
1. エグゼクティブ・サマリー:パワーデバイスの「新常態」
2026年2月第3週、パワー半導体市場は劇的なパラダイムシフトの渦中にあります。
これまでEV(電気自動車)が主導してきたパワーデバイス需要は、今やAIデータセンターという新たな巨大な「熱源」によって再定義されています。
今週の最重要ニュースは、Infineon Technologiesによる2026年4月1日付の全方位的な価格改定通知です。
AIサーバーが消費する膨大な電力を管理するためのパワーマネジメントIC(PMIC)や高効率MOSFETの供給が限界に達しており、メーカーは「投資回収」と「供給制限」を目的とした値上げに踏み切りました。
また、onsemiやWolfspeedによるSiC(シリコンカーバイド)へのリソース集中が、レガシーなシリコンMOSFETの供給断絶を招いています。
2. カテゴリ別動向:Infineonの値上げとAIサーバーの影響
Infineon:4月1日よりパワー・IC製品の価格改定(バックログにも適用)
ドイツの半導体大手Infineonは2026年2月5日、顧客に対して衝撃的な価格改定通知を送付しました。
- 実施時期: 2026年4月1日より
- 対象: パワースイッチ(MOSFET, IGBT)、電力制御用IC(PMIC)、および関連するディスクリート製品。
- 値上げの理由: AIデータセンター建設の急加速による需要暴走、およびそれに応えるためのキャパシティ拡張投資(Fab建設等)のコスト増。
- 特筆事項: 「4月1日以降の新規受注」だけでなく、「既存のバックログ(未出荷の注文残)」に対しても新価格を適用するという極めて強気な通告がなされています。
AIサーバーが吸い込む電力:PMICの枯渇
AIサーバー(NVIDIA H200/B100搭載機など)は、1ラックあたり100kWを超える電力を消費します。
これに伴い、高効率なDC-DCコンバータや負荷点(POL)レギュレータに使用されるパワーICのリードタイムが、従来の16週から 45週〜55週 へと急延伸しています。
【一次ソース】
- Infineon to Lift Prices Starting April 2026 Amid AI-Driven Power IC Tightness – TrendForce
- Infineon allegedly hikes prices of power switches and ICs amid AI boom – Tom’s Hardware
3. 次世代材料(SiC/GaN):供給過剰から「戦略的選別」へ
onsemi / Wolfspeed / STMicro:SiCの200mm(8インチ)移行と価格競争
SiC(シリコンカーバイド)市場では、各社が200mmウェハへの移行を急いでいます。
- onsemi: 韓国・富川(Bucheon)工場の200mmラインが本格稼働。AIデータセンターの電源ユニット(PSU)向けSiC MOSFETの供給を強化。
- Wolfspeed: 2026年2月4日の決算発表において、300mm(12インチ)SiC技術のブレークスルーを発表。
- 需給バランス: 低〜中価格帯の産業用SiCでは中国勢の台頭により価格競争が激化していますが、データセンター向けの高効率・高信頼性グレードは依然として「指名買い」の状態が続いています。
GaN(ガリウムナイトライド):サーバーPSU市場での採用拡大
AIサーバーの電力密度向上要求により、AC-DC電源段でのGaN採用が不可欠となっています。Infineonはams OSRAMのセンサー事業買収と並行し、GaNキャパシティの拡充に27億ユーロ(2026会計年度)を投じる計画です。
【一次ソース】
- Wolfspeed Reports Financial Results for the Second Quarter of Fiscal 2026 – Wolfspeed
- First Quarter FY 2026 Quarterly Update – Infineon Technologies
4. EOL(生産終了)およびPCN(変更通知):ディスクリート部品の整理
2026年2月、以下の汎用ディスクリート製品において重要な廃止通知が発行されています。
| メーカー | 部品・カテゴリ | 内容 | 重要期限 / ソース |
| Central Semiconductor | ツェナーダイオード(SMA/SMB) | PDN01283: SMA/SMBパッケージの全ツェナーダイオードがEOL。 | 2026年2月2日通知 / Source |
| Central Semiconductor | SOT-523パッケージ製品 | PDN01276: SOT-523ケース採用の全デバイスが製造終了。 | 2026年1月22日通知 / Source |
| Renesas (ルネサス) | 汎用リニアIC(SOP) | EOL260002: UPC1251等、汎用オペアンプ・コンパレータの廃止。 | LTB: 2026年3月30日 / Source |
| Microchip | MOSFETドライバ等 | CCB 7868: SOT-23パッケージ製品のワイヤ素材変更(CuPdAuへ)。 | 2026年2月11日通知 / Source |
5. 地政学と供給網リスク:Nexperiaの「二分裂」の余波
2025年末にオランダ政府による規制を受けたNexperia(旧フィリップス系)の状況が、2026年Q1の供給に影を落としています。
- 現状: オランダ拠点と中国拠点の分断により、車載・産業向け汎用MOSFET/ダイオードのリードタイムが 6週〜8週延伸。
- 影響: 特に欧州系の自動車メーカーが、NexperiaからonsemiやDiodesへのセカンドソース切り替えを急いでおり、それが市場全体の「汎用在庫」を吸い上げる要因となっています。
【一次ソース】
6. 調達・設計部門への「水曜日の提言」
今すぐ行うべき3つの対策
- Infineonバックログの価格精査: 4月1日出荷分から新価格が適用されるため、未出荷の注文について代理店に「差額精査」を依頼し、コスト増を反映した予算修正を行ってください。
- ルネサスUPC/REACシリーズのLTB確保: 3月30日の受注期限(EOL260002)まで残り40日です。代替品(末尾に#GCA等が付くもの)への切り替え、または現行品の最終確保を即座に完了させてください。
- SMA/SMBパッケージの設計変更検討: Central Semi等の動きに見られる通り、古い表面実装パッケージの廃止が加速しています。次期基板設計ではDFNやWLCSPといった次世代パッケージへの移行を優先してください。
【免責事項】
本レポートは2026年2月18日時点の公開情報を基に作成されています。パワー半導体市場はAI投資と材料費高騰の影響を最も受けやすいセグメントであるため、最終的な判断はメーカー公式通知および一次代理店からの回答に基づいて行ってください。

