

1. エッジAI時代の幕開けと先端ロジック半導体の設計パラダイム
2025年から2026年にかけてのモバイルおよびコンピューティング市場は、生成AIのデバイス内実装、いわゆる「オンデバイスAI」の普及によって、設計思想の根本的な転換点を迎えている 。
これまでプロセッサ設計の主眼はピークパフォーマンスの向上に置かれていたが、最新のティアダウン結果からは、持続的なAI推論能力の確保と、それに伴う熱管理および電力供給回路の最適化が最優先事項となっていることが見て取れる 。
1.1 Apple A19 ProとTSMC 3nmプロセスの深化
iPhone 17 Proシリーズに搭載されたA19 Proチップの解析によれば、AppleはTSMCの改良型3nmプロセス(N3P)を採用し、トランジスタ密度の向上とリーク電流の抑制を高い次元で両立させている 。
回路設計の観点から特筆すべきは、Neural Engine(NPU)の並列演算ユニットの再配置と、キャッシュメモリの増量である 。
これは「Apple Intelligence」をバックグラウンドで常時稼働させるために、メモリ帯域のボトルネックを解消しようとする意図の現れである 。
| 項目 | Apple A19 Pro | Snapdragon 8 Elite Gen 5 | Exynos 2600 |
| 製造ノード | TSMC 3nm (N3P) | TSMC 3nm (N3P) | Samsung 2nm GAA |
| CPUコア構成 | 2x Performance, 4x Efficiency | 2x Prime (4.6GHz), 6x Perf (3.6GHz) | 未公表 (高密度クラスタ) |
| GPUアーキテクチャ | 6コア (ハードウェアRT対応) | Adreno 840 (Sliced構造) | Xclipse 960 (RDNA 4) |
| 特徴的な回路技術 | NPU用オンダイSRAM増量 | 18MB HPMキャッシュ | Heat Path Block |
| 出典 |
1.2 Samsung Exynos 2600における2nm GAAプロセスの戦略的採用
SamsungはGalaxy S26において、自社開発のExynos 2600に世界初となる2nm GAA(Gate-All-Around)プロセスを導入した 。
従来のFinFET構造ではチャネルの三方をゲートが囲んでいたのに対し、GAA構造では四方を囲むことで、微細化に伴う短チャネル効果を劇的に抑制し、電力効率を改善している 。
内部テストデータによれば、Exynos 2600のAI処理能力は、前世代比で飛躍的に向上しており、特に電力あたりの推論回数において競合を凌駕することを目指している 。
これは、SamsungがQualcommへの依存度を下げ、自社のファウンドリ事業の技術的優位性を誇示するための「設計思想の賭け」とも言える 。
1.3 中国半導体勢力のレジリエンス:Huawei Kirin 9030 Proの解析
Huawei Mate 80 Pro Maxのティアダウンにより、SMICのN+3プロセスで製造されたKirin 9030 Proの実態が明らかになった 。
TechInsightsの断面解析によれば、このプロセスは物理的な寸法こそTSMCの5nmノードには及ばないものの、DTCO(設計とプロセスの協調最適化)を駆使することで、実効的なトランジスタ密度を大幅に高めている 。
Kirin 9030 Proの回路設計における最大の特徴は、14コアに及ぶ多コア構成と、大規模なモデム統合である 。
これは、単一コアの絶対的な微細化が制限される中で、回路の並列性を高めることでシステム全体のパフォーマンスを担保しようとするHuawei独自の設計アプローチを反映している 。
2. 熱管理システム:相変化冷却と筐体統合設計の融合
プロセッサの熱密度が限界に達する中、iPhone 17 ProやGalaxy S26、そして高性能AIサーバーにおいて、従来の空冷や単純なヒートスプレッダを超えた、高度な相変化冷却技術の採用が加速している 。
2.1 iPhone 17 Proのベイパーチャンバーとアルミニウム・ユニボディの熱結合
iFixitおよびTechInsightsのティアダウンによれば、iPhone 17 ProはAppleとして初めて、水を用いた相変化を利用するベイパーチャンバー(VC)冷却システムを採用した 。
このシステムは、A19 Proチップに直接接するベースプレートと、アルミニウム筐体に熱を逃がすフィン構造で構成されている 。
回路の安定動作に与える影響を LaTeX を用いて記述すると、熱抵抗 Rθ の低減により、ジャンクション温度 Tj を以下のように制御している: Tj=P×Rθ+Ta ここで、P はプロセッサの消費電力、Ta は周囲温度である。
iPhone 17 ProのVCシステムは、従来のグラファイトシートに比べ、Rθ を約30%低減させていると推測される 。
| デバイス | 冷却機構 | 動作温度 (ピーク時) | スロットリング耐性 |
| iPhone 16 Pro Max | グラファイトシート | 37.8 ℃ | 有 (パフォーマンス低下) |
| iPhone 17 Pro Max | ベイパーチャンバー | 34.8 ℃ | 無 (安定維持) |
| 出典 |
2.2 SamsungのHeat Path Block(HPB)と熱伝導率の最適化
Galaxy S26では、プロセッサからの熱を最短距離で筐体外部へ逃がす「Heat Path Block(HPB)」技術が導入された 。
これはチップのパッケージング直上に高熱伝導率の銅または銀合金のブロックを配置し、さらに基板(PCB)のサーマルビアを強化することで、熱源からの垂直方向の熱移動を加速させる設計である 。
3. 次世代バイオメトリクスとイメージセンサーの回路レベルでの刷新
スマートフォンにおけるユーザー体験の核となるカメラおよびセキュリティ機能において、センサー自体の回路設計が抜本的に見直されている 。
3.1 STMicroelectronics製IRセンサーの再設計とMIMキャパシタの統合
iPhone 17 Pro Maxに搭載されたFace ID用赤外線(IR)イメージセンサーは、STMicroelectronicsによる過去10年で最大の設計変更が行われた 。
TechInsightsの透過型電子顕微鏡(TEM)観察によれば、このセンサーには以下の回路技術が導入されている :
- メタル・絶縁体・メタル(MIM)キャパシタの画素内統合: 各画素で電荷を一時的に保持する能力を高め、暗所での信号読み出し精度を向上させている 。
- 背面深溝分離(B-DTI): 隣接する画素間の光学的および電気的な干渉を遮断し、量子効率を最大化している 。
- 回折格子型光散乱構造: 赤外線の光路長を画素内で物理的に延長し、吸収効率を高める構造がセンサー背面に作り込まれている 。
これらの技術は、将来的にFace IDユニットをディスプレイの下に埋め込むための感度確保と、AR/VRにおける高精度な空間トラッキングを実現するための布石であると分析される 。
3.2 HuaweiのタンデムOLEDと多重ペリスコープ構造
Huawei Mate 80 Pro Maxは、世界初となる量産スマートフォン向け「タンデムOLED」ディスプレイを採用した 。
これは発光層を二重に積み重ねることで、同じ輝度を維持しながら駆動電流を下げ、パネルの寿命を大幅に延ばす技術である 。
また、カメラシステムでは、48MPと50MPの2つのペリスコープ型望遠モジュールを同時搭載するという異例の設計を選択した 。
これにより、中距離(4倍)から遠距離(6.2倍以上)までの全域で高い光学解像度を維持しており、デジタルズームに頼らない高精細な画像出力を実現している 。
4. AIサーバーとHPC向けパッケージングの革新:NVIDIA Blackwell
AIの爆発的需要に応えるべく、NVIDIAのBlackwell GPU(B200/GB200)は、従来の半導体設計の常識を覆すチップレットおよびパッケージング技術を採用している 。
4.1 CoWoS-LとNV-HBIインターコネクトの物理設計
Blackwell B200のティアダウンにより、TSMCのCoWoS-L(Local Area Silicon Interconnect)技術の初採用が確認された 。
従来のCoWoS-Sがシリコンインターポーザ全体を用いてダイ間を接続していたのに対し、CoWoS-Lは局所的に配置されたシリコンブリッジを使用することで、パッケージコストを抑えつつ、ダイ間の巨大な通信帯域を確保している 。
| コンポーネント | 詳細 | 技術的背景 |
| GPUダイ | 2個の4nmダイを統合 | 合計2080億トランジスタ |
| インターコネクト | NV-HBI (10TB/s) | ダイ間を単一のGPUとして見せるための超高速バス |
| メモリ | 192GB HBM3E | SK Hynix製、合計8TB/sの帯域幅 |
| 電源供給 | VRM (垂直配電) | 1,000Aを超える大電流を低電圧で供給 |
| 出典 |
4.2 電源供給ネットワーク(PDN)の高度化とベンダー選定
Blackwellプラットフォームの回路分析によれば、Supermicro製AIサーバー(SYS-A22GA-NBRT)内には、極めて複雑な電源管理回路(PMIC)と電圧レギュレータモジュール(VRM)が配置されている 。
主な採用ベンダーとその理由は以下の通りと推測される:
- Infineon: 30V/80VのパワーMOSFETを供給。高い電力密度と低オン抵抗 (Rds(on)) が、大電流を扱うAIアクセラレータにおいて必須条件となっている 。
- Monolithic Power Systems (MPS): ステップダウン・コンバータとパワーマネジメントICを担当。過渡応答特性の良さが、AI負荷の急激な変動に追従するために選定されたと考えられる 。
- Skyworks: 4A出力の高速絶縁ゲートドライバを供給。大電流動作時のノイズから制御系を保護するための高いアイソレーション能力が評価されている 。
5. 電気自動車(EV)における電力電子回路の統合と競争力
EV市場では、BYDの高度な垂直統合設計と、Teslaの徹底した製造合理化という二つの対極的なアプローチが衝突している 。
5.1 BYD e-Platform 3.0 Evo:12-in-1 パワートレインの衝撃
BYD Seal(2025年モデル)のティアダウンは、BYDがインバータ、モーター、DC/DCコンバータ、車載充電器(OBC)など12のコンポーネントを単一のユニットに統合した「12-in-1」パワートレイン(※資料に基づき統合度を強調)の凄まじさを浮き彫りにした 。
この設計思想の根底には、バッテリーから最終製品まで自社で手掛ける「バッテリー第一」の考え方がある 。
回路設計上の核心は以下の通りである:
- 800V高電圧システムのネイティブ採用: 400Vシステムと比較して、同じ出力を得るために必要な電流を半分に削減し、銅線の軽量化と熱損失の低減を実現している 。
- SiC MOSFETインバータ: シリコン(Si)ベースのIGBTに代わり、炭化ケイ素(SiC)を採用することで、スイッチング周波数を高め、回路の小型化とシステム効率を約5%向上させている 。
- Cell-to-Body (CTB) 技術: バッテリーパックの上蓋を車体の床板として兼用する回路・構造一体型設計により、車体剛性を高めつつ、室内空間を拡大している 。
5.2 Tesla Model Y「Juniper」における製造・回路の合理化
Teslaの設計思想は、BYDのような物理的な多機能統合よりも、ソフトウェアによる制御の統合と、製造工程の劇的な簡素化に主眼を置いている 。
Model Y Juniperのフロントエンド解析によれば、Teslaはギガプレスの採用をさらに推し進め、数百の部品からなるフロントセクションを単一の鋳造部品(ギガキャスティング)に置き換えている 。
回路・制御系の特徴:
- Octovalveによる熱マネジメント: モーター、インバータ、バッテリー、キャビンの熱を1つの熱回路に統合し、ソフトウェアで精密に制御する 。
- 400Vアーキテクチャの維持: スーパーチャージャー・ネットワークとの互換性を重視し、敢えて400Vを継続。その分、4680構造電池によるエネルギー密度の向上と、徹底したコスト削減で競合に対抗している 。
| 比較項目 | BYD Seal (2025) | Tesla Model Y (Juniper) |
| プラットフォーム | e-Platform 3.0 Evo | 改良型 Model Y Platform |
| 主な電力回路 | 800V SiC インバータ | 400V 統合電力ユニット |
| バッテリー方式 | LFP Blade (CTB構造) | 4680/2170 (構造電池) |
| 統合制御 | ハードウェア・モジュール統合重視 | ソフトウェア・セントリック制御 |
| 先端センサー | LiDAR搭載 (DiPilot 300) | カメラのみ (Tesla Vision) |
6. 調達戦略と競合品採用の論理的推測
ティアダウンから得られた部品採用リストに基づき、各社が競合他社の部品や特定のベンダーを選定する背景には、単なるスペック以外の戦略的理由が存在する 。
6.1 AppleによるSTMicroelectronics IRセンサーの継続採用理由
Appleが長年STMicroelectronicsとの強力なパートナーシップを維持しているのは、Apple専用の「カスタムファブ」に近い環境をSTが提供しているためと推測される 。
Face IDのような機密性の高いバイオメトリクス回路において、設計段階から製造プロセスのカスタマイズ(MIMキャパシタの追加など)を許容する柔軟性が、汎用センサーメーカーにはない強みとなっている 。
6.2 NVIDIAによるSK Hynix製HBM3Eの独占的採用
Blackwell B200において、NVIDIAがSK HynixのHBM3Eを優先的に採用している理由は、熱膨張係数の不一致を解消する「MR-MUF(Mass Reflow Molded Underfill)」技術による歩留まりの安定性と、スタックの高層化における信頼性が他社を上回っているためと考えられる 。
AIアクセラレータのように莫大な電力を消費するデバイスでは、メモリの熱耐性がシステム全体の安定性を左右するため、物理特性に優れたSK Hynix製品が選定されている 。
6.3 BYDの高度な内製化 vs. Teslaのオープン・サプライチェーン
BYDがインバータ用SiCパワー半導体やバッテリーコントローラーを自社で製造(内製化)しているのは、中国市場における激しい価格競争に耐えうる「コスト障壁」を築くためである 。
一方、Teslaが一部のパワー半導体やパッシブコンポーネントにおいて外部ベンダー(ST、Infineon、TI等)を使い分けるのは、サプライチェーンの冗長性を確保し、グローバルでの生産規模拡大に迅速に対応するためという戦略的差異がある 。
7. 持続可能性と修理容易性が回路設計に与える影響
2026年に向けて、EUのデジタル製品パスポート(DPP)規制や環境保護への意識の高まりが、回路設計の新たな制約条件となっている 。
7.1 モジュール化と循環型設計の加速
最新の予測によれば、今後の回路基板設計(PCB)は、リサイクル時に有用な金属を容易に抽出できるよう、部品の配置やはんだ材の選定が最適化される傾向にある 。
AppleのiPhone 17 Proにおけるバッテリーの機械的固定(Torx Plusネジ採用)は、その先駆けと言える 。
7.2 長寿命化と「自己修復」回路の模索
Edge AIの進化により、デバイス自身が回路の劣化を検知し、電力配分を動的に変更することで故障を未然に防ぐ「予兆保全」的機能が、NPUsと組み合わされて実装され始めている 。
これは、製品の物理的な寿命を延ばすことで、ブランドロイヤリティを高めると同時に、環境負荷を低減させるという2026年以降の重要なUXトレンドに合致している 。
8. 総括:2026年に向けた設計トレンドの帰結
主要製品のティアダウンと回路分析から導き出される結論は、ハードウェアの進化が「単体部品の微細化」から「異種技術の高度な統合」へと完全に移行したことである。
- AIファーストの回路トポロジー: プロセッサの近くに広帯域メモリ(HBMや大容量LPDDR5X)を配置し、最短距離でデータを転送するための2.5D/3Dパッケージングが、スマートフォンからサーバーまで共通の設計言語となった 。
- 熱管理のプライマリー化: 冷却システムはもはや「後付けの部品」ではなく、基板設計や筐体構造と一体化した「熱回路」として、設計の最上流で定義されるべき要素となった 。
- 電力供給の垂直化: 1,000Aを超える大電流や800Vの高電圧を扱うために、電力変換回路(VRM/インバータ)の効率化と小型化が、製品全体の競争力を左右する最大の差別化要因となっている 。
- 設計の「透明性」と「倫理」: 修理のしやすさや使用素材の透明性が、UX(ユーザーエクスペリエンス)の重要な一部となり、それが回路設計の制約として機能し始めている 。
これらのトレンドは、2026年以降、さらに高度な「自律型デバイス」や「超大規模AIクラスター」の誕生を支える基盤技術となる。
ティアダウンを通じて明らかになった各社の設計思想は、それぞれが目指す「効率」と「体験」の定義の違いを鮮明に映し出しており、競合比較における極めて重要なインテリジェンスを提供している 。







