

1. エグゼクティブサマリー
本報告書は、電子基板実装(SMT)および製造業の専門的視点に基づき、2024年から2025年にかけて急速な技術革新と市場投入が進む日本の主要電子部品メーカー(TDK、村田製作所、マクセル、太陽誘電、FDK、京セラ、日本ガイシ等)による全固体電池(Solid-State Battery: SSB)の開発状況、技術仕様、量産化ロードマップ、および電子機器の設計・製造プロセスへの具体的影響を網羅的に分析したものである。
世界のバッテリー市場が液系リチウムイオン電池(LiB)から次世代電池へとシフトする中、日本の電子部品メーカーは、長年蓄積してきた「セラミックス積層技術」や「微細加工技術」を武器に、特にIoT機器、ウェアラブルデバイス、および過酷環境下での産業機器向け「小型全固体電池」の分野で圧倒的な技術的優位性を確立しつつある。
本調査における主要な発見事項は以下の通りである。
- SMD化による実装プロセスの革命: TDKの「CeraCharge」やFDKの「SoLiCell」に代表される酸化物系全固体電池は、積層セラミックコンデンサ(MLCC)と同様の表面実装部品(SMD)として供給される。これにより、従来のリチウムイオン電池で必須であった手はんだ工程やコネクタ接続、ホルダー装着といった後工程が不要となり、リフローはんだ付けによる一括実装が可能となることで、製造コスト(Total Cost of Ownership)の大幅な削減と基板占有面積の劇的な縮小が実現されている。
- エネルギー密度の飛躍的向上: TDKは2024年、従来比100倍となるエネルギー密度1,000 Wh/Lを実現する新材料技術を発表した。これにより、全固体電池は単なるバックアップ電源の域を脱し、ワイヤレスイヤホンやスマートウォッチなどのメイン電源として、既存のコイン型電池(ボタン電池)を代替するポテンシャルを獲得した。
- 硫化物系の小型化・実装対応: 従来、高出力だが化学的安定性に課題があるとされた硫化物系固体電解質において、マクセルは独自のセラミックパッケージング技術により、250℃のリフロー耐熱性と長期信頼性を両立させた製品を量産化している。さらに2025年には容量を4倍に高めたコイン型モデル「PSB2032」を投入し、インフラ監視等の産業用途でのデファクトスタンダードを狙う。
- 戦略的アライアンスの加速: 村田製作所は、米QuantumScape社との協業を通じて、民生用で培ったセラミック積層技術をEV向け部材供給へと昇華させる戦略を展開している。これは、電子部品メーカーが完成品電池の供給にとどまらず、次世代電池エコシステムにおける基幹部材サプライヤーとしての地位を固めようとする動きである。
- 法規制への適合: 欧州電池規則(EU Battery Regulation)による電池交換性や環境配慮設計への要求は、長寿命かつ安全な全固体電池へのシフトを強力に後押ししている。特に、人体に装着するデバイスにおける「発火・爆発リスクゼロ」という特性は、代替不可能な価値として認識されている。
本報告書では、これら各社の技術詳細に加え、実装現場で求められる具体的な取り扱い要件、リフロープロファイルへの適合性、および2030年に向けた市場規模予測について詳述する。
2. 全固体電池市場の概況と電子部品業界の構造的転換
2.1 市場規模拡大の軌跡と2030年予測
全固体電池市場は、2020年代前半の研究開発・パイロット生産フェーズを経て、2025年を起点に本格的な商用化・普及拡大期(ランプアップフェーズ)に突入している。
各種市場調査データおよび各社の設備投資計画を総合すると、小型全固体電池市場はIoTエッジデバイスの爆発的な増加と連動し、2030年までに年平均成長率(CAGR)20%〜40%超の高成長を遂げると予測される。
特に注目すべきは、EV向け大型電池の市場形成に先行して、電子部品メーカーが主導する「マイクロ全固体電池(Micro Solid-State Battery)」セグメントが実需を牽引している点である。
このセグメントは、以下の用途で急速に採用が進んでいる。
- IoTセンサーノード: 工場設備やインフラ構造物の予知保全。
- ウェアラブル・ヘルスケア: 補聴器、スマートリング、生体モニタリングパッチ。
- アセットトラッキング: 物流における位置・状態監視タグ。
これらのデバイスでは、「数mAh〜数十mAhの容量」と「10年以上のメンテナンスフリー寿命」、そして「小型薄型形状」が要求され、従来の液系コイン電池やパウチ型電池では対応が困難な領域であった。
2.2 電子部品メーカーが全固体電池を主導する技術的必然性
なぜ、電池専業メーカーではなく、TDKや村田製作所、太陽誘電といった受動部品メーカーが小型全固体電池のリーダーとなっているのか。
その理由は、製造プロセスの類似性にある。
酸化物系全固体電池の製造プロセスは、正極・負極・固体電解質のペーストをシート状に成形し、数百層に積層して焼成(シンタリング)するというものであり、これはMLCC(積層セラミックコンデンサ)の製造工程そのものである。
- グリーンシート成形技術: ミクロン単位の均一な薄膜を形成する技術。
- 精密積層技術: 電極位置をナノメートルオーダーで制御し、数百層重ねる技術。
- 焼成制御技術: 異種材料の収縮率を合わせ、クラックや剥離を防いで一体焼結させる技術。
これらのコア技術を保有する日本の電子部品メーカーにとって、酸化物系全固体電池は「新しい電池」というよりも「蓄電機能を持った新しいセラミック部品」として位置づけられる。
これにより、既存のMLCC製造ラインやノウハウを転用・応用することで、高い歩留まりとコスト競争力を早期に実現できる構造的強みを持っている。
2.3 規制環境と環境対応(EU電池規則の影響)
欧州連合(EU)で施行された「EU電池規則」は、電子機器設計にパラダイムシフトを迫っている。
特に、ポータブル機器に内蔵される電池の「ユーザーによる交換可能性」や「長寿命化」、「リサイクル材の使用」が義務付けられつつある。
従来の使い捨てコイン電池(一次電池)は環境負荷の観点から規制圧力が強まっており、これを長寿命な二次電池(充電式)に置き換えるニーズが急増している。
全固体電池は、充放電サイクル寿命が数千回〜数万回と極めて長く、機器の製品寿命と同等以上の耐久性を持つため、「交換不要(Embed & Forget)」な電源としての地位を確立しつつある。
これは、機器設計において電池交換用の蓋やスペースを排除し、完全防水・防塵構造(IP68等)を容易にするメリットにもつながる。
3. 技術分類と製造プロセス比較
全固体電池は、使用される固体電解質の材料によって大きく「酸化物系」「硫化物系」「ポリマー系」、およびそれらのハイブリッドや半固体(Semi-Solid)に分類される。
日本の電子部品メーカー各社は、自社の得意技術に合わせて異なるアプローチを採用している。
3.1 酸化物系(Oxide-based)全固体電池
- 主要プレイヤー: TDK、村田製作所、太陽誘電、FDK
- 技術特性:
- セラミックス(酸化物)を電解質に使用。
- 非常に高い化学的安定性を持ち、大気中で安定して製造・取り扱いが可能。
- 高い機械的強度と耐熱性を有する。
- イオン伝導率は硫化物系に劣る傾向があったが、薄膜化・積層化により内部抵抗を低減している。
- 製造・実装:
- MLCCと同様の焼成プロセスで製造。
- 不燃性であり、リフローはんだ付け(260℃)に耐えうる。
- SMD部品としてテーピング供給が可能。
3.2 硫化物系(Sulfide-based)全固体電池
- 主要プレイヤー: マクセル(その他、自動車メーカー等)
- 技術特性:
- 硫化物を電解質に使用。
- リチウムイオン伝導率が極めて高く、高出力・大容量化に適している(液系電解質に匹敵または凌駕)。
- 粒子間の接触界面形成が比較的容易(加圧のみで成形可能)。
- 課題と解決:
- 水分と反応すると有毒な硫化水素ガスを発生するため、厳密な封止が必要。
- マクセルは、微細なセラミックパッケージング技術とガラス溶着技術により、完全密閉を実現し、リフロー対応と安全性を確保した。
3.3 半固体・その他(Semi-Solid / Crystal Oriented Ceramic)
- 主要プレイヤー: 京セラ(24M Technologies技術)、日本ガイシ(EnerCera)
- 技術特性:
- 京セラ(SemiSolid): 電解質に少量の液体を混ぜた粘土状(クレイ状)のスラリーを使用し、バインダー(結着剤)を排除することで活物質密度を高めるアプローチ。
- 日本ガイシ(EnerCera): 結晶配向セラミック板を電極に使用し、少量の液系電解液を含浸させた「半固体」構造。耐熱性とエネルギー密度を両立。
4. 主要メーカー別詳細分析
4.1 TDK株式会社:CeraChargeとエネルギー密度の革新
4.1.1 CeraCharge™ の製品概要と実績
TDKは2020年、世界初の充放電可能なオールセラミックSMD全固体電池「CeraCharge™」を製品化した。
- 形状とサイズ: EIA 1812サイズ(4.5 x 3.2 x 1.1 mm)。これはエレクトロニクス業界で標準的なチップサイズであり、既存のSMTマウンター(表面実装機)で容易にハンドリング可能である。
- 基本仕様:
- 定格電圧: 1.5V
- 公称容量: 100 µAh
- 充放電サイクル: 1,000回以上(条件による)
- 内部構造: 酸化物系固体電解質と電極を多層化し、銅集電体を使用。液漏れ、発火、爆発のリスクが物理的に排除されている。
- 実装性: 通常の電子部品と同様にリフローはんだ付けが可能であり、量産ラインでの生産性向上に寄与する。
4.1.2 2024年の技術的ブレークスルー:1,000 Wh/Lの新材料
2024年6月、TDKは次世代全固体電池向けの材料開発において画期的な成果を発表した。
独自開発の酸化物系固体電解質とリチウム合金負極を採用することで、従来のCeraCharge(約40 Wh/L程度と推定される)と比較して約100倍となる1,000 Wh/Lのエネルギー密度を達成した。
これは、従来の液系リチウムイオンコイン電池(約400 Wh/L)をも大幅に上回る性能であり、全固体電池が容量面でも既存技術を凌駕する可能性を示したものである。
- ターゲット市場: ワイヤレスイヤホン(TWS)、補聴器、スマートウォッチなどの小型ウェアラブル機器。これらの機器では、バッテリー交換の手間やスペースの制約が最大の課題であり、高エネルギー密度かつ安全な全固体電池への期待は極めて大きい。
- 量産ロードマップ: セル構造の最適化とパッケージ設計を進め、2025年以降の早期量産(サンプル出荷開始)を目指している。また、生産技術として、MLCCで培った積層技術を応用し、多層化によるさらなる容量拡大を図る。
4.1.3 アプリケーション事例
CeraChargeは、単独での使用だけでなく、エナジーハーベストシステムにおける蓄電デバイスとしての利用が進んでいる。
- 調理用温度計: 内部温度が高温になる環境下でも安全に動作し、かつ小型であるため、プローブ内部に実装可能。
- RTCバックアップ: マイコンの時計機能を維持するためのバックアップ電源として、スーパーキャパシタ(EDLC)と比較して自己放電が少なく、長時間のバックアップが可能。
4.2 マクセル株式会社:硫化物系の実装革命と高容量化
4.2.1 アナログコア技術による硫化物系の制御
マクセルは、創業以来の磁気テープや電池製造で培った「混合分散」「精密塗布」「高精度成形」といった「アナログコア技術」を核に、扱いが難しい硫化物系全固体電池の実用化で世界をリードしている。
硫化物系材料は水分に対して極めて敏感であり、製造には高度なドライルーム環境と封止技術が必要となるが、マクセルはこれを克服した。
4.2.2 セラミックパッケージ型全固体電池(PSB401010H等)
2023年6月より量産を開始したPSBシリーズは、硫化物系電池をセラミックパッケージに封止することで、以下の特性を実現した。
- 耐熱性: 250℃のリフローはんだ付けに対応。これにより、基板への表面実装が可能となり、リード線の接続やホルダーが不要となった。
- 環境耐性: 完全密閉構造により、外部からの水分侵入を遮断。
- サイズ: 10.5mm角などの小型サイズを展開。
4.2.3 【2025年最新動向】コイン型「PSB2032」の開発
2025年12月、マクセルは新たにコイン型全固体電池「PSB2032」の開発を発表した。
- サイズ: 直径20mm、高さ3.2mm(汎用的なCR2032電池と同等サイズ)。
- 容量: 35 mAh。これは同社のセラミックパッケージ型(PSB401010H、8mAh)の約4倍に達する。
- 意義: 35 mAhという容量は、IoTエッジデバイスのメイン電源として十分機能するレベルである。Bluetooth Low Energy (BLE) やLPWA (Low Power Wide Area) 通信を行うセンサーモジュールにおいて、数年〜10年単位の動作を可能にする。
- 動作温度範囲: -50℃〜+125℃。液系電池では凍結する極寒冷地や、電解液が揮発・劣化する高温環境(車載、工場設備、屋外インフラ)でも安定して動作する。
- ビジネス目標: 中期経営計画「MEX26」において、全固体電池事業を成長の柱と位置づけ、2027年度に300億円規模の売上を目指している。
4.3 株式会社村田製作所:MLCCの巨人による戦略展開
4.3.1 酸化物系全固体電池の量産技術
村田製作所は、世界シェアNo.1を誇るMLCCの製造技術(特に滋賀県の野洲事業所における生産能力)を全固体電池に応用している。
- 製品特性:
- 高容量化: 独自の材料技術により、2mAh〜25mAh(サイズによる)の容量を実現。
- 高電圧: 3.8Vの出力電圧を持ち、リチウムイオン電池と同様の回路設計で扱える。
- サイズ: 5mm〜10mm角、高さ2mm〜6mm程度のバリエーション。
- ウェアラブル戦略: 主に補聴器やヒアラブルデバイス(耳装着型端末)向けに展開。頭部に装着するデバイスにおいて「絶対に発火しない」という安全性は最大の訴求点である。
4.3.2 QuantumScape社との戦略的提携(2025年)
2025年4月、村田製作所は米国の全固体電池開発大手QuantumScape(QS)社との協業を発表した。
- 背景: QS社は、アノードフリー(負極レス)のリチウム金属電池技術と、独自のセラミックセパレータ製造プロセス「Cobra」を有しているが、大規模量産には高度なセラミック焼成技術が必要であった。
- 提携内容: 村田製作所の持つ圧倒的なセラミック積層・焼成ノウハウと量産設備を活用し、QS社のセラミックセパレータの量産化を支援する。
- 業界への影響: これまで民生用(小型)に注力していた村田製作所の技術が、QS社を通じて車載用(大型)技術のエコシステムに組み込まれることを意味する。これは、日本の電子部品技術が世界の次世代電池サプライチェーンのボトルネック解消に不可欠であることを証明している。
4.4 太陽誘電株式会社:MLCCプロセスの極致
4.4.1 太陽誘電の技術的特徴
太陽誘電は2019年に酸化物系全固体電池「Cilisene」を発表し、2021年頃より量産体制を構築している。
- サイズ展開: 4532サイズ(4.5 x 3.2 mm)を主力とし、将来的には1005サイズ(1.0 x 0.5 mm)という極小サイズまでのラインナップを視野に入れている。これはMLCCメーカーならではの微細化ロードマップである。
- CO2耐性: 同社の酸化物系電解質は、大気中の水分だけでなくCO2に対しても反応性が低いため、製造環境の管理コストを抑制でき、パッケージの簡素化(樹脂コートのみ等)による小型化・薄型化に有利である。
4.4.2 市場戦略
2025年中期経営計画において、全固体電池はカーボンニュートラルへの貢献と新事業創出の柱として位置づけられている。
スマートウォッチやウェアラブルデバイスのほか、産業用センサーなどのバックアップ電源用途でのデザインイン活動を強化している。
4.5 FDK株式会社:SoLiCellと定電圧充電ソリューション
4.5.1 SoLiCellの進化
富士通グループのFDKは、ニッケル水素電池やリチウム電池で培った経験を活かし、酸化物系全固体電池「SoLiCell」を展開している。
- SMD対応: 4.5 x 3.2 x 1.4 mmサイズ。エネルギー密度22 mWh/cm³。
- 高耐熱・高耐久: 動作温度範囲 -20℃〜+105℃。
4.5.2 定電圧充電(CV)対応モデルの投入
2025年12月、FDKは定電圧充電に対応した新モデル「SCD4532K」のサンプル出荷を開始した。
- 技術的意義: 通常のリチウムイオン電池は、CC-CV(定電流・定電圧)充電という複雑な制御が必要だが、この新モデルは一定の電圧を印加するだけで充電が可能である。
- システムメリット: 充電制御IC(チャージャーIC)を簡素化、あるいは省略することが可能となり、エナジーハーベスト素子(太陽電池など)からの微弱な電力をダイレクトに近い形で蓄電できる。これは回路面積とコストの削減に直結する。
4.6 京セラ株式会社:24M技術とセラミックパッケージ
京セラのアプローチは二面性を持つ。
一つは自社製品としての蓄電システム、もう一つは部品メーカーとしてのパッケージ供給である。
- SemiSolid電池(24M Technologies技術): 米24M社と提携し、電解液と活物質を粘土状(スラリー)にした「SemiSolid」リチウムイオン電池を製造。バインダーを使用しないため活物質密度が高く、製造コストが低い。主に住宅用蓄電システム「Enerezza」向けに量産しており、2026年度に向けて生産能力を倍増させる計画である。これは厳密には「全固体」ではないが、次世代プロセスとして重要である。
- 全固体電池用セラミックパッケージ: 京セラの半導体部品本部は、他社の全固体電池セルを封止するための高信頼性セラミックパッケージを提供している。気密封止により、硫化物系電池などの劣化を防ぐ重要な部材である。
4.7 日本ガイシ(NGK):EnerCeraの独自性
日本ガイシの「EnerCera(エナセラ)」は、厳密な全固体ではないが、「半固体」または「結晶配向セラミック電極電池」として、この分野で特異な地位を築いている。
- 技術: 独自の結晶配向セラミック板を電極に使用し、少量の電解液を含浸させる。
- 特徴:
- Coin型: リフロー実装対応。高耐熱。
- Pouch型: 超薄型(0.45mm)、曲げに強い(フレキシブル性あり)。スマートカード(クレジットカードサイズ)への内蔵に最適。
- 用途: スマートキー、物流トラッカー、コールドチェーン監視用ロガー。
5. 電子基板実装(SMT)における技術的考察とガイドライン
本章では、クライアントである「製造業・基板実装のアナリスト」が、設計・製造現場に対して提供すべき実務的なインサイトをまとめる。
5.1 リフロープロファイルと耐熱性
従来のコイン型リチウム電池(CR2032等)やパウチ型リチウムポリマー電池は、耐熱温度が60℃〜80℃程度と低く、リフロー炉(ピーク240℃〜260℃)を通すことは不可能であった。
そのため、以下の工程が必要であった。
- 従来工程: SMT(リフロー) → 手挿入(電池ホルダー実装) → 電池装着 または 電池リード線の手はんだ/ロボットはんだ。
これに対し、TDK、マクセル、FDK等のSMD対応全固体電池は、以下の革新をもたらす。
- 新工程: SMT(電池もリール部品として供給) → マウンター搭載 → リフロー(一括はんだ付け)。
- 推奨プロファイル: 一般的な鉛フリーはんだのプロファイル(プリヒート150-200℃、ピーク245-260℃)に対応するが、メーカーごとに「昇温速度」や「ピーク時間」の制約がある場合がある。特にセラミック部品は急激な熱衝撃(ヒートショック)によるクラック(割れ)が発生しやすいため、冷却速度の管理も重要である。
5.2 基板設計(レイアウト)上の注意点
- 機械的ストレス対策:
- 全固体電池(特に酸化物系)はセラミックの塊であるため、基板の「たわみ」や「曲げ」に対して脆弱である。
- 配置禁止エリア: 基板の分割ライン(Vカット、ミシン目)付近、ネジ止め穴の周辺、コネクタ脱着時の応力がかかる場所への配置は避けるべきである。
- ランド設計: メーカー推奨のランドパターンを遵守し、過度なはんだ量による応力集中(フィレットの形状)を避ける。
- 熱設計:
- 電池自体は発熱しにくいが、周囲のパワー半導体やPMICからの熱影響を考慮する必要がある。動作温度範囲は広い(+85℃〜+125℃)が、高温状態での充放電はサイクル寿命に影響を与える可能性がある。
- 吸湿管理(MSL):
- 一部の全固体電池(特に硫化物系のパッケージ品)は、吸湿による劣化を防ぐため、防湿梱包(アルミ袋)で納入される。開封後のフロアライフ(許容放置時間)はMSLレベル(例:Level 3, Level 2a等)に従って管理する必要がある。
5.3 回路設計とPMIC選定
- 内部抵抗: 小型全固体電池は内部抵抗(ESR)が比較的高い場合がある(数Ω〜数百Ω)。瞬間的な大電流(パルス)が必要な無線通信(BLE, LoRaWAN等)を行う場合、電池単体では電圧降下を起こす可能性がある。
- 対策: コンデンサ(MLCCやEDLC)を並列に接続し、ピーク電流をコンデンサから供給するハイブリッド構成が推奨される。
- 充電制御: FDKの定電圧充電対応品を除き、過充電防止機能(OVP)と過放電防止機能(UVP)を持つ保護回路、または全固体電池専用モード(低電流充電、カットオフ電圧設定)を持つPMIC(Power Management IC)の選定が必要である。ROHMやAnalog Devices、Nordic Semiconductorなどが、エナジーハーベスト&全固体電池向けの超低消費電力PMICを提供している。
6. アプリケーション別ユースケースとバリュープロポジション
6.1 インダストリアルIoT(IIoT)と予知保全
- 課題: 工場内のモーターや配管に設置する振動・温度センサーは数が膨大であり、電池交換のメンテナンスコスト(人件費)が導入の障壁となっていた。また、高温環境下では従来電池の寿命が極端に短くなる。
- 全固体電池の価値:
- マクセルのPSBシリーズ等は100℃を超える環境でも10年以上の寿命を維持できる。
- エナジーハーベスト(振動発電、廃熱発電)と組み合わせることで、「設置したら設備寿命まで放置可能(Install & Forget)」なセンサーノードを実現。
6.2 メディカル・ヘルスケアデバイス
- 課題: 補聴器やスマートコンタクトレンズ、体内埋め込み機器では、液漏れによる人体への危害リスクが絶対に許容されない。また、滅菌処理(オートクレーブ等)が必要な場合がある。
- 全固体電池の価値:
- 固体電解質による絶対的な安全性(不燃、無漏液)。
- 医療機器グレードの滅菌プロセス(高温・高圧)に耐えうる耐性(特にセラミックパッケージ品)。
6.3 物流・アセットトラッキング
- 課題: 国際物流において、リチウムイオン電池は危険物扱い(IATA規定等)となり、輸送コストや手続きが煩雑になる場合がある。また、スマートカード型トラッカーは薄さが求められる。
- 全固体電池の価値:
- 日本ガイシのEnerCera PouchやFDKのSoLiCell等の薄型電池は、カードやラベルへの内蔵が可能。
- 安全性試験(釘刺し試験等)をクリアしており、航空輸送の規制クリアや緩和が期待できる(ただし、UN38.3認証は引き続き必要)。
7. 結論と2030年に向けた展望
7.1 技術ロードマップ
- 2025年〜2027年: SMD型全固体電池の普及期。酸化物系はさらなる高容量化(積層数の増加)、硫化物系はコストダウンとサイズバリエーションの拡充が進む。マクセルのコイン型(PSB2032)のような「容量と実装性のバランス」が取れた製品が市場を牽引する。
- 2028年〜2030年: コスト競争力の向上。MLCC製造設備を活用した量産効果により、単価が下落し、汎用的なIoT機器への搭載が標準化する。また、村田製作所とQuantumScapeの協業に見られるように、民生用技術の車載転用(大型化)が本格化する。
7.2 クライアントへの提言
製造業・基板実装関連のクライアントに対し、以下の戦略的アクションを提言する。
- 「電源の部品化」を前提とした設計指針の策定: 電池を「交換部品」から「実装部品(デバイス)」へと再定義し、基板レイアウトの初期段階からSMD全固体電池の搭載を検討すること。これにより、製品の防水性向上、小型化、製造コスト削減を同時に達成できる。
- ハイブリッド電源システムの採用: 全固体電池単体の容量不足を補うため、エナジーハーベスト技術やキャパシタとの併用を前提とした電源回路設計のノウハウを蓄積すること。特に、微少電力での充放電制御技術が競争力の源泉となる。
- サプライチェーンの多重化: 現時点では各社の独自仕様(サイズ、端子形状)が多く、セカンドソースの確保が難しい。しかし、TDK、村田、マクセル、FDK、太陽誘電といった主要プレイヤーの製品特性を理解し、用途に応じた最適な「パートナー選定」を早期に行うことが重要である。
日本の電子部品メーカーが主導する全固体電池技術は、単なる「電池の進化」にとどまらず、エレクトロニクス製造プロセスそのものを革新するポテンシャルを秘めている。
この波に乗り遅れないことが、次世代製品開発における勝機となるであろう。
補足資料:主要メーカー製品比較表
| メーカー | 製品ブランド | 電解質タイプ | 形状・サイズ (mm) | 容量 / 電圧 | 特徴・実装対応 | 主要用途 |
| TDK | CeraCharge | 酸化物系 | 4.5 x 3.2 x 1.1 (EIA 1812) | 100 µAh / 1.5V | リフロー対応、並列接続可。新材料で1000Wh/L達成 | ウェアラブル、RTCバックアップ |
| マクセル | PSBシリーズ | 硫化物系 | 10.5角など (セラミック) | 8 mAh / 2.3V | 250℃リフロー対応。完全密閉。高出力 | インダストリアルIoT、車載 |
| マクセル | PSB2032 | 硫化物系 | φ20 x 3.2 (コイン型) | 35 mAh / 2.3V | 2025年開発。大容量、端子付で基板実装可 | インフラ監視、FA機器 |
| 村田製作所 | 全固体電池 | 酸化物系 | 5〜10角、高さ2〜6 | 2〜25 mAh / 3.8V | 高容量、高電圧。QS社と協業 | ヒアラブル、補聴器 |
| FDK | SoLiCell | 酸化物系 | 4.5 x 3.2 x 1.4 (SMD) | 0.15 mAh / 3.0V | 定電圧充電(CV)対応モデルあり。高耐熱 | エナジーハーベスト、RTC |
| 太陽誘電 | 全固体電池 | 酸化物系 | 4.5 x 3.2 x 3.2 (4532) 等 | 非公開 | MLCCプロセス応用。CO2耐性 | スマートウォッチ、ウェアラブル |
| 日本ガイシ | EnerCera | 結晶配向セラミック | Coin / Pouch (薄型) | 数mAh〜 / 3.8V | 高耐熱(Coin)、超薄型・曲げ耐性(Pouch) | スマートカード、トラッカー |
以上





