基板のリバースエンジニアリングは違法か?エンジニアが知るべき「解析」と「模倣」の境界線【不正競争防止法と特許法】

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技術開発の現場において、競合他社の製品を入手し、分解や調査を行う「ベンチマーク」は日常的に行われています。その中でも、電子回路基板の回路構成や部品配置を読み解く「リバースエンジニアリング」は、技術トレンドを知る上で非常に有効な手段です。

しかし、エンジニアや経営者の皆様の中には、このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

「他社の基板を勝手に解析することは、法律違反になるのではないか?」 「解析して得た知見を自社製品に取り入れると、訴えられるリスクがあるのでは?」

結論から申し上げますと、基板のリバースエンジニアリングという行為そのものは、原則として違法ではありません。しかし、そこには明確な「越えてはいけない一線」が存在します。

この境界線を見誤ると、不正競争防止法違反や特許権侵害として、多額の損害賠償を請求される事態になりかねません。

この記事では、ハードウェア開発に関わる全ての方が知っておくべき、リバースエンジニアリングの法的な安全性とリスク、そしてプロとして守るべき倫理観について、専門的な視点から徹底解説します。

目次

結論:基板のリバースエンジニアリング自体は「原則合法」である

まず、最も重要な前提を共有します。市場に流通している製品を購入し、それを分解・解析・調査する行為(リバースエンジニアリング)自体を禁止する法律は、日本の現行法には存在しません。

これは、技術の進歩が「既存技術の学習と改良」によって成り立っているからです。

もし、全ての解析行為が禁止されれば、後発メーカーは技術を学ぶ機会を失い、市場の技術革新が停滞してしまいます。

したがって、適法に入手した製品を、自社の研究所やデスクで分解し、顕微鏡で回路パターンを追うこと自体は何ら問題ありません。

しかし、ここで注意が必要なのは、「解析すること(インプット)」と「解析結果を使って製品を作ること(アウトプット)」は、法的には全く別の問題として扱われるという点です。

解析行為が合法であっても、その結果として生み出された製品が、他社の権利を侵害していれば違法となります。つまり、問題の本質は「行為」ではなく「結果と利用方法」にあるのです。

エンジニアはこの違いを明確に認識しておく必要があります。

違法となる3つの重大なケース(レッドライン)

では、具体的にどのようなケースが違法となるのでしょうか。

基板のリバースエンジニアリングにおいて、絶対に踏んではいけない3つの「レッドライン」を解説します。

【不正競争防止法】デッドコピー(形態模倣)の禁止

最も注意すべきなのが「不正競争防止法」で規定されている「形態模倣行為」の禁止です。これは通称「デッドコピー」と呼ばれます。

具体的には、他社の商品の形態(この場合は基板のパターン配置や部品構成など)をそのまま模倣した商品を譲渡・貸与・輸出入等する行為を指します。

独自の研究開発を行わず、他社の成果に「タダ乗り」する行為は、公正な競争を阻害するため禁止されています。

特に重要なのは、日本国内において製品が最初に販売された日から「3年間」は、この形態模倣が厳しく制限されるという点です。

発売直後の製品を解析し、基板のアートワークをスキャンしてコピーしたような製品を販売すれば、ほぼ確実に違法となります。

逆に言えば、独自に設計思想を取り入れて変更を加えた場合や、販売から3年が経過した製品については、この条項の適用外となるケースが多くなります。

※参考サイト:経済産業省 不正競争防止法の概要(e-Gov等の法令検索ではなく、経産省の解説ページへのリンクを推奨します)

【特許法】解析結果が特許技術に抵触している場合

次に意識すべきは「特許権」です。デッドコピーが「見た目の模倣」であるのに対し、特許は「技術的アイデア」を保護します。

もし、解析対象の基板に使われている回路構成や制御方式が特許として登録されている場合、基板のレイアウト(見た目)を大幅に変えたとしても、技術的な仕組みが同じであれば特許権侵害となります。

「リバースエンジニアリングで独自の回路図を起こし、自分たちで再設計したから大丈夫」という理屈は、特許法においては通用しません。

その回路が実現している機能や方式が、特許の請求の範囲(クレーム)に含まれているかどうかが判断基準となります。

そのため、解析を行う前、あるいは製品化する前には、必ず「侵害予防調査(パテントクリアランス)」を行う必要があります。

※参考サイト:J-PlatPat 特許情報プラットフォーム(独立行政法人工業所有権情報・研修館)

【契約違反】利用規約や秘密保持契約(NDA)による制約

3つ目は、法律そのものではなく「契約」による縛りです。これはBtoBの取引で特によく見られます。

例えば、高価な産業用機器や開発キットを購入する際、「本製品のリバースエンジニアリングを禁止する」という条項が含まれた契約書にサインをしたり、そのような利用規約(EULA)に同意したりするケースがあります。

この場合、リバースエンジニアリングを行ったこと自体が「契約違反(債務不履行)」となります。法律上の違法性とは異なりますが、契約違反として相手方から損害賠償を請求されるリスクがあります。

「製品を買ったのだから所有権は自分にある」と考えがちですが、契約によって使用方法が制限されている場合は、その契約が優先されることがあるため注意が必要です。

基板上の「ファームウェア」吸い出しは著作権法のリスクがある

ハードウェアとしての基板そのものだけでなく、そこに実装されているマイコンやメモリ内の「プログラム(ファームウェア)」については、さらに慎重な判断が求められます。

ハードウェアとソフトウェアの法的保護の違い

回路基板のパターン配置などは、著作権法での保護対象になりにくい(工業製品としての意匠権や特許権の範疇となる)のに対し、プログラムは「著作権物」として明確に保護されています。

基板上のROMからプログラムを吸い出し(ダンピング)、それを解析して複製したり、改変して自社製品に組み込んだりする行為は、著作権法違反となる可能性が極めて高いです。

私的利用の範囲を超え、業務として解析・複製を行う場合は、著作権者の許諾が必要となるのが原則です。

技術的制限手段(セキュリティ)の回避と改正不正競争防止法

近年の基板上のチップには、読み出し防止機能(リードプロテクト)などのセキュリティが施されていることが一般的です。

改正された不正競争防止法では、これらの「技術的制限手段」を無効化する機能を持つ装置やプログラムを提供することだけでなく、場合によっては無効化する行為そのものが規制の対象となることもあります。

営業秘密を不正に取得する目的でセキュリティを突破する行為は、民事・刑事の両面で責任を問われる可能性があります。

プロテクトがかかっているということは、メーカーが「秘密として管理している」という意思表示ですので、それを無理やり解除することは避けるべきです。

自社製品を守るために:リバースエンジニアリング対策(防衛)

ここまでは「解析する側」のリスクを解説しましたが、逆に「自社の技術を守りたい側」の視点も重要です。

競合他社に簡単に解析されないためには、どのような対策が有効なのでしょうか。

物理的な防御:ポッティングとマーキング除去

最も古典的かつ効果的なのは、物理的に見えなくすることです。

  • ポッティング(樹脂封止): 基板の主要な回路部分を、硬化する樹脂(エポキシなど)で埋めてしまいます。樹脂を剥がそうとすると部品も一緒に破壊されるため、解析の難易度は劇的に上がります。
  • IC表面の研磨(型番消し): 主要なチップの表面をレーザーやサンドブラストで削り、型番を読めなくします。何の部品が使われているか分からなければ、回路の動作を推測するのに膨大な時間がかかります。

論理的な防御:暗号化チップと難読化回路

現代的な防御策としては、セキュリティチップの導入が挙げられます。

ファームウェアを暗号化し、正規の鍵を持つチップでなければ動作しないように設計します。

また、基板のアートワーク設計時に、あえて無駄な配線を増やしたり、多層基板の内層に重要なラインを隠したりする「難読化」も有効です。

リスクを回避して安全にベンチマークを行うためのチェックリスト

最後に、業務としてリバースエンジニアリングを行う際に、トラブルを未然に防ぐためのチェックリストを提示します。

  1. 入手経路の確認: 正規ルートで購入したものか?盗品や不正流出物ではないか?
  2. 契約の確認: 購入時に「解析禁止」の契約を結んでいないか?
  3. 発売日の確認: 発売から3年以内の製品で、デッドコピーになるような製品開発をしていないか?
  4. 特許調査: 解析対象の製品に関連する特許が存在しないか、弁理士等の専門家と連携しているか?
  5. 目的の明確化: 単なる模倣ではなく、学習や互換性確保など、正当な目的があるか?

リバースエンジニアリングは、「盗む」ための技術ではなく、「学ぶ」ための技術であるべきです。

法律というルールを正しく理解し、敬意を持って先人の技術を解析することで、より優れた新しい技術を生み出してください。

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