

プリント基板(PCB)の設計において、材質選びは製品の寿命、性能、そして製造コストを左右する極めて重要な工程です。
しかし、基板の材質にはFR-4やCEM-3、さらには高周波用や放熱用など多種多様な選択肢があり、初心者はもちろん、中級者の設計者であっても「どれが最適解なのか」と頭を悩ませることは少なくありません。
この記事では、半導体・基板実装業界の専門ライターとして、プリント基板の主要な材質であるFR-4やCEM-3の違い、それぞれの特性、そして用途に合わせた失敗しない選び方を徹底的に解説します。
この記事を読み終える頃には、基板材質のスペックシートを読み解き、プロジェクトの要件に合わせた最適な素材を選定できる知識が身についているはずです。
基板材質の定義と言葉の背景:なぜ材質選びが重要なのか
プリント基板の材質を理解する上で、まず知っておくべき言葉が「CCL(Copper Clad Laminate:銅張積層板)」です。
これは、絶縁体であるベース素材に銅箔を貼り付けた板のこと指し、プリント基板の土台となります。
なぜ、この土台の材質選びが重要なのでしょうか。その理由は主に3つあります。
1. 電気的特性への影響
基板は単なる部品の支持体ではなく、電気信号の通り道です。材質によって「比誘電率」や「誘電正接」が異なります。
これらは信号の伝送速度や減衰に直結するため、特に高周波信号を扱う現代のデバイス(5G通信機器や高速演算サーバーなど)では、材質選びが回路の正常な動作を担保する鍵となります。
2. 耐熱性と機械的強度
電子機器は動作中に熱を発します。
また、部品を実装する際の「リフロー工程(はんだ付け)」では260度近い高温にさらされます。
熱によって基板が反ったり、内部の回路が断線したりしないよう、用途に応じた耐熱性(ガラス転移点:Tg)を持つ材質を選ぶ必要があります。
3. コストパフォーマンスの最適化
全ての製品に最高級の材質を使えば性能は安定しますが、製造コストが跳ね上がります。
家電製品のようなコスト競争が激しい分野では、必要十分な性能を維持しつつ、安価な材質(紙フェノールやCEM-3など)を選択する目利きが求められます。
具体的な仕組み:基板材質の内部構造と特性の数値化
基板の材質は、主に「樹脂(レジン)」「補強材(基材)」「銅箔」の3つの要素で構成されています。
それぞれの組み合わせによって、FR-4やCEM-3といった名称が決まります。
主要な材質の構成と特徴
FR-4(エポキシ樹脂 + ガラス布)
現在、世界で最も普及している材質です。FRは「Flame Retardant(難燃性)」の略で、4はグレードを表します。
- 構造:ガラス繊維を編み込んだ「ガラス布」に「エポキシ樹脂」を染み込ませて重ねたものです。
- 特徴:機械的強度が高く、吸湿性が低いため、寸法安定性に優れています。電気特性もバランスが良く、片面から多層基板まで幅広く対応可能です。
CEM-3(エポキシ樹脂 + ガラス不織布 + ガラス布)
FR-4のコストダウン版として開発された複合材料です。
- 構造:表面にはFR-4と同じガラス布を使用し、芯材(中間の層)に「ガラス不織布(繊維を編まずに固めたもの)」を使用しています。
- 特徴:FR-4に近い電気的・機械的特性を持ちながら、芯材が不織布であるため加工性が良く、ドリル加工などのコストを抑えられます。ただし、多層基板には向きません。
紙フェノール(FR-1 / FR-2)
- 構造:紙にフェノール樹脂を染み込ませたものです。
- 特徴:非常に安価ですが、熱や湿気に弱く、強度が低いです。主に安価なリモコンや玩具などの片面基板に使用されます。
特性を表す重要な指標
材質を選ぶ際に必ずチェックすべき数値が以下の4つです。
- Tg(ガラス転移点)樹脂が硬い「ガラス状態」から、柔らかい「ゴム状態」に変化する温度のことです。一般的なFR-4は130度から140度程度ですが、高多層基板や車載基板では170度以上の「High-Tg材」が使われます。
- CTE(熱膨張係数)温度変化に対して、材質がどの程度伸び縮みするかを示す数値です。この数値が銅箔や実装部品と大きく異なると、熱ストレスでクラック(亀裂)が発生します。
- $\epsilon_r$(比誘電率)絶縁体の中で電気がどれだけ蓄えられるかを示す値です。数値が低いほど信号の伝送速度が速くなり、高周波回路に適しています。
- $\tan\delta$(誘電正接)電気信号が熱として失われる割合です。数値が小さいほど、信号のロス(損失)が少なくなります。
作業の具体的な流れ:用途別・基板材質の選び方 5ステップ
適切な基板材質を選ぶためのステップを順に追っていきましょう。
ステップ1:動作環境の確認
まずは、製品がどのような場所で使われるかを定義します。
- 常温の室内:標準的なFR-4で十分です。
- 高温になるエンジンルームや産業機器:High-Tg材やアルミ基板を検討します。
- 湿気が多い屋外:耐トラッキング性(CTI)が高い材質が必要です。
ステップ2:信号速度と周波数の確認
扱う信号の周波数によって、選ぶべき材質が変わります。
- 1GHz未満:標準FR-4で対応可能です。
- 1GHzから10GHz:低損失FR-4(Mid-loss材など)を検討します。
- 10GHz以上(5G、レーダー等):テフロン(PTFE)基板やセラミック基板など、フッ素樹脂系の高周波専用材が必要になります。
ステップ3:熱設計(放熱対策)の検討
部品の発熱量を確認します。
- パワーLEDや電源回路:熱伝導率が高い「メタルベース基板(アルミや銅)」を使用し、基板そのものをヒートシンクとして機能させます。
- 一般的なIC:通常のFR-4で、銅箔厚を増やす(35umから70umへ)などの対応を検討します。
ステップ4:層数と厚みの決定
- 片面・両面基板:コスト重視ならCEM-3、信頼性重視ならFR-4。
- 4層以上の多層基板:層間の密着性や寸法の安定性が求められるため、原則としてFR-4(またはそれ以上のグレード)を選択します。
ステップ5:コストと入手性のバランス
特殊な材質(セラミックや超高周波材)は、性能は高いですが納期が長く、価格もFR-4の数倍から数十倍になることがあります。
汎用品であるFR-4をベースにし、どうしても必要な箇所にだけ特殊材を使う「ハイブリッド積層」という手法も検討に値します。
最新の技術トレンドや将来性
2026年現在の基板材質業界では、以下の3つのトレンドが加速しています。
1. 6G通信を見据えた超低損失材料
5Gの次、6G通信の研究が進む中で、さらなる高周波対応が求められています。
これまでのPTFE(テフロン)に代わり、より加工性が高くコストを抑えた「液晶ポリマー(LCP)」や、新たな樹脂組成を用いた超低損失材料の採用が増えています。
2. 環境負荷低減(グリーンPCB)
欧州の環境規制などを背景に、ハロゲンフリー(燃焼時に有害物質を出さない)材質はすでに当たり前となりました。
現在はさらに一歩進み、廃棄後に分解可能な樹脂や、リサイクルされた銅箔・ガラス繊維を使用した「循環型基板材料」の開発が注目されています。
3. モジュール化と高密度化(HDI)
スマートフォンのように、限られたスペースに膨大な機能を詰め込むため、より薄く、より細かい穴(ビア)をあけられる材質が進化しています。
レーザー加工に適した「レーザービア用FR-4」や、極薄のプレプレグ(樹脂シート)の技術革新が進んでいます。
よくある質問(FAQ)
Q1. FR-4とCEM-3、見た目で見分ける方法はありますか?
基本的には非常に似ていますが、断面を詳しく見ると違いがわかります。
FR-4は透明感のある緑色(レジスト越し)で、ガラス布の格子模様が均一に見えます。
CEM-3は芯材に不織布を使っているため、断面がやや白っぽく不透明に見える傾向があります。
Q2. 安価な海外メーカーのFR-4を使っても大丈夫でしょうか?
スペックシート上の数値が同じでも、熱を加えた時の「反り」や「銅箔のはがれ強度(ピール強度)」に差が出ることがあります。
信頼性が求められる製品では、UL認定を受けているか、日本のメーカーと同等の品質管理がなされているかを確認してください。
Q3. 高周波基板でFR-4を使い続けるとどうなりますか?
周波数が高くなるほど、FR-4の内部で電気エネルギーが熱に変換されて失われます。
これを「誘電損失」と呼びます。
結果として信号が相手に届かなくなったり、波形がなまって誤作動の原因になったりします。
まとめ
プリント基板の材質選びは、単なる「板」選びではなく、回路設計の一部です。
- FR-4:最も汎用的で信頼性が高く、迷ったらこれを選ぶべき王道。
- CEM-3:両面基板でコストを抑えたい時の賢い選択肢。
- 紙フェノール:極限までコストを削る家電・玩具向け。
- 特殊材(メタル・セラミック・PTFE):熱や高周波など、特定の課題を解決するためのスペシャリスト。
それぞれの材質のメリット・デメリットを正しく理解し、Tgや比誘電率といった数値を基準に選定することで、製品の品質は劇的に安定します。
今後の設計や発注の際には、ぜひ今回のガイドをスペック選定の参考にしてください。
次は、実際に選んだ材質に対して、最適な銅箔の厚みや表面処理(金メッキや耐熱プリフラックスなど)をどう組み合わせるかを検討すると、より完璧な基板設計に近づけます。






