【2026年問題】リードタイム半年は当たり前?設計者が今すぐ知っておくべき「実装しやすい設計」の鉄則

ハードウェア開発の現場において、かつてないほどの激動が続いています。

2020年代前半の半導体不足を乗り越えたのも束の間、2026年を迎えた現在、私たちは新たな供給網の課題、いわゆる「2026年問題」に直面しています。

電子機器の設計者にとって、最も頭を悩ませるのは「設計した部品が手に入らない」、あるいは「リードタイム(発注から納品までの期間)が半年を超える」という事態です。

せっかく優れた回路を設計しても、部品1つ欠けるだけで製品は完成しません。

また、製造工程(実装)でエラーが頻発すれば、納期はさらに遅延し、コストは膨れ上がります。

本記事では、この困難な時代を勝ち抜くために、上流工程である設計者が今すぐ実践すべき「実装しやすい設計」の鉄則を詳しく解説します。

この記事を読むことで、部品調達のリスクを最小限に抑え、製造現場でのトラブルを防ぎ、市場投入までのスピードを劇的に改善する手法を習得できます。


目次

2026年問題の正体と設計変更が不可避な背景

まずは、現在私たちが直面している状況を整理しましょう。

2026年問題とは、特定の旧世代プロセス(レガシープロセス)で製造される半導体の供給不足と、地政学的リスクによるサプライチェーンの断絶、そして急速なEV(電気自動車)やAIサーバー需要による電子部品の偏りを指します。

リードタイム半年が当たり前になった理由

かつては数週間から1ヶ月程度で調達できていた汎用的なマイコンやパワー半導体が、現在では26週間(半年)から52週間(1年)以上のリードタイムを提示されることが珍しくありません。

これは、半導体メーカーが最新の微細化プロセス(3nmや5nmなど)への投資を優先し、家電や産業機器で多用される古い製造ラインの更新が後回しにされているためです。

また、特定の地域に依存した製造体制が、自然災害や国際情勢の変化によって脆くも崩れ去るリスクが表面化しました。

これにより、設計者は「一度設計したら終わり」ではなく、「供給状況に応じて柔軟に部品を置き換えられる設計」を最初から求められるようになったのです。

なぜ「実装しやすさ」が重要なのか

部品が入手困難になると、代替品への切り替えが頻繁に発生します。

しかし、代替品は必ずしも元の部品と全く同じ形状や特性を持っているわけではありません。

実装のしやすさ、つまりDFM(Design for Manufacturability:製造性を考慮した設計)を疎かにすると、以下のような問題が発生します。

  1. 基板の改修コスト増:ピン配置が少し違うだけで、基板(PCB)の再設計が必要になる。
  2. 実装不良の発生:急遽採用した代替部品が既存のパッド形状に合わず、はんだ付け不良(ブリッジや未接合)を引き起こす。
  3. 生産ラインの停止:マウンター(部品装着機)での吸着ミスが多発し、工場の稼働率が下がる。

これらのリスクを回避するためには、設計の初期段階から「作りやすさ」と「部品の互換性」を組み込んでおく必要があります。


具体的な仕組み:実装しやすい設計を支える技術的根拠

実装しやすい設計を実現するためには、物理的な基板構造と、部品の配置理論を深く理解する必要があります。

ここでは、図解を言葉で表現するように詳細に解説します。

マルチフットプリント(共用パッド)の構築

実装しやすい設計の核心は、1つの場所に異なるサイズの部品を載せられるようにする「マルチフットプリント」の採用です。

例えば、チップ抵抗やチップコンデンサにおいて、1608サイズ(1.6mm x 0.8mm)を標準としている場合でも、2012サイズ(2.0mm x 1.2mm)も載せられるような拡張パッドを設計します。

これにより、1608サイズが欠品しても、在庫がある2012サイズで急場をしのぐことができます。

ランド形状とソルダーレジストの最適化

はんだ付けの品質を左右するのは、ランド(部品の足を載せる銅箔部分)の設計です。

  1. サーマルリリーフ(十字配線):大きなベタGND(グランド)に直接部品を接続すると、熱が逃げすぎてはんだが溶けにくくなります。これを防ぐために、細い線で接続するサーマルリリーフを設けます。
  2. ソルダーレジスト開口:ランドの周囲に塗布する絶縁剤(レジスト)の隙間を適切に管理します。レジストがランドに被りすぎると接合面積が減り、逆に離れすぎると隣の配線とはんだブリッジ(短絡)を起こしやすくなります。

部品配置の「方向性」と「クリアランス」

自動実装機は高速でヘッドが動きます。部品の向きがバラバラだと、装着時のロスが増えるだけでなく、はんだ付けの「熱ムラ」の原因になります。

  1. 部品方向の統一:抵抗やコンデンサの向きを基板内で統一することで、リフロー炉(はんだを溶かす加熱炉)の中を流れる際の受熱条件が一定になります。
  2. 背の高い部品の影:背の高いコネクタや電解コンデンサのすぐ隣に小さなチップ部品を配置すると、熱風が遮られたり、実装機のヘッドが干渉したりします。これを避けるための「高さ制限エリア」の設定が不可欠です。

作業の具体的な流れ:リスク耐性の高い設計5ステップ

2026年の市場環境に適応した設計プロセスを紹介します。

従来の手法に「調達性確認」を組み込むのがポイントです。

ステップ1:BOM(部品構成表)のリスク格付け

設計を開始する前に、使用予定の主要部品を以下の3段階で格付けします。

  • ランクA(低リスク):複数メーカーが製造しており、互換品が豊富(汎用受動部品など)。
  • ランクB(中リスク):特定の数社しか製造していないが、ピン互換の代替品が存在する(一般的なLDO、オペアンプなど)。
  • ランクC(高リスク):特定のメーカー独自の仕様で、代替が効かない(特定のSoC、独自通信モジュールなど)。

ランクCの部品については、開発の最優先事項として先行手配を行うか、あるいはランクB以下に落とせないか検討します。

ステップ2:ピン互換を意識した回路設計

主要なICを選択する際、同じパッケージ(例:LQFP-64)でピン配置が共通している他社製品をあらかじめリストアップします。

回路図上では、どちらのICが載っても動作するように、周辺回路の定数を変更できるようにしておきます(例:抵抗値を変更するための予備パッドを配置しておく)。

ステップ3:余裕を持たせた基板レイアウト

高密度設計は小型化に貢献しますが、2026年においては「あえて隙間を作る」設計が推奨されます。

  • 配線密度の緩和:最小線幅や間隔を製造限界ギリギリにせず、余裕を持たせることで、基板製造の歩留まり(良品率)を向上させます。
  • テストポイントの充実:基板が完成した後に不具合を解析できるよう、各信号線にテスト用のパッドを配置します。

ステップ4:試作段階でのEMS(製造受託)との連携

設計図面が完成する前に、製造を依頼する工場(EMS)とデータを共有します。

  • マウンターの制約確認:工場の設備によって、扱える最小部品サイズや最大基板サイズが異なります。
  • メタルマスク(はんだ印刷用版)の相談:はんだの厚みや形状を調整することで、実装エラーを未然に防ぐ「版設計」のアドバイスをもらいます。

ステップ5:仮想的な「欠品シミュレーション」

BOMの中で、最も入手困難になりそうな部品が「明日から1年入ってこない」と仮定して、その場合の回避策を検討します。

  • 回路のバイパス:特定の機能を使わないことで、その部品なしでも基本動作ができるか。
  • サブ基板化:入手困難な部品とその周辺回路だけを小さな「子基板」にして、メイン基板とは別にすることで、部品が入り次第後付けできるようにします。

最新の技術トレンドや将来性

2026年以降、設計と製造の境界線はさらに曖昧になり、デジタル技術がその溝を埋めていきます。

AIによるサプライチェーン予測の統合

CAD(設計ソフト)に、リアルタイムの市場在庫データやリードタイム予測が統合されつつあります。

設計者が部品を選んだ瞬間に「その部品は3ヶ月後に在庫がなくなる可能性が高いです」と警告が出る仕組みです。

これにより、設計の最終段階で部品を変更するという手戻りが激減します。

3Dプリンティングとモジュール化

試作段階でのケース(筐体)製作に3Dプリンターを用いるのは当たり前になりましたが、現在は「回路そのものを3Dプリント」する技術や、機能ごとにモジュール化された「チップレット」技術の応用が進んでいます。

これにより、特定のICに依存せず、機能を柔軟に組み合わせる設計が一般的になっていくでしょう。

サステナビリティとリサイクル設計

2026年は、環境規制がいっそう厳しくなっています。実装しやすい設計は、同時に「解体しやすい設計」でもあります。

製品寿命が終わった後に、貴重な半導体チップを傷つけずに回収できるような設計手法が、企業の競争力を左右する時代になりつつあります。


よくある質問(FAQ)

Q1. 複数の代替品を想定すると、基板サイズが大きくなってしまいませんか?

A1. 確かに若干の面積増は避けられませんが、2026年現在のコスト構造では「基板面積の微増」よりも「部品不足による数ヶ月の生産停止」の方が遥かに大きな損失となります。

戦略的な余裕を持つことが、結果的にトータルコストを下げます。

Q2. マルチフットプリントにすると、はんだ付けの信頼性に影響はありませんか?

A2. 適切なランド設計(IPC規格などの国際基準に準拠しつつ、メーカー推奨を組み合わせる)を行えば、信頼性への影響は最小限に抑えられます。

むしろ、無理な小型化でランドを削る方が、長期的な剥離リスクを高める原因になります。

Q3. リードタイムが短い中国メーカーの部品を採用しても大丈夫でしょうか?

A3. 品質のバラツキやデータシートの正確性を確認する必要があります。

まずは「非重要箇所(LEDの駆動やプルアップ抵抗など)」から採用を始め、信頼性を評価してから主要回路へ展開するのが定石です。

また、ピン互換品が存在するパッケージを選ぶことで、いつでもグローバルメーカー品に戻せるようにしておくのが賢明です。


まとめ

2026年問題という高い壁を乗り越えるために、設計者に求められる役割は「図面を書くこと」から「製品のライフサイクルをコントロールすること」へと進化しました。

今回解説した、マルチフットプリントの採用、BOMのリスク管理、そして製造現場との密接な連携は、もはや「あれば望ましいスキル」ではなく、プロの設計者としての「必須要件」です。

リードタイム半年という厳しい現実を悲観するのではなく、それを前提とした「しなやかで強い設計(レジリエント・デザイン)」を実践してください。

まずは、現在進行中のプロジェクトのBOMを見直し、ランクC(高リスク)の部品がどれだけ含まれているかを確認することから始めてみてはいかがでしょうか。

その一歩が、製品の未来を守ることにつながります。

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