

スマートフォンやウェアラブルデバイスの小型化が進む現代において、電子機器の内部には目視では判別が難しいほど小さな部品が数千個も搭載されています。
電子工作や基板設計、製造に関わる際、必ず直面するのが「0402」や「0603」といった謎の数字です。
これらはチップ抵抗やチップコンデンサといった表面実装部品(SMD)のサイズを示すコードですが、実はこの呼び名には「インチ表記」と「ミリ表記」が混在しているという、初心者から中級者までを悩ませる大きな罠が存在します。
この記事では、電子機器設計や製造の現場で必須となる部品サイズの読み方、サイズごとの特性、そして実装現場での注意点までを網羅的に解説します。
この記事を読み終える頃には、仕様書に記載された数字を一目で理解し、適切な部品選定や設計判断ができるようになるはずです。
電子部品サイズの定義と背景:なぜサイズ規格が重要なのか
電子部品のサイズ規格とは、主に「チップ抵抗」や「チップ積層セラミックコンデンサ(MLCC)」などの、リード線(足)を持たない表面実装部品の外形寸法を定めたものです。
かつての電子回路は、基板に穴をあけて部品の足を差し込む「挿入実装(リード部品)」が主流でした。
しかし、機器の小型化と高性能化に伴い、基板の表面に直接ハンダ付けする「表面実装(SMT:Surface Mount Technology)」へと進化しました。
この進化の過程で、限られた基板スペースにどれだけ多くの部品を配置できるかを競うようになり、部品の小型化が加速したのです。
サイズ規格が重要な理由
- 設計ミスを防ぐため基板設計(PCB設計)において、部品の大きさに合わせた「ランド(ハンダ付けするための銅箔パターン)」を作成する必要があります。0402をミリ表記だと思い込んで設計したところに、インチ表記の0402(ミリ換算で1005)を載せようとしても、サイズが全く異なるため実装できません。
- 製造ラインの適合性部品を基板に配置する「チップマウンター(自動装着機)」には、扱える部品の最小サイズと最大サイズが決まっています。最新の超小型部品(0201サイズなど)を扱うには、それに対応した高精度なノズルやカメラ認識システムが必要です。
- 電気的特性と信頼性一般的に、部品サイズが大きければ大きいほど、耐電圧(耐えられる電圧)や定格電力(流せる電流の限界)が高くなります。逆に小型化すると、熱がこもりやすくなったり、ハンダ付けの強度が低下したりするリスクが生じます。
具体的な仕組み:インチ表記とミリ表記の複雑な関係
電子部品のサイズを表す4桁(または6桁)の数字は、その部品の「長さ」と「幅」を組み合わせて表現されています。
ここで最も注意すべきは、日本国内で一般的に使われる「ミリ(JIS規格)」と、米国を中心に普及している「インチ(EIA規格)」の2種類が併存している点です。
0402と0603の正体
多くの初心者が混乱する原因は、同じ「0402」という呼び名で、全く異なる2つのサイズが存在することです。
- 0402(インチ表記)長さ0.04インチ × 幅0.02インチを指します。これをミリメートルに換算すると、約1.0mm × 0.5mmになります。日本ではこれを「1005(イチマルマルゴー)」と呼ぶのが一般的です。
- 0402(ミリ表記)長さ0.4mm × 幅0.2mmを指します。これは非常に小さな部品で、最新のスマートフォンなどに使われます。インチ表記では「01005」と呼ばれます。
このように、数字だけを見るとどちらを指しているか判断できません。
カタログや仕様書を確認する際は、必ず単位が「mm」なのか「inch」なのかを確認する習慣をつける必要があります。
主要なサイズ対応表
以下に、現場で頻繁に使用されるサイズの対応表をまとめました。
| インチ表記 (EIA) | ミリ表記 (JIS/公称) | 寸法(長さmm × 幅mm) | 主な用途・特徴 |
| 01005 | 0402 | 0.4 × 0.2 | スマホ、モジュール、最新デバイス |
| 0201 | 0603 | 0.6 × 0.3 | スマホ、高密度実装基板 |
| 0402 | 1005 | 1.0 × 0.5 | 一般的な電子機器の主力サイズ |
| 0603 | 1608 | 1.6 × 0.8 | 家電、産業機器、扱いやすい最小サイズ |
| 0805 | 2012 | 2.0 × 1.25 | 電源回路、LED、汎用部品 |
| 1206 | 3216 | 3.2 × 1.6 | 大電力回路、耐圧が必要な箇所 |
構造の数値化
たとえば「1608」というミリ表記の場合、前の2桁「16」が長さ1.6mmを、後ろの2桁「08」が幅0.8mmを表しています。
厚みについては、この4桁の数字には含まれず、部品の種類によって異なります。コンデンサの場合は容量が大きくなるほど厚みが増す傾向があります。
作業の具体的な流れ:部品選定から実装確認まで
実際に基板を設計・製造する際、部品サイズをどのように扱い、プロセスを進めていくべきかをステップごとに解説します。
ステップ1:要求仕様の確認
まず、その回路に求められる性能を確認します。
たとえば、高い電圧がかかる回路や大きな電流が流れる回路では、0603(1608ミリ)以上のサイズが選ばれます。
逆に、スマートフォンのような極限の省スペースが求められる場合は、0201(0603ミリ)以下を選択肢に入れます。
この段階で、プロジェクト全体で「インチ表記」と「ミリ表記」のどちらを標準とするか決定し、混同を防ぎます。
ステップ2:フットプリントの作成
CAD(設計ソフト)を用いて、基板上の銅箔パターン(ランド)を設計します。
部品サイズが1.0mm × 0.5mmだからといって、ランドも同じサイズにしてはいけません。
ハンダが適切にフィレット(富士山のような傾斜)を作るための余白が必要です。
部品メーカーのデータシートには、推奨されるランド寸法が記載されているため、必ずそれを参照します。
ステップ3:メタルマスクの設計
基板にハンダペースト(クリームハンダ)を塗布するための金網(メタルマスク)を設計します。
部品が小型化(例:0402ミリ)すると、メタルの開口部が非常に小さくなり、ハンダが網に残ってしまう「抜け不良」が起きやすくなります。
開口の形状やメタルの厚みを調整し、適切な量のハンダが供給されるようにします。
ステップ4:実装(マウント)とリフロー
チップマウンターで部品を載せ、リフロー炉で加熱してハンダ付けします。
小型部品になればなるほど、マウンターの吸着ノズルの精度が重要になります。
また、加熱中に部品が片側に引っ張られて立ち上がってしまう「マンハッタン現象(墓石現象)」が発生しやすいため、左右のランドバランスを均等に保つことが求められます。
ステップ5:外観検査(AOI)
自動外観検査装置(AOI)を用いて、正しくハンダ付けされているかを確認します。
0402(1005ミリ)までは目視での確認も可能ですが、それ以下のサイズになると顕微鏡や高解像度カメラによる自動検査が不可欠です。
部品がズレていないか、ハンダが十分に回っているかをデジタルデータで判定します。
最新の技術トレンドや将来性
電子部品の小型化競争は、いまや物理的な限界に近づきつつありますが、新たな技術革新によってさらなる高密度化が進んでいます。
0201(ミリ)サイズの普及
これまでは0402(ミリ)が最小クラスでしたが、現在はさらに小さい「0201(0.25mm × 0.125mm)」サイズの量産も始まっています。
このサイズになると、空気中の静電気で部品が飛んでいってしまうほど軽く、実装には極めて高度な技術が必要です。
主に、次世代の5G/6G通信モジュールや、高機能なウェアラブル端末での採用が見込まれています。
埋め込み部品技術
基板の表面に部品を載せるのではなく、多層基板の「内部」に部品を埋め込む技術(部品内蔵基板)が進化しています。
これにより、基板表面のスペースをさらに節約でき、信号経路を短縮することでノイズ耐性も向上します。
ここでは、極薄のチップコンデンサなどが活躍しています。
3D実装とモジュール化
部品単体ではなく、複数の部品をあらかじめ小さなパッケージにまとめた「システム・イン・パッケージ(SiP)」が主流になりつつあります。
内部では01005(インチ)などの微細部品が密集しており、最終製品メーカーはこれらを一つの部品として扱うことで、設計の簡略化と小型化を両立させています。
環境負荷への対応
小型化は、材料の使用量を減らすという観点で環境負荷低減に寄与します。
一方で、修理(リペア)が困難になるという課題もあります。
最新のトレンドでは、微細な部品を維持しつつも、リサイクルや分解がしやすい構造設計も研究されています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 0402(1005ミリ)の部品を、手作業でハンダ付けすることは可能ですか?
A1. 可能です。
ただし、熟練の技術と、極細のコテ先、高性能なピンセット、そして拡大鏡(または実体顕微鏡)が必要になります。
一般的には1608(0603インチ)サイズまでが、趣味の電子工作でストレスなく扱える限界と言われています。
Q2. 部品サイズを小さくすることのデメリットは何ですか?
A2. 主に「電気的容量の低下」と「放熱性の悪化」です。
たとえば、コンデンサの場合、サイズが小さくなると蓄えられる電気量が減ります。
また、抵抗器の場合、サイズが小さいと熱を逃がしにくいため、大きな電力を扱うことができません。
設計時はサイズだけでなく、定格表を必ず確認してください。
Q3. カタログに「1005」とだけ書いてある場合、どちらの単位かどう見分ければよいですか?
A3. 日本メーカーのカタログで「1005」と4桁で書かれている場合は、ほぼ100%「ミリ表記(1.0mm × 0.5mm)」です。
海外メーカーや英語のドキュメントで「0402」とある場合は「インチ表記(1.0mm × 0.5mm)」を指すことが多いです。
不安な場合は、そのカタログ内の「Dimensions(寸法)」の項目を探し、単位(mmまたはinch)を確認するのが最も確実です。
Q4. 同じサイズであれば、メーカーが違っても互換性はありますか?
A4. 外形寸法については規格化されているため互換性がありますが、厚みや電極のメッキ材質、特性(温度変化による容量変化など)はメーカーごとに異なります。
特に精密な高周波回路や電源回路では、メーカー指定の部品を使用することが推奨されます。
まとめ
電子部品のサイズ表記である「0402」や「0603」は、現代の電子機器を支える共通言語です。
しかし、そこにはインチとミリという二つの規格が混在しており、呼び方が同じでもサイズが全く異なるという落とし穴があります。
重要なポイントを振り返ります。
- 0402(インチ) = 1005(ミリ)
- 0603(インチ) = 1608(ミリ)
- 日本ではミリ表記(1005、1608など)が一般的だが、海外や最新技術ではインチ表記も多用される。
- 小型化すれば省スペースになるが、電力や電圧の制限、実装難易度の上昇というトレードオフがある。
これから基板設計や製造に携わる方は、まず「自分が扱っている数字の単位は何か」を常に意識することから始めてください。
データシートを正確に読み解く力こそが、トラブルのないスムーズなものづくりへの第一歩となります。




