

電子機器の心臓部であるプリント基板実装(PCBA)の業界は、今、歴史的な転換点を迎えています。
かつてのスマートフォンや家電中心の大量生産・低単価モデルは限界を迎え、2026年の現在、製造現場のリソースは特定の高付加価値カテゴリーへと急速にシフトしています。
営業担当者や経営層の方々にとって、どの分野の案件を獲得し、どの技術に投資すべきかは死活問題です。
低利益率の案件に追われ、設備投資の回収ができないという悩みは、この3大カテゴリーへの理解と注力によって解消される可能性があります。
本記事では、2026年に実装単価が劇的に上昇している「EV(電気自動車)」「AI(人工知能)」「宇宙開発」の3分野について、その背景から具体的な技術要求、製造プロセスまでを徹底的に解説します。
この記事を読むことで、次世代の稼げる技術基盤を理解し、確実な投資判断を下すための知識を得ることができます。
1. 言葉の定義と背景:なぜ今、実装単価が上がっているのか
まず、基板実装(PCBA: Printed Circuit Board Assembly)の単価が決まる要素を再定義しましょう。
2026年現在、単価を押し上げているのは単なる部品代の高騰ではありません。
以下の3つの要素が複雑に絡み合っています。
高密度化と難易度の向上
部品の小型化が進み、0201サイズ(0.2mm × 0.1mm)といった極小チップの採用が一般化しました。
これらを正確にマウントするためには、最新鋭の表面実装機(マウンター)と、ミクロン単位の精度管理が求められます。
信頼性要求の極大化
今回紹介する3カテゴリーに共通するのは、失敗が許されないという点です。
車載、サーバー、宇宙空間という過酷な環境下で、10年、20年と動作し続ける信頼性が求められます。
この信頼性を担保するための検査工程(3D-X線検査など)や特殊なコーティング処理が、加工賃を押し上げる要因となっています。
特殊材料の採用
信号の高速伝送を支える低誘電率基板や、大電流に耐える厚銅基板、宇宙の放射線に耐えるセラミック基板など、材料費そのものが高価なものが選ばれています。
これらの理由により、一般的なコンシューマー製品の実装単価が数百円単位であるのに対し、本記事で扱うカテゴリーでは数万円から数十万円、宇宙用に至っては1枚で数百万円を超えるケースも珍しくありません。
2. 3大成長カテゴリーの具体的な仕組みと技術要求
それぞれの分野で、どのような基板が求められ、なぜ高い技術力が必要なのかを深掘りします。
EV(電気自動車):次世代パワーデバイスの実装
EVにおける基板実装の主役は、モーターを制御するインバーターや、バッテリーを管理するBMS(バッテリーマネジメントシステム)です。
2026年のトレンドは、従来のシリコン(Si)製半導体から、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)といった次世代パワーデバイスへの完全移行です。
これにより、基板には以下の特性が求められます。
- 耐熱性と放熱性:SiCは高温動作が可能ですが、その分、熱を逃がす設計が不可欠です。金属ベース基板や、銅を厚く盛り込んだ厚銅基板が多用されます。
- 高電圧絶縁:800Vシステムが標準化する中で、基板のパターン間距離(クリーパージ)の確保や、絶縁コーティングの精度が厳格化しています。
AI(人工知能):超多層・高速伝送基板
データセンターで稼働するAI学習用サーバーや、エッジAI端末の基板は、今や芸術品に近い複雑さを持っています。
- 超多層化:信号の干渉を防ぐため、20層から30層を超える多層基板が採用されます。各層を繋ぐビア(穴)の加工精度が歩留まりを左右します。
- 熱管理:高性能なGPUやNPUは莫大な熱を発します。基板内に熱伝導を助けるサーマルビアを高密度に配置し、場合によっては液冷システムに対応した設計が求められます。
- 信号整合性(シグナルインテグリティ):GHz(ギガヘルツ)帯の高速通信を行うため、配線の長さや形状に極めて細かな制約があります。
宇宙開発:極限環境への耐性
民間宇宙開発(ニュースペース)の爆発的な普及により、小型衛星用の基板需要が急増しています。
- 放射線対策:宇宙空間の強い放射線による誤作動を防ぐため、冗長性を持たせた回路設計と、特定のシールド技術が必要です。
- 真空・温度差への耐性:真空状態では熱が対流で逃げないため、伝導による放熱設計がすべてです。また、-150度から+150度といった激しい温度サイクルに耐えるハンダ付け強度が求められます。
- アウトガス対策:材料からガスが出ると光学機器を汚染するため、使用できる部材や接着剤が厳格に指定されています。
3. 基板実装の具体的な作業フロー:高付加価値案件のステップ
これらの高単価案件を確実にこなすためには、従来の汎用ラインとは異なる厳格なプロセスが必要です。
ステップ1からステップ5までを見ていきましょう。
ステップ1:DFM(製造考慮設計)レビュー
設計段階から製造チームが深く関与します。
特にAI用多層基板では、実装時の熱で基板が反ってしまうリスクがあるため、層構成のバランスをシミュレーションします。
EV用では、大電流が流れる経路のハンダ付け面積が十分かを検証します。
ステップ2:高度な部材調達と管理
宇宙用や車載用では、部品のトレーサビリティ(追跡可能性)が必須です。
いつ、どこの工場で作られた部品かをすべて記録し、偽造品混入を防ぐための厳格な検査を行います。
また、湿度に敏感な部品(MSD)の管理も徹底されます。
ステップ3:高精度印刷とマウント
ハンダペーストの印刷厚みを3D検査機(SPI)で全数検査します。
0201チップやBGA(ボール・グリッド・アレイ)といった高密度部品の実装では、わずかなズレも許されません。
最新のマウンターを用い、窒素(N2)雰囲気下のリフロー炉で酸化を防ぎながら加熱します。
ステップ4:非破壊検査と品質保証
外観検査機(AOI)だけでなく、基板内部のハンダ付け状態を確認するために、3D-CT X線検査を全数実施します。
特にEVのパワーモジュールやAIサーバーのBGAは、目視できない部分のボイド(気泡)が故障の原因となるため、この工程が最も重要です。
ステップ5:特殊コーティングと環境試験
宇宙用や車載用では、湿気や塵から回路を守るためのコンフォーマルコーティング(防湿剤塗布)を行います。
その後、冷熱衝撃試験や振動試験を行い、出荷後の過酷な環境に耐えられることを証明します。
4. 2026年以降の最新技術トレンドと将来性
2026年現在、さらにその先を見据えた技術革新が始まっています。
チップレット技術の普及
一つのパッケージの中に複数の小さなチップ(チップレット)を載せる技術が進んでいます。
これにより、基板実装の役割は単なる「部品載せ」から、半導体パッケージ内部のインターコネクト(相互接続)に近い領域へと踏み込んでいます。
光電融合基板
AIの進化に伴い、電気信号の伝送限界が近づいています。
基板内に光ファイバーの機能を組み込み、光でデータをやり取りする「光電融合基板」の実装技術が、今後の最高単価カテゴリーになることは間違いありません。
持続可能な製造(グリーンPCBA)
欧州を中心とした規制により、製造工程でのCO2排出量や、リサイクル性の高さが受注条件になりつつあります。
低温ハンダの採用や、バイオ由来の基板材料の実装技術が、2027年以降の競争力を左右するでしょう。
5. よくある質問(FAQ)
Q1. 既存の家電向け実装ラインで、EVや宇宙用の基板は作れますか?
結論から言えば、非常に困難です。
設備そのものの精度(マウンターの繰り返し精度やX線検査機の解像度)もさることながら、ISO9001以上の厳格な品質管理体制(IATF16949など)が必要となります。
まずは車載グレードの一部から段階的に参入することをお勧めします。
Q2. 実装単価が高い分、リスクも大きいのではないでしょうか?
その通りです。
部材費が高価なため、一度の失敗による廃棄損失は莫大です。
そのため、事前のシミュレーションや、一発勝負を避けるための試作プロセスの構築が不可欠です。
しかし、そのリスクを取れる企業が少ないからこそ、単価が高止まりしているという側面もあります。
Q3. AIサーバー用基板の需要は、今後も続きますか?
現在のAIブームは一過性の投資ではなく、社会インフラの再構築に近いものです。
2026年以降も、推論専用のAIチップを搭載したデバイスが自動車や工場、家庭に普及していくため、サーバー側だけでなくエッジ側の需要も爆発的に増えると予測されています。
6. まとめ
2026年の基板実装業界において、EV・AI・宇宙の3カテゴリーは、単なるトレンドではなく「生存戦略」そのものです。
- EV:高電圧・大電流制御と熱管理が鍵。
- AI:超多層・高速信号伝送と高密度実装が鍵。
- 宇宙:極限環境での圧倒的な信頼性と特殊素材対応が鍵。
これらの分野で求められる技術は、いずれも一朝一夕に習得できるものではありません。
しかし、設備の高度化とスタッフの教育に投資し、これらの高難易度案件を安定して供給できる体制を整えることができれば、価格競争から脱却し、圧倒的な利益率を確保することが可能です。
これからの製造業は、「どれだけ安く作るか」ではなく、「どれだけ難易度の高い要求に応えられるか」で勝負が決まる時代です。
この記事が、貴社の次なる投資判断の助けとなれば幸いです。






