
1. エグゼクティブ・サマリー:アナログICの「新価格」時代の到来
2026年2月第3週、アナログIC市場は大きな転換点を迎えました。2月1日より発動されたAnalog Devices (ADI) の全製品値上げ(10〜30%)が代理店システムに完全反映され、実装基板のBOMコストを直接的に押し上げています。
一方で、ルネサス エレクトロニクスはタイミング事業のSiTime社への譲渡を発表(2月5日)し、同時にレガシーなアナログ・マイコン製品のEOL(生産終了)通知を連発しています。
調達現場では、単なる「品薄」への対応から、メーカーの事業構造改革に伴う「恒久的な代替選定」へのシフトが急務となっています。
2. アナログIC市場:ADI値上げの激震とTIの「リビジョン統合」
Analog Devices (ADI):新価格適用の混乱と再見積もり
ADIが2025年12月に予告していた価格改定が、2月1日より正式に開始されました。
- 値上げ幅: 標準商業用で 10〜15%、産業用で 約15%、軍用グレード(/883)では 最大30%。
- バックログ(注文残)への適用: 注目すべきは、多くの一次代理店において「2月1日以降の出荷分」に新価格が適用されている点です。これにより、旧価格で予算化していたプロジェクトで大規模な赤字要因が発生しており、実装受託(EMS)企業とセットメーカーの間でコスト転嫁の交渉が激化しています。
- 背景: 原材料費、労務費、エネルギーコストのインフレに加え、ADIの強力な価格決定権が背景にあります。
Texas Instruments (TI):LM358/LM324等の次世代リビジョンへの強制移行
TIは、長年のロングセラーである汎用オペアンプ LM358 や LM324 において、旧来のプロセスによる製品を順次廃止し、最新の「B」リビジョン(LM358B/LM324B等)への集約を加速させています。
- 戦略: 性能向上(高耐圧化、低オフセット化)を理由としていますが、実質的には旧世代設備の閉鎖によるコスト最適化です。
- 注意点: 一部のレガシーな回路設計において、高速化した「B」リビジョンに置き換えた際、発振などの不具合が発生するケースが報じられており、単なる「P2P(ピン互換)」として扱わず、再評価を行う必要があります。
【一次ソース】
- Analog Devices Reportedly Plans 10–30% Price Hike from Feb. 2026 – TrendForce
- LM358/LM324 Family Next-Generation Versions – Texas Instruments
3. マイコン(MCU)市場:ルネサスの広範なEOLプロセスとリードタイム延伸
ルネサス (Renesas):2月1日付の新たなEOL通知(EOL260002)
ルネサスは2026年2月1日、汎用リニアIC(SOPパッケージ製品)を中心に大規模なEOL通知を発行しました。
- 対象: UPC1251G2、REAC1251シリーズなど。
- 理由: 後工程(パッケージング)拠点のUTAC Thai Limitedへの集約に伴う型番統合。
- 重要期限: 最終受注日(LTB)は 2026年3月30日、最終出荷日(LTS)は2026年7月31日。
- 対策: 多くの製品に後継品(末尾に#GCA等がつくもの)が設定されていますが、型番変更に伴うBOMの書き換えと認証の再取得が必要です。
センサーIC (ZSSCシリーズ) の継続アラート
1月に発表されたセンサーシグナルコンディショナ ZSSC3016, 3026, 3036シリーズ のEOLプロセス(PLC250055)も進行中です。
- LTB期限: 2026年6月30日。
- 状況: 代替品が「None」とされるケースが多く、他社製への置き換え評価が業界全体で始まっています。
リードタイム動向:STMicro / NXP / Renesas
2026年2月現在のMCUリードタイムは、車載・産業向けのハイエンド品で依然として厳しい状況です。
- STMicroelectronics: STM32シリーズの特定型番(STM32F4等)で 28週〜55週。
- NXP: 車載用SPC5シリーズ、産業用LPCシリーズで 20週〜45週。
- Renesas: R5Fシリーズ(RL78等)で 20週〜45週。
【一次ソース】
- Renesas End of Life Notice (EOL260002) – Renesas Official
- 2025-2026 MCU Lead Time Extensions – Fusion Worldwide
4. ロジックIC・タイミング事業:SiTimeへの移管と供給安定性への懸念
ルネサス・タイミング事業のSiTime社への譲渡 (2月5日発表)
ルネサスは、クロックジェネレータ、バッファ、ネットワーク同期製品を含むタイミング事業を 30億ドル でSiTime社へ譲渡することを決定しました。
- 背景: ルネサスは「組み込みコンピューティング(マイコン、SoC)」へリソースを集中させ、タイミングデバイスはSiTimeからの供給を受ける体制へ転換します。
- リスク: 譲渡完了は2026年末の予定ですが、SiTimeはMEMS技術をコアとしています。旧IDT由来の水晶ベース製品の長期的な保守・供給継続については不透明感があり、長期製品寿命(10年以上)を求める産業機器メーカーは警戒を強めています。
【一次ソース】
- Notice Regarding Business Transfer of Consolidated Subsidiary – Renesas
- SiTime to acquire Renesas timing business – Evertiq
5. 調達・設計部門への「火曜日の提言」
今すぐ行うべき3つのアクション
- ルネサス汎用リニアICのLTB確認: 3月30日の受注期限(EOL260002)に向け、SOPパッケージ製品の在庫確保または後継品への切り替えを本日中に決断してください。
- ADI新価格のBOM反映: 予算超過を防ぐため、2月以降の納品予定分について代理店から最新の見積もりを取り直し、原価計算を更新してください。
- タイミングデバイスのセカンドソース確保: ルネサス(旧IDT)製品のSiTime移管を見越し、MicrochipやTI、エプソンなどの水晶振動子・発振器メーカーへのセカンドソース評価を開始してください。
【免責事項】 本レポートは2026年2月17日時点の公開情報を基に作成されています。半導体市場は事業譲渡や価格改定が相次ぐ激動期にあるため、最終的な判断はメーカー公式通知および一次代理店からの回答に基づいて行ってください。

