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プリント基板CEM-3:積層板30%値上げが実施段階、銅建値は史上最高値
結論サマリー
国内銅建値は7月22日に2,370円/kgと史上最高値を更新した。
パナソニック インダストリーのCEM-3材30%値上げが5月出荷分から浸透中だ。
家電、LED照明、車載電装の制御基板でコスト転嫁交渉が本格化している。
6月の全国CPIコアは前年同月比1.6%上昇し、上げ幅が0.2ポイント拡大した。
調達側は年内の数量確保を価格交渉より優先する局面に入っている。
今週の動き
今週のCEM-3市況は、原料三点セットの高止まりと円安が同時に効いた。
国内銅建値はJX金属の改定で7月22日に2,370円/kgをつけた。
1年前の2025年7月22日は1,500円/kgだったので、上昇率は58%に達する。
7月24日は2,320円/kgまで戻したが、7月平均は2,290円/kgである。
6月平均の2,273.5円/kgを上回っている。
LME銅3カ月物は7月21日時点で1トン13,885ドル、前日比1.93%高だった。
為替は1ドル163円台の円安で推移する。
円建て原料コストの押し上げ要因は、今週も解消していない。
直近5日間の値動き
週初の7月20日、LME銅は1万3,600ドル前後で始まった。
21日に1万3,885ドルまで買われ、前日比1.93%高となった。
国内建値はこれを受けて22日に2,370円/kgへ改定された。
過去最高値の更新である。
23日は米国の新関税発表を受けて上値が重くなった。
24日には国内建値が2,320円/kgへ50円下げている。
同じ24日のナフサ市況は1トン982ドルだった。
国産ナフサ価格指標は1キロリットル11万3,464円である。
今週の主要因
主要因は三つある。
第一に円安だ。
7月24日の為替は1ドル163円32銭まで進んだ。
円安1円につき素材輸入コストは平均0.7〜0.9%上昇するとされる。
第二に銅の需給である。
AIデータセンター向けの電力インフラ需要が銅地金を吸い上げている。
第三に米国の通商政策だ。
米通商代表部は23日、通商法301条に基づく追加関税を発表した。
日本への税率は12.5%で、24日に発動されている。
7層カスケード分析
CEM-3は銅箔、エポキシ樹脂、ガラス基材が同時に上がる構造にある。
CEM-3はガラス不織布をコアに、表層へガラスクロスを配した複合材だ。
そこへエポキシ樹脂を含浸させ、銅箔を張り合わせて銅張積層板になる。
原価構成は銅箔が約42%、樹脂が約26%、ガラスクロスが約19%とされる。
三要素で原価の9割弱を占める計算になる。
今週はその三つがすべて高止まりした。
以下、上流から店頭まで7層で追う。
第1層と第2層: 上流原料と一次加工材
第1層の上流原料は、銅地金、原油由来のナフサ、ガラスヤーンの三系統である。
銅はLME3カ月物が1トン13,885ドル、国内建値が2,370円/kgの史上最高値圏にある。
ナフサはスポットが1トン982ドル、国産ナフサ価格指標が11万3,464円/klだ。
化学工業日報によると、第1四半期の国産ナフサ基準価格は6万5,700円/klだった。
第2四半期は金額、上昇幅とも過去最高を大幅に更新する見込みとされる。
ホルムズ海峡の実質封鎖が3月以降の需給環境を一変させた。
第2層の一次加工材は、電解銅箔、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ガラスクロスだ。
銅箔は大手メーカーが12%の価格改定を実施したと報じられている。
エポキシ樹脂はベンゼン経由でナフサに連動する構造にある。
ガラスクロスは台湾の富喬工業がE-glassを30%、FLD2を15%引き上げた。
7月出荷分からの適用である。
第3層: 中間材料
第3層がCEM-3銅張積層板そのものだ。
国内メーカーの値上げはすでに実施段階に入っている。
パナソニック インダストリーは4月9日、ガラスコンポジット基板材料を30%引き上げると発表した。
実施は5月1日出荷分からである。
同社は一般多層のガラスエポキシ銅張積層板も30%、プリプレグを20%引き上げた。
レゾナックは1月16日に銅張積層板とプリプレグの全製品を30%引き上げた。
適用は3月1日出荷分からとなっている。
三菱ガス化学も4月1日から同水準の30%を実施した。
住友ベークライトはCEM-3標準品のスミライトELCを15〜25%引き上げている。
FR-4とCEM-3の価格差は、じわじわ縮まりつつある。
第4層: 部品・素子
第4層は片面板と両面板のプリント配線板だ。
CEM-3は打ち抜き加工が可能で、FR-4より安価に量産できる。
このため家電、照明、車載電装の片面・両面板で主力材料となってきた。
その優位が材料費の急騰で揺らいでいる。
京写は片面基板で世界トップクラスの生産量を持つ。
同社の2026年3月期経常利益は5億4,700万円で、前期比44.9%減だった。
5月15日の発表時点で会社予想の4億6,000万円は18.9%上回っている。
減益幅の大きさが、材料費上昇の吸収余地の狭さを示す。
リードタイムも延びている。
特定のCCLで最大6カ月、エポキシ系材料で15週超という事例が報告された。
第5層: 組立品・中間製品
第5層は基板に部品を実装したPCBAと、それを組み込んだ制御ユニットである。
エアコンの室内機制御基板、冷蔵庫のインバータ基板、LED照明モジュールが代表例だ。
車載ではボディコントロールモジュールや充電器周辺の基板が該当する。
この段階での転嫁は、家電向けと車載向けで速度が異なる。
家電向けは半期の価格見直しが多く、期中改定の交渉が動き始めた。
車載向けは年次の値決めが中心で、次回改定まで持ち越されやすい。
なお米国の新関税は完成品だけでなくPCBAの通関コストにも影響する。
実装品を対米輸出する事業者は、原産地の確認を急ぐ必要がある。
第6層: 最終製品への波及
空調
エアコンは熱交換器の銅と制御基板の両方で原料高を受ける。
2027年4月の省エネ基準強化も重なり、機種価格の押し上げ圧力は強い。
白物家電
冷蔵庫と洗濯機はインバータ基板がCEM-3の主要用途である。
基板の構成比は小さいが、部材全体の値上げと同時進行になる。
LED照明
高熱伝導CEM-3はアルミ基板の代替として採用が広がった経緯がある。
その価格優位が縮むと、器具側の設計見直しが増える。
車載電装
自動車は鉄、アルミ、銅、樹脂で原料費の30〜40%を占める。
基板単体の影響は限定的だが、電装点数の増加が効いてくる。
アミューズメント・産業機器
遊技機や計測機器は少量多品種で、材料の優先配分を受けにくい。
納期の長期化が生産計画の制約になりやすい。
第7層: 店頭・家計・マクロへの波及
総務省が7月24日に公表した6月の全国消費者物価指数は、総合が113.6だった。
前年同月比は1.7%の上昇である。
生鮮食品を除く総合は113.1で1.6%上昇し、5月から上げ幅が0.2ポイント拡大した。
生鮮食品及びエネルギーを除く総合は112.2で、1.7%の上昇となっている。
家電の店頭価格への反映は、まだ本格化していない。
業界の経験則では、原料から樹脂で約1カ月、樹脂から部品で約2カ月かかる。
部品から最終製品で約2〜3カ月、最終製品から店頭まで約1〜2カ月が目安だ。
5月出荷分から適用された積層板の30%値上げは、年末商戦前後に店頭へ届く。
夏商戦の値札は、まだ旧原価を映している。
今後の展望
年内は価格よりも数量確保が焦点になる。
来週の注目ポイント
来週は米国の新関税に対する各国の対応が最初の焦点となる。
日本への税率は既存分と合わせて12.5%とする軽減措置が入っている。
運用細則の公表内容によって、対米輸出のPCBAコストが変わる。
国内では為替の振れが銅建値に直結する局面が続く。
第2四半期の国産ナフサ基準価格の確定値も注目される。
1ヶ月先の見通し
8月は積層板メーカーの4〜6月期決算が出そろう。
30%の値上げがどこまで実収に結びついたかが確認できる。
銅建値は為替次第で2,300円/kg前後の高値圏が続きそうだ。
ガラスクロスは富喬工業の30%改定が国内商流に反映される時期に入る。
CEM-3の実勢価格は、8月から9月にかけてもう一段上がる可能性がある。
一方で汎用品の需要は弱く、値上げの完全浸透には時間がかかる。
3ヶ月先の構造的展望
10〜12月は供給側の構造が変わり始める。
日東紡は福島事業センターに150億円を投じ、Tガラスクロスの能力を最大3倍に増やす。
新棟の竣工は2026年12月、稼働開始は2027年1〜3月の予定だ。
供給確保計画の認定を受け、最大24億円の助成を見込む。
ただし本格稼働までの間、AIサーバー向けが汎用材の生産枠を圧迫する構図は変わらない。
CEM-3のような汎用材は、価格ではなく枠の確保が課題になる。
設計側でFR-4との併用や板厚の見直しを進める企業も出ている。
リスクシナリオ
上振れは中東情勢の再悪化だ。
ナフサとエポキシ樹脂が同時に跳ね、値上げが第二弾に入る。
中立は現状維持で、銅建値2,200〜2,400円/kgのレンジが続く展開である。
下振れは米関税による世界需要の減速となる。
汎用基板の需要が落ちれば、値上げの浸透率が下がる。
業界別の対応指針
調達担当者
CEM-3の年内所要量を月次で洗い出し、9月までに枠を押さえたい。
価格交渉の前に、材料メーカーの割当方針を確認する。
FR-4との代替可否を設計部門と事前に整理しておく。
対米輸出品は原産地と関税分類の再確認が要る。
経営者
材料費の上昇は一過性ではなく、供給構造の変化に起因する。
値上げ交渉のサイクルを年1回から半期に短縮する検討が要る。
汎用材への依存度が高い製品群は、設計段階からの原価管理が必要だ。
在庫を持つ体力の差が、来年度の受注力の差になる。
投資家
積層板メーカーは値上げの実収化で利益率が改善しやすい。
一方、基板加工と実装の中間層は上下から挟撃されている。
京写の減益幅は、その構造を示す一例といえる。
よくある質問
Q1: 今週、CEM-3の原料はなぜ上昇したのですか?
銅建値が7月22日に2,370円/kgと史上最高値を更新したためだ。
1ドル163円台の円安が押し上げに効いている。
Q2: この動きはいつまで続きますか?
ガラスクロスの増産が本格化する2027年前半までは、需給の緩和は限定的とみられる。
Q3: 自社の調達戦略にどう影響しますか?
価格交渉より数量枠の確保が優先になる。
9月までに年内所要量を提示できるかが分かれ目だ。
Q4: 為替の影響はどのくらいですか?
円安1円につき素材輸入コストは平均0.7〜0.9%上昇する。
銅箔とガラスクロスは輸入比率が高く、影響を受けやすい。
Q5: 消費者の店頭価格にはいつ反映されますか?
5月出荷分の30%値上げは、年末から2027年前半の店頭に届く見込みだ。
原料から店頭までの完全転嫁には平均6〜9カ月かかる。
編集部解説:日本への波及
CEM-3は地味な材料だが、日本の家電と車載の量産を支えてきた基盤である。
今回の30%値上げは、その前提を静かに崩している。
日本の主要業界への影響
パナソニック インダストリーは4月9日、ガラスコンポジット基板材料を30%引き上げた。
5月1日出荷分からの適用で、すでに実勢に反映されている。
同社はCEM-3の代表銘柄を持ち、家電と照明の片面・両面板向けで基幹供給者だ。
住友ベークライトはCEM-3標準品のスミライトELCを15〜25%引き上げた。
打ち抜き加工性とVカット加工性を武器に、LED実装用途で採用が広がっていた銘柄である。
レゾナックは全製品30%を3月1日出荷分から適用した。
材料側の三社が同じ方向に動いた以上、加工側に逃げ道はない。
加工側で象徴的なのが京写である。
同社は片面基板の生産量で世界トップクラスにあり、家電と車載電装が主戦場だ。
2026年3月期の経常利益は5億4,700万円で、前期比44.9%減となった。
5月15日の発表で会社予想は18.9%上回ったが、減益幅そのものが吸収余地の狭さを示す。
在庫水準も薄い。
特定のCCLでリードタイムが最大6カ月、エポキシ系材料で15週超という事例が報告されている。
AIサーバー向けの高多層材が優先され、汎用材の生産枠が後回しになる構図だ。
セット側の価格転嫁は家電で交渉が動き始めた一方、車載は年次改定待ちが多い。
この時間差が、部品各社の運転資金を圧迫している。
商社マン視点の先読みポイント
三菱商事や三井物産の機能材料部門から見ると、今回の局面は二つに分けて考えるべきだ。
一つは価格である。
銅箔、エポキシ樹脂、ガラスクロスの三要素は、それぞれ値決めのロジックが違う。
銅箔は建値連動で、LMEと為替をヘッジすれば相当程度固定できる。
大手商社は3〜6カ月先のスポット価格をヘッジで固定するのが通例だ。
エポキシ樹脂は四半期のナフサ基準価格に連動する。
第2四半期の確定値が出た時点で、第3四半期の姿はほぼ読める。
問題はガラスクロスである。
建値も公的な指標もなく、メーカーの通知が事実上の価格になる。
富喬工業のE-glass30%改定はその典型だった。
ここは長期契約で数量と価格を同時に押さえるしかない。
もう一つは物流と地政学だ。
ホルムズ海峡の実質封鎖はナフサ需給を一変させた。
海上運賃と保険料の上昇は、樹脂原料のCIF価格に直接乗る。
加えて7月24日、米国が通商法301条に基づく追加関税を発動した。
日本への税率は既存分と合わせて12.5%である。
実装品の通関価値全体が課税ベースになる運用が続けば、対米向けEMSの採算は変わる。
今、商社マンならどう動くか。
第一に、9月末までのCEM-3枠を材料メーカーと数量ベースで握る。
価格は後追いでよく、まず枠だ。
第二に、銅箔分だけでも建値連動の条項を顧客契約に入れ込む。
第三に、対米向け案件は原産地と関税分類を先に洗い、代替生産地の見積もりを取っておく。
第四に、FR-4との併用設計を顧客に提案し、材料の逃げ道を二本用意する。
値上げを飲むか飲まないかの交渉より、切り替えられる選択肢を持つ側が強い。
まとめ
今週のポイントは三つある。
材料三要素の同時高騰で、CEM-3の30%値上げは実施段階に入った。
パナソニック、レゾナック、三菱ガス化学、住友ベークライトが同方向に動いている。
加工と実装の中間層が最も圧迫されている。
京写の44.9%減益は、吸収余地が尽きかけていることの証左だ。
店頭価格への反映は年末から2027年前半になる。
原料から店頭までの完全転嫁には平均6〜9カ月かかるためである。
CEM-3の局面は、価格交渉から枠取り交渉へと質が変わった。
銅建値2,370円/kgと1ドル163円台という数字は、当面の前提として置くしかない。
その前提の上で、9月までにどれだけ数量を確定できるかが年内の勝負を決める。
出典











