

1. エグゼクティブサマリー
2025年から2026年にかけての世界電子部品市場は、生成AIの社会実装、電気自動車(EV)へのシフト、そして地政学的な分断という三大潮流の中で、かつてない構造的変革の只中にある。村田製作所、TDK、京セラ、太陽誘電、アルプスアルパインといった日本の主要電子部品メーカーは、長年にわたり積層セラミックコンデンサ(MLCC)、インダクタ、センサ、高周波部品といった受動部品および機構部品の領域で世界的なドミナンスを維持してきた。
しかし、その市場支配力は今、新たな競争の局面を迎えている。
本レポートでは、これら日本メーカーが戦略的ターゲットと定める「自動車(モビリティ)」、「スマートフォン(通信)」、「産業機器(インフラ)」の3大セクターにおけるサプライチェーンの深層構造を解明する。
特に、トヨタ自動車やデンソーといった伝統的な「系列」構造を持つ企業と、テスラやBYDといった破壊的な調達モデルを持つ新興EVメーカー、そしてAppleに代表されるハイエンド民生機器メーカーの調達動向を対比させることで、サプライチェーンの変容を浮き彫りにする。
分析の結果、以下の構造的変化が明らかになった。
第一に、自動車産業における「聖域」の崩壊である。
トヨタ・デンソーのサプライチェーンにおいて、従来は日本メーカーの独壇場であった高信頼性部品領域に、韓国Samsung Electro-Mechanics(SEMCO)や台湾Yageo Corporationが食い込みを見せている。
これは、SEMCO等の技術力がTier 1の要求水準に達したことと、OEM側のBCP(事業継続計画)に基づくマルチソース化戦略が合致した結果である。
第二に、サプライチェーン・マネジメント(SCM)における商社の役割の高度化と選別である。
豊田通商(ネクスティエレクトロニクス)やマクニカといったメガディストリビュータは、単なる物流機能を超え、技術サポートや在庫のリスクバッファとしての機能を強化している。
一方で、メーカー直販と商社経由の境界線は、顧客の購買力と技術難易度によって再定義されつつある。
第三に、中国市場における「デカップリング」の進行である。
BYDのような垂直統合型メーカーは、自社グループ内または中国ローカルサプライヤーからの調達比率を極限まで高めており、日本メーカーにとっての「アクセシブルな市場(TAM)」が実質的に縮小している懸念がある。
本稿では、徹底的なティアダウン(分解)データの分析、企業の財務・中期戦略の精査、および競合他社の動向分析を通じて、2030年に向けた日本電子部品産業の勝算とリスクを詳述する。
2. マクロ環境分析と日本メーカーの中期戦略
2.1 電子部品市場のグローバルトレンド (2024-2030)
電子部品市場は、数量ベースの拡大から質的な転換へと移行している。
世界の受動部品および相互接続部品市場は数千億ドル規模に達し、2025年以降も年平均成長率(CAGR)6.5%前後の堅調な推移が予測されている。
この成長を牽引するのは、従来のコンシューマーエレクトロニクスではなく、以下の3つのメガトレンドである。
- xEV(電動車)化の加速と「走るデータセンター」化: 電気自動車(BEV)は、内燃機関車と比較してMLCCの搭載数が約3倍に増加する。具体的には、パワートレイン、オンボードチャージャー(OBC)、バッテリーマネジメントシステム(BMS)向けに、高電圧・高温対応のハイエンド部品が大量に消費される。さらに、自動運転レベルの向上に伴い、LiDARや高精細カメラモジュール、ミリ波レーダーの搭載が必須となり、これらを支えるノイズ対策部品や電源回路部品の需要が爆発的に増加している。
- 通信インフラの高度化 (5G/6G/衛星通信):スマートフォンの5G化が一巡しつつある中、基地局やデータセンター、さらには非地上系ネットワーク(NTN)向けの需要が拡大している。ここでは、高周波特性に優れたフィルタ(SAW/BAW)、パワーアンプ、およびそれらをパッケージングする高度な実装技術が求められる。
- AIサーバーと電源効率: 生成AIの学習・推論を支えるGPUサーバーは、莫大な電力を消費する。電源ユニット(PSU)の効率化と小型化は急務であり、低損失なパワーインダクタや大容量コンデンサ、SiC/GaNパワー半導体の需要を喚起している。
2.2 日本メーカー各社の「バックキャスティング」戦略
これらの市場環境に対し、日本の主要メーカーは10年後のありたい姿から逆算する「バックキャスティング」手法を用いて中期経営計画を策定し、事業ポートフォリオの大胆な転換を図っている。
2.2.1 TDK: 「フェライトツリー」の進化とEX/DX
TDKは、創業以来のコア技術である磁性材料(フェライト)を核とした「フェライトツリー」の進化を掲げている。
同社は2025年中期経営計画において、エネルギー・トランスフォーメーション(EX)とデジタル・トランスフォーメーション(DX)を成長の両輪と位置づけている。
- 戦略的焦点: スマートフォン向けバッテリー(ATL)で培った技術を、中型・大型のエネルギー貯蔵システム(ESS)や電動二輪車向けに展開。また、TDK-Lambdaを通じた産業用電源や、InvenSense買収によるMEMSセンサ事業の強化も進めている。
- 財務目標: ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト)のスプレッド拡大を重視し、低収益事業の整理と高付加価値製品へのリソース集中を徹底している。
2.2.2 村田製作所: ポートフォリオ管理と「標準品」からの脱却
MLCCで世界シェア首位(約40%)を誇る村田製作所は、通信・モビリティ・環境・ウェルネスの3層構造ポートフォリオへの移行を進めている。
- レガシー製品のEOL戦略: 2024年から2025年にかけて、GRMシリーズなどの大型・低容量領域(コモディティ)における生産中止(EOL)や価格改定を積極的に進めている。これは、中国・台湾メーカーとの価格競争が激化するレッドオーシャンから撤退し、車載向け高信頼性品や超小型大容量品といった「他社が追随できない」領域に生産能力を振り向けるための戦略的決断である。
- 技術革新: 「材料×プロセス×設計」の垂直統合モデルを堅持し、全固体電池やメトロサーク(樹脂多層基板)といった次世代デバイスの実用化を急ぐ。
2.2.3 京セラ: AVX統合によるグローバルシナジー
京セラは、米国子会社AVXを完全子会社化し、「エレクトロニックコンポーネント事業」として一体運営を開始した。
- 統合効果: AVXが持つ産業・航空宇宙・車載市場への強力な販路と、京セラの微細加工・セラミック技術を融合。特に、タンタルコンデンサやコネクタ分野でのラインナップ拡充が、欧米Tier 1へのアクセスを容易にしている。
- 新規提携: 2025年には日本航空電子工業(JAE)との資本業務提携を発表。コネクタ事業における相互補完と開発リソースの共有により、高速伝送・大電流対応コネクタでのシェア拡大を狙う。
2.2.4 太陽誘電・アルプスアルパインの動向
- 太陽誘電: スマートフォン依存度が高い収益構造からの脱却を目指し、車載・産業機器比率を50%超へ引き上げる目標を掲げる。MLCCの大型化・高電圧化に注力し、材料技術を活かしたインダクタ(MCOIL)の展開も強化している。
- アルプスアルパイン: 旧アルプス電気とアルパインの統合効果を具現化すべく、「感動・安全・環境」をテーマに、HMI(ヒューマンマシンインターフェース)デバイスと車載インフォテインメントの融合を進める。加賀電子などのパートナーとの連携強化もその一環である。
3. ターゲット企業別サプライチェーン構造の深層分析
日本の電子部品メーカーが対峙する顧客企業(ターゲット)は、その出自や戦略によって全く異なる調達哲学を持っている。
ここでは、自動車産業における「既存勢力」と「破壊的勢力」、そして通信産業の巨人のサプライチェーンを解剖する。
3.1 自動車セクター: 聖域の崩壊と再構築
3.1.1 トヨタ自動車・デンソー: 鉄壁の「J-Supply Chain」とその綻び
トヨタグループは、世界で最も強固かつ効率的なサプライチェーンを構築していることで知られる。
その中心には、Tier 1サプライヤーであるデンソーやアイシンが存在し、さらにその下位に電子部品メーカーが連なるピラミッド構造がある。
- 調達構造と商社の役割: トヨタグループの電子部品調達において、豊田通商およびその子会社であるネクスティエレクトロニクスが果たす役割は決定的である。ネクスティは、村田製作所、TDK、太陽誘電といった主要メーカーのトップディストリビュータとして機能し、以下の付加価値を提供している。
- VMI (Vendor Managed Inventory): トヨタの看板方式(Just-In-Time)に対応するため、部品メーカーに代わって在庫を保有し、必要なタイミングで工場へ納入する。
- 品質ゲートキーパー: 不良品発生時の一次対応やトレーサビリティ管理を担う。
- 情報ハブ: トヨタの生産計画(内示)を部品メーカーへ早期に伝達し、需給調整を行う。
- 構造変化の兆し: 従来、トヨタ・デンソーのサプライチェーンにおける受動部品は、品質絶対主義の観点から日本メーカー(村田、TDK、太陽誘電)がほぼ独占していた。しかし、近年のEVシフトと半導体不足の教訓から、BCP(事業継続計画)を目的とした「マルチソース化」が進んでいる。 特筆すべきは、Samsung Electro-Mechanics (SEMCO) の台頭である。SEMCOは、デンソーから「品質優秀賞」や「サステナビリティ賞」を受賞し、トヨタ自動車からもサプライヤーとしての認定を受けている。これは、SEMCOの車載用MLCC(高電圧・高温対応品)が、日本メーカーと同等の信頼性を獲得し、かつコスト競争力において優位にあると判断されたことを意味する。かつての「日本メーカー聖域」は、徐々に開放されつつある。
3.1.2 テスラ (Tesla): 中央集権型アーキテクチャと直接調達
テスラは、自動車業界の慣習を無視し、シリコンバレー流のサプライチェーンを構築している。
- Model 3 Highland ティアダウン分析: テスラの電子プラットフォームは、従来の分散型ECUから、少数の強力な統合ECU(Zone Controller)による中央集権型アーキテクチャへと進化している。
- インバータ: STMicroelectronics製のSiCパワーデバイスを採用。その周辺回路には、TDKや村田製作所の高信頼性フィルムコンデンサやMLCCが使用されている。
- BMS (Battery Management System): 電池セルごとの緻密な制御を行うため、アナログ・デバイセズ(ADI)等の高性能AFE(Analog Front End)とともに、多数の温度センサ(TDK/Epcos製等)が搭載されている。
- 調達の特徴:テスラは、特定の商社に依存せず、主要部品メーカーと直接交渉・直接契約を行う傾向が強い。アロー・エレクトロニクスやアヴネットといったグローバル商社を物流パートナーとして利用しつつも、仕様決定や価格交渉はテスラのエンジニアと購買部門が直接主導する。これにより、設計変更(Engineering Change Order)のスピードを極限まで高めている。
3.1.3 BYD (Build Your Dreams): 垂直統合の脅威
中国BYDの躍進は、日本メーカーにとって「市場機会」であると同時に、既存のビジネスモデルを破壊する「脅威」でもある。
- BYD Seal ティアダウン分析: 日経BPやUBSによる分解調査の結果、BYD Sealにおける部品の内製化率は約75%に達していることが判明した。
- 日本メーカーのシェア: 村田製作所やTDKなどの日本勢の部品も確認されているが、その比率はテスラ車と比較して低い。特に、インフォテインメントやボディ制御系などの非安全系回路では、Fenghua Advanced Technology(風華高科)やYageoなどの、コストパフォーマンスに優れた中国・台湾メーカー製品への置き換えが進んでいる。
- コスト構造: BYDの製造コストは、同クラスのテスラModel 3よりも約15%低いとされる。このコスト競争力の源泉は、バッテリーから半導体、受動部品に至るまでの徹底した内製化と、現地サプライチェーンの活用にある。日本メーカーがBYDに食い込むためには、汎用品での価格競争ではなく、彼らが内製できない「ブラックボックス技術(例:高精度ジャイロセンサ、特定周波数のSAWフィルタ)」での差別化が不可欠となる。
3.2 スマートフォンセクター: ハイエンドの牙城
3.2.1 Apple (iPhone 16): 技術と供給能力の極限
iPhoneは依然として、電子部品メーカーにとって最大の収益源であり、技術のショーケースである。
- iPhone 16 Pro Max ティアダウン分析: 最新のiPhone 16シリーズにおいても、日本メーカーの存在感は圧倒的である。
- MLCC: 村田製作所と太陽誘電が、超小型(0402サイズ以下)かつ大容量のハイエンドMLCCを供給。一台あたり1,000個以上が搭載されている。
- RFフロントエンド: 通信モジュールにおいて、村田製作所のSAWフィルタやデュプレクサ、Skyworks(村田等のフィルタをモジュール化)が採用されている。
- カメラ周り: センサーシフト式手振れ補正やアクチュエータにおいて、アルプスアルパインやミネベアミツミの精密機構部品が独占的な地位にある。
- 受動部品の競合: YageoやSEMCOも供給リストに入っているが、ディスプレイ周りや電源周りの一部に留まり、RFやプロセッサ周りの最重要部品は日本勢が死守している。
- サプライチェーン管理:Appleは、部品メーカーと直接開発を行い、FoxconnやPegatronといったEMSに対して「Buy and Sell(Appleが部品を買い上げてEMSに支給)」または「Directed Buy(Appleが価格とサプライヤーを指定してEMSに買わせる)」方式を採用している。これにより、商社の中抜きを防ぎ、徹底したコスト管理と在庫管理を実現している。
3.2.2 Sony (Xperia) & グローバルOEM
- SonyのXperia 1 Vなどのティアダウンでは、自社グループ(ソニーセミコンダクタ)のイメージセンサに加え、村田製作所のRFモジュールやQualcommのチップセットとの緊密な連携が見られる。
- Oppo, Vivo, Xiaomiといった中国スマホメーカー向けでは、ハイエンド機には日本部品、ミドル・ローエンド機にはSamsung/Yageo/中国部品という明確な使い分け(ティアリング)が存在する。
4. 競合メーカーの徹底分析: シェア、戦略、そして脅威
日本メーカーを追撃する競合他社は、M&Aや設備投資を通じてその実力を着実に向上させている。
4.1 Samsung Electro-Mechanics (SEMCO): 唯一無二のフルラインナップ・チャレンジャー
- 市場ポジション: MLCC市場において、村田製作所に次ぐ世界シェア2位(約24%)を保持する。Samsungグループ内での半導体・ディスプレイ・バッテリーとの垂直統合シナジーが最大の武器である。
- 自動車向け戦略: SEMCOは近年、IT・モバイル依存からの脱却を掲げ、車載MLCC事業へ巨額の投資を行っている。
- 技術: 高電圧(630V〜1000V対応)および高温(150℃対応)の車載グレードMLCCを開発し、ラインナップを拡充。これにより、EVのパワートレインやOBCといった、従来はTDKや村田の独占領域であった市場への参入を果たした。
- 実績: 前述の通り、デンソーやボッシュからのアワード受賞は、その品質が欧米日のTier 1に認められた証左である。
- 生産体制: フィリピンや中国天津の新工場稼働により、生産能力を増強。地政学リスクを考慮しつつ、コスト競争力のある拠点からの供給体制を整えている。
4.2 Yageo Corporation (国巨): M&Aによる「受動部品の百貨店」化
台湾Yageoは、積極的なM&A戦略により、業界の勢力図を塗り替えている。
- M&Aの軌跡とポートフォリオ:
- 2018年: 米国Pulse Electronics(アンテナ、パワー磁気部品)を買収。
- 2020年: 米国KEMET(タンタルコンデンサ、高信頼性MLCC)を買収。
- これにより、Yageoはチップ抵抗器で世界1位、タンタルコンデンサで1位、MLCCで3位という強力なポートフォリオを完成させた。
- 戦略的意味: KEMETの買収は、Yageoにとって「日本市場へのパスポート」となった。旧NECトーキンを源流に持つKEMETは、日本の自動車・産業機器メーカーとの太いパイプを持っており、Yageoはこの販路を活用して自社のコモディティ製品(抵抗器など)をクロスセルする戦略を展開している。
- 価格戦略: Yageoは市場シェアの高さを背景に、需給逼迫時の価格決定権(プライシング・パワー)を行使する傾向がある。2025年年初の原材料費高騰に際しても、他社に先駆けて値上げを発表し、利益率を維持している。
4.3 中国系メーカーの台頭 (Fenghua, Three-Circle)
- 現状: Guangdong Fenghua Advanced Technology(風華高科)やChaozhou Three-Circle(三環集団)などの中国メーカーは、政府の「中国製造2025」政策の支援を受け、内製化率向上を目指す中国OEM(Huawei, BYD, ZTE)向けにシェアを急拡大している。
- 技術レベル: まだハイエンド領域では日本勢に及ばないものの、汎用品においては十分な品質と圧倒的なコスト競争力を持つ。日本メーカーがEOL(生産中止)したレガシー製品の受け皿としても機能しており、ローエンド市場での足場を固めている。
5. 日本におけるサプライチェーンと代理店ネットワークの詳細
日本市場における電子部品の流通は、メーカー直販と商社経由が複雑に入り組んだ構造を持っている。
特に、商社の再編と機能高度化が進行している。
5.1 主要代理店(商社)のマッピングと機能
日本電子部品メーカーの製品を取り扱う主要商社とその役割を以下に整理する(表形式)。
表1: 主要日本電子部品メーカーと国内・海外代理店のマトリクス
| メーカー | 国内中核代理店 | グローバル/Web系代理店 | 商流の特徴・備考 |
| 村田製作所 | 豊田通商(ネクスティ), 菱洋エレクトロ(リョーサン), 丸文 | DigiKey, Mouser, Avnet, TTI, Arrow | 地域・顧客ごとに商流を厳密に管理。トヨタ系はネクスティ一択。一般市場はリョーサン等がカバー。 |
| TDK | 豊田通商, マクニカ, 加賀電子, 菱洋エレクトロ | Future, Avnet, Arrow, TTI | 産業機器・車載に強い商社を重用。センサ製品はマクニカ等の技術商社がサポート。 |
| 京セラ (AVX) | 豊田通商, 菱洋エレクトロ, チップワンストップ | TTI, Avnet, Arrow, Mouser | AVX統合により海外販路(TTI等)との連携が強化された。 |
| アルプスアルパイン | 加賀電子, カナデン, 豊田通商 | Avnet, Arrow | 加賀電子との関係が深く、旧アルパイン子会社の買収等で連携強化。 |
| 太陽誘電 | 豊田通商, 菱洋エレクトロ, 加賀電子 | Avnet, TTI, DigiKey | トヨタグループ向けは豊田通商がメインチャネル。 |
| ソニーセミコン | マクニカ, レスターHD | Framos (欧米) | イメージセンサの技術サポートはマクニカとレスターが独占的に展開。 |
5.1.1 豊田通商グループ (ネクスティエレクトロニクス)
世界最大級のエレクトロニクス商社であり、トヨタグループのサプライチェーンの要。
- 強み: 自動車業界特有の品質基準と納期管理(JIT)に精通。車載ソフトウェア開発やコネクティッドサービスへの投資も加速している。
- 戦略: 単なる部品供給にとどまらず、物流・倉庫機能(VMI)を提供し、サプライヤーとOEMの間の緩衝材となることで、サプライチェーン全体の効率化を図っている。
5.1.2 マクニカ (Macnica)
技術商社の筆頭格であり、半導体(NVIDIA等)と受動部品・センサを組み合わせたソリューション提案に強みを持つ。
- 役割: TDKやソニーのセンサ製品、京セラのデバイスなどを、AIや自動運転といった高度なアプリケーションに組み込むための技術サポート(FAE: Field Application Engineer)を提供する。
- グローバル展開: 欧州のATD Electroniqueなどを買収し、グローバルでのサポート体制を強化している。
5.1.3 加賀電子
独立系商社として、EMS(電子機器受託製造)事業を核としたビジネスモデルを展開。
- 特徴: 部品を販売するだけでなく、顧客の製品設計から製造までを一括して請け負うことができる。アルプスアルパインや太陽誘電の製品を自社EMS工場で実装し、モジュールとして納入する付加価値ビジネスに注力している。
5.2 商流の変化: 「中抜き」と「機能特化」
- 直販の拡大: AppleやTeslaのような巨大顧客に対しては、メーカーが直接営業を行い、商社を通さない、あるいは商社を物流機能(ロジスティクス・プロバイダー)としてのみ利用するケースが増えている。
- Web商社の台頭: DigiKeyやMouserといったカタログ/Web商社が、設計開発段階(小ロット)でのシェアを拡大している。ここでの採用(デザインイン)が、量産時の部品選定に直結するため、メーカー各社もWeb商社への在庫供給を優先している。
6. インサイトと将来展望 (2025-2030)
以上の分析から導き出される、日本電子部品産業の将来シナリオと戦略的示唆を提示する。
6.1 「コモディティの罠」からの脱却とYageo効果
村田製作所がGRMシリーズなどの汎用MLCCの生産中止を進め、YageoやWalsinに市場を譲る動きは、短期的な売上減を招くが、長期的には利益率の向上に寄与する。
しかし、これはYageoなどの競合に「安定的かつ潤沢なキャッシュフロー」を与えることと同義である。
Yageoはこの資金を元手にさらなるM&Aや技術開発を行い、ハイエンド領域へ攻め込んでくる。
日本メーカーは、逃げ切るために、常に「2世代先」の技術(例:全固体電池、光電融合デバイス)を市場投入し続ける必要がある。
6.2 サプライチェーンの「二重化」コスト
米中対立の激化により、サプライチェーンは「中国市場向け(Local for Local)」と「西側市場向け(Friendly Shoring)」に分断されつつある。
- 日本メーカーは、中国工場での生産品を中国国内の顧客(Xiaomi, BYD等)に供給し、日米欧向けには日本・東南アジア(フィリピン、マレーシア等)の工場から供給するという二重のサプライチェーン構築を余儀なくされている。これによる固定費の増加を、いかに高付加価値製品の利益で吸収するかが経営課題となる。
6.3 自動車産業における「下克上」
Samsung (SEMCO) のトヨタ・デンソーへの食い込みは一過性のものではない。
今後、EVの普及に伴い、自動車部品の規格が「自動車専用スペック」から「民生品ベースの強化スペック」へとシフトする可能性がある。
テスラがその先鞭をつけており、もしトヨタなどの既存OEMがコストダウンのためにこの流れに追随すれば、オーバースペックな品質を誇る日本メーカーよりも、コストと性能のバランスに優れた韓国・台湾勢がシェアを急拡大するシナリオも十分に考えられる。
6.4 結論
日本電子部品メーカーは、依然として世界最強のデバイスサプライヤーである。
しかし、その地位は「系列」や「過去の実績」によって守られたものではなくなりつつある。
今後の勝負は、単体の部品性能ではなく、「部品+モジュール+ソフトウェア」によるソリューション提案力(TDKのセンサーフュージョン等)、および地政学リスクやBCPに対応した強靭なグローバル供給能力にかかっている。
豊田通商やマクニカといった商社パートナーとの連携を深化させつつ、ターゲット企業の設計中枢(R&D)に深く入り込む「インサイド・セールス」の重要性が、かつてないほど高まっている。
7. 補遺: データ・リファレンス
表2: 主要ターゲット企業別 MLCC・受動部品 推定シェア (2025年時点)
| ターゲット | 日本勢 (村田/TDK/太陽/京セラ) | SEMCO (韓国) | Yageo (台湾) | その他 (中国・欧米) | 傾向分析 |
| Toyota / Denso | 65% – 75% | 10% – 15% | 5% – 10% | 5% (Vishay等) | 日本勢圧倒的だが、SEMCOがシェア拡大中。 |
| Tesla | 40% – 50% | 20% – 25% | 15% – 20% | 10% (STMicro等) | マルチソース化が徹底されており、競争激化。 |
| BYD | 15% – 20% | 10% – 15% | 15% – 20% | 45% – 50% | 中国ローカルメーカーが主力。日本勢は特定部品のみ。 |
| Apple | 70% – 80% | 10% – 15% | 5% – 10% | 5% (US系) | 最も日本メーカーシェアが高い領域。 |
※ などの各種ティアダウンレポートおよび市場シェアデータを基に推計。
表3: 主要メーカーの生産拠点戦略 (BCP対応)
| メーカー | 主力生産拠点 (日本) | 海外主力拠点 (アジア) | 戦略的意図 |
| 村田製作所 | 福井, 出雲, 滋賀 | フィリピン, 中国(無錫), タイ | MLCCの最大拠点は福井とフィリピン。中国リスク分散のため東南アジア増強。 |
| TDK | 秋田 (受動部品) | 中国 (ATL電池), マレーシア | 電池は中国集中だが、受動部品は分散。 |
| SEMCO | 韓国 (釜山) | フィリピン, 中国(天津) | 車載用MLCCの主力工場を天津に新設し、中国EV市場を捕捉。 |
| Yageo | 台湾 (高雄) | 中国 (蘇州), メキシコ (KEMET) | KEMET買収によりメキシコ工場を獲得し、北米供給能力を強化。 |






