
はじめに
スマートフォン、パソコン、家電製品、そして自動車に至るまで、私たちの身の回りには「電子機器」があふれています。
これらの電子機器が正常に動作するために不可欠なのが、「基板実装(きばんじっそう)」と呼ばれる技術です。
「基板実装」という言葉を聞いて、「なんだか難しそう…」「専門的すぎてよく分からない」と感じる方も多いかもしれません。
しかし、実は私たちの生活を支える非常に身近で重要な技術なのです。
この記事では、基板実装の基本的な仕組みと、その一連の流れを初心者の方にも分かりやすく、そして図解を交えながら徹底的に解説していきます。
この記事を読めば、基板実装の全体像を理解し、電子機器への興味がさらに深まることでしょう。
さあ、一緒に基板実装の世界を覗いてみましょう。
基板実装とは何か?その目的と重要性
基板実装の定義
基板実装とは、電子部品(抵抗、コンデンサ、ICチップなど)をプリント基板(PCB: Printed Circuit Board)の表面に配置し、電気的に接続する一連の作業のことです。
簡単に言えば、電子部品を「基板の上に乗せて、はんだ付けでくっつける」工程を指します。
プリント基板は、電子部品同士を配線でつなぐための「土台」となる板状の部品です。
この基板の上に部品を正確に配置し、電気的な回路を形成することで、初めて電子機器として機能するようになります。
基板実装の目的
基板実装の主な目的は以下の通りです。
- 電子回路の実現: 各電子部品が設計された通りに電気的に接続され、期待通りの機能を発揮する電子回路を作り上げること。
- 小型化と高密度化: 限られたスペースに多くの部品を効率よく配置し、製品全体の小型化と高機能化を実現すること。
- 信頼性の確保: 部品が確実に基板に固定され、外部からの衝撃や振動、熱などの影響を受けても安定して動作し続ける品質を確保すること。
- 量産性の向上: 自動化されたプロセスにより、安定した品質で大量生産を可能にすること。
基板実装の重要性
現代の電子機器は、より高性能に、より小型に、そしてより複雑になってきています。
例えば、スマートフォンの中には、数えきれないほどの微小な電子部品が高密度に実装されています。
もし基板実装の技術がなければ、これほど高性能でコンパクトな電子機器は実現できません。
また、医療機器、自動車の制御システム、航空宇宙機器など、高い信頼性が求められる分野では、基板実装の品質がそのまま人命や安全に直結します。
そのため、基板実装は単に部品を乗せるだけでなく、高度な技術と厳格な品質管理が求められる非常に重要な工程なのです。
基板実装の種類:挿入実装と表面実装
基板実装には大きく分けて2つの主要な方法があります。
1. 挿入実装(Through Hole Technology: THT)
挿入実装は、電子部品のリード線(足)をプリント基板に開けられた穴に差し込み、基板の裏側ではんだ付けを行う方法です。
- 特徴:
- 部品が基板にしっかりと固定されるため、機械的強度が比較的高い。
- 手作業での実装が比較的容易なため、少量生産や試作に向いている。
- 部品のリード線が基板を貫通するため、両面に部品を配置する際の自由度が限られる。
- 主に大型の部品や、高電力・高熱を扱う部品に使用されることが多い。
- 一般的な部品: 電解コンデンサ、大型抵抗、コネクタ、リード付きICなど。
2. 表面実装(Surface Mount Technology: SMT)
表面実装は、電子部品(SMD: Surface Mount Device)をプリント基板の表面に直接はんだ付けする方法です。
部品自体にリード線がなく、基板表面の「ランド(はんだ付けパッド)」と呼ばれる部分に接着されます。
- 特徴:
- 部品を基板の表裏両面に実装できるため、高密度実装が可能になり、製品の小型化に大きく貢献する。
- 自動実装機による高速・高精度な実装が可能で、大量生産に適している。
- リード線がないため、信号の伝送距離が短くなり、高周波特性に優れる。
- 部品の小型化が進み、非常に微細な部品も実装できる。
- 一般的な部品: チップ抵抗、チップコンデンサ、ICチップ(QFP、BGAなど)、LEDなど、現代の電子機器のほとんどの部品。
現代の電子機器では、小型化・高機能化の要求から、表面実装が主流となっています。
しかし、特定の用途や部品の特性に応じて、挿入実装も引き続き利用されています。
基板実装の流れ:具体的な工程を解説
ここでは、主に現代の主流である「表面実装」を例に、具体的な基板実装の工程を解説します。
1. はんだペースト印刷(スクリーン印刷)
まず、プリント基板の部品を実装する箇所(ランド)に、「はんだペースト」と呼ばれるクリーム状のはんだを塗布します。
これは、基板の上に「メタルマスク」と呼ばれる金属製の薄いシートを重ね、その上からスキージ(へら)でペーストを印刷する工程です。
メタルマスクには部品のランドと同じ形状の穴が開いており、その穴を通して正確な位置にはんだペーストが塗布されます。
2. 部品実装(マウンター)
はんだペーストが塗布された基板に、自動実装機(マウンター)と呼ばれる機械で電子部品を配置していきます。
マウンターは、大量の部品を供給するフィーダーから部品を吸着し、カメラで基板と部品の位置を正確に認識しながら、高速で基板上の所定の位置に部品を置いていきます。
このとき、はんだペーストの粘着力によって部品が仮固定されます。
3. リフロー炉によるはんだ付け
部品が配置された基板は、次に「リフロー炉」と呼ばれるトンネル型の加熱装置に送られます。
リフロー炉の中は複数のゾーンに分かれており、予熱ゾーン、メイン加熱ゾーン、冷却ゾーンを通ることで、はんだペーストが溶けて部品と基板を電気的に接合し、その後冷却されて固まります。
- 予熱ゾーン: 基板と部品をゆっくりと均一に加熱し、温度ストレスを軽減するとともに、はんだペースト中の溶剤を揮発させます。
- メイン加熱ゾーン: 設定されたピーク温度に達し、はんだペーストが完全に溶けて液状になります。このとき、はんだが部品の電極と基板のランドに濡れ広がり、確実な接合を形成します。
- 冷却ゾーン: はんだが固まるように、基板をゆっくりと冷却します。急激な冷却ははんだ接合部にストレスを与えたり、部品にダメージを与えたりする可能性があるため、適切な冷却速度が重要です。
4. 外観検査
リフロー炉を通過した基板は、はんだ付けが正しく行われたか、部品が所定の位置に正しく実装されているかなどを検査します。
目視検査のほか、自動光学検査機(AOI: Automated Optical Inspection)と呼ばれる機械を用いて、はんだの状態、部品の向き、欠品、異物混入などを高速かつ高精度にチェックします。
5. 挿入部品のはんだ付け(フロー半田や手作業)
もし基板に挿入実装が必要な部品がある場合、この工程で実装されます。
- フローはんだ(ソルダリング): 基板の裏面全体を溶けたはんだ槽に接触させることで、挿入部品のリード線が一括ではんだ付けされます。主にリード部品が多く、挿入部品専用の工程として用いられます。
- 手はんだ付け: 大型の部品や特定のコネクタ、少量生産の場合など、フローはんだが適用できない部品は、熟練作業員による手作業ではんだ付けが行われます。
6. 最終検査・電気検査
実装が完了した基板は、最後に最終的な品質検査が行われます。電気検査では、テスターを用いて回路が正常に動作するか、ショートや断線がないかなどを確認します。また、必要に応じて機能検査(ICT: In-Circuit TestやFCT: Functional Test)を行い、基板が設計通りの機能を発揮するかを検証します。
これらの厳しい検査をクリアして初めて、基板は電子機器の心臓部として出荷される準備が整います。
まとめ
この記事では、基板実装の基本的な定義から、その目的、主要な2つの方法(挿入実装と表面実装)、そして具体的な製造プロセスまでを詳しく解説しました。
- 基板実装は、電子部品をプリント基板に配置し、電気的に接続する一連の作業です。
- 挿入実装は部品のリード線を穴に通す方法、表面実装は部品を基板表面に直接はんだ付けする方法です。現代では表面実装が主流です。
- 基板実装は、はんだペースト印刷、部品実装(マウンター)、リフロー炉によるはんだ付け、外観検査、挿入部品のはんだ付け、最終検査といった段階を経て行われます。
私たちの身の回りにある高性能な電子機器は、この基板実装という高度な技術と、それを支える人々の緻密な作業によって支えられています。
この記事を通じて、基板実装の世界に少しでも興味を持っていただけたなら幸いです。
基板実装は、単なる部品の取り付け作業ではなく、電子機器の性能と信頼性を決定づける重要な工程であることを理解していただけたことと思います。


