

長尺LED基板(1200mm以上)の製造は、一般的な電子基板の製造とは異なる特殊な技術と設備を必要とします。
本記事では長尺基板に対応するための工場設備とその具体的な仕組み、さらには最新の技術動向までを徹底的に解説します。
導入:長尺LED基板製造の課題と本記事のメリット
現代の照明市場において、オフィスや商業施設で使用される直管型LEDや、看板・バックライト用の照明モジュールは、1200mmを超える長尺基板が標準的に用いられています。
しかし、一般的な表面実装(SMT:Surface Mount Technology)ラインの多くは、最大基板サイズが460mmから610mm程度に制限されており、長尺基板を製造するには特殊な設備投資や工程管理が不可欠です。
読者の皆様の中には、以下のような悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
- 長尺基板を製造したいが、どのような設備が必要なのか具体的に知りたい
- 通常の基板製造と比べて、どのようなトラブルが発生しやすいのか把握したい
- 最新の設備トレンドを知り、将来的な投資判断の材料にしたい
この記事を読むことで、1200mm以上の長尺LED基板に対応できる工場の設備構成、工程ごとの技術的ポイント、そして歩留まりを向上させるための秘訣を深く理解できます。
初心者の方には専門用語の解説を交え、中級者の方には具体的な装置のメカニズムを詳細に提示することで、実務に直結する知識を提供します。
1. 長尺LED基板の定義と背景:なぜ特殊な設備が必要なのか
まず、長尺LED基板とは何か、そしてなぜそれが重要視されているのかについて解説します。
長尺LED基板の定義
一般的に、電子機器で使用される基板は「Mサイズ(330mm×250mm)」や「Lサイズ(460mm×410mm)」といった規格に収まります。
これに対し、1200mmを超える基板は「長尺基板」あるいは「ロングボード」と呼ばれます。
特に1200mmという数字は、従来の40形蛍光灯(約1198mm)をLED化する際の標準サイズであるため、業界の大きな節目となっています。
なぜ特殊な設備が必要なのか
製造工程において、基板はコンベアで搬送され、はんだ印刷、部品実装、加熱(リフロー)という工程を辿ります。
標準的な設備では、以下の理由から1200mmの基板を流すことができません。
- 物理的な長さの制限:装置内部の搬送路や作業エリアが、長尺基板を収容できる設計になっていない。
- 基板のたわみ:基板が長くなればなるほど、自重や熱によって中央部が垂れ下がり、印刷や実装の精度が著しく低下する。
- 熱膨張の影響:加熱工程において、基板が大きく伸縮するため、部品の位置ズレやはんだ不良が起きやすい。
これらの課題を解決するために、工場には「長尺対応」を謳った専用の設備群が必要となります。
2. 具体的な仕組み:長尺対応ラインを構成する主要設備
長尺LED基板の製造ラインは、単に大きな機械を並べるだけでは成立しません。
各工程で「精度」と「安定性」を確保するための高度なメカニズムが組み込まれています。
長尺対応スクリーン印刷機
はんだペーストを基板上に印刷する装置です。
- ロングストロークスキージ:1200mm以上の長さを一気に、あるいは分割して印刷できる駆動機構。
- 特殊版枠(ステンシル)の採用:長尺用の巨大なメタルマスクを固定し、テンション(張り)を均一に保つ機能。
- 吸引テーブル:基板が長いために発生する反りや浮きを抑えるため、強力な真空吸引で基板をステージに密着させます。
長尺対応マウンタ(表面実装機)
LEDチップなどの部品を高速で配置する装置です。
- 複数回クランプ(インデックス方式):マウンタの作業エリアが基板全域をカバーできない場合、基板を少しずつ送りながら(インデックス搬送)、分割して実装を行う仕組み。
- 長尺対応ビーム:ヘッドが移動するレール自体が長く設計されており、1200mmを1回のクランプでカバーできる「ロングボード対応モデル」も存在します。
- レーザー・カメラ補正:基板が長くなると位置誤差が累積しやすいため、基板上のマーク(フィデューシャルマーク)を細かく読み取り、リアルタイムで打点位置を補正します。
長尺対応リフロー炉(加熱装置)
はんだを溶かして固定するトンネル状のオーブンです。
- 多ゾーン化:内部を10ゾーン以上に細かく分け、温度プロファイルを緻密に制御します。
- センターボードサポート:コンベアの両端だけでなく、基板の中央を下から支えるチェーンやピンを備え、熱による基板の垂れ下がり(自重たわみ)を物理的に防ぎます。
- 均一風速制御:長尺基板の先端と後端で温度差が出ないよう、熱風の循環を均一化する技術。
長尺対応検査装置(SPI・AOI)
はんだ印刷状態を検査するSPI(Solder Paste Inspection)や、実装後の外観を検査するAOI(Automated Optical Inspection)です。
- 大面積スキャン:長尺基板を止めることなく、移動させながら連続して撮影・解析する「ラインスキャンカメラ」の搭載が一般的です。
3. 作業の具体的な流れ:長尺LED基板ができるまで
実際の工場でどのように作業が進むのか、5つのステップで解説します。
ステップ1:基板供給(ローダー工程)
まず、積み重ねられた長尺基板を1枚ずつラインに供給します。
長尺基板は薄く、しなりやすいため、吸着パッド付きの専用ローダーを使用します。
ここで基板に無理な力がかかると、後の工程で印刷不良の原因となる「マイクロクラック(目に見えないひび)」が入る可能性があるため、慎重な取り扱いが求められます。
ステップ2:はんだ印刷(スクリーンプリント工程)
長尺用のスクリーン印刷機に基板が搬送されます。
- 基板をステージに固定(真空吸引)。
- メタルマスクを密着させる。
- スキージ(はんだを伸ばすヘラ)が1200mm以上の距離を一定の圧力と速度で走行。
- 基板をゆっくりと降ろし、版離れ(スナップオフ)を行います。 この際、はんだの粘度管理が重要です。印刷時間が長くなるため、最初と最後で、はんだの乾燥具合が変わらないよう空調管理が徹底されます。
ステップ3:部品実装(マウンティング工程)
マウンタによりLEDチップが高速で並べられます。
- 基板のマークをカメラで認識し、基板の伸び縮みを計算。
- ヘッドが部品を吸着し、計算された補正値に基づいて配置。
- 長尺の場合、基板を数回に分けて動かす「分割実装」が行われることが多いです。この際、分割の継ぎ目で部品の間隔がズレないよう、高度な搬送制御が必要となります。
ステップ4:リフロー(加熱・硬化工程)
部品が載った基板を加熱します。
- 予熱ゾーンで徐々に温度を上げる。
- 本加熱ゾーンで、はんだが溶融する温度(約220度〜250度)に到達させる。
- 冷却ゾーンで急速に冷やし、はんだを固める。 長尺基板は熱による膨張が大きいため、リフロー炉の入り口と出口で基板がコンベアに引っかからないよう、余裕を持った設計がなされています。
ステップ5:自動外観検査(AOI工程)
完成した基板をカメラで検査します。
- LEDチップの向き、欠落、傾きをチェック。
- はんだのフィレット(接合部の形状)が適切か確認。
- 不良箇所があれば、自動的にマーキングまたは仕分けが行われます。 最後に、必要に応じて人間による目視検査が行われ、梱包・出荷へと進みます。
4. 最新の技術トレンドや将来性
長尺基板製造の分野でも、デジタルトランスフォーメーション(DX)や新材料の導入が進んでいます。
ミニLED(Mini LED)への対応
従来のLEDよりも遥かに小さい「ミニLED」を数千個、数万個単位で長尺基板に実装する需要が増えています。
これにより、マウンタにはさらなる「高速性」と「極小部品への精度」が求められるようになっています。
フレキシブル基板(FPC)の台頭
硬いリジッド基板ではなく、曲げられる「フレキシブル基板」を長尺(ロール状)で製造する技術も進化しています。ロール・ツー・ロール(Roll-to-Roll)と呼ばれる方式では、1200mmどころか、数百メートルの基板を途切れることなく処理できますが、専用の特殊設備が必要となります。
AIによるリアルタイム補正
マウンタや印刷機が、前の工程の検査結果をリアルタイムで受け取り、次の基板の印刷圧力や実装位置を自動で微調整する「スマートファクトリー化」が進んでいます。
これにより、長尺基板特有の「個体ごとの微妙な伸び縮み」による不良をゼロに近づけることが可能になっています。
5. よくある質問(FAQ)
Q1:1200mmの基板を2枚の600mm基板で代用するのと、どちらが良いですか?
コスト面では600mmを2枚使う方が、標準的な設備で製造できるため安価になることが多いです。
しかし、2枚を連結する場合、コネクタや配線作業が必要になり、連結部分で「光のムラ(ダークスポット)」が生じる原因となります。
高品質な照明製品やシームレスなデザインを求めるなら、長尺基板1枚での製造が推奨されます。
Q2:基板の「反り」を防止する最も有効な手段は何ですか?
最も有効なのは、設計段階での工夫と、製造時の「センターボードサポート」の活用です。
設計では、基板の表と裏の銅箔パターン密度を均等にすることで、熱膨張の差を抑えます。
製造時は、リフロー炉内で基板が垂れ下がらないよう、物理的な支えを導入することが不可欠です。
Q3:長尺対応のラインを構築する際、設備投資額はどのくらい変わりますか?
標準的なLサイズラインに比べ、長尺対応ライン(1200mm〜1500mm対応)は、装置1台あたり2割から5割程度高価になる傾向があります。特に印刷機とマウンタの特殊仕様費用がかさみます。
ただし、一括で実装できることによる生産効率の向上や、付加価値の高い製品の製造が可能になるメリットがあります。
まとめ
1200mm以上の長尺LED基板に対応できる工場の設備は、単なる「大型版」ではなく、長尺ゆえの「たわみ」「位置ズレ」「熱影響」を克服するための精密なメカニズムの集合体です。
- 印刷工程では、真空吸引とロングストローク。
- 実装工程では、高精度な位置補正とインデックス搬送。
- 加熱工程では、多ゾーン制御と物理的な基板サポート。
これらが組み合わさることで、高品質な長尺基板の安定生産が可能となります。
今後、ミニLEDやスマートファクトリー技術の普及により、長尺基板の製造ハードルは下がりつつも、その精度要求はより高度なものになっていくでしょう。
もし、貴社で具体的なライン構築や、特定の工程におけるトラブル解決を検討されている場合は、各装置メーカーが提供している「長尺対応オプション」の詳細スペックを比較することから始めるのが最適です。
この記事が、長尺LED基板製造の理解を深める一助となれば幸いです。






