
「量子コンピュータの中身って、実際どうなっているのだろう」
そんな疑問を持ってこのページにたどり着いた方は多いはずです。
ニュースや解説記事を読むと「超伝導」「絶対零度に近い温度」といった言葉が必ず出てきます。
しかし、普段使っているパソコンやスマートフォンのチップと何がどう違うのか、具体的にイメージできている人は少ないのではないでしょうか。
この記事では、量子コンピュータの心臓部である超伝導量子ビットが、なぜ極低温でしか動かないのか、そしてその環境をどうやって作り出しているのかを、普通の半導体チップと対比しながら順番に解説します。
読み終える頃には、ニュースで見かける金色に輝く多段構造の装置が、何をしているものなのか、自分の言葉で説明できるようになっているはずです。
そもそも量子コンピュータの「中身」は何でできているのか
情報の最小単位が「ビット」から「量子ビット」に変わる
量子コンピュータの中身を理解する出発点は、情報の数え方そのものが普通のコンピュータと違う、という事実です。
普通のコンピュータは、情報を「0」か「1」のどちらかで表す「ビット」を使って計算します。
一方、量子コンピュータは「量子ビット(キュービット)」という単位を使います。
量子ビットは、0と1のどちらか一方に決まっているのではなく、0と1が同時に重なり合った状態を作ることができます。
この性質を「重ね合わせ」と呼びます。
さらに、複数の量子ビット同士が影響し合う「量子もつれ」という現象も利用します。
これらの量子力学特有の性質を計算に使うことで、特定の種類の問題については、従来のコンピュータでは天文学的な時間がかかる計算を、大幅に短縮できる可能性がある、というのが量子コンピュータの基本的な考え方です。
ここで押さえておきたいのは、量子ビットは「重ね合わせ」という非常に繊細な状態を維持しなければ意味がない、という点です。
繊細さゆえに、その維持には特別な環境が必要になります。
これが、この記事全体を貫くテーマである「なぜ冷やすのか」につながっていきます。
普通のパソコンの中身は「半導体チップ」でできている
比較対象として、普段使っているパソコンやスマートフォンの中身も確認しておきましょう。
普通のコンピュータの頭脳にあたる部分は、シリコンを主原料とした半導体チップです。
このチップの中には、電流のオン・オフを切り替える「トランジスタ」という部品が、最新のものでは数十億から数百億個という規模で集積されています。
トランジスタは、電圧をかけることで電気を通したり遮断したりする、いわばスイッチです。
このオン・オフの組み合わせによって「0」と「1」の並びを表現し、あらゆる計算やデータ処理を行っています。
重要なのは、このトランジスタが、常温、つまり私たちが日常生活を送っている温度環境の中で、安定して「オン」と「オフ」を維持できる、という点です。
量子ビットが極低温という特殊な環境を必要とするのに対して、普通のチップは特別な環境を必要としません。
この違いこそが、量子コンピュータと普通のコンピュータの「中身」を分ける最大のポイントであり、次の章で詳しく見ていきます。
なぜ量子コンピュータは「極低温」でなければ動かないのか
この記事を読んだ方におすすめの市場調査レポート
基板実装・EMS・電子部品の営業、調達、市場調査に使える資料を紹介します。
はじめてのサイバーセキュリティ対応セット
量子ビットは熱ノイズに極めて弱い
量子コンピュータが極低温を必要とする最大の理由は、熱そのものが量子ビットにとってノイズになってしまうからです。
普通、私たちは「熱」を単なる温度の高さとしてイメージしますが、物理的には熱は原子や電子のランダムな振動、つまりエネルギーの揺らぎです。
量子ビットは、外部からマイクロ波という特定のエネルギーを与えることで、意図的に状態を変化させて計算を行います。
ところが、周囲の温度が高いままだと、この熱による揺らぎが、マイクロ波を当てていないのに勝手に量子ビットの状態を変えてしまいます。
人間が制御していないのに状態が変わってしまうということは、計算結果の信頼性が失われることを意味します。
これが、量子コンピュータの研究者が「デコヒーレンス」と呼んで警戒している現象の大きな要因のひとつです。
つまり、量子ビットにとって熱雑音は、静かな実験室で行いたい繊細な作業を、隣の部屋の工事の振動が邪魔してくるようなものだとイメージすると分かりやすいかもしれません。
具体的にどれくらいの温度が必要なのか
では、実際にどれくらいの低温が必要なのでしょうか。
超伝導量子ビットの動作周波数帯は、研究機関によって多少異なりますが、おおむね8から10ギガヘルツ程度が使われています。
このエネルギーを温度に換算すると、10ギガヘルツ帯の量子ビットの場合、およそ0.5ケルビン、摂氏でいえばマイナス272℃台という、非常に低い温度に相当します。
つまり、周囲の温度がこの水準よりも高いままだと、量子ビットは意図しないタイミングで勝手に励起されてしまい、人間が制御できるシステムではなくなってしまいます。
そこで実際の量子コンピュータでは、この閾値よりもさらに十分低い、10ミリケルビン前後、装置によっては数ミリケルビンという極限的な温度まで冷やし込みます。
絶対零度、つまりマイナス273.15℃まで、あと数ミリケルビンしか残っていない世界です。
超伝導という現象自体も低温を必要としますが、量子ビットの制御という観点だけを見ても、これほどの低温がなければ話にならない、ということがこの計算からわかります。
普通のチップが常温で平気なのはなぜか
一方で、普通の半導体チップは、なぜ常温で平気なのでしょうか。
理由は、トランジスタが利用しているエネルギーの仕組みが、量子ビットとはまったく異なるからです。
シリコンには「バンドギャップ」と呼ばれる、電子が飛び越えるべきエネルギーの壁があり、その大きさはおよそ1.1電子ボルトです。
これに対して、室温における熱エネルギーの大きさは、およそ0.025電子ボルトほどしかありません。
バンドギャップは室温の熱エネルギーの40倍以上あるため、熱による揺らぎ程度では、トランジスタが意図せず誤動作することはまずありません。
つまり普通のチップは、もともと熱に対してかなりの「余裕」を持った設計になっているのです。
これに対して量子ビットが利用するエネルギー差は、先ほど計算した通り1ケルビン以下に相当するごくわずかな量であり、室温の熱エネルギーとの差がほとんどありません。
同じ「エネルギーで情報を制御する」という点は共通していても、扱っているエネルギーの桁が何桁も違う、これが常温で平気なチップと、極低温でなければ動かないチップを分ける本質的な理由です。
心臓部を冷やす「希釈冷凍機」の仕組み

多段構造になっている理由
量子ビットが必要とする極低温を作り出す装置が、「希釈冷凍機」です。
ニュース映像や写真で目にする、シャンデリアのような金色の多段構造の装置がこれにあたります。
この装置は、なぜ一気に冷やすのではなく、あえて何段階にも分けた構造になっているのでしょうか。
理由は、常温からいきなり絶対零度近くまで冷やす方法が存在しないため、冷却方式を切り替えながら、段階的に温度を下げていく必要があるからです。
具体的には、まず上段でおよそ50ケルビンまで、続いて下段でヘリウムが液体になる4ケルビン付近まで、機械式の冷凍機(パルスチューブ)によって冷やします。
そこからさらに、液体ヘリウムを蒸発させることで温度を下げ、最後は「希釈」と呼ばれる特殊なプロセスに移行して、ミリケルビン帯まで冷やし込みます。
建物の各階でエレベーターを乗り換えるように、冷却の主役となる技術を途中で切り替えていく、これが多段構造になっている理由です。
なお、東京大学の低温科学研究センターのように、大学の共同利用設備として希釈冷凍機を企業や他大学の研究者に開放している施設もあり、(東京大学 低温科学研究センター)、この分野の実験環境そのものが非常に専門性の高いインフラであることがうかがえます。
ヘリウム3とヘリウム4を使った希釈冷却の原理
多段構造の最終段階を担う「希釈」というプロセスの中身も見ておきましょう。
ここで使われているのは、ヘリウムの2種類の同位体、ヘリウム3とヘリウム4を混ぜ合わせるという、少し意外な発想の技術です。
この2つを混ぜた液体は、およそ0.87ケルビンより低い温度になると、自然に2つの層に分かれます。
上側にはヘリウム3を主成分とする層、下側にはヘリウム4を主成分としながらわずかにヘリウム3が溶け込んだ層ができる、という分離です。
このとき、上側の層から下側の層へヘリウム3が移動していく際に、周囲から熱エネルギーを奪っていく性質があり、この熱の吸収によって温度がさらに下がっていきます。
これは、汗が肌の上で蒸発するときに周囲の熱を奪って涼しく感じる現象と、原理としては近い関係にあります。
この「移動と吸熱」のプロセスをポンプで循環させ続けることで、連続的にミリケルビン帯の低温を維持できる、というのが希釈冷凍機の心臓部の原理です。
一見すると地味な化学的性質ですが、この現象がなければ、現在の超伝導量子コンピュータという産業そのものが成立していない、という点で、非常に重要な物理現象だといえます。
金色に光る筐体の秘密
もうひとつ、写真を見た人が必ず気になるであろうポイントにも触れておきます。
希釈冷凍機の各段のプレートが、なぜあのように金色に輝いているのか、という点です。
内部のプレート自体は、熱を伝えやすい無酸素銅で作られており、その表面に金メッキが施されています。
金メッキをしている理由は、見た目の演出のためではなく、銅の表面が酸化して腐食するのを防ぎ、熱伝導の性能を長期間安定させるためです。
極低温の世界では、わずかな腐食や表面の劣化が、熱の伝わり方にも、配線の安定性にも悪影響を及ぼしかねません。
美しさと機能性が結果的に一致している、現場ならではの合理的な選択だといえるでしょう。
「超伝導」がもたらす量子ビットの正体
電気抵抗ゼロの世界で何が起きているか
ここまでは「冷やし方」の話でしたが、今度は冷やした先で起きている現象、つまり超伝導そのものについて見ていきます。
超伝導とは、ある種の金属を臨界温度と呼ばれる非常に低い温度以下まで冷やしたときに、電気抵抗がゼロになる現象です。
普通の金属の中を電流が流れるとき、電子は原子とぶつかり合いながら進むため、必ず一定の抵抗、つまりエネルギーの損失が発生します。
これがいわゆる発熱の原因であり、私たちが日常使うパソコンやスマートフォンが熱を持つ理由でもあります。
ところが超伝導状態になると、電子同士が特殊な形でペアを組み、原子とほとんど衝突することなく流れるようになります。
その結果、電気抵抗がなくなり、発熱もほぼ発生しなくなります。
超伝導量子ビットは、この抵抗ゼロの回路を使うことで、エネルギーの損失を極限まで抑えた、繊細な量子状態を保持できる回路を実現しているのです。
ジョセフソン接合という小さな部品の役割
超伝導の性質だけでは、実は量子ビットとして使うことができません。
そこで登場するのが「ジョセフソン接合」という、ナノメートル単位の非常に小さな部品です。
これは、2つの超伝導体の間に、絶縁体などの極めて薄い膜を挟み込んだ構造をしています。
理化学研究所の解説によれば、通常であれば絶縁体を電流が通り抜けることはありませんが、ジョセフソン接合ではこのごく薄い膜を、超伝導電流がすり抜けるように流れるという特殊な現象が起きます(理化学研究所「二つの『ジョセフソン接合』をつなげてみたら…?」)。
この非線形な振る舞いを利用することで、単純な振動だけでなく、0と1という2つの状態だけを選んで操作できる、量子ビットとしての回路が作られています。
材料の選び方も研究の重要なテーマで、電極にはアルミニウムやニオブなどが使われることが多く、材料の欠陥をいかに減らすかが、量子ビットの性能を左右する要因になっていることが、情報通信研究機構の研究発表でも報告されています(情報通信研究機構(NICT))。
いわば、超伝導という土台の上に、ジョセフソン接合という精密な部品を組み合わせることで、はじめて「人間が制御できる量子ビット」という回路が完成する、という構造になっています。
普通のトランジスタとの決定的な違い
ここで、普通のチップのトランジスタと、量子チップのジョセフソン接合を比べてみましょう。
トランジスタは、電流を「流す」か「流さない」かという、2つの状態をはっきり切り替えるスイッチです。
これに対してジョセフソン接合は、0の状態と1の状態を重ね合わせた、中間的な状態を作り出すために使われます。
トランジスタが白か黒かをくっきり塗り分ける筆だとすれば、ジョセフソン接合は白と黒のグラデーションそのものを操る筆に近い、というイメージです。
この違いこそが、普通のコンピュータと量子コンピュータの計算原理の根本的な違いであり、同時に、なぜ量子チップだけがあれほど繊細な環境を必要とするのか、という問いへの答えでもあります。
「普通のチップ」と「量子チップ」を徹底比較
構造・材料・動作温度の違い一覧
ここまでの内容を、対比表として整理しておきます。
| 項目 | 普通のチップ(CPU・GPUなど) | 量子コンピュータの量子チップ |
|---|---|---|
| 情報の単位 | ビット(0か1のどちらか) | 量子ビット(0と1の重ね合わせ) |
| 基本素子 | トランジスタ(pn接合) | ジョセフソン接合(超伝導体) |
| 動作温度 | 常温から100℃前後 | 絶対零度近くの数から数十ミリケルビン |
| 主な材料 | シリコン | アルミニウムやニオブなどの超伝導金属 |
| 動作原理 | 電子の流れのオン・オフ | 超伝導電流の量子力学的な振る舞い |
| 冷却の要否 | 基本的に不要(放熱ファン程度) | 希釈冷凍機による専用冷却が必須 |
| 電気抵抗 | ゼロではない(だから発熱する) | ほぼゼロ(だから発熱しにくい) |
こうして並べてみると、量子チップは普通のチップの延長線上にある技術というよりも、まったく別の設計思想で作られた装置である、ということが視覚的にも理解しやすくなるはずです。
なぜ量子コンピュータはまだ「パソコンサイズ」にならないのか
この対比表を見ると、多くの方が抱く素朴な疑問にも答えが見えてきます。
それは、「なぜ量子コンピュータは、いつまでも大きな装置のままなのか」という疑問です。
普通の半導体チップの微細化が進んできたのとは違い、量子コンピュータの場合、量子ビットそのものを小さくすることと、それを冷やし続ける希釈冷凍機を小さくすることは、まったく別の課題です。
量子ビットのチップ自体は指先に乗るサイズまで小型化が進んでいますが、そのチップを10ミリケルビンという環境で安定して冷やし続けるための冷凍機、配線、フィルター、増幅器といった周辺装置一式は、依然として部屋を占領するほどの規模が必要になります。
チップだけを見て「もう小さくなっている」と判断するのは早計で、装置全体としての大きさを決めているのは、実はチップではなく冷却系である、というのが現場の実感に近いところです。
この構造上の制約がある限り、量子コンピュータが近い将来、ノートパソコンのようなサイズになる可能性は低いと考えられます。
現場目線で見る、量子コンピュータ運用のリアルな難しさ
配線一本で性能が変わる繊細な世界
ここからは、単なる仕組みの説明にとどまらない、運用面でのリアルな難しさにも触れておきます。
希釈冷凍機の中には、外部から量子ビットを操作するための信号を送り込む、大量の配線が這わされています。
この配線は、量子ビットを制御するための貴重な通り道であると同時に、常温側の熱雑音が量子ビットに侵入してくる、いわば弱点にもなり得ます。
そのため配線の途中には、信号を意図的に弱める減衰器や、不要な周波数成分を取り除くフィルターが、複数の温度段階にまたがって取り付けられています。
実際の研究現場の配線図を見ると、制御用のラインには40デシベルを超える、読み出し用のラインには70デシベルを超える減衰器が組み込まれている例も報告されており、外からの熱雑音をいかに徹底して遮断するかに、設計の労力が注がれていることがわかります。
さらに、金属の同軸ケーブルは温度変化によって伸び縮みするため、まっすぐ配線すると、冷却の過程で断線してしまうことがあります。
そのため実際の内部配線は、あえて緩やかにループさせるように取り回されており、これは現場のエンジニアが経験の中で培ってきた、地味ながら欠かせない工夫のひとつです。
こうした細部の積み重ねが、量子ビットの性能を左右しているという事実は、意外と知られていないポイントかもしれません。
終わりのない戦い、誤り訂正
もうひとつ、現場が向き合い続けているテーマが「誤り訂正」です。
どれほど環境を冷やし込んでも、量子ビットの状態はごくわずかなノイズの影響を受けてしまい、完全にエラーのない計算を実現することは、現時点では極めて困難です。
そこで研究の主戦場は、個々の量子ビットの性能を上げることに加えて、複数の物理的な量子ビットを束ねて、エラーに強い「論理量子ビット」を作り出す、誤り訂正の技術に移りつつあります。
例えばGoogleが2024年に発表した超伝導量子チップは、量子ビットの数を増やすほど誤り率がかえって下がっていくという、誤り訂正における重要な節目を達成したと報告されています。
IBMも、2029年までに200個の論理量子ビットで1億回規模の量子ゲート操作を実行できる、大規模な誤り耐性型の量子コンピュータを提供する計画を、自社のロードマップとして公表しています(IBM「量子コンピューティングとは」)。
冷やすことは、量子コンピュータを動かすための「入口」に過ぎず、その先には、ノイズと向き合い続けるという、終わりの見えにくい戦いが続いている、というのが実情に近い姿だといえます。
これから量子コンピュータはどう進化していくのか
冷凍機の大型化・複数台連結という方向性
量子ビットの数を増やしていくためには、冷凍機そのものの進化も欠かせません。
方向性のひとつは、冷凍機自体を大型化するというアプローチです。
IBMが独自に開発した大型の希釈冷凍機は、従来の実験用冷凍機が0.4から0.7平方メートル程度のスペースだったのに対し、1.7平方メートルという大きな内部空間を確保し、25ミリケルビンまでの冷却と、試験用量子ビットで450マイクロ秒という長いコヒーレンス時間の両立に成功しています。
もうひとつの方向性は、冷凍機を大型化するのではなく、複数の冷凍機を連結してスケールさせるというアプローチです。
冷凍機メーカーの中には、複数台の希釈冷凍機を組み合わせることで、1000量子ビットを超える規模の運用を視野に入れた製品を提供している企業もあります。
大きくするか、つなげるか、この2つのアプローチのどちらが主流になっていくのかは、今後数年の技術動向を見極める上で、注目しておきたいポイントです。
常温で動く量子コンピュータは実現するのか
最後に、多くの人が気になるであろう問いにも触れておきます。
「いつか、常温で動く量子コンピュータは実現するのか」という問いです。
結論からいえば、少なくとも現在主流となっている超伝導方式においては、常温での動作は原理的に成り立ちません。
超伝導という現象自体が、材料を臨界温度以下まで冷やすことで初めて生じる性質であるためです。
一方で、量子コンピュータには超伝導方式以外にも、イオンを電磁場で捕まえて操作するイオントラップ方式や、光の粒子を利用する光方式、半導体中の電子スピンを利用する方式など、複数のアプローチが並行して研究されています。
方式によって必要な冷却の程度は異なり、超伝導方式ほどの極低温を必要としないアプローチも存在しますが、それぞれに異なる技術的な難しさを抱えており、どの方式が将来の主流になるかは、現時点ではまだ決着していません。
少なくとも当面は、「量子コンピュータ即ち極低温の装置」という関係は、大きくは変わらないと見ておくのが妥当でしょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 量子コンピュータはなぜそんなに冷やす必要があるのですか?
超伝導量子ビットは、熱によるわずかな揺らぎでも状態が乱されてしまうほど繊細だからです。
周囲の温度を絶対零度に近いミリケルビン帯まで下げることで、熱雑音の影響を極限まで排除し、人間が意図した通りに量子ビットを制御できる環境を作り出しています。
Q2. 家庭用パソコンが量子コンピュータに置き換わる日は来ますか?
現時点で主流の超伝導方式である限り、専用の冷凍機が必要になるため、パソコンのように手元に置いて使う形にはなりにくいと考えられます。
将来的には、クラウド経由でネットワーク越しに量子コンピュータの計算能力を利用する形が中心になっていくとみられています。
Q3. 希釈冷凍機の中は具体的にどれくらい寒いのですか?
最下段の量子ビットが置かれる場所は、10ミリケルビン前後、最先端の装置では数ミリケルビンにまで達します。
絶対零度からわずか数ミリケルビンしか離れていない、宇宙で自然には存在しないレベルの極低温です。
Q4. 量子コンピュータは、どんな計算でも今のスーパーコンピュータより速いのですか?
いいえ、そうではありません。
量子コンピュータが得意とするのは、特定の種類の計算、例えば分子の性質のシミュレーションや、一部の最適化問題、暗号に関わる計算などに限られます。
普段のパソコン作業や一般的な事務処理においては、今のところ普通のコンピュータの方が圧倒的に効率的です。
Q5. 超伝導以外の量子コンピュータもあるのですか?
はい、あります。
イオンを電磁場で捕まえて操作するイオントラップ方式や、光子を利用する光方式など、複数のアプローチが世界中で並行して研究されています。
超伝導方式は現在もっとも研究開発が活発な方式のひとつですが、唯一の方式というわけではありません。
Q6. 希釈冷凍機はなぜ金色に見えるのですか?
内部のプレートは熱伝導に優れた無酸素銅でできており、その表面に、腐食を防いで熱伝導性能を長持ちさせるための金メッキが施されているためです。
見た目の美しさは、機能を追求した結果ともいえます。
まとめ
量子コンピュータの中身を一言でまとめると、普通の半導体チップとはまったく異なる原理で動く、非常に繊細な装置である、ということに尽きます。
情報の単位はビットから量子ビットへ、基本素子はトランジスタからジョセフソン接合へ、そして動作温度は常温から絶対零度近くへと、どの要素を比べても、両者は同じ「コンピュータ」という言葉ではくくれないほど違う技術です。
その違いを生み出しているのが、この記事で見てきた極低温と超伝導という2つの物理現象であり、それを実現するために、希釈冷凍機という精密な装置と、現場の細やかな工夫が積み重ねられています。
ニュースで金色に輝く装置を見かけたときには、その内部で、ヘリウムの同位体が静かに熱を運び去り、絶対零度のすぐそばで量子ビットが繊細な重ね合わせ状態を保っている、という光景を思い浮かべていただければ、この記事の目的は十分に果たせたことになります。










