基板実装 部品支給(支給材)vs フルターンキー:トータルコストが安いのはどっち?

目次

はじめに:見積書の金額だけで判断していませんか?

電子機器の開発・製造に携わるエンジニアや調達担当者にとって、プリント基板の実装(PCBA)における発注形態の選択は、プロジェクトの成功を左右する極めて重要な意思決定です。

多くの現場で、「部品代は自分たちで安く調達できるから、工場には実装工賃だけ払えばいい」と考え、部品支給(支給材)を選択するケースが見受けられます。

確かに、見積書上の表面的な金額を見れば、支給材の方が安く見えることが大半です。

しかし、そこに「見えないコスト」が含まれていることを考慮しているでしょうか?

部品の選定、発注、検品、保管、梱包、そして工場への発送。

これらにかかる人的リソースや時間、そして在庫リスクを含めた「トータルコスト」で比較したとき、果たして本当に支給材が正解なのでしょうか?

本記事では、基板実装における「部品支給」と、部品調達から実装までを一括で委託する「フルターンキー」について、そのコスト構造、メリット・デメリット、そして現場の作業負担までを徹底的に解剖します。

自社の状況に合わせて最適な選択ができるよう、事実に基づいた詳細な解説を行います。


言葉の定義と背景:なぜ今、発注形態が重要なのか

まずは、議論の前提となる2つの用語と、製造業界を取り巻く背景について整理します。

1. 部品支給(支給材・支給対応)とは

発注者(あなた)が、プリント基板に搭載する電子部品のすべて、または一部を自社で購入・準備し、実装工場へ送付する方式です。

工場側は、受け取った部品と基板を使って実装作業(はんだ付け)のみを行います。

古くからある商習慣で、自社で特殊な部品を在庫している場合や、商社との強力なパイプがあり安価に仕入れられる場合に採用されてきました。

2. フルターンキー(一括請負)とは

発注者は設計データ(ガーバーデータや部品表など)を渡すだけで、プリント基板の製造(生基板)、電子部品の調達、そして実装までの全工程を工場側に一任する方式です。

「鍵(キー)を回せば(ターン)すぐに動く」というプラント建設用語が語源で、完成品を受け取るだけの状態を指します。

近年、オンライン見積もりサービス等の台頭により、この方式が急速に普及しています。

背景にある事情:供給網の複雑化

なぜ今、この比較が重要なのでしょうか。

最大の要因は「部品供給の不安定化」です。

かつてのように、必要な部品が即納で手に入る時代は終わりつつあります。

半導体不足やEOL(生産終了)が頻発する現在、調達能力の有無が製造スケジュールを直撃します。

「自分で探す手間」と「プロに任せるコスト」の天秤は、以前よりもはるかにシビアな判断が求められているのです。


具体的な仕組み:コストの発生源を可視化する

ここでは、両者のコスト構造の違いを、図解をイメージしながら文章で詳細に分解します。

トータルコストを構成する要素は、「直接費用(支払い金額)」と「間接費用(社内工数・リスク)」に大別されます。

コスト構造の比較

コスト項目部品支給(支給材)フルターンキー解説
実装加工費同等同等工場のラインを動かす費用に大差はありません。
部品代低(商社との直接取引)中〜高(工場の管理費が上乗せ)ターンキーでは部品代に10〜20%程度の管理費が乗るのが一般的です。
調達工数(人件費)極大極小ここが最大の差です。数千点の部品選定・発注にかかる時間は膨大です。
検品・在庫管理費なし自社倉庫での受け入れ、員数確認、湿度管理などが該当します。
部材ロス・予備購入自社負担工場負担(見積に含まれる)実装機にかけるための予備(ロス品)を計算して多めに買う必要があります。
責任区分(品質)複雑明快支給品の実装不良は、部品が悪いのか実装が悪いのか揉める原因になります。

見落とされがちな「隠れコスト」の正体

支給材を選択した場合に発生する、見積書には現れないコストについて深掘りします。

  1. 部品選定と代替品調査の時間BOM(部品表)を作成する際、指定したコンデンサや抵抗が在庫切れであることは日常茶飯事です。そのたびに仕様書(データシート)を確認し、サイズや定格が同じ代替品を探す作業が発生します。1部品あたり10分かかったとして、50種類の代替品を探せばそれだけで丸一日潰れます。
  2. 受け入れ検品と仕分けDigi-Key、Mouser、Chip1stopなど複数の商社から届いたダンボールを開封し、品番と数量が正しいかチェックします。さらに、それを案件ごとに仕分ける必要があります。
  3. MSL(湿度管理レベル)の管理ICやLEDなどの半導体部品には、吸湿に対する管理レベル(MSL)が設定されています。開封後、一定時間以上大気に触れた部品をそのままリフロー炉(高温)に通すと、内部の水分が爆発し「ポップコーン現象」と呼ばれる破壊が起きます。支給材の場合、自社でデシケーター(防湿庫)を用意し、適切に管理・再梱包して工場へ送る必要があります。
  4. アトリション(予備部材)の計算チップマウンター(実装機)は、リールの先端部分や吸着ミスなどで必ず部品をロスします。これを「アトリション」や「捨て打ち」と呼びます。例えば100個実装する場合、ぴったり100個支給しても足りなくなります。0603サイズのチップ抵抗なら最低でも数十個〜100個程度の予備を含めて発注しなければなりません。この計算と余剰在庫の管理もコストです。

作業の具体的な流れ:支給材の大変さをシミュレーション

実際に「部品支給」を行う場合のワークフローをステップ形式で解説します。

これを読みながら、自社のリソースで対応可能か検討してください。

ステップ1:完全なBOM(部品表)の作成

回路設計CADから部品表を出力します。

この段階で、メーカー名、メーカー型番(MPN)、パッケージサイズ、許容差などを完全に網羅する必要があります。

「0.1uFのコンデンサ」という曖昧な記述では工場は受け付けてくれません。

ステップ2:在庫確認と発注(マルチベンダー対応)

主要なECサイトや商社を巡回し、在庫を確認します。

A社にはマイコンがあるが、B社には抵抗がない、といったパズルのような状態になります。

送料や納期を考慮しながら、複数の業者へ発注をかけます。

ステップ3:荷受けと現品照合

部品が届いたら、納品書と現物を照合します。

特に似たような型番のICや、サイズ違いの抵抗などが混じっていないか注意深く確認します。

リール品、カットテープ品、トレイ品など、荷姿もバラバラです。

ステップ4:キッティング(支給キットの作成)

これが最も手間のかかる作業です。

  • マウント用テープの継ぎ足し: カットテープ(バラのテープ)の場合、マウンターのフィーダーにセットするための「リーダーテープ」を継ぎ足す加工が必要な場合があります(工場側で有料対応する場合もあり)。
  • 識別ラベルの貼付: 工場が管理しやすいように、BOMの項番と現物を紐付けるラベルをすべての部品袋に貼ります。
  • リスト作成: 何を、いくつ、どのような荷姿で送るかを記載した支給部品リストを作成します。

ステップ5:梱包と発送

静電気対策(ESD対応)された緩衝材や袋を使用し、輸送中に足(リード)が曲がったり、リールが割れたりしないよう厳重に梱包して工場へ発送します。

比較:フルターンキーの場合

  1. ガーバーデータとBOMを工場へ送付。
  2. 工場から来た「調達可否・代替品提案リスト」を承認。
  3. 発注し、完成を待つ。

最新の技術トレンドや将来性:業界はどちらに向かっているか

基板実装業界のトレンドは、明確に「フルターンキー」および「Web完結型」へシフトしています。

1. クラウド実装サービスの台頭

PCBAのオンライン見積もりサイトが増えています。

BOMをアップロードすると、API連携されたMouserやDigi-Keyの在庫データベースを瞬時に照会し、部品代と実装費を即座に算出するシステムです。

これにより、従来数日かかっていた見積もりが数分で終わるようになりました。

このスピード感は、部品支給では絶対に真似できません。

2. 「バーチャル工場」としての機能

ファブレスメーカー(工場を持たないメーカー)が増える中、実装会社は単なる下請けではなく、調達・在庫管理・品質保証までを担うパートナーとしての地位を確立しようとしています。

特に、模倣品(カウンターフェイト)が市場に出回る中、信頼できるルートから正規品を調達する能力は、工場の重要な付加価値となっています。

3. トレーサビリティの要求

車載や医療機器分野では、どのロットの部品がどの基板に使われたかという追跡履歴(トレーサビリティ)が厳しく求められます。

支給材の場合、発注者側でこのデータを紐付けるのは困難ですが、フルターンキーであれば工場のシステム内で一元管理が可能です。

4. 部品支給が残る領域

一方で、部品支給が完全になくなることはありません。

  • カスタム部品: 特注のトランスや機構部品など、市場流通していないもの。
  • 戦略的在庫: 供給不足を見越して自社で大量確保したCPUなど。
  • 極小ロットの試作: 手元にある部品でとりあえず1枚だけ作りたい場合。これらは引き続き支給対応、あるいは「一部支給・残りはターンキー」というハイブリッド方式が採用されます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 「一部支給」という中間の選択肢はありますか?

はい、可能です。これを「セミターンキー」や「一部支給」と呼びます。

例えば、入手困難なメインのFPGAとコネクタだけは自社で支給し、汎用的な抵抗・コンデンサ(CR類)は工場にお任せするというパターンが最も賢い使い分けとして推奨されます。

特にチップ抵抗などは、工場がリール単位で大量在庫しているため、支給するよりも安くなるケースが多いです。

Q2. 試作(5枚〜10枚)の場合、どちらが得ですか?

トータルコスト(特に人件費)で見れば、圧倒的にフルターンキーが得です。

少量の部品を複数の商社から買うと、それぞれの送料がかかり、部品単価も高くなります。

また、キッティングの手間を時給換算すれば、工場の管理費を支払う方が合理的です。

Q3. 工場が調達すると、偽物の部品を使われませんか?

信頼できる実装工場であれば、Digi-Key、Mouser、Arrow、Future Electronicsといった正規代理店(フランチャイズディストリビュータ)から購入するため、リスクは低いです。逆に、AmazonやAliexpressなどで安易に購入した支給材の方が、偽物であるリスクは高まります。

心配な場合は、工場に対して「購入先リスト」の提出を求めることができます。

Q4. 支給材の場合、余った部品は返却されますか?

基本的には返却されますが、チップ抵抗などの細かい部品は「返却不要(廃棄)」と指示することで、工場の梱包手間を減らし、微減額交渉ができる場合もあります。

ただし、高価なICは必ず返却してもらうようにしましょう。


まとめ:トータルコストの勝者は「自社の状況」で決まる

「部品支給」と「フルターンキー」、どちらがトータルコストで安いのか。

その結論は以下の通りです。

  1. フルターンキーが推奨されるケース
    • スタートアップや中小規模チーム: エンジニアが調達業務に時間を奪われるのは最大の損失です。開発に集中するためにターンキーを選ぶべきです。
    • 試作・小ロット生産: 送料の重複やアトリション管理の手間を考えると、一括委託が合理的です。
    • 汎用部品が多い基板: 工場の在庫を活用した方が単価が下がります。
  2. 部品支給が有利になるケース
    • 大ロット量産(数千枚〜): 部品単価の1円の差が巨額になるため、商社と直接交渉して安く仕入れ、支給するメリットが出ます。
    • 特殊な独自ルートがある場合: 親会社から安く買える、などの特殊事情がある場合。
    • すでに在庫を抱えている場合: 過去の生産余剰品を消化したい場合。

重要なのは、目先の見積金額(キャッシュアウト)だけでなく「エンジニアの時給」「在庫管理スペース」「トラブル時の対応コスト」を含めた全体最適の視点を持つことです。

現代の製造トレンドとしては、「コア部品は自社確保(支給)、汎用部品は工場任せ(ターンキー)」というハイブリッド方式が、リスクとコストのバランスが最も優れた解となることが多いでしょう。

まずは、実装工場に見積もりを依頼する際、「全部支給パターン」と「部品お任せパターン」の両方を出してもらい、その差額が自社の調達工数に見合うかどうか計算してみることから始めてみてはいかがでしょうか。

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