きの最適化
部品同士が近すぎると、マウンター(部品を載せる機械)の吸着ノズルが隣の部品に干渉したり、検査装置(AOI)で死角ができたりします。
- 最小間隔の維持:一般的にチップ部品間は0.3mmから0.5mm程度、背の高い部品の周囲はそれ以上の距離を確保します。
- 向きの統一:極性のある部品(ダイオード、電解コンデンサなど)の向きを揃えると、目視検査や実装機の設定ミスを減らせます。また、フローはんだを行う場合は、基板の搬送方向に対して長手方向を一致させることが基本です。
ステップ4:大型部品と重量バランス
基板上の重量バランスが偏っていると、リフロー中に基板が反りやすくなります。
- 重い部品は基板の中央付近を避け、支持部(レールやネジ止め位置)の近くに配置することを検討します。
- 背の高い部品は基板の端に寄せることで、リフロー炉内の熱対流を妨げないようにします。
ステップ5:個片分割とストレス対策
集合基板(複数の基板がつながった状態)を最後に切り離す際、基板には大きな物理的ストレスがかかります。
- Vカットやミシン目の近くには、セラミックコンデンサのような割れやすい部品を配置しないでください。最低でも3mmから5mmの距離(キープアウトゾーン)を設けるのが安全です。
最新の技術トレンドと将来性
基板実装の世界も日々進化しており、部品配置の考え方にも新しい波が来ています。
01005サイズ(0.1mm×0.05mm)への対応
スマートフォンやウェアラブル機器の普及により、極小部品の採用が進んでいます。
これほど小さな部品になると、従来のDFMルールでは通用しません。
わずかなはんだ印刷のズレも許容されないため、パッド形状をあえて非対称にするなど、高度なシミュレーションに基づいた配置設計が行われています。
AIによる配置最適化
現在、多くのCADソフトにAI(人工知能)による自動配置機能が搭載され始めています。
AIが過去の膨大な不良データと照らし合わせ、チップ立ちやブリッジのリスクが高い箇所を自動で検知し、最適な位置を提案してくれる時代になりつつあります。
デジタルツインとシミュレーション
製造前に仮想空間でリフロー工程を再現する「デジタルツイン」の活用が広がっています。
特定の配置において、どの部品にどれだけの熱が加わるかを事前に熱流体シミュレーションで解析することで、試作回数を減らし、一発で量産品質に到達することを目指しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 部品の間隔をどうしても詰めなければならない場合はどうすればいいですか?
A1. 極限まで密度を上げる場合は、はんだマスク(レジスト)の精度を上げる、あるいは部分的にメタルマスクの厚みを変えるなどの工法が必要になります。まずは実装工場に「この間隔でブリッジせずに載せられるか」を相談するのが近道です。
Q2. チップ部品の配置の向きに優先順位はありますか?
A2. リフロー工程では、長手方向がリフロー炉の搬送方向に平行になるように配置するのが一般的です。これにより、左右の電極が加熱されるタイミングの差が最小限になり、チップ立ちを防げます。
Q3. シルク印刷(部品番号などの文字)は配置に影響しますか?
A3. シルクがパッド(はんだ付け面)の上に重なると、はんだが弾かれて未はんだの原因になります。配置を決める際は、必ずシルクがパッドにかからないよう、また部品の下に隠れて見えなくならないよう注意してください。
まとめ:良い設計は現場を知ることから始まる
部品配置による実装不良の防止は、一朝一夕で身につくものではありませんが、基本となるのは物理現象への理解です。
「ここには熱がこもりやすい」「ここは熱風が遮られる」「ここは分割時にしなる」といった想像力を働かせることが、高品質な設計への第一歩となります。
優れた設計者は、CAD画面の向こう側にある、激しく動くマウンターのノズルや、真っ赤に熱せられたリフロー炉の内部をイメージしています。
最後に、この記事で紹介したポイントを振り返ります。
- 左右の熱バランスを整えてチップ立ちを防ぐ。
- 部品間の距離を適切に保ち、干渉や熱影を避ける。
- 基板の搬送方向を意識して部品の向きを決める。
- 実装現場のデザインルールを死守する。
これらのコツを積み重ねることで、不良率(ppm単位)を劇的に下げることが可能です。
次回の基板設計では、ぜひこれらのチェック項目をレイアウトに反映させてみてください。






