
1. エグゼクティブサマリー
2026年初頭、世界のアルミ電解コンデンサ産業は、かつてない規模の構造的転換期を迎えている。
長年にわたり、材料科学の深さと製造プロセスの暗黙知によって市場を支配してきた日本の「御三家(Gosanke)」――日本ケミコン、ニチコン、ルビコン――は、現在、中国の競合他社による猛烈な追い上げと、グローバルなサプライチェーンの再編という二重の圧力に晒されている。
本報告書の分析によると、2026年は中国の南通江海(Nantong Jianghai)および湖南艾華(Hunan Aihua / AiSHi)が、単なる「コストリーダー」から「技術的対等者」へと完全に変貌を遂げる分水嶺となる。
特に、電気自動車(xEV)やAIデータセンターの電源回路に不可欠な「導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ」の分野において、中国勢は日本メーカーの主力製品と遜色のない性能(ESR、リプル電流耐量、寿命)を実現しつつあり、欧米のティア1サプライヤーによる採用が進んでいる。
日本ケミコンは、2026年3月期の業績予想において営業利益の倍増(75億円)を見込むなど回復基調にあるが 、これは構造改革と円安効果によるものであり、汎用市場におけるシェア喪失は止まっていない。
一方、中国勢は、電極箔の自社生産比率の高さ(江海は約75%)と、安価な電力供給を背景とした圧倒的なコスト競争力(日本勢に対し15-20%の優位性)を武器に、市場の「ボリュームゾーン」を完全に掌握しつつある。
さらに、本報告書は新たなリスク要因として、導電性高分子コンデンサの核心材料である「PEDOT:PSS」の前駆体供給における中国への依存集中を指摘する。
これは、日本の高付加価値戦略の根幹を揺るがしかねない地政学的脆弱性であり、サプライチェーンの安全保障という観点からも、「御三家」の安泰は保証されていないと結論付ける。
2. 序論:2026年、受動部品市場の構造転換点
2.1 市場概況とマクロ経済的背景
2026年のアルミ電解コンデンサ市場は、表面的な数値以上の激動の最中にある。
市場調査によると、世界のアルミ電解コンデンサ市場規模は2025年の約60億ドルから、2035年には81億ドルへと緩やかながら着実な成長(CAGR 3.02%)が予測されている 。
しかし、この「安定成長」という総論は、各論における激しいシェア争奪戦を覆い隠している。
従来、この市場は「液体電解質」を用いた標準的なアルミ電解コンデンサが主役であったが、2026年時点では、成長の軸足は完全に「導電性高分子(ポリマー)」および「ハイブリッド」タイプへと移行している。
導電性高分子ハイブリッドコンデンサ市場は、2025年の24.9億ドルから2032年には43.0億ドルへと、年平均成長率(CAGR)8.10%での急拡大が見込まれている 。
この高成長セグメントこそが、日中メーカーが死闘を繰り広げる主戦場である。
2.2 「安泰」の定義:利益構造と市場シェアの乖離
本報告書における「安泰か?」という問いに対し、単に「倒産しない」という意味であれば、日本の御三家は安泰である。
しかし、「グローバルリーダーとしての地位を維持できるか」という意味においては、その地位は極めて危ういと言わざるを得ない。
日本の御三家は、高収益な車載・産業機器向けの高付加価値品にリソースを集中させる「選択と集中」を進めてきた。これは生存戦略として正しいが、結果として市場全体のボリュームゾーン(民生機器、白物家電、標準的な電源アダプタ)におけるプレゼンスは低下の一途をたどっている。
一方、中国メーカーは、広大な国内市場(EV、家電、再エネ)を背景にボリュームゾーンで利益を上げ、そのキャッシュフローをハイエンド製品の研究開発(R&D)に再投資するという好循環を実現している。
2.3 xEVとAIサーバーが牽引する新たな需要曲線
2026年の需要を牽引するのは、もはやスマートフォンやPCではない。
以下の2つのメガトレンドが、コンデンサに求められる物理特性を根本から変えている。
- xEV(電動車)の進化とSiC/GaNの採用: 電気自動車のトラクションインバータやオンボードチャージャー(OBC)では、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といった次世代パワー半導体の採用が進んでいる。これらは高速スイッチングを可能にする反面、コンデンサに対して極めて低い等価直列抵抗(ESR)と、高温環境下(125℃~150℃)での高いリプル電流耐量を要求する。従来の液体電解質のみではこの要求に応えられず、ハイブリッドコンデンサの独壇場となっている。
- AIデータセンターの電力密度上昇: NVIDIAのBlackwellアーキテクチャに代表される次世代GPUサーバーは、ラックあたりの消費電力が数万ワットに達する。マザーボード上の電圧安定化(デカップリング)には、小型で大容量、かつ瞬時の負荷変動に追従できるポリマーコンデンサが大量に必要とされている 。
この技術的要求の変化こそが、後発メーカーである中国勢にとっての「参入の窓」となった。
彼らはレガシーな液体電解質の設備投資負担が比較的軽く、最初からハイブリッドやポリマーに最適化した設備投資を行うことができたからである。
3. 日本勢「御三家」の現状分析:守城の戦いと構造改革
日本のコンデンサメーカーは、技術力においては依然として世界最高水準にあるが、経営環境は円安の恩恵と原材料高騰の板挟みにある。
3.1 日本ケミコン:業界盟主の苦悩と再生への道筋(FY2026展望)
日本ケミコン(以下、日ケミコン)は、アルミ電解コンデンサの世界シェア首位を争うトップメーカーであり、技術開発力においても業界をリードしてきた。
しかし、ここ数年は米国での独占禁止法関連の訴訟費用や、民生機器需要の低迷により、財務的に苦しい局面が続いていた。
FY2026(2026年3月期)の財務見通し
最新のアナリストレポートおよび会社発表によると、日ケミコンの2026年3月期の業績は劇的な回復基調にある。
- 売上高: 1,460億円(前年比 +19.0%)
- 営業利益: 75億円(前年比 +100.5%)
- 経常利益: 58億円(前年比 +269.9%)
- 純利益: 44億円(前年比 +11,791%)
このV字回復の背景には、不採算製品の撤退や人員配置の適正化といった構造改革の成果に加え、ハイブリッドコンデンサ「HXF」シリーズなどの車載向け高付加価値製品の販売増がある。
特に、営業利益率が約5.1%まで改善する見込みであることは、同社が「量より質」への転換を進めている証左である。
戦略的ピボット:ハイブリッドへの集中投資
日ケミコンは、第10次中期経営計画において、ハイブリッドコンデンサの生産能力増強を最重要課題の一つに掲げている。
サムヨン電子(韓国)やジャパン・インダストリアル・ソリューションズからの出資を受け入れ、財務基盤を強化しつつ、山形工場などの国内拠点にスマートファクトリー化の投資を行っている 。
これは、中国勢が容易に模倣できない「すり合わせ技術」が必要なハイブリッド製品で勝負する姿勢を明確にしている。
3.2 ニチコン:「NECST」戦略によるエネルギー企業への脱皮
ニチコンは、単なる部品メーカーからの脱却を最も早くから進めてきた企業である。
同社の「NECST(Nichicon Energy Control System Technology)」プロジェクトは、家庭用蓄電システムやV2H(Vehicle to Home)機器を核としたエネルギーソリューションビジネスであり、2026年現在、部品事業と並ぶ収益の柱に成長している。
部品事業の堅守
コンデンサ事業においては、xEV向けに特化している。特に、インバータ平滑用の「フィルムコンデンサ」において、パナソニックと並ぶ主要サプライヤーの地位を確立している。
フィルムコンデンサはアルミ電解に比べて高電圧耐性に優れており、800Vシステムへの移行が進むEV市場において重要なポジションにある。
アルミ電解においても、「GY」シリーズなどのハイブリッドコンデンサを展開し、日ケミコンと激しく競合している。
3.3 ルビコン:非上場の機動性と車載向け「AEW/LEW」シリーズの勝算
非上場企業であるルビコンは、株主からの短期的な収益圧力に晒されない強みを活かし、独自の技術開発ロードマップを歩んでいる。
長野県伊那市を拠点とする同社は、薄型化や特殊形状のコンデンサ開発に強みを持つ。
2025年後半から2026年にかけて、ルビコンは車載用オンボードチャージャー(OBC)向けに「AEW/LEW」シリーズを投入した 。
これは、ラジアルリード型でありながら105℃の高温度対応と大容量化を実現したもので、電源の小型化に貢献する。ルビコンの戦略は、大量生産品での正面衝突を避け、電源設計者が直面する「隙間」のニーズ(例えば、基板の高さ制限が厳しい場所での高容量化など)を埋める製品群で高マージンを確保することにある。
4. 中国勢の台頭と質的転換:模倣から創造へ
かつて「安かろう悪かろう」の代名詞であった中国製コンデンサは、2026年現在、過去の話となっている。
南通江海と湖南艾華は、それぞれ異なるアプローチで「日本製と同等」の品質と、「日本製には不可能な」コスト構造を実現した。
4.1 南通江海(Nantong Jianghai):日立AIC買収が生んだ技術的ハイブリッド
南通江海(Jianghai)は、中国メーカーの中で最も「日本的」な技術体系を持つ企業である。
その決定的な転機となったのは、日本の日立エーアイシー(Hitachi AIC)のコンデンサ事業買収であった。
技術移転と「消化」の完了
この買収により、Jianghaiは日立が長年培ってきた高圧用アルミ電解コンデンサの設計思想、製造ノウハウ、そして何より「品質管理の文化」を手に入れた。
2026年現在、Jianghaiの主力工場では、日本の技術者が顧問として指導にあたり、製造装置も日本製やドイツ製の最新鋭機が導入されている。
産業機器・再エネ分野での覇権
Jianghaiの強みは、産業機器(インバータ、サーボアンプ)や再生可能エネルギー(風力、太陽光)向けの大型ネジ端子型コンデンサにある。
特に風力発電のピッチ制御用コンデンサや、太陽光発電のパワーコンディショナ用においては、世界的なシェアを拡大している。
また、ハイブリッドコンデンサにおいても「JHA/JHB」シリーズを展開し、日ケミコンの牙城である車載市場へ浸食を始めている 。
4.2 湖南艾華(Hunan Aihua / AiSHi):規模の経済と垂直統合の完成形
湖南艾華(Aihua Group)は、照明用(LED電球など)コンデンサでの圧倒的なシェアを基盤に成長し、現在は民生・車載・産業の全方位で展開する「ボリュームリーダー」である。
圧倒的な内製化率とコスト競争力
Aihuaの最大の武器は、徹底した垂直統合である。
同社は、コンデンサの性能を決定づける「電極箔」のエッチング工程から、封口ゴム、アルミケース、製造装置に至るまでを自社グループ内で内製化している。
電極箔の自給率は70%を超え 、外部調達コストの変動リスクを最小限に抑えている。
AiSHiブランドの車載市場への浸透
「AiSHi」ブランドのハイブリッドコンデンサ「HSA」シリーズは、AEC-Q200準拠を果たし、中国国内のEVメーカー(BYD、Geelyなど)に標準採用されているだけでなく、コストダウン圧力が強い欧州のティア1サプライヤーの認定も取得しつつある。
彼らの戦略は「80点主義」ではなく、「95点の品質を、日本製の70%の価格で提供する」という極めて合理的なものである。
4.3 「チャイナ・プラス・ワン」の逆説:供給網の要塞化
米中対立やサプライチェーンのデカップリングが進む中、中国メーカーも手をこまねいているわけではない。
JianghaiやAihuaは、中国国内での生産能力増強に加え、「チャイナ・プラス・ワン」に対応するため、マレーシアやベトナムへの進出、あるいは欧州での物流・技術センターの設立(Jianghaiのドイツ拠点など)を進めている。
これにより、欧米顧客に対して「非中国生産」のオプションを提供しつつ、実質的な支配力を維持する戦略をとっている。
5. 技術覇権の最前線:導電性高分子ハイブリッドコンデンサの深層比較
ここでは、2026年の市場シェアを左右する戦略製品である「導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ」について、技術的な詳細比較を行う。
5.1 ハイブリッド技術の物理化学的優位性
ハイブリッドコンデンサは、従来の「液体電解質」と「導電性高分子(固体のPEDOT:PSSなど)」を融合させたデバイスである。
- 導電性高分子の役割: 電子伝導を行うため、イオン伝導の液体電解質に比べて抵抗(ESR)が桁違いに低い(数mΩ〜数十mΩ)。これにより、大電流を流しても自己発熱が少なく、リプル電流耐量が向上する。
- 液体電解質の役割: 酸化皮膜(誘電体)の修復(自己修復作用)を担う。純粋な固体高分子コンデンサでは、酸化皮膜の欠陥がショート故障(短絡)につながるリスクがあるが、液体電解質が存在することで、欠陥部を再化成し、絶縁性を回復させる。また、漏れ電流(LC)を低く抑えることができる。
この「低ESR」と「高信頼性(オープンモード故障)」の両立こそが、人命に関わる車載アプリケーションでハイブリッドが必須とされる理由である。
5.2 スペック対決:日本ケミコン「HXF」vs 江海「JHA」vs AiSHi「HSA」
以下の表は、各社の主力ハイブリッドコンデンサ(125℃/135℃保証品、35V/270µF、φ10×10mmサイズ相当)のスペック比較である。
表1: 2026年時点における主要ハイブリッドコンデンサの仕様比較
| 特性 | 日本ケミコン (日本) | 南通江海 (中国) | Aihua / AiSHi (中国) | 比較考察 |
| シリーズ名 | HXF / HXE | JHA / JHB | HSA / HSB | |
| カテゴリ温度範囲 | -55℃ ~ +135℃ | -55℃ ~ +125℃ | -55℃ ~ +125℃ | 日ケミコンが+135℃保証でリード。中国勢も+125℃が標準化。 |
| 耐久性 (Endurance) | 4,000時間 @ 135℃ | 4,000時間 @ 125℃ | 4,000時間 @ 125℃ | 時間スペック上は同等だが、温度マージンは日本勢に分がある。 |
| ESR (20℃, 100kHz) | 20 mΩ (Max) | 20 mΩ (Max) | 24 mΩ (Max) | 江海は日ケミコンと同等。Aihuaはわずかに高い。 |
| 定格リプル電流 | 2,500 mArms | 2,400 mArms | 2,000 mArms | 日ケミコンが最高性能。江海が肉薄。Aihuaは普及帯スペック。 |
| AEC-Q200対応 | 準拠 (ASIL対応可) | 準拠 | 準拠 | 書類上の準拠は各社クリア。実力値の信頼性が鍵。 |
| 電極箔供給 | 内製 (日本国内) | 内製 (中国) | 内製 (中国) | コスト構造は中国勢が圧倒的優位。 |
出所:各社データシートおよび技術資料より統合
5.3 等価直列抵抗(ESR)と許容リプル電流の限界値解析
上記の比較から読み取れる重要な事実は、「南通江海(Jianghai)のスペックは、もはや日本ケミコンとほぼ同等である」ということである。
ESRにおいて20mΩという同一数値を達成していることは、Jianghaiが使用している導電性高分子の分散技術と、電極箔の表面処理技術が世界トップレベルに達していることを意味する。
一方、AihuaはESRが24mΩ、リプル電流が2,000mArmsと、スペック上は10-15%劣る。
しかし、価格面では日本勢より20%以上安価である可能性が高く、過剰なスペックを必要としない「コックピット周りのECU」や「電動コンプレッサー」などの用途では、Aihua製品が最適な選択肢(Best Cost Performance)となり得る。
日本ケミコンの「HXF」が持つ135℃保証の優位性は、エンジンの排熱とインバータの発熱が重なる最も過酷な環境下でのみ発揮される。
EV化によってエンジン熱源がなくなれば、125℃品で十分なケースも増えるため、日本勢の「超高性能」という差別化要因が市場ニーズと乖離するリスクも孕んでいる。
5.4 信頼性と故障モード:ASIL対応における「信用の格差」
スペック表に現れない最大の違いは、「長期信頼性データの蓄積」である。
日本の御三家は、過去数十年にわたる市場不具合データと、加速寿命試験の膨大な相関データを持っている。
特に、ハイブリッドコンデンサの電解液がドライアップ(枯渇)した後の挙動について、日本メーカーは「安全にオープン故障(絶縁状態)になる」ように設計制御するノウハウに長けている。
中国メーカーもAEC-Q200試験(2000サイクルの温度サイクル試験など)はパスしているが、10年・15年という超長期の実フィールドにおける故障メカニズムの解析能力については、依然として欧米ティア1メーカーからの懐疑的な視線(Trust Gap)が存在する。
これが、最重要保安部品(ブレーキ、ステアリング、メインインバータ)において日本勢がシェアを維持している最後の防壁である。
6. サプライチェーンの地政学:電極箔とPEDOTの危機
2026年の勢力図を語る上で、製品そのもの以上に重要なのが、原材料のサプライチェーン構造である。
ここに、日本勢の構造的な弱点と、新たな地政学的リスクが潜んでいる。
6.1 電極箔(エッチング箔)におけるエネルギーコストの非対称性
アルミ電解コンデンサの性能とコストの大部分を決定するのは「陽極箔(アノードフォイル)」である。
このアルミ箔の表面積を電気化学的に拡大する「エッチング工程」は、巨大な電力を消費する産業プロセスである。
- 日本勢の課題: 日本の産業用電気料金は高騰しており、エネルギー集約的なエッチング工程を国内で維持することは、製造原価(COGS)を押し上げる最大の要因となっている。
- 中国勢の優位性: JianghaiやAihuaは、内モンゴル自治区や四川省など、石炭火力や水力発電による安価な電力が豊富な地域にエッチング工場を展開している。また、環境規制(廃酸処理など)への対応コストも、厳格化しているとはいえ、総じて日本より低い。
- 結果: 中国メーカーの内製箔は、日本メーカーの内製箔に比べて、同等性能で20-30%のコストアドバンテージを持つとされる。これが最終製品価格の差に直結している。
6.2 導電性高分子材料(PEDOT:PSS)の供給リスクと中国の支配力
さらに深刻なのが、ハイブリッドコンデンサの心臓部である導電性高分子材料「PEDOT:PSS」の供給網である。PEDOTの原料となるモノマー(EDOT)や酸化剤の生産は、化学合成の複雑さと環境負荷の高さから、欧州や日本から中国へと生産拠点がシフトしてきた経緯がある。
2026年現在、世界のPEDOT関連プレカーサー(前駆体)供給の約48%を中国が支配しているとのデータがある 。
もし地政学的な緊張により、中国がこれらの化学材料の輸出規制を行った場合、原料を輸入に頼る日本のハイブリッドコンデンサ生産ラインは停止に追い込まれるリスクがある。
対して、中国国内で完結したサプライチェーンを持つJianghaiやAihuaは、このリスクに対し強靭性(レジリエンス)を持っている。
これは、かつての「レアアース危機」のコンデンサ版となり得るシナリオであり、日本の御三家にとって看過できない脅威である。
6.3 日本メーカーの調達戦略と脆弱性
日本メーカーは、ヘレウス(ドイツ)や国内化学メーカーからの調達比率を高めることでリスク分散を図っているが、それらの化学メーカー自身も原料の上流工程を中国に依存している場合が多い。
サプライチェーンの完全な「脱中国化」は極めて困難であり、この構造的な脆弱性は2026年時点でも解消されていない。
7. アプリケーション別市場競争力分析
7.1 車載用xEVインバータ:800V化とSiCパワー半導体への追従
EVの電圧システムが400Vから800Vへと移行する中、コンデンサへの要求も変化している。
- メインインバータ(DC-Link): ここでは高耐圧が必要なため、アルミ電解ではなく「蒸着フィルムコンデンサ」が主流である。ニチコンはこの分野で強力な製品群(EVフィルム)を持ち、Jianghaiも日立AICの技術をベースに参入している。日ケミコンはアルミ電解に特化しているため、このメイン市場の一部を取りこぼすリスクがある。
- 補機系(DC-DC、OBC): ここがハイブリッドアルミ電解の主戦場である。日本勢は135℃/150℃対応品で先行するが、JianghaiがJHAシリーズで急速にシェアを奪っている。特に、中国市場向けのEV(テスラ上海工場生産分を含む)では、ローカルサプライチェーンの採用圧力が高く、中国製コンデンサの採用が標準化している。
7.2 産業機器・ロボティクス:スマートファクトリーが生む需要
産業用ロボットやサーボアンプの分野では、長寿命と耐振動性が求められる。
Jianghaiは、ネジ端子型やスナップイン型の大型アルミ電解コンデンサにおいて、日立AIC譲りの高信頼性設計と中国の低コスト生産を組み合わせ、欧州の産業機器メーカー(Siemens, Schneider Electricなど)への食い込みを強めている。
日本勢は、安川電機やファナックといった国内の強力な顧客基盤を持つが、グローバル市場でのシェア維持は予断を許さない。
7.3 民生機器・白物家電:コモディティ市場の完全なる主権交代
PCのマザーボード、エアコンのインバータ基板、スマートフォンの充電器といった市場では、日本勢の敗北はほぼ確定している。
これらの市場では「十分な性能(Good Enough)」と「圧倒的な安さ」が求められるため、Aihuaやその他の台湾メーカー(Lelon, Apaq)が市場を席巻している。
日本勢は、この市場からの撤退戦をほぼ完了し、高付加価値品へリソースを集中させているが、それは同時に「量産効果による固定費吸収」の機会を失うことも意味する。
8. 2026-2030年のシナリオ分析と結論
8.1 「御三家」の生き残り戦略:ニッチトップへの回帰か、ソリューション化か
2026年以降、日本の御三家が生き残るための道は以下の2つに集約される。
- ハイエンド・ニッチトップ戦略: 競合他社が追随できない超高性能領域(例:150℃超の高温対応、宇宙・航空用途、医療機器、特殊な産業用電源)に特化し、高い限界利益率を維持する。日ケミコンのHXFシリーズやルビコンのカスタム品がこれに該当する。
- モジュール・ソリューション戦略: 単なる「部品売り」から脱却し、コンデンサを含む電源ユニットや蓄電システム全体を提供する。ニチコンのNECST事業が最も成功している例であり、他社もこのモデルへの追従を模索する必要がある。
8.2 投資家・調達担当者への戦略的提言
投資家への視点:
- 日本株(御三家): 短期的には構造改革と円安効果で業績回復が見込めるが、長期的には中国勢との価格競争に巻き込まれるリスクが高い。「ホールド」またはニチコンのような多角化企業への選別投資が賢明である。
- 中国株(Jianghai/Aihua): 成長余地は依然として大きい。特にJianghaiは、日系技術のDNAと中国のコスト構造を併せ持つ「ハイブリッド企業」として、グローバルメジャーへ飛躍する可能性が高い。「買い」の推奨となる。
調達・設計担当者への視点:
- マルチソース化の必須: もはや「日本製なら安心、中国製は不安」という時代ではない。サプライチェーンのBCP(事業継続計画)観点から、日本メーカーをプライマリーとしつつ、JianghaiやAihuaをセカンダリーとして認定・採用することは必須のアクションである。
- 材料リスクの確認: ハイブリッドコンデンサを選定する際は、PEDOT等の原材料の調達ルートを確認し、特定国への依存リスクを評価に組み込むべきである。
結論:御三家は安泰か?
結論として、「日本の御三家は、現在の規模と市場支配力を維持するという意味では安泰ではない」。
汎用市場とボリュームゾーンにおける中国勢の侵食は不可逆的であり、JianghaiとAihuaの実力はもはや「安価な代替品」の域を超え、一部のスペックでは日本勢と互角に渡り合っている。
しかし、御三家が即座に消滅するわけではない。彼らはより高度な技術、より過酷な環境、より高い信頼性が求められる「要塞」へと撤退し、そこで強固な利益基盤を築くだろう。
2026年の勢力図は、「平地を制圧した中国勢」と「高地を死守する日本勢」という、明確な棲み分けと緊張関係の上に成り立っている。
本報告書は、2026年2月時点での公開情報、財務予測、技術仕様書に基づき作成されたものである。
引用ソース
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