宇樹科技「Unitree G1」人型ロボット分解・原価・技術・事業性分析レポート

Unitree G1相当の人型ロボットは日本でつくれるか|国内サプライチェーン105社・主要工場リスト【2026年版/Excel付】

目次
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はじめに




指定された知乎の記事は、2026年3月30日に中郵証券が公表した全59ページの調査資料『宇树G1人形机器人拆解报告』をもとに、宇樹科技(Unitree Robotics)の人型ロボット「G1」を分解し、部品構成、推定BOM原価、サプライチェーン、粗利率、技術的な強みと弱みを解説した内容です。

記事の中心的な主張は、次の一文に集約できます。

Unitree G1の競争力は、高価で特殊な部品を使っていることではなく、比較的成熟した部品を低コストで統合し、高度な運動制御アルゴリズムによって高い動作性能を引き出している点にある。

中郵証券の推定では、G1基礎版のBOM原価は約4万1,574元、加工費を含む営業原価は約4万4,600元です。

税込販売価格8万5,000元を税抜きに換算した約7万5,200元に対し、推定粗利率は約40.7%とされています。

一方で、G1は工場で長時間働く産業用ロボットとして設計された製品ではありません。

連続稼働時間、腕の可搬重量、放熱能力、精密作業能力などには明確な制約があります。

G1は、商業イベント、教育、研究開発、AI学習用データ収集、ロボット開発プラットフォームといった市場に合わせて、性能、価格、重量を最適化した製品と見るべきです。(知乎)


Unitree G1相当の人型ロボットは日本でつくれるか|国内サプライチェーン105社・主要工場リスト【2026年版/Excel付】

1.レポートの結論

本記事および元資料を詳細に検討すると、G1について次の7点が重要です。

第一に、原価の約66%を関節モジュールが占めていることです。

人型ロボットの価値とコストの中心は、AI用コンピューターやカメラよりも、身体を動かす関節にあります。

第二に、G1基礎版は低価格で普及台数を増やす入口商品です。

粗利率は約40.7%と推定されていますが、高機能なEDU版では約63.5~66.7%まで上昇します。

Unitreeは、ハードウェア構成とオプションを細かく分けることで、研究機関や企業から高い付加価値を回収する商品設計を採っています。

第三に、G1の高い運動能力は、部品単体では説明できません

低慣性モーター、遊星減速機、二重エンコーダー、関節制御基板、配線、機体構造を統合し、そこに歩行・姿勢安定化・転倒回避などの運動制御を組み合わせた結果です。

第四に、G1は軽量化を非常に重視しています

重量35kgのうち関節だけで約17.25kgを占めており、これ以上の大幅な軽量化は容易ではありません。

第五に、熱設計とバッテリーは1~2時間の利用を前提とした設計です。8時間連続で部品を運ぶような工場用途とは設計思想が異なります。

第六に、単腕の最大負荷が約2kgであるため、本格的な重量物搬送には向きません

EDU版でも約3kgであり、工業用途では作業対象が大きく制限されます。

第七に、元資料の「ハードウェアに参入障壁はなく、ソフトウェアで勝負が決まる」という表現は、方向性としては理解できるものの、やや単純化されています。

実際には、量産品質、関節寿命、組立精度、衝撃耐久性、熱設計、配線信頼性、調達力、サービス体制まで含めたシステム統合力が重要です。(DFC_FW PDF)


2.Unitree G1の基本仕様と市場での位置づけ

Unitree公式情報によると、G1の直立時寸法は高さ1,320mm、幅450mm、厚さ200mm、折り畳み時は690×450×300mmです。

バッテリー込みの重量は約35kgで、基礎版は23自由度、EDU版は構成によって23~43自由度となります。

基礎版は片脚6自由度、腰1自由度、片腕5自由度です。

標準状態では人間のような可動指を持たず、簡易的な手部が装着されています。

EDU版では腰、手首、腕、指などを追加し、より高度な研究や物体操作に対応できます。

基礎版の膝関節最大トルクは90N・m、EDU版は120N・mです。

腕の最大負荷は基礎版が約2kg、EDU版が約3kgとされています。

ただし、腕を伸ばした状態と身体に近づけた状態では許容負荷が大きく異なるため、この数値を常に持ち上げられる重量と解釈するべきではありません。

公式サイトの現在のグローバル価格表示は、G1基礎版が税・送料別で1万3,500ドルからです。

中国国内向けの元資料では、基礎版について9万9,000元とする構成表と、税込8万5,000元を使った粗利計算が併存しています。

販売時期、割引、販売チャネル、税の扱いなどが異なる可能性があるため、価格を比較するときは注意が必要です。(宇树科技—全球四足机器人行业开创者)

G1は人間と同じ大きさの産業人型ロボットではありません。

高さ1.32mと比較的小さく、重心を低く設定できるため、転倒時の衝撃や姿勢制御の難度を抑えられます。

小型化はモーター負荷、関節トルク、バッテリー消費、構造材重量、輸送性のすべてに有利です。

その代わり、作業範囲、棚への到達高さ、歩幅、可搬重量は制限されます。

つまりG1は、人間の労働者をそのまま代替する製品というより、研究開発、遠隔操作、AI学習、教育、エンターテインメントなどに適した小型プラットフォームです。


3.人型ロボット市場の背景

中郵証券の資料は、IDCの市場分析をもとに、2025年の世界人型ロボット出荷台数が約1万8,000台、前年比約508%増、販売額が約4億4,000万ドルに達したとしています。

ただし、出荷先の中心は、現時点では工場の完全自動化ではありません。

文教・研究、商業イベント、案内、AIデータ収集、展示、試験導入などが大きな割合を占めています。

この点は非常に重要です。

動画では、人型ロボットが箱を運び、部品を組み立て、工具を扱っているように見えても、それが直ちに採算の取れる量産設備として稼働していることを意味しません。

現在の市場は、完成された労働代替装置の市場というより、次の市場が混在しています。

  • ロボット研究用プラットフォーム
  • AI・強化学習用実機
  • 遠隔操作によるデータ収集
  • 大学や教育機関向け教材
  • 展示・イベント・商演
  • 工場での限定的な実証
  • 開発者向け二次開発機

IDC関連報道では、2025年の市場は中国メーカーが量的に主導し、主要メーカーは数千台規模に到達したとされています。

一方、欧米企業の多くは依然として顧客工場での試験運用や少量導入の段階です。(财联社)

この状況下でUnitreeが持つ最大の強みは、比較的安価な実機を市場へ投入し、多くの開発者に触ってもらえることです。

実機の稼働台数が増えるほど、故障データ、歩行データ、転倒データ、操作データ、環境認識データが蓄積されます。研究者や企業がG1向けに開発したソフトウェアも増えます。

このため、低価格は単に販売数量を増やすだけでなく、ソフトウェアとデータのエコシステムを拡大する戦略でもあります。


4.G1基礎版のBOM原価分析




中郵証券が推定したG1基礎版のBOM原価は、合計4万1,574元です。内訳を整理すると次のようになります。

原価区分推定原価BOM構成比
大型関節9個13,500元約32.5%
小型関節14個14,000元約33.7%
バッテリー2,000元約4.8%
電源制御1,180元約2.8%
配線・端子・コンデンサー270元約0.6%
深度カメラ・LiDAR5,709元約13.7%
主制御基板関係1,415元約3.4%
構造部品・外装・その他3,500元約8.4%
合計41,574元100%

この表から分かる最も重要な点は、関節だけで2万7,500元、全体の約66.2%を占めることです。

センサーやAI用プロセッサーより、アクチュエーターのほうがはるかに大きな原価を構成しています。

4-1.大型関節と小型関節

資料では小型関節を1個約1,000元、大型関節を1個約1,500元と推定しています。

小型関節の推定内訳は、遊星減速機300元、モーター200元、エンコーダー200元、構造部品・補助材料150元、ドライバー基板150元です。

大型関節は、遊星減速機400元、モーター300元、エンコーダー300元、構造部品200元、ドライバー基板300元と推定されています。

一般的な産業用サーボモーターや高精度減速機の価格感から見ると、かなり低い水準です。

これは、超高精度位置決めを最優先した工作機械用アクチュエーターではなく、軽量、高速、耐衝撃性、量産性を優先した関節であることを示しています。

4-2.センサー原価

感知系では、Intel RealSense D435i深度カメラが1,869元、大疆系のLivox MID-360 3D LiDARが3,840元と推定されています。

両方を合わせると5,709元であり、BOM全体の約13.7%です。ロボットの目に相当する部分は重要ですが、原価全体では関節の5分の1程度です。

なお、これらは中郵証券による推定値であり、Unitreeの実際の大量調達価格ではありません。

市販価格を参考にしている場合、量産調達価格より高く見積もられている可能性があります。

反対に、取付部品、ケーブル、調整、検査などが十分含まれていなければ、実際の完成原価より低い可能性もあります。

4-3.AIコンピューターは意外に安い

基礎版の主制御SoCであるRockchip RK3588Sは、資料上380元と推定されています。

8GBメモリー75元、64GBストレージ60元を加えても、主要半導体部分は比較的安価です。

「AIロボットだから高価なAIチップが原価の中心」と考えがちですが、G1基礎版ではそうなっていません。

身体を動かすための機械部品、特に関節が原価の中心です。

これは人型ロボット産業を見るうえで重要です。

AI半導体だけでなく、モーター、磁石、減速機、軸受、エンコーダー、ドライバー基板、放熱部品、精密加工部品の需要が大きくなります。


5.粗利率の検証




中郵証券はG1基礎版について、次のように計算しています。

税込価格:8万5,000元
税抜価格:約7万5,200元
BOM原価:約4万1,600元
加工関連費:約3,000元
推定営業原価:約4万4,600元
推定粗利率:約40.7%

計算式は次のとおりです。

粗利率=(税抜売上高-営業原価)÷税抜売上高

(7万5,200元-4万4,600元)÷7万5,200元
=約40.7%

この計算自体は整合しています。

ただし、資料本文上部には「基礎版の営業原価は3万7,300元」と書かれている箇所があります。

一方、同じページの表では4万4,600元となっており、BOM4万1,600元に加工費3,000元を加えれば4万4,600元になるため、3万7,300元という記載は誤記と考えるのが妥当です。

粗利率40.7%をそのまま利益率と考えてはいけない

この40.7%には、次の費用が十分に反映されていない可能性があります。

  • 研究開発費
  • ソフトウェア開発費
  • 歩行・転倒・耐久試験費
  • 金型費の償却
  • 生産設備費
  • 不良品と歩留まり損失
  • 品質保証費
  • 保証期間中の修理費
  • 輸送費と梱包費
  • 販売代理店のマージン
  • 営業・マーケティング費
  • カスタマーサポート費
  • 在庫評価損
  • 管理部門費用

したがって、粗利率40.7%は、企業全体の営業利益率や純利益率ではありません。

特に人型ロボットは転倒、衝突、モーター過熱、減速機摩耗、ケーブル損傷などが発生しやすく、保証費やサービス費が大きくなりやすい製品です。


6.EDU版で利益率が高くなる仕組み

G1の事業性を考えるうえで、基礎版より重要なのがEDU版です。

中郵証券の推定は次のようになっています。

バージョン税込価格推定営業原価推定粗利率
G1基礎版8.5万元4.46万元40.7%
G1 EDU標準版16.9万元5.46万元63.5%
G1 EDU上位版20.9万元6.16万元66.7%
G1 EDU旗艦版C28.9万元9.00万元64.8%

EDU標準版は、基礎版に対して、開発用高演算モジュール、膝関節の120N・m化、腕の負荷3kg化、二次開発機能などを追加しています。

資料では、これらの追加原価を1万元以下と推定しています。

それに対して販売価格は8.4万元上がります。

そのため、推定粗利率が40.7%から63.5%へ上昇します。(DFC_FW PDF)

これはパソコンや工作機械、検査装置などでも見られる典型的な商品戦略です。

標準機を低い価格で市場に投入し、次の機能で利益を確保します。

  • 高性能プロセッサー
  • 二次開発権限
  • SDK・API
  • 高トルク関節
  • 自由度の追加
  • 触覚センサー
  • 高機能ハンド
  • 保証期間延長
  • 技術サポート

つまり、G1基礎版は販売数量と認知度を獲得する役割を持ち、EDU版は研究機関や企業から付加価値を回収する役割を持っています。

灵巧手が価格を押し上げる

元資料によると、UnitreeのDex3-1三指ハンドは、触覚なしで片手3.6万元、触覚ありで片手4.1万元とされています。

因時机器人の五指ハンドは、能動自由度6、関節数12、重量540gで、小売価格は片手約2.2万元です。

強脳科技のRevo 2は、触覚なしが片手約2万元、触覚ありが約3.5万元とされています。

左右2個を取り付ければ、ハンドだけで本体価格に近い金額になる場合があります。(DFC_FW PDF)

これは、指を人間のように動かすことが非常に難しいためです。

指には、モーター、減速機、腱やリンク、位置センサー、力覚センサー、触覚センサー、制御基板、配線が必要です。しかも、手は軽くなければ腕の有効負荷を圧迫します。

高自由度、軽量、高出力、高耐久、低価格を同時に満たすことは容易ではありません。


7.関節システムの詳細

G1の関節は、モーター、二段遊星減速機、エンコーダー、ドライバー基板を一体化した構成です。

中郵証券が分解した小型関節は、直径約60mm、高さ約70mm、重量525gでした。

関節内部をケーブルが通る中空構造を採用し、外部配線を減らしています。

7-1.低慣性高速インナーローターモーター

G1は低慣性の高速インナーローター型永久磁石同期モーターを採用しています。

低慣性とは、回転体が軽く、回転速度を素早く変えやすいことを意味します。

人型ロボットでは、足が地面に着いた瞬間、身体が傾いた瞬間、ジャンプする瞬間などに、関節トルクを高速で変える必要があります。

重いローターは一定速度で回す用途には向きますが、高速な加減速には不利です。

そのためG1は、低慣性モーターを高速回転させ、減速機で回転速度を下げながらトルクを増幅する構成を採っています。

資料では、モーター本体の最高回転数を3,000~5,000rpm級と推定しています。

膝関節の最大トルクは90N・mです。(DFC_FW PDF)

7-2.二段遊星減速機




分解された小型関節の減速機は二段遊星方式で、推定総減速比は約20.58です。

一段目は太陽歯車18歯、遊星歯車14歯、内歯車60歯、二段目は太陽歯車16歯、遊星歯車20歯、内歯車60歯とされています。(DFC_FW PDF)

人型ロボット用減速機では、ハーモニックドライブやサイクロイド減速機も候補になります。

しかしG1が遊星減速機を選んだ理由として、次が考えられます。

  • 原価を下げやすい
  • 量産しやすい
  • 衝撃に比較的強い
  • 高速回転に対応しやすい
  • 小型化しやすい
  • 部品調達先を増やしやすい

一方で、バックラッシ、位置決め精度、低速時の滑らかさ、騒音などでは、高精度減速機に劣る可能性があります。

G1は工作機械のような超精密位置決めよりも、走る、立つ、跳ぶ、転倒から復帰するといった高動作性能を重視しています。

その商品目的に合った選択です。

7-3.二重エンコーダー

G1の関節は二重エンコーダーを使用しています。Unitree公式仕様でも、G1とG1 EDUの両方にデュアルエンコーダーが記載されています。(宇树科技—全球四足机器人行业开创者)

二重エンコーダーによって、制御系はモーターや出力部の状態を高精度に把握できます。

人型ロボットでは、わずかな関節角度の誤差が足先位置の大きな誤差となり、転倒につながります。

また、減速機の弾性変形やバックラッシがあるため、モーター側の回転角度だけでは実際の関節位置を正確に判断できない場合があります。

そのため、位置、速度、トルクを精密に推定するフィードバック系が運動性能に直結します。

7-4.FOC制御




関節ドライバーは、永久磁石同期モーター向けのFOC、すなわちベクトル制御を使用していると分析されています。

FOCはモーター電流を磁束成分とトルク成分に分けて制御する方式で、滑らかで応答性の高いトルク制御を可能にします。

人型ロボットでは、単に指定角度へ動かすだけでは不十分です。

足が地面に触れたときの衝撃を吸収し、身体の傾きに応じてトルクを微調整しなければなりません。

したがって、関節の価値は最大トルクだけでなく、次の総合性能で評価する必要があります。

  • トルク応答速度
  • 制御周期
  • 摩擦補償
  • トルクリップル
  • バックラッシ
  • エンコーダー精度
  • 温度による特性変化
  • 衝撃耐久性
  • 連続定格トルク
  • 故障診断能力

8.軸受と機械構造

分解時に供給元の表示が確認された部品の一つが、洛陽佰納の薄型クロスローラー軸受です。

資料では、CRBT355A 10E4J3という仕様が確認され、内径35mm、断面厚さ5mmの超薄型品とされています。(DFC_FW PDF)

クロスローラー軸受は、円筒ころを交互に直交させて配置することで、ラジアル荷重、アキシアル荷重、モーメント荷重を一つの軸受で受けられます。

人型ロボットの関節では、単純な回転力だけでなく、身体重量、着地衝撃、横方向の力、ねじれが同時に加わります。薄い構造のまま複合荷重を受けられるクロスローラー軸受は、人型ロボットの関節に適しています。

ただし、軸受単体が高性能であっても、ハウジング加工精度、組付け予圧、軸の同軸度、潤滑、シール、温度変形が悪ければ、十分な寿命は得られません。

この点からも、「市販軸受を使っているからハードウェアに障壁がない」とは言い切れません。

部品を適切に組み、量産時に同じ性能を再現する工程能力が必要です。


9.電源・バッテリーシステム

G1は13直列のリチウムイオンバッテリーを使用します。

定格電圧46.8V、容量9,000mAh、エネルギー量約0.42kWh、重量約2.5kgで、交換式です。充電器は54V・5Aです。(DFC_FW PDF)

46.8V×9Ahを計算すると421.2Whとなり、資料の0.42kWhと整合します。

公称エネルギー421Whで稼働時間が1~2時間だと仮定すると、単純平均消費電力は約210~420Wになります。

ただし、実際にはバッテリーを完全放電させることはなく、立っている状態と激しい動作では消費電力が大きく異なります。

瞬間的なピーク電力は平均値を大きく上回ります。

9-1.なぜ48V前後なのか

ロボットの電力を同じとした場合、電圧を高くすれば電流を小さくできます。

電流が小さくなると、配線やコネクターの発熱、電圧降下を減らせます。

しかし電圧を上げすぎると、絶縁、安全対策、電源回路、部品コストが増えます。

13直列の約48V系は、モーター駆動性能と安全性、部品調達性のバランスを取った電圧帯と考えられます。

9-2.回生と電圧上昇への対策

G1の手足末端には、分散配置されたコンデンサーによる電圧緩衝回路があると分析されています。

ロボットが着地したり、モーターが急減速したりすると、モーターは発電機として働き、電源側にエネルギーが戻ります。これにより瞬間的な電圧上昇が発生する場合があります。

末端にコンデンサーを置くことで、電圧の急変を吸収し、遠く離れた関節への電力供給を安定させられます。(DFC_FW PDF)

このような地味な電源設計は、動画では見えません。しかし、ジャンプや急停止を安定して行うためには非常に重要です。


10.制御用コンピューター




G1基礎版の主制御にはRockchip RK3588Sが搭載されていると分析されています。

RK3588系は、Cortex-A76を4コア、Cortex-A55を4コア搭載する8コアCPU、Arm Mali-G610系GPU、6TOPS級NPUを備えます。

資料で確認されたメモリーは8GB、ストレージは64GBです。(DFC_FW PDF)

基礎版に6TOPS級のSoCを使用する理由は、価格と消費電力を抑えながら、次の処理を行うためです。

  • 基本的な歩行制御
  • 姿勢推定
  • センサー処理
  • 通信
  • 画像処理
  • 自己診断
  • ユーザーインターフェース
  • 更新処理

EDU版のJetson Orin NX

EDU版では、NVIDIA Jetson Orin NXなどの高演算モジュールを追加できます。

元資料は100TOPSとしています。

NVIDIAの資料では、従来世代のJetson Orin NX 16GBは最大100TOPSのAI性能を持ち、消費電力を10~25Wの範囲で設定できるとされています。

なお、TOPSは演算精度、スパース演算かデンス演算か、電力モードによって意味が変わります。

「100TOPS」という数字だけで実際のロボット処理速度を判断することはできません。(NVIDIA Developer)

高演算モジュールを追加すると、次の処理が現実的になります。

  • 大規模な画像認識モデル
  • 複数カメラ処理
  • 物体認識
  • 音声認識
  • 視覚言語モデル
  • 模倣学習
  • 強化学習ポリシー
  • VLAモデル
  • 高度なSLAM
  • 開発者独自のAIモデル

ただし、AI演算性能を上げると、消費電力と発熱が増えます。

そのためEDU版では主制御部の放熱設計も強化されます。


11.感知システム

G1の頭部には、Livox MID-360 3D LiDARとRealSense D435i深度カメラが搭載されています。

さらに4マイクアレイと5Wスピーカーを備えます。(DFC_FW PDF)

11-1.Livox MID-360

MID-360は水平方向360度をカバーする小型3D LiDARです。

元資料では垂直方向最大59度の視野を持つとされています。

LiDARはレーザー光を照射し、反射して戻るまでの時間などから周囲の形状を測定します。

主な用途は次のとおりです。

  • 周辺地図の作成
  • 障害物検出
  • 自己位置推定
  • 通行可能領域の判断
  • 人や物体との距離測定
  • 三次元環境の再構築

360度LiDARがあることで、カメラが向いていない横や後方も把握しやすくなります。(Livox)

11-2.RealSense D435i




D435iはステレオ深度カメラにIMUを組み合わせた製品です。

視野角は水平方向約87度、垂直方向約58度で、グローバルシャッターを採用しています。

IMUがあるため、カメラ自体が動くロボットでも、画像と身体運動を組み合わせた処理を行いやすくなります。(RealSense)

LiDARは周囲の形状と距離を把握するのに優れ、深度カメラは近距離の形状、色、物体の外観を取得するのに向いています。

両者を組み合わせることで、次のような相互補完が可能です。

  • LiDARで広範囲の地図を作る
  • カメラで物体を識別する
  • 深度情報で近距離の手すりや段差を検出する
  • IMUでカメラの揺れを補正する
  • 複数センサーの結果を照合して誤認識を減らす

ただし、G1基礎版には手先専用カメラや指先触覚が標準装備されているわけではありません。

そのため、歩行や環境認識には対応できても、細かな部品を見ながら挿入する作業には追加センサーが必要です。


12.感知・判断・実行の三層構造

元資料はG1の制御を、感知層、判断層、実行層に分けて説明しています。

感知層

LiDARと深度カメラから、点群、深度画像、カラー画像、IMU情報などを取得します。

画像や点群は情報量が大きいため、低速なCANだけに依存せず、高速通信やUSBなどで主制御部へ送られます。

判断層

RK3588SまたはOrin NXが、姿勢推定、経路計画、障害物回避、歩容生成、AIモデルなどを処理します。

ここで「どこへ動くか」「どの足を出すか」「身体をどの角度に保つか」「障害物をどう避けるか」が決まります。

実行層

主制御部が目標関節角度や目標トルクを計算し、CAN経由で各関節へ送ります。

各関節のドライバー基板は、エンコーダー情報を使ってモーターを高速制御します。(DFC_FW PDF)

この構造では、上位コンピューターがモーターの細かな電流制御をすべて直接行うのではなく、各関節にあるローカル制御基板が高速ループを担当します。

上位制御と関節制御を分けることで、通信負荷を減らし、反応速度と安定性を高められます。


13.配線設計

G1の関節は中空構造になっており、電力線と信号線を関節の中心に通します。

外部にケーブルが露出していると、次の問題が起こります。

  • 関節に挟まる
  • 転倒時に引っ掛かる
  • 可動によって繰り返し曲げられる
  • 被覆が摩耗する
  • 外観が複雑になる
  • 可動範囲が制限される

中空内配線は、これらを減らし、機体を小型化できます。(DFC_FW PDF)

関節間はCAN通信とXT30系電源コネクターを使い、手足の関節を連結しています。

標準化されたコネクターを採用することで、組立や交換が容易になります。

ただし、関節中心を配線が通る構造では、次の品質管理が重要です。

  • 最小曲げ半径
  • ねじれ
  • コネクター抜け
  • 摩耗
  • 振動
  • ノイズ
  • シールド
  • 接地
  • 水分や粉塵
  • 組立時の噛み込み

人型ロボットが工場で長時間稼働するようになると、モーターや減速機だけでなく、可動部のケーブル寿命が重要な故障要因になります。


14.熱管理の評価




元資料がG1の弱点として明確に指摘しているのが、熱管理です。

主制御基板には放熱板とファンがあり、腰付近の高負荷関節にも小型ファンがあります。

膝関節では銅製の均熱部品を使い、機体構造へ熱を逃がす受動放熱を採用しています。(DFC_FW PDF)

内部には温度監視があり、モーターや制御基板が安全温度を超えた場合、電流を制限するサーマルデレーティングが行われると分析されています。

これは故障防止には有効ですが、温度が上がったときに関節出力が低下することを意味します。

なぜ全面的にファンを付けないのか

ファンや大型ヒートシンクを増やせば放熱性能は上がります。

しかし、次の問題が発生します。

  • 重量が増える
  • 消費電力が増える
  • 騒音が増える
  • 粉塵を吸い込む
  • 故障部品が増える
  • 外装が大型化する
  • 価格が上がる

G1は1~2時間程度の高動作性能を低価格で提供する製品です。

したがって、8時間連続運転できる放熱能力より、軽量化と価格を優先したと考えられます。

工場用途で問題になる点

商演や研究では、1時間動作した後にバッテリーを交換し、機体を休ませる運用も可能です。

しかし工場では、休憩のたびに生産ラインが停止すれば採算が悪化します。

産業用途では、次が必要です。

  • 連続定格トルクの向上
  • モーター効率の向上
  • 強制空冷または液冷
  • 放熱経路の最適化
  • 高温環境への対応
  • バッテリー交換の自動化
  • 予防保全
  • 熱劣化の寿命予測

G1は、この水準を目標にした機種ではありません。


15.軽量化設計

G1は重量35kgであり、同クラスでは比較的軽い人型ロボットです。

分解された小型関節525gの内訳は、おおむね次のとおりです。

  • モーター:約137.2g
  • 減速機:約155.2g
  • 制御基板:約12.8g
  • 外装:約79.3g
  • 端板:約23.7g
  • 出力フランジ:約50.8g
  • 軸受・その他:約66g

全身には小型関節14個、大型関節9個があり、関節合計重量は約17.25kgです。

これは35kgの機体重量の約49%に相当します。

材料置換による軽量化




資料では、アルミ製外装と端板をマグネシウム合金へ置き換え、鋼製出力フランジをチタン合金へ置き換えた場合、小型関節1個あたり約48.7g軽量化できると試算しています。

しかし、これは関節重量の約9%にすぎません。

しかも、マグネシウムやチタンを採用すれば、材料費、加工費、表面処理費、品質管理費が上がります。

耐食性、疲労、ねじ部強度、異種金属接触なども検討しなければなりません。

つまり、G1はすでにコストを意識した範囲でかなり軽量化されており、材料を変えるだけで大幅に軽くすることは困難です。

構造部品の使い分け

胴体の非荷重外装にはABSやPA系のエンジニアリングプラスチックが多く使われています。

手足の主要骨格にはアルミ合金を使い、菱形の肉抜きやトポロジー最適化を行っています。

小脚部の一部には、着地衝撃や繰り返し荷重に耐えるため鋼材を残しています。(DFC_FW PDF)

すべてを軽い材料に置き換えるのではなく、荷重と衝撃が大きい場所だけ高強度材料を残す合理的な設計です。


16.単腕2kgという制約

G1基礎版は重量35kgですが、腕の最大負荷は約2kgです。EDU版でも約3kgです。

(宇树科技—全球四足机器人行业开创者)

2kgあれば、次のような作業は可能性があります。

  • 軽い箱の移動
  • ペットボトルの把持
  • 小型部品の受け渡し
  • スイッチ操作
  • ドアハンドル操作
  • 軽工具の保持
  • 検査カメラの保持
  • 簡単な仕分け

一方、次の用途は厳しくなります。

  • 重いコンテナの搬送
  • 大型部品の組付け
  • 高トルクのボルト締め
  • 強い押し付けを伴う研磨
  • 大型治具の着脱
  • 重量工具の長時間保持
  • 人間の介助や持ち上げ

さらに、高性能な五指ハンド自体が500g~1.2kg程度になることがあります。

ハンド重量が1kgであれば、最大負荷2kgの腕では、実際に運べる対象物の重量が大きく減ります。

腕を伸ばすほど肩関節にかかるモーメントも大きくなるため、2kgという値は条件付きの最大値として理解する必要があります。


17.回転関節と直線関節の議論

元資料は、産業用人型ロボットには回転関節だけでなく、ボールねじや遊星ローラーねじを利用した直線アクチュエーターが重要になると主張しています。

その理由として、直線アクチュエーターには次の長所があります。

  • 高い推力密度
  • 高剛性
  • 大きな軸方向荷重
  • 静止状態を保持しやすい
  • 工業用ねじ技術を活用できる
  • 精密な位置制御がしやすい

一方、回転関節は、小型、広い可動角、高速運動、自然な関節配置に向いています。

「直線関節が最適」と断定するのは早い




人間の膝や肘は回転関節ですが、筋肉は直線方向に収縮し、腱を通じて関節を回します。

人型ロボットでも、直線アクチュエーターをリンク機構と組み合わせれば、高い力を得られます。

ただし、直線方式にも弱点があります。

  • 機構部品数が増える
  • リンク設計が複雑になる
  • ストロークが必要になる
  • 動作範囲が制限される
  • ねじの摩耗や潤滑が必要
  • 衝撃時にねじやナットへ大きな荷重がかかる
  • 高速往復時の慣性が増える
  • バックドライブ性が低くなる場合がある

したがって、将来の人型ロボットがすべて直線アクチュエーターになるとは限りません。

現実的には、部位と用途によって使い分けられる可能性が高いと考えられます。

  • 高速運動を重視する肩や手首:回転関節
  • 大きな支持力を必要とする膝や股関節:直線または複合方式
  • 小型軽量が必要な指:腱駆動
  • 衝撃吸収が必要な足首:弾性要素を含むアクチュエーター

元資料の主張は、ボールねじ、遊星ローラーねじ、精密ねじ加工、軸受企業への投資観点を含んでいるため、技術論だけでなく証券分析上の視点も考慮して読む必要があります。


18.サプライチェーン分析

中郵証券の分解・公開情報整理によると、G1の主な構成は次のとおりです。

分野内容・供給元
モーターUnitree自社開発と説明
関節ドライバーUnitree自社設計と推定
運動制御Unitree自社開発
減速機関連美湖股份との供給関係が言及
クロスローラー軸受洛陽佰納
3D LiDARLivox MID-360
深度カメラRealSense D435i
基礎制御SoCRockchip RK3588S
メモリーBIWIN
ストレージFORESEE/Longsys系
高演算モジュールNVIDIA Jetson Orin NXなど
高機能ハンドUnitree、因時机器人、強脳科技、睿爾曼など

(DFC_FW PDF)

この構成から、Unitreeはすべてを内製しているわけではありません。

市販品や外部調達品を利用しながら、競争力に直結する部分を自社側に残しています。

特に重要なのは次の部分です。

  • 関節モーター設計
  • 関節ドライバー
  • 機体構造
  • システム統合
  • 運動制御
  • 転倒・復帰制御
  • 制御パラメーター
  • 機体モデル
  • 学習データ
  • ソフトウェア更新

これは自動車メーカーに似ています。自動車メーカーもタイヤ、半導体、センサー、軸受を外部調達しますが、完成車としての性能、品質、ブランド、制御、量産能力には大きな差があります。


19.「ハードウェアに障壁がない」は正しいか

元記事の印象的な結論は、「ハードウェアには高い壁がなく、ソフトウェアが勝敗を決める」というものです。

この主張は、半分は正しく、半分は修正が必要です。

正しい部分

G1に使われているLiDAR、深度カメラ、SoC、メモリー、ストレージなどは、市場で調達可能な製品です。

モーター、遊星減速機、軸受、PCB、バッテリーも、原理的には既存産業の技術を利用できます。

したがって、未知の物理原理や独占的な特殊材料だけがG1を成立させているわけではありません。

また、同じ部品を購入できても、Unitreeのように安定して走り、跳び、転倒から復帰する動作を直ちに再現できるわけではありません。

この差を生む大きな要素が運動制御ソフトウェアであることは妥当です。(DFC_FW PDF)

修正すべき部分




しかし、ハードウェアの障壁は部品単体だけではありません。

次の能力もハードウェア競争力です。

  • 小型関節の設計
  • モーター巻線と磁気回路
  • 減速機の歯形
  • 軸受予圧
  • 高精度組立
  • 熱変形管理
  • 中空配線
  • 衝撃耐久性
  • 転倒時の破損防止
  • 大量生産時のばらつき管理
  • 検査工程
  • 修理性
  • 原価低減
  • サプライヤー管理
  • 部品の長期供給
  • 製造歩留まり

同じ図面と部品表を持っていても、量産した100台が同じように動くとは限りません。

人型ロボットでは、左右の関節摩擦やトルク定数が少し違うだけでも歩行が不安定になる可能性があります。

ソフトウェアで補正できる範囲にも限界があります。

より正確には、Unitreeの競争力は次のように表現できます。

市販・量産可能な部品を活用しながら、関節、構造、電源、制御、運動アルゴリズムを高い水準で共同最適化し、それを低価格で量産する能力。

つまり、競争力はソフトウェア単独ではなく、ソフトウェア・ハードウェア協調設計と量産統合力にあります。


20.G1の運動制御が強い理由

人型ロボットが立ち続けるためには、常に身体の状態を推定し、数十ミリ秒以下の短い周期で修正しなければなりません。

必要な情報には次があります。

  • 胴体の傾き
  • 角速度
  • 足の接地状態
  • 関節角度
  • 関節速度
  • モータートルク
  • 重心位置
  • 地面反力
  • 移動速度
  • 周辺障害物
  • 目標軌道

そして制御系は、足をどこに着くか、腰をどちらへ動かすか、腕をどのように振るかを計算します。

G1が強いのは、動画として目立つバク転や格闘動作そのものだけではありません。次の蓄積が重要です。

  • 多様な姿勢での機体モデル
  • 関節摩擦の補正
  • モーター温度による出力変化の補正
  • 衝撃時の制御
  • 転倒判定
  • 起き上がり制御
  • 不整地歩行
  • 動作間の遷移
  • 安全制御
  • 実機学習データ

これらは完成品を分解しても入手できません。

競合企業が同じ部品を使って外観を再現しても、長期間蓄積された制御パラメーターと実機データを短期間で再現することは困難です。


21.G1の設計思想




中郵証券は、G1の設計目標を「1~2時間の範囲内で、爆発力のある高動作性能を安定して実現すること」と分析しています。

そのために採られた選択は次のとおりです。

  • 身長を1.32mに抑える
  • 重心を低くする
  • 機体重量を35kgに抑える
  • 腕の負荷を2kgに限定する
  • 高速低慣性モーターを使う
  • 低コストで耐衝撃性のある遊星減速機を使う
  • バッテリーを交換式にする
  • 全面冷却ではなく局所冷却にする
  • 標準機能を絞る
  • 高機能はEDU版とオプションで提供する

(DFC_FW PDF)

これは「すべての用途に対応する万能ロボット」を目指した設計ではありません。

むしろ、低価格で注目を集め、研究開発市場で使われ、動画映えする高動作性能を備え、必要に応じて高機能版へアップグレードできる商品です。

この割り切りがG1の強さです。


22.G1が向いている用途

G1は次の用途と相性が良いと考えられます。

教育・研究

価格が比較的低く、二次開発可能なEDU版があるため、大学、研究機関、企業研究所が人型ロボットの研究を始めやすくなります。

AIデータ収集




遠隔操作で人間の動作を収集し、模倣学習やVLAモデルの学習データに利用できます。

商業イベント

動きが目立ち、輸送可能で、複数台の同期動作にも適しています。

案内・展示

音声、スピーカー、カメラ、LiDARを備えるため、展示会、博物館、ショールームなどで活用できます。

軽作業の実証

軽い物の受け渡し、棚からの取り出し、ボタン操作、目視検査など、限定された軽作業に利用できます。

ロボット用ソフトウェア開発

開発者が歩行制御、画像認識、自然言語指示、遠隔操作などを試すプラットフォームとして有効です。


23.G1が向いていない用途

現状の仕様では、次の用途にそのまま投入することは困難です。

連続8時間以上の工場作業




バッテリーと熱管理が1~2時間を前提としているため、長時間連続作業には改善が必要です。

重量物搬送

片腕2kgでは、人間が行う多くの物流作業を代替できません。

高精度組立

小型コネクター挿入、精密ねじ締め、微細部品実装などには、手先カメラ、力覚、触覚、高剛性、高精度校正が必要です。

粉塵・水・油の多い環境

公式仕様では、産業用保護等級を前提とした情報が限定的です。工場によっては防塵、防水、耐油、耐薬品性が必要になります。

人との密接な協働

人型ロボットは大きな関節トルクを持ち、転倒リスクもあります。Unitree公式も安全距離を確保するよう注意を記載しています。(宇树科技—全球四足机器人行业开创者)

高い安全認証が必要な現場




人の近くで自律動作させるには、安全規格、リスクアセスメント、非常停止、速度制限、接触検知、冗長制御などが必要です。


24.Unitreeの事業モデル

資料によると、Unitreeの人型ロボット事業は2023年から2025年にかけて急成長し、毛利率も高い水準にあるとされています。

中郵証券が引用した数値では、人型ロボット関連売上高は2023年約0.03億元、2024年約1.07億元、2025年前3四半期約5.95億元です。

粗利率は2023年87.7%、2024年68.4%、2025年前3四半期62.9%とされています。

これらは同証券資料およびiFindなどを通じた数値であり、本レポートでは独立監査済み財務数値としてではなく、元資料の記載値として扱う必要があります。

粗利率が低下している理由として、次が考えられます。

  • 研究用途の高価格機から低価格量産機へ販売構成が変化
  • 販売台数拡大のため価格を引き下げた
  • 代理店やサービス費が増えた
  • 製品ラインアップが拡大した
  • 低価格の基礎版比率が上がった

ただし、粗利率が下がっても売上高と出荷台数が大幅に増えれば、事業全体の利益額、データ量、ブランド力、開発者数は増えます。

低価格機の投入は、短期的な1台当たり利益より、市場シェアとエコシステムを優先した戦略と考えられます。


25.日本の製造業への示唆




G1の分解結果は、日本の部品メーカー、装置メーカー、商社、SIerに重要な示唆を与えます。

25-1.高価な専用品だけが市場になるわけではない

G1は、すべての部品を最高級品で構成していません。

人型ロボット市場が拡大すると、必要になるのは最高性能品だけでなく、次の条件を満たす量産部品です。

  • 十分な性能
  • 小型軽量
  • 安定供給
  • 低価格
  • 短納期
  • 品質のばらつきが小さい
  • 組立しやすい
  • 自動検査しやすい

日本企業は高精度・高品質を強みにしていますが、人型ロボット市場では「必要十分な性能を低価格で大量供給する能力」がより重要になる可能性があります。

25-2.関節関連市場が大きい

BOMの約66%が関節であるため、次の企業には機会があります。

  • 小型モーター
  • 希土類磁石
  • 巻線設備
  • モータードライバー
  • パワー半導体
  • エンコーダー
  • 減速機
  • 精密歯車
  • クロスローラー軸受
  • ボールねじ
  • 遊星ローラーねじ
  • 力覚センサー
  • 放熱部品
  • 精密加工
  • グリース・潤滑材

25-3.基板実装にも機会がある




人型ロボットには、主制御基板だけでなく、各関節にモータードライバー基板が搭載されます。

23関節なら、主制御基板、電源基板、センサー基板、通信基板を含め、1台あたり多数のPCBが必要です。

関節基板には、次の特性が求められます。

  • 小型円形・異形基板
  • 高電流
  • 高放熱
  • 振動耐性
  • コネクター信頼性
  • モーター近傍のノイズ対策
  • 温度センサー
  • 高耐久はんだ接合
  • 樹脂コーティング
  • 部品トレーサビリティ
  • 機能検査

出荷台数が数万台、数十万台へ増えれば、関節用基板の実装需要は大きくなります。

25-4.消耗品・保守部品市場も生まれる

人型ロボットは完成品販売だけでなく、次の交換需要を生みます。

  • バッテリー
  • ケーブル
  • コネクター
  • 軸受
  • 減速機
  • 関節モジュール
  • 外装
  • 足裏
  • 冷却ファン
  • グリース
  • ハンド
  • 触覚センサー
  • カメラ保護部品

工場で普及するほど、保守部品、点検サービス、修理、再校正、予防保全の市場が大きくなります。


26.原価推定を見る際の注意点

中郵証券のBOM推定は非常に参考になりますが、4万1,574元という数字を絶対的な製造原価として扱うべきではありません。

主な不確定要素は次のとおりです。

部品調達価格

市場価格と大量購入価格には差があります。

Unitreeが年間数千台規模で購入していれば、LiDAR、カメラ、半導体、メモリーは小売価格より安くなる可能性があります。

自社製部品の原価

モーターや制御基板を自社開発していても、材料費だけでなく、設備償却、人件費、検査費、歩留まり、間接費があります。

加工費3,000元の妥当性

35kg、23関節の複雑な機械を組み立て、配線し、校正し、動作試験する費用として、3,000元が十分かは検証が必要です。

開発費と金型費

BOMには一般に、研究開発、ソフトウェア、金型、治具、試験設備の費用が直接含まれません。

保証費用




基礎版の保証期間は公式仕様で8か月、EDU版は18か月です。

転倒や高負荷動作を行う製品では、保証費用が無視できません。(宇树科技—全球四足机器人行业开创者)

販売価格の差

元資料では基礎版9.9万元の表と、8.5万元を使った粗利計算が混在しています。

現在のグローバル公式価格もドル表示であり、税や送料を含みません。

したがって、推定粗利率は価格条件によって変わります。


27.今後の技術進化

G1の分解結果から、人型ロボットが今後改善すべき主要テーマが見えてきます。

バッテリー




エネルギー密度向上、急速充電、自動交換、安全性、寿命予測が必要です。

熱管理

モーター効率、インバーター効率、放熱材料、ヒートパイプ、液冷、熱シミュレーションが重要になります。

関節




連続定格トルク、トルク密度、効率、低バックラッシ、耐衝撃、静音性、寿命が競争軸になります。

ハンド

軽量化、触覚、力覚、耐久性、低価格化が必要です。

センサー

足裏力覚、関節トルクセンサー、手先カメラ、触覚、安全用近接センサーが増えます。

AI

視覚言語行動モデル、模倣学習、強化学習、世界モデル、自己改善、クラウドとエッジの分担が進みます。

安全




人との接触検知、故障時の安全停止、冗長制御、転倒予測、サイバーセキュリティが不可欠になります。

量産

モジュール標準化、自動組立、自動校正、EOL検査、修理性、部品共通化が重要になります。


28.総合評価

Unitree G1は、工場労働者を直ちに置き換える完成された産業用人型ロボットではありません。

しかし、人型ロボット産業を実証段階から普及段階へ進めるうえで、非常に重要な製品です。

その理由は、次のとおりです。

第一に、価格が低いこと。
研究機関や開発企業が実機を購入しやすくなります。

第二に、機体が軽いこと。
運搬、保管、実験、イベント利用がしやすくなります。

第三に、高動作性能を備えていること。
運動制御技術を市場へ分かりやすく示せます。

第四に、開発版とオプションが豊富であること。
研究用途から高機能物体操作まで段階的に構成できます。

第五に、量産可能な部品を活用していること。
特殊部品への依存を下げ、原価と供給リスクを抑えられます。

一方、弱点も明確です。

  • 連続稼働は約1~2時間
  • 腕の負荷は基礎版約2kg
  • 高機能ハンドを付けると有効負荷が減る
  • 工場の重作業には不向き
  • 熱管理が限定的
  • これ以上の軽量化が難しい
  • 高精度作業には追加センサーが必要
  • 安全性と耐環境性の情報が限定的

したがって、G1を評価するときは、「人間の代わりに何でもできるか」ではなく、低価格な人型ロボット開発プラットフォームとして、どれだけ多くの企業・研究者・開発者を市場へ参加させられるかを見るべきです。

元記事の「真の壁はハードウェアの外にある」という結論は、Unitreeの運動制御技術を理解するうえでは有効です。

ただし、より正確な結論は次のようになります。

Unitreeの優位性は、特殊な単一部品ではなく、低コスト部品の選定、関節の一体設計、軽量構造、電源・配線・放熱、量産調達、運動制御アルゴリズムを一つの製品として成立させる総合統合力にある。

G1の分解で明らかになったのは、「人型ロボットは高価なAIチップを搭載すれば完成するわけではない」という事実です。

実際の価値は、23個以上の関節をミリ秒単位で連携させ、転倒しないように身体を制御し、限られたバッテリーと放熱能力の中で動かし続けることにあります。

そして人型ロボットが今後、教育・商演市場から工場・物流・サービス市場へ進むには、派手な動作性能に加えて、次の地味な性能がより重要になります。

  • 8時間以上の連続稼働
  • 故障しにくさ
  • 保守しやすさ
  • 作業精度
  • 安全性
  • 部品寿命
  • 稼働率
  • 1時間あたりの運用コスト
  • 投資回収期間

Unitree G1は、その最終形ではありません。

しかし、人型ロボットを「一部の研究所だけが保有する高価な試作機」から、「多くの企業や開発者が購入できる量産製品」へ変える転換点の一つであることは間違いありません。

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参考資料・出典

  1. 知乎「宇树G1人形机器人拆解报告」関連記事
  2. 中郵証券『宇树G1人形机器人拆解报告』PDF
  3. Unitree公式「Unitree G1」製品情報
  4. 財聯社「2025年人型ロボット市場・出荷動向」関連記事
  5. Livox公式「MID-360」製品仕様
  6. RealSense公式「Depth Camera D435i」製品情報
  7. NVIDIA Developer Blog「Jetson Orin NX 16GB」製品・性能情報

出典に関する注意事項

本レポートに記載したUnitree G1の部品構成、推定BOM原価、関節構造、推定粗利率、サプライチェーンおよび技術分析の多くは、中郵証券が公開した分解調査資料を基礎としています。

BOM原価、部品単価、加工費、粗利率などはUnitreeが公式に開示した確定値ではなく、中郵証券による推定値です。実際の原価は、調達数量、契約条件、製造歩留まり、研究開発費、保証費、物流費、販売手数料などによって変動する可能性があります。

製品寸法、重量、自由度、関節トルク、バッテリー、可搬重量、保証期間などの基本仕様については、Unitree公式製品ページを優先して確認しています。

LiDAR、深度カメラおよびAI演算モジュールの仕様については、それぞれのメーカーが公開する公式製品情報を参照しています。

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