
「この基板、100枚ならいくらくらいになりますか?」
客先の打ち合わせで、こう聞かれた新人営業が言葉に詰まる。
基板実装やEMSの営業現場では、珍しくない光景です。
同席していた先輩が代わりに答えれば、その場は収まります。
けれど、新人が一人で訪問したときには「持ち帰って確認します」と答えるしかありません。
この記事では、新人営業でも基板実装の概算価格をその場で答えられるようにするための、社内の仕組みづくりを解説します。
ポイントは、単価表を暗記させることではありません。
価格が動く判断基準と、計算の手順を標準化することです。
新人を育てる立場の管理職の方に向けて、明日から着手できる手順までまとめました。
新人営業が「100枚ならいくら?」に答えられないのは知識不足のせいではない
新人営業が概算価格を答えられない一番の理由は、知識の量ではありません。
数字を出すために何を聞けばいいのか、その型を持っていないことにあります。
客先で起きている沈黙の正体
沈黙の正体は、答えを知らないことではなく、答えを組み立てる手順を知らないことです。
「100枚ならいくら?」と聞かれたとき、ベテラン営業は頭の中で瞬時にいくつかの確認をしています。
部品点数はどのくらいか。
片面か両面か。
BGAのような手間のかかる部品はあるか。
部品はお客様からの支給か、こちらで手配するのか。
この確認を終えてから、ようやく数字を口にしています。
一方で新人は、いきなり「金額」そのものを答えようとします。
材料がないまま答えを出そうとするので、言葉が出てこないのは当然です。
新人に足りないのは度胸ではなく、ベテランが無言でやっている確認の手順です。
「持ち帰ります」が続くと起きること
持ち帰りが続くと、新人は窓口としての役割を少しずつ失っていきます。
持ち帰ること自体は間違いではありません。
正確さが求められる場面では、むしろ誠実な対応です。
ただ、毎回持ち帰ることが続くと、お客様の中で「この担当者に聞いても話が進まない」という印象が生まれます。
すると次からは、技術者や上司に直接問い合わせが入るようになります。
新人は経験を積む機会そのものが減り、成長が遅れていきます。
また、比較検討の初期段階では、概算の反応が早い会社から先に話が進むことも少なくありません。
概算を答えられるかどうかは、新人個人の問題ではなく、会社の受注機会に関わる問題です。
答えられない新人ほど、実は真面目
答えられない新人の多くは、能力が低いのではなく慎重なだけです。
新人と話していると、「間違った数字を言うのが怖い」という声をよく聞きます。
これは責任感の表れで、決して悪いことではありません。
問題は、どこまでなら言ってよく、どこからは持ち帰るべきかという線引きが、社内で決まっていないことです。
線引きがあれば、新人は安心して「ここまで」は答えられます。
新人が答えられるかどうかは、本人の性格ではなく、会社がルールを用意しているかどうかで決まります。
単価表を暗記させる教育がうまくいかない理由
概算を答えられるようにしようとして、まず単価表や過去の見積事例を覚えさせる会社は多いと思います。
しかし、暗記中心の教育は、基板実装の見積ではあまり機能しません。
条件が一つ変わるだけで暗記した数字は使えなくなる
暗記した数字は、条件が完全に一致したときにしか使えません。
基板実装の価格は、部品点数、実装面、枚数、部品の種類、支給か手配か、検査内容など、複数の条件の組み合わせで決まるからです。
たとえば「200点・片面・100枚ならこのくらい」と覚えたとします。
お客様の基板が両面実装だった時点で、その数字はそのまま使えなくなります。
新人に必要なのは数字そのものではありません。
条件が変わったときに、数字をどちらへどれだけ動かすかという考え方です。
ベテランの頭の中にある「無意識の補正」
ベテランの概算が大きく外れないのは、経験の中で身につけた補正を無意識にかけているからです。
たとえば、次のような判断です。
- BGAがあるならX線検査が必要になるかもしれないので、少し上に見ておく
- 部品が支給なら、受入や数量確認の手間を見込んでおく
- 初回の案件なら、プログラム作成やメタルマスクなどの初期費用が乗る
- 挿入部品が多い基板は、手はんだやフローの工程を別に見ておく
こうした補正は、本人にとって当たり前すぎて、教えるときに言葉になりません。
新人が「先輩の数字はなぜそうなるのか」を理解できないのは、この補正が見えていないからです。
新人教育の出発点は、この見えない補正を表に出すことにあります。
教える側も言語化できていないという盲点
新人教育がうまくいかない原因は、教える側の判断が言語化されていないことにある場合が少なくありません。
一度、試していただきたいことがあります。
最近ご自身で出した概算を一つ選び、「なぜその数字になったのか」を紙に書き出してみてください。
多くの場合、途中で「ここは感覚で決めている」という部分が出てきます。
その感覚の部分こそが、新人に伝わっていない部分です。
参考までに、厚生労働省が策定した電気機械器具製造業の能力評価基準では、技術系の職務の一つとして「営業技術」が取り上げられ、レベル別に必要な能力が整理されています。
営業の見積感覚も、個人のセンスではなく、段階的に身につけられる能力として扱えるということです。
参考:厚生労働省「電気機械器具製造業における能力評価基準が完成」
言語化できた判断は、そのまま新人に渡せる教材になります。
概算回答を標準化する3つの部品
新人が概算を答えられる仕組みは、「判断基準」「計算式」「回答の型」という3つの部品で組み立てられます。
この3つがそろうと、新人は数字を暗記していなくても、手順どおりに概算を組み立てられるようになります。
なお、概算見積そのものの作り方は「基板実装の概算見積はどう作る?正式見積の前に回答するための考え方」で解説しています。
本記事では、それを新人が客先で使える形に落とし込む方法に絞ってお伝えします。
部品1 判断基準:価格が動く要因を「上がる・下がる」で整理する
最初に作るのは、価格を動かす要因の一覧です。
要因ごとに「価格が上がる方向か、下がる方向か」をセットで整理しておくと、新人でも判断の方向を間違えにくくなります。
| 要因 | 価格が上がりやすい条件 | 価格が下がりやすい条件 |
|---|---|---|
| 部品点数 | 多い | 少ない |
| 実装面 | 両面 | 片面 |
| 生産枚数 | 少ない(固定費の割合が大きい) | 多い |
| 部品の種類 | BGA・狭ピッチ・極小チップが多い | 汎用チップ部品が中心 |
| 挿入部品 | 手はんだ・フローが必要 | 表面実装のみ |
| 部品調達 | 手配(部品代・管理費がかかる) | 支給 |
| 検査 | X線・機能検査などの追加あり | 外観検査のみ |
| 初回かリピートか | 初回(初期費用が発生) | リピート |
この表があるだけで、新人は「この基板は上がる要素が多いから、高めに見ておこう」と判断できるようになります。
ただし、表の中身は会社の設備や得意分野によって変わります。
同じ両面実装でも、ラインの構成によって手間のかかり方は違います。
必ず自社の現場担当者と一緒に作ってください。
部品2 計算式:固定費と変動費に分けるだけで精度が上がる
新人に教える計算式は、固定費と変動費に分けるだけのシンプルな形で十分です。
1枚あたりの概算 = 固定費 ÷ 枚数 + 1枚あたりの変動費
固定費とは、枚数に関係なく一度かかる費用です。
段取り、実装プログラムの作成、メタルマスクなどが該当します。
変動費とは、1枚作るごとにかかる費用です。
部品の実装、はんだ付け、検査などが該当します。
この分け方を理解すると、「なぜ10枚だと1枚あたりが高くなるのか」を新人自身が説明できるようになります。
お客様から「500枚ならどうなるか」と聞かれても、固定費を割る枚数を変えるだけなので、その場で考えられます。
複雑な計算式より、構造が見える計算式の方が、新人にとっては使える道具になります。
部品3 回答の型:一つの数字ではなく「前提つきの幅」で返す
概算は、一つの数字でピタリと当てるものではありません。
前提条件を添えて、幅で伝えるものです。
たとえば、次のような言い方です。
「部品代を除いた実装費で、1枚あたり〇〇円から〇〇円くらいが目安です。BGAや両面実装がある場合は上振れします。部品点数と実装面を教えていただければ、明日までにもう少し絞った概算をお出しできます。」
この型には、3つの要素が入っています。
何を含んだ金額かという前提。
どの条件で上下するかという補足。
次に何をすれば精度が上がるかという次の一手。
この3つを外さなければ、新人の概算は「適当な数字」ではなく、「根拠のある目安」としてお客様に受け止められます。
新人がその場で聞くべき5つの質問
判断基準と計算式があっても、入力する情報がなければ数字は出せません。
そこで、新人が客先で必ず聞く質問を5つに固定します。
質問が決まっていれば、新人は何を聞けばいいか迷わなくなり、ヒアリングの抜け漏れも減ります。
見積に必要な情報が不足しやすいポイントは「EMSへの見積依頼はなぜ差し戻される?不足しやすいデータの実態と対策」も参考になります。
質問1 部品点数と実装面
「部品は何点くらいで、片面実装ですか、両面ですか?」
最初に聞くべきなのは、実装費の大部分を左右する部品点数と実装面です。
ここで注意したいのは、部品の「種類数」と「実装点数」の違いです。
同じ抵抗が20個使われていれば、種類は1でも点数は20になります。
お客様が「部品は50種類くらい」と答えたときに、それを点数と取り違えると、概算は大きく外れます。
新人には、種類数なのか点数なのかを必ず確認するよう伝えてください。
質問2 生産枚数と、初回かリピートか
「今回は何枚で、今後も継続して発注のご予定はありますか?」
枚数は、固定費をいくつに割るかを決める情報です。
また、初回かリピートかで、初期費用が乗るかどうかが変わります。
継続の見込みは、価格だけでなく提案の方向性にも関わります。
枚数と継続性は、必ずセットで聞くようにしてください。
質問3 部品は支給か、こちらで手配か
「部品はご支給いただけますか、それとも弊社で手配しましょうか?」
この質問を忘れると、部品代込みの金額と実装費だけの金額を混同したまま話が進みます。
部品代は部品の種類や市況によって大きく変わるため、概算の段階では実装費と分けて話すのが安全です。
支給か手配かは、金額の意味そのものを決める質問です。
質問4 手間のかかる要素の有無
「BGAや、挿入部品(リード部品)はありますか?」
BGAは接合部が部品の下に隠れて外から見えないため、検査方法を別に考える必要が出てきます。
挿入部品は、手はんだやフローはんだなど、表面実装とは別の工程が必要になることがあります。
この2つを聞くだけでも、大きな外れはかなり防げます。
質問5 検査と納期の要求
「検査のご指定や、ご希望の納期はありますか?」
検査の内容と納期は、工程と費用の両方に影響します。
たとえば、電子組立品の受入基準として広く使われているIPC-A-610には、製品の用途に応じたクラス分けがあります。
求められるクラスによって、検査の考え方や手間が変わります。
参考:IPC(Association Connecting Electronics Industries)
また、短納期の要求は割増の対象になりやすい項目です。
検査と納期は、お客様から言われなくても新人の側から確認する習慣をつけさせてください。
聞けなかったときの「仮置き」ルール
聞けなかった項目は、価格が上がる側に仮置きするのが原則です。
実際の商談では、お客様自身が詳細を把握していないこともよくあります。
そのときに新人が困らないよう、仮置きのルールを先に決めておきます。
たとえば、実装面がわからなければ両面で見ておく。
支給か手配か未定なら、実装費のみで答える。
BGAの有無が不明なら、ありとして見ておく。
後から金額が下がってもお客様は困りませんが、後から上がると信頼を損ねます。
仮置きのルールがあるだけで、新人は「わからないから答えられない」状態から抜け出せます。
計算例:100枚の概算をどう組み立てるか

ここからは、仕組みの使い方を具体的な計算例で確認します。
以下の数値は、すべて説明用の仮の値です。
実際の単価や費用は、会社の設備、地域、案件の条件によって大きく異なります。
必ず自社の実績値に置き換えて使ってください。
前提条件(仮)
- 表面実装部品:1枚あたり200点、片面実装
- 挿入部品:1枚あたり5点
- 部品:お客様支給(部品代は含めない)
- 検査:外観検査のみ
固定費を枚数で割る
段取り、プログラム作成、メタルマスクなどの固定費を、仮に合計60,000円とします。
100枚で割ると、1枚あたり600円です。
変動費を1枚あたりで積み上げる
表面実装を1点あたり5円と仮定すると、200点で1,000円です。
挿入部品を1点あたり30円と仮定すると、5点で150円です。
外観検査を1枚あたり200円と仮定します。
合計すると、1枚あたりの変動費は1,350円です。
固定費分の600円と合わせて、1枚あたり1,950円。
100枚で総額195,000円(部品代別)になります。
枚数を変えると単価はこう動く
枚数だけを変えると、1枚あたりの概算は固定費の割り方によって大きく動きます。
| 生産枚数 | 固定費の1枚あたり | 変動費 | 1枚あたり概算 | 総額(部品代別) |
|---|---|---|---|---|
| 10枚 | 6,000円 | 1,350円 | 7,350円 | 73,500円 |
| 100枚 | 600円 | 1,350円 | 1,950円 | 195,000円 |
| 1,000枚 | 60円 | 1,350円 | 1,410円 | 1,410,000円 |
この表を新人に見せると、多くの場合「10枚だと1枚あたりがこんなに違うのか」という反応が返ってきます。
少量の案件で単価が高くなるのは、変動費ではなく固定費の割り方の問題です。
ここを理解できれば、お客様に理由を説明することもできます。
「100枚ならいくら?」という質問は、ちょうど固定費の影響が見えやすい枚数帯です。
この構造を説明できる新人は、それだけでお客様からの信頼を得やすくなります。
補正をかけて幅を出す
最後に、判断基準の表に照らして補正をかけ、幅を決めます。
たとえば「BGAがあれば変動費を2割増しで見る」「両面なら固定費を1.5倍で見る」といった補正係数を、社内で決めておきます。
これらの係数も、ここでは仮の値です。
仮にBGAありとして変動費を2割増しにすると、1枚あたりは600円+1,620円で2,220円になります。
補正後の数字をもとに、下限と上限を決めて幅で伝えます。
幅の広さも会社として決めておくと、新人ごとの答え方のばらつきがなくなります。
概算回答で新人が失敗しやすいポイントと防ぎ方
仕組みを作っても、運用の段階でつまずくポイントがあります。
事前に新人と共有しておけば、トラブルの多くは防げます。
部品代込みか別かを言わずに数字を出してしまう
もっとも多い失敗は、前提を言わずに金額だけを伝えてしまうことです。
お客様は部品代込みの金額だと受け取り、社内は実装費のつもりで話していた。
このずれは、正式見積の段階で大きな問題になります。
金額を口にするときは、必ず「部品代別で」「実装費のみで」と前置きする習慣をつけさせてください。
前置きの一言が、後のトラブルを防ぐ一番の保険です。
口頭の数字が「見積」として独り歩きする
口頭で伝えた概算は、お客様の社内でそのまま予算として使われることがあります。
新人にとっては目安のつもりでも、お客様の資料には「〇〇社見積:〇〇円」と書かれているかもしれません。
これを防ぐには、口頭で伝えた後に、前提条件を添えた簡単なメールを送るのが効果的です。
「本日お伝えした金額は、以下の条件での概算です」と文字で残すだけで、後のすれ違いは大きく減ります。
口頭の概算は、文字で前提を残して初めて完結すると考えてください。
幅の下限だけが記憶に残る
幅で伝えた場合、お客様の記憶には低い方の数字が残りやすいものです。
「1,800円から2,500円くらい」と伝えると、後日「1,800円と聞いていた」と言われることがあります。
そのため、下限は攻めすぎない設定にしておく方が安全です。
受注したい気持ちから安く言いすぎるよりも、少し余裕を持った幅で伝える方が、結果的に信頼を守れます。
税抜・送料・有効期限の扱いを決めていない
税抜か税込か、送料を含むか、その概算がいつまで有効か。
これらも会社として標準を決めておかないと、新人ごとに答え方がばらつきます。
特に部品を手配する案件では、部品の価格や在庫状況が変わりやすくなります。
概算の有効期限は短めに設定しておくと安心です。
細かい項目ほど、個人の判断に任せずルールにしておくことが大切です。
仕組みを「教育ツール」として回す方法
概算の仕組みは、作って終わりではありません。
新人の育成と見積精度の改善を同時に回す道具として使うことで、本当の価値が出てきます。
係数を変更できる人を決めておく
補正係数や単価の設定は、誰でも変更できる状態にしないことが大切です。
受注したい気持ちが強いと、新人が無意識に係数を下げてしまうことは十分に起こりえます。
悪意がなくても、一度下がった係数が社内に残ると、会社全体の概算が安くずれていきます。
係数の変更は管理職か見積担当者に限定し、新人は入力と計算を担当する形にしておいてください。
権限を分けることで、仕組みの信頼性が保たれます。
概算と正式見積の差を記録して係数を育てる
新人が出した概算と、後日出した正式見積を並べて記録していくと、仕組みの精度が上がっていきます。
差が大きかった案件は、どの要因で外れたのかを確認します。
「BGAの補正が足りなかった」「支給部品の管理の手間を見落としていた」といった原因がわかれば、判断基準の表や係数を修正できます。
この記録は、新人にとっても「なぜ外れたのか」を考える最良の教材になります。
記録を続けることで、仕組みと新人が同時に育っていきます。
過去案件を使った逆算トレーニング
新人の練習には、自社の過去案件を使うのが効果的です。
正式見積の金額を伏せた状態で、案件の条件だけを渡し、新人に概算を出させます。
その後に実際の金額と比べ、差がどこから生まれたかを一緒に振り返ります。
客先で失敗する前に、社内で何度でも試せるのがこの方法の良いところです。
新人は安心して経験を積めますし、教える側の時間も最小限で済みます。
「なぜ高いのか」を説明させる
数字を出せるようになったら、次は理由を説明する練習に進みます。
「この基板は、BGAがあって両面実装で、枚数が少ないので、1枚あたりが高くなります」
このように判断基準の言葉を使って説明できれば、新人は見積の構造を本当に理解しています。
説明できる営業は、価格交渉の場面でも根拠を持って話せるようになります。
見積の根拠を示せることは、適正な価格で取引するための土台にもなります。
中小企業庁も、取引の適正化や価格交渉・価格転嫁に関する施策を進めています。
参考:中小企業庁
理由まで説明できる新人は、会社にとって頼れる窓口になります。
Excelで仕組み化するときの考え方
判断基準、計算式、回答の型は、紙のルールだけでも運用できます。
ただ、新人が客先で素早く概算を出すことを考えると、計算部分はExcelなどのツールにまとめておく方が現実的です。
入力項目は「客先で聞ける項目」だけに絞る
ツールを作るときにありがちな失敗が、入力項目を増やしすぎることです。
正式見積に必要な項目をすべて並べると、新人は客先で埋めきれず、結局使われなくなります。
入力項目は、前の章で紹介した5つの質問で聞ける範囲に絞ってください。
ツールの項目とヒアリングの質問が一致していれば、ツールそのものがヒアリングシートとしても機能します。
計算過程が見えることが教育効果を生む
金額だけが表示されるツールでは、新人は数字の意味を理解できません。
固定費がいくら、変動費がいくら、補正でどれだけ上がったのかが見える形にしておくと、使うたびに見積の構造が身についていきます。
見積ツールとしてだけでなく教育ツールとして使えるかどうかは、この見える化で決まります。
まずは過去案件3件で検証する
最初から完璧なツールを目指す必要はありません。
作ったら、まず自社の過去案件3件程度を入力し、正式見積とどのくらい差があるかを確認します。
差が大きければ係数を調整し、社内で決めた範囲に収まれば新人に渡して運用を始めます。
運用しながら直していく前提で始める方が、結果的に早く定着します。
ゼロから作るのが大変な場合
自社で計算シートを一から作ると、計算式の設計や検証にかなりの時間がかかります。
見積担当者が日々の業務で忙しい会社ほど、ツール作りは後回しになりがちです。
その場合は、ひな形となるツールを使い、係数だけを自社の基準に合わせて調整する方法もあります。
この記事の最後に、そのための選択肢の一つを紹介しています。
よくある質問(FAQ)
Q. 新人に概算価格を言わせて、後でトラブルになりませんか?
前提条件と幅を添えて伝え、その内容をメールで残すルールがあれば、トラブルのリスクは大きく下げられます。
トラブルの多くは、前提を伝えずに一つの数字だけを口にしたときに起きています。
「言わせるかどうか」ではなく、「どのルールで言わせるか」を決めることが大切です。
Q. 概算の段階で部品代まで含めて答えるべきですか?
基本的には、実装費と部品代を分けて答える方が安全です。
部品代は、部品の種類や在庫状況、市況によって変動が大きく、その場で正確に見積もるのは困難です。
お客様が総額を知りたい場合は、「部品代は部品表をいただいてから確認します」と伝え、実装費の目安を先に答えるのが現実的です。
Q. 補正係数はどうやって決めればいいですか?
自社の過去の正式見積から決めるのが基本です。
たとえば、BGAあり案件となし案件で、1枚あたりの実装費がどのくらい違ったかを比べると、係数の目安が見えてきます。
最初は大まかな値で構いません。
概算と正式見積の差を記録しながら、少しずつ調整していきます。
Q. 新人が概算を言えるようになったかは、どう判断すればいいですか?
期間で判断するより、結果で判断する方が確実です。
たとえば、過去案件を使った逆算トレーニングで、概算と正式見積の差が社内で決めた範囲に続けて収まるようになったら、客先で概算を答えてよいとする方法があります。
基準が明確だと、新人自身も目標を持って練習できます。
Q. 試作1枚と量産とでは、教え方を変えるべきですか?
計算の考え方は同じですが、試作では固定費の影響が非常に大きくなることを特に強調して教えてください。
1枚しか作らない場合、固定費をすべてその1枚で負担するため、1枚あたりの金額は量産時と比べて大きく跳ね上がります。
段取り費用の考え方は「試作1枚の単価はなぜ高い?エンジニアが知らない段取り費用の真実」で詳しく解説しています。
Q. ツールを使わず、口頭のルールだけでも運用できますか?
運用自体は可能です。
ただし、計算を暗算で行うと、新人によって結果にばらつきが出やすくなります。
判断基準の表とヒアリングの質問は紙でも共有し、計算部分だけはツールに任せる形が、無理のない始め方です。
まとめ
新人営業が「100枚ならいくら?」に答えられないのは、知識が足りないからではありません。
数字を組み立てる手順と、答えてよい範囲のルールが、社内に用意されていないことが原因です。
仕組みづくりの要点を振り返ります。
- 価格が動く要因を「上がる・下がる」で整理した判断基準を作る
- 固定費÷枚数+変動費という計算式で概算を組み立てる
- 一つの数字ではなく、前提つきの幅で答える型を決める
- 客先で聞く質問を5つに固定し、聞けない項目は高い側に仮置きする
- 係数の変更権限を限定し、概算と正式見積の差を記録して育てる
この仕組みは、新人のためだけのものではありません。
ベテランの頭の中にあった判断を言語化することで、見積業務の属人化を解消し、会社としての見積品質をそろえることにもつながります。
まずは最近の案件を一つ選び、なぜその金額になったのかを書き出すところから始めてみてください。
それが、新人に渡せる判断基準の最初の一行になります。
基板実装の見積を、もっと早く出したい方へ
部品点数や生産枚数などを入力するだけで、
PCBAの概算見積を30秒〜数分で計算できるExcelを作りました。
単価、NRE、リードタイム、合計コストなどを自動計算。
各種係数は変更できるので、自社の見積基準に合わせて調整できます。
「まず概算だけでも早く返したい」
「新人営業にも見積感覚を持たせたい」
という方におすすめです。
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