パワー半導体 市況・EOLレポート(2026年6月24日 水曜版)

エグゼクティブサマリー

2026年のパワー半導体市場は、AIデータセンターの電力需要を主因とする構造的な需給逼迫の局面にあります。

象徴的なのが値上げの連鎖で、Infineonは7月1日から特定製品の価格を改定すると顧客・パートナーに通知し(公表は5月26日)、世界的なサプライチェーンコストの上昇を理由に挙げました。

これは2026年4月に続く同年2回目の値上げです。

同社は、地政学的緊張を主因にエネルギー・原材料・輸送・サービスといったバリューチェーン全体でコスト圧力が高まる一方、製品ポートフォリオ全体の需要が数カ月前の想定を超えて急増していると説明しています。

需要側の象徴として、CEOのJochen Hanebeck氏は、AIデータセンター向け電源ソリューションの需要が極めて強く、関連売上は当該会計年度に約15億ユーロ、翌年度には25億ユーロに達する可能性があると述べています。

TrendForce + 2

この動きはInfineon単独ではありません。Texas Instruments(TI)も7月1日からPMICとMOSFETを含む製品の値上げを予定しており、こちらも2026年2回目の改定です。

中国勢も追随し、MacMicはIGBTで10%、Jiangsu JieJie Microelectronicsは MOSFET/IGBTで10〜20%の引き上げを準備していると報じられています。

重要なのは需要の質で、Commercial Timesが引用した機関投資家は、今回の値上げは短期的な在庫補充ではなく構造的な需要シフトを反映していると指摘し、TIの第1四半期データセンター売上が前年同期比約90%増となったことを、AI需要がGPUを超えて電源管理・サーバー電源・高電圧MOSFETへ拡大している証左としています。

さらに業界推計では、NVIDIAのGB300プラットフォームやHVDC(高電圧直流)アーキテクチャの採用が、高電圧MOSFET・IGBT・電力変換部品の追加需要を牽引し得るとされています。 TrendForce + 2

1. 価格高騰トレンド(値上げの連鎖)

2026年は年初から値上げが断続的に続いています。時系列で確認できる範囲は以下の通りです。

onsemi(オンセミ)については、グローバルなパワーデバイス/イメージセンサーメーカーとして2026年3月16日に顧客へ価格改定通知レターを発行し、4月1日から一部製品ラインの値上げを実施すると発表しました。

理由として、原材料・製造・エネルギー・インフラコストの継続的上昇に加え、パワー半導体・産業制御・データセンター向け需要の構造的急増を挙げています。 Semicone

同じ波の中で、TIは一部のアナログ製品で最大85%の値上げを通知し、NXPは車載・産業制御製品ラインで4月1日付の改定を発表、欧州勢のSTMicroelectronicsとInfineonも主力製品で5〜15%程度の値上げを示唆しました。

さらに台湾のMCUメーカーNuvotonのファウンドリ事業は4月1日付で約20%の値上げを発表しています。

中国勢の動きも早く、AMEC(中微半導体)が1月にMCU等で15〜50%の値上げを先導し、3〜4月にはSilan(士蘭微)、CR Micro、Jiejie、Xinjieneng(新潔能)といった主要パワー半導体企業が追随しました。

Silanは3月1日から小信号ダイオード・トランジスタ・MOSチップを10%引き上げています。 SemiconeiNEWS

値上げの背景には、複数メーカーが共通して挙げる「コスト三重苦(原材料・エネルギー高、物流費上昇、AI/新エネ車によるキャパ制約)」があります。

一次寄りソースとしては、Infineonの件を最初に報じた台湾TechNews、TIと中国勢を報じたCommercial Times(工商時報)が該当します(URLは末尾)。

2. 在庫枯渇・リードタイム(市場在庫の逼迫)

供給面では、リードタイムの長期化が顕著です。一部のIDM大手では特定のパワー半導体製品で最大30週のリードタイムが発生しており、MOSFETやIGBTといった主力品で程度の差はあれ供給不足が起きています。

各地で成熟プロセスのキャパが満杯となり、下半期にかけて逼迫が悪化する可能性が指摘されています。

とくにSiCは深刻で、車載認証済みSiC MOSFETのリードタイムは2026年初頭時点で複数の調達チャネルから52週以上と報告されており、onsemi・STMicroelectronics・Infineon・WolfspeedはいずれもSiC生産能力の上限近くで稼働、新規ファブ拡張は専用の結晶成長装置のリードタイムが長く、供給に有意に寄与するのは数年先とされています。 iNEWS773 GROUP LLC

キャパ逼迫の構造要因として8インチ(200mm)ラインの取り合いがあります。TrendForceは、世界の8インチファウンドリ平均稼働率が2025年の75〜80%から2026年には85〜90%へ急上昇すると予測しています。

SiC基板(ウエハ)も同様に逼迫しており、Wolfspeed・Coherent・SiCrystalといった主要基板サプライヤーが複数四半期にわたるリードタイムで稼働し、200mm SiCウエハへの移行はまだ十分にスケールしておらず、デバイスのコストダウンカーブを2026年まで制約しています。 iNEWSIMARC

3. EOL・廃番(モデル末期と”突然死”リスク)

EOLの観点で2026年に最も警戒すべきは、フォーマルなPCN/EOL通知を伴わない「突然の廃番(instant obsolescence)」です。South China Morning Post(2026年5月15日付)等を引用した業界解説によれば、AIブームで主要ファウンドリが40nm・65nmなどの成熟ノード能力を高採算のAIロジックやHBMへ振り向けた結果、これらの旧ノードに依存していた産業・車載向けの”安定品”が突然の廃番の標的になっているとされます。

同解説はZ2Dataの2026年3月13日付分析を引き、2025年だけで62万点超の電子部品が廃番になったと述べています(※この62万点という数字とノード解説は二次的な引用であり、原典の直接確認は取れていません。参考値としてご利用ください)。 Kynix

正規のEOLプロセスの基礎知識として、JEDEC規格では、サプライヤーは想定される変更の90日前に製品変更通知(PCN)で顧客に通知することが求められます。

EOLが告知されると、顧客は通常6〜12カ月以内に最終購入(Last Time Buy)か代替品への切替を判断する必要があります。

なお水曜カテゴリ(パワー半導体)の範囲外ですが、基板実装の供給網全体に影響する直近のEOL確報として、KioxiaがTSOP型MLC NAND(8Gb〜64Gb)の生産終了を発表し、出荷は2027年3月まで、最終発注は2026年9月期限としています。 Z2Data + 2

4. メモリ不足の波及(”RAMageddon”とパワー半導体)

2026年のパワー半導体を語るうえで外せないのがメモリ不足の波及です。

アナリストが「RAMageddon」と呼ぶ2026年のメモリ逼迫は、メモリとパワー半導体がともに8インチ(200mm)ラインの成熟ノード能力を奪い合うため、IGBTモジュールやSiC MOSFETそのものはメモリではないにもかかわらず、エコシステム全体が逼迫しリードタイムが伸びる構図を生んでいます。

S&P Global Mobilityによれば車載チップの約95%はこうした旧ノードの”基盤的”デバイスであり、その能力投資が業界全体で後回しにされています。

一方で、中国メーカーの積極的な能力拡張により、SiC MOSFETやSiC SBDはむしろ供給に余裕が出て価格競争力が増す「二速化」が起きており、SiCデバイスの調達には足元で有利な窓が開いているとも指摘されています。 plutochipplutochip

5. 供給網トピック(再編・能力増強)

業界再編では、Wolfspeedの動向が引き続き焦点です。米Wolfspeed(SiC材料・パワーデバイス)は、対米外国投資委員会(CFIUS)がRenesas Electronics Americaへの株式発行を正式に承認し、Chapter 11手続下の事前パッケージ型再編の最終マイルストーンが完了したと発表しました(2026年1月30日付報道)。

CEOのRobert Feurle氏はこれを再編実行の最終段階と位置づけ、再編完了後の発行済株式総数は約4510万株に増加、Renesasは取締役会の議席も得ます。

Renesasは自社能力も増強しており、甲府工場のIGBT生産再開と、高崎工場でのSiC生産ラインの立ち上げを進めています(出典は2023年7月の発表で、現状の最新状況は別途確認が必要です。なお高崎工場はご利用地域に近い拠点です)。 Semiconductor TodayWolfspeed

能力増強の動きとしては、onsemiが次世代SiCデバイス製造(チェコ)向けに欧州委員会から5億3000万ドルの国家補助パッケージを確保(2025年11月)、三菱電機が熊本・菊池に8インチSiC新工場を完成させ2025年後半の試作・2027年量産を計画(2025年10月)、InfineonとROHMがSiCパワーパッケージの共同開発(セカンドソース化)でMoUを締結(2025年9月)しています。

Infineonの基板転換も進んでおり、マレーシア・クリムの12インチSiCファブは2025年第2四半期時点で既にフル稼働に入り、SiCコスト低減の新たな転換点と評されています。 Global Market InsightsiNEWS


一次/一次寄りソースURL一覧

価格改定の確報系(最初に報じた業界紙=一次寄り、および専門メディア):

市況・在庫・再編:

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