

1. イントロダクション:変革期を迎えたグローバルEMS産業
1.1 調査の背景と目的
2024年から2025年初頭にかけて、世界の電子機器製造サービス(Electronics Manufacturing Services、以下EMS)業界は、過去数十年で最も劇的かつ構造的な転換点を迎えました。
2023年に業界を襲った歴史的な在庫調整と需要の低迷を経て、2024年の市場は顕著な回復を見せました。Manufacturing Market Insider(MMI)の最新データによれば、世界の上位50社のEMS企業による総売上高は、2023年の水準から12.7%増加し、4,770億米ドル(約72兆円)という記録的な規模に達しています1。
このV字回復の背後には、単なる景気循環的な需要の戻り以上の要因が存在します。
それは、生成AI(Generative AI)の爆発的な普及に伴うデータセンターインフラへの投資急増、電気自動車(EV)市場の成熟と競争激化、そして地政学的緊張の高まりによるサプライチェーンの根本的な再構築(デカップリングおよびデリスキング)です。
本報告書は、これらのマクロおよびミクロな要因がどのように絡み合い、各EMS企業の業績や戦略に影響を与えたかを詳細に分析することを目的としています。
1.2 市場環境のマクロ分析:K字型成長の鮮明化
2025年のEMS市場を特徴づける最大のキーワードは「二極化」です。
市場全体の成長率がプラスであったとしても、その内訳は企業によって明確に明暗が分かれています。
一方で、ハイパースケールデータセンター向けのAIサーバーや、高速通信インフラ向けの光通信デバイスを手掛ける企業は、空前の好況に沸いています。
Foxconn(Hon Hai)、Celestica、Wistronなどがこのカテゴリーの代表格であり、これらの企業は従来のコンシューマーエレクトロニクス依存からの脱却に成功し、高付加価値な産業用ソリューションプロバイダーへと変貌を遂げつつあります1。
他方で、スマートフォン、PC、一般家電などの伝統的な民生機器に大きく依存していた企業や、通信インフラの在庫調整の影響を強く受けた企業は、売上の停滞や減少に直面しています。
Pegatron、Jabil、Sanmina、Flexなどは、特定のセクターにおける需要の軟化や、戦略的な事業ポートフォリオの再編(低収益事業の売却や撤退)により、2024年の収益成長において苦戦を強いられました1。
この「K字型」の成長パターンは、EMS業界において「何を(What)」作るか以上に、「誰のために(For Whom)」、「どのような付加価値(How)」で作るかが、企業の生存と成長を決定づける要因となっていることを示唆しています。
1.3 地域別動向:APACの覇権とニアショアリングの台頭
地理的な観点からは、アジア太平洋地域(APAC)が依然として世界の製造ハブとしての地位を維持しています。
トップ50社の総売上高の約74.7%がAPAC地域に由来しており、この地域の製造エコシステムの深さと広がりは他地域の追随を許しません。
しかし、その内部構造は劇的に変化しています。
「チャイナ・プラス・ワン」戦略はもはやオプションではなく必須要件となり、中国本土からベトナム、タイ、マレーシア、そしてインドへの生産移管が加速しています。
特にインドは、FoxconnやPegatronによるiPhone製造拠点の拡大に見られるように、巨大な内需と輸出拠点の両面で次なる中国としての地位を確立しつつあります。
同時に、米州(Americas)地域も20.4%という健全な成長率を記録しています。
これは、米国政府による半導体やクリーンエネルギーへの投資優遇策(CHIPS法やIRA法)に加え、メキシコを中心とした「ニアショアリング」の進展が寄与しています。
特に、テスラをはじめとする北米EVメーカー向けのサプライチェーンや、安全保障に関わる重要インフラ機器の製造において、北米・中米地域の重要性が再評価されています。
EMEA(欧州・中東・アフリカ)地域は2.5%のシェアにとどまりましたが、企業買収(M&A)を通じた着実な成長が見られました。
2. 2025年 世界のTOP EMS企業ランキング 売上高TOP10:詳細分析
本章では、2024会計年度(企業により決算期が異なるため、直近の通期決算およびTTM:Trailing Twelve Monthsデータを参照)の売上高に基づき、世界のトップ10 EMS企業をランキング形式で詳述します。
| 順位 | 企業名 | 本社所在地 | 2024年/TTM 推定売上高 (USD) | 前年比トレンド | 主な成長/減収要因 |
| 1 | Foxconn (Hon Hai Precision Industry) | 台湾 | $212.9 B – $243.5 B | ↗ 成長 | AIサーバー需要の爆発的増加、クラウド製品の好調 |
| 2 | Pegatron (和碩聯合科技) | 台湾 | ~$36.0 B – $40 B | ↘ 減少 | iPhone需要の軟化、通信機器市場の低迷 |
| 3 | Wistron (緯創資通) | 台湾 | $32.6 B | ↗ 成長 | AIサーバーへの劇的なポートフォリオ転換、低収益事業の切り離し |
| 4 | Jabil (ジェイビル) | 米国 | $28.9 B | ↘ 減少 | モビリティ事業のBYDへの売却、コネクティッドデバイスの需要減 |
| 5 | Flex (フレックス) | シンガポール/米国 | $26.4 B | ↘ 減少 | 太陽光事業(Nextracker)のスピンオフ、民生機器の低迷12 |
| 6 | BYD Electronics (BYDエレクトロニクス) | 中国 | ~$26.2 B (188.7B RMB) | ↗ 急成長 | 親会社EVとのシナジー、Jabilモビリティ事業買収効果 |
| 7 | Celestica (セレスティカ) | カナダ | $9.65 B | ↗ 急成長 | ハイパースケーラー向けHPS事業の急拡大 |
| 8 | USI (Universal Scientific Industrial) | 中国/台湾 | ~$8.4 B (60.7B RMB) | ↘ 微減 | SiP需要の調整、コンシューマー市場の停滞 |
| 9 | Sanmina (サンミナ) | 米国 | $7.6 B – $8.1 B | ↘ 減少 | 通信インフラ投資の遅延、顧客の在庫調整 |
| 10 | New Kinpo Group (新金宝グループ) | 台湾 | ~$5.1 B (164.4B TWD) | ↗ 微増 | タイ拠点の強み、プリンター・ストレージ需要の安定 |
第1位:Foxconn (Hon Hai Precision Industry)
〜AIインフラストラクチャの絶対王者への変貌〜
財務ハイライトと市場地位:
Foxconnは、2024年の売上高が約2,129億米ドル(TTMベースでは2,435億米ドルに達する勢い)を記録し、2位以下に圧倒的な大差をつけて世界最大のEMS企業の座を不動のものとしています。
特筆すべきは、2024年第4四半期の売上高が前年同期比で約22%増の2.6兆台湾ドル(約827億米ドル)に達し、四半期ベースでの過去最高を更新した点です。
この成長率は、同社の巨大な規模を考慮すると驚異的であり、事業構造の転換が成功していることを如実に示しています。
成長ドライバー:AIサーバーとクラウドネットワーキング:
Foxconnの成長を牽引している最大の要因は、従来の「スマートコンシューマーエレクトロニクス(主にiPhone)」から「クラウドおよびネットワーキング製品」へのシフトです。
特にAIサーバーの需要は凄まじく、NVIDIAの最新AIチップ(Blackwellアーキテクチャなど)を搭載したサーバーラックの製造において、Foxconnは主要なパートナーとしての地位を確立しています3。
同社は、サーバーの筐体製造からマザーボードの実装(SMT)、液冷システムの統合、そしてラックレベルでの最終組み立てまでを垂直統合で提供できる数少ない企業です。
これにより、データセンター事業者は複雑化するAIインフラの導入を迅速に行うことが可能となり、Foxconnはその付加価値として高いマージンを享受しています。
戦略的展望:EVとグローバル展開:
AIに加え、Foxconnは電気自動車(EV)プラットフォーム「MIH」の推進により、自動車産業の水平分業化を主導しようとしています。
米国オハイオ州の工場(旧Lordstown Motors工場)や、タイ、サウジアラビアでのEV製造拠点の整備を進めており、将来的には「自動車版のAndroid」のようなプラットフォーム提供者になることを目指しています。
また、インドにおいては、Apple製品の製造能力を大幅に増強しており、カルナータカ州やタミル・ナードゥ州での大規模投資を通じて、中国に次ぐ第2の製造ハブを構築しつつあります。
第2位:Pegatron (和碩聯合科技)
〜分散化と多角化の過渡期〜
財務パフォーマンス:
Pegatronの2024年から2025年にかけての業績は、主要顧客であるAppleのiPhone需要変動と、世界的な通信機器市場の低迷の影響を受け、調整局面にあります。
売上高は推定で約360億米ドル〜400億米ドルの範囲で推移しており、前年比で減少傾向にあります。
特に、2025年に入ってからの月次売上データでも、前年同月比でのマイナス成長が散見され、コンシューマーエレクトロニクス市場の成熟化による逆風が継続しています21。
事業戦略の転換:
Pegatronは、従来のスマートフォン組立一本足打法からの脱却を急いでいます。
その中核となるのが、自動車部品(Automotive)と5G/IoT機器への進出です。
Tesla向けのECU(電子制御ユニット)や充電ステーションの製造などを手掛けており、EV市場の拡大に伴い、このセクターの売上比率は徐々に高まっています。
また、AR/VRデバイスや、低軌道衛星通信(LEO)向けの端末製造など、次世代通信技術に関連するハードウェア開発にもリソースを投じています。
生産拠点の再編:
地政学的リスクへの対応として、Pegatronはインドとベトナムへの生産移管を積極的に進めています。
インドではTata Electronicsとの協力関係や自社工場の拡張を通じてiPhone製造のキャパシティを増やしており、ベトナムではPCやIoT機器の製造ラインを強化しています。
しかし、これらの新拠点への投資コストと、中国工場の稼働率低下という二重の負担が、短期的には利益率を圧迫する要因となっています。
第3位:Wistron (緯創資通)
〜「選択と集中」が生んだAI時代の勝者〜
劇的なポートフォリオ変革:
Wistronは、トップ10企業の中で最も鮮やかな戦略的転換(ピボット)を成功させた企業と言えます。
2023年にインドのiPhone組立工場をTataグループに売却し、低マージンのスマートフォン組立事業から撤退するという大胆な決断を下しました。
その代わりに経営資源を集中させたのが、高収益なAIサーバーおよびGPUベースボードの製造です。
この戦略は2024年から2025年にかけて大きな果実を結びました。売上高は326億米ドルに達し、特に営業利益率は劇的に改善しました。
WistronはNVIDIAの主要サプライヤーとして、GPUモジュールの基板実装やハイエンドサーバーの製造を担っており、AIブームの恩恵を最も直接的に享受するEMS企業の一つとなりました。
財務体質の強化:
売上高の絶対額ではFoxconnやPegatronに劣るものの、利益の質(Quality of Earnings)においては業界トップクラスへと変貌を遂げています。
2024年の営業利益は前年比で大幅に増加しており、これはAIサーバーやエンタープライズ向けストレージシステムなどの高付加価値製品の比率が高まったことに起因します。
また、テキサス州やメキシコでの生産能力増強を進め、北米のハイパースケーラーの需要に即応できる体制を整えています。
第4位:Jabil (ジェイビル)
〜モビリティ事業の売却と高付加価値セクターへの集中〜
歴史的な事業売却:
Jabilにとって2024年は、構造改革の年となりました。
同社は、中国を中心に展開していたモビリティ事業(主にスマートフォンの筐体製造など)を、競合であるBYD Electronicsに約22億ドルで売却しました。
これにより、2024会計年度の売上高は289億米ドルとなり、前年比で減少しました。
しかし、この売却は、競争が激しく利益率の低い事業を切り離し、より安定的で高収益な事業に集中するための戦略的なものです。
フォーカスエリア:ヘルスケア、包装、産業機器:
Jabilは現在、ヘルスケア(医療機器)、パッケージング(環境配慮型包装)、産業機器、およびクラウドインフラストラクチャをコア事業と位置づけています。
特に医療機器分野では、糖尿病管理デバイスや手術支援ロボットの製造受託において強みを持ち、規制の厳しい業界での高い信頼性を武器にしています。
また、データセンター向けのスイッチや光通信モジュールの製造においても、高い技術力を保持しています。
売上規模は縮小したものの、財務体質はより筋肉質になり、株主還元や新規成長分野への投資余力を高めています。
第5位:Flex (フレックス)
〜「Flexibility」を体現する多角化戦略〜
エネルギーと自動車へのシフト:
Flex(旧Flextronics)は、2024会計年度において約264億米ドルの売上を記録しました。
同社もまた、コンシューマー機器への依存度を下げ、自動車(Automotive)と医療(Health Solutions)、そして産業機器(Industrial)へのシフトを進めています。
特筆すべきは、太陽光発電トラッキングシステムを手掛ける子会社「Nextracker」のスピンオフ(分社化)です。
これにより連結売上高からは一部が除外される形となりましたが、Nextracker自体の成長は著しく、Flex本体はより製造サービスに特化した事業運営を行っています。
自動車部門では、自律走行システムや電動化コンポーネントの製造に注力しており、従来のEMSの枠を超えた「Tier 1.5」サプライヤーとしての地位を確立しつつあります。
第6位:BYD Electronics (比亜迪電子)
〜垂直統合とM&Aによる躍進〜
Jabil事業の統合効果:
中国のBYD Electronicsは、2024年に売上高1,887億人民元(約262億米ドル)を記録し、前年比で急激な成長を遂げました。
この成長の主要因の一つは、前述のJabilからのモビリティ事業買収です。
これにより、BYD ElectronicsはAppleやその他のスマートフォンメーカー向けの金属筐体、ガラス部品、組立能力を大幅に強化し、コンポーネント供給から最終組立までを一貫して行える能力を手に入れました。
親会社BYDとのシナジー:
さらに、親会社であるBYD(比亜迪汽車)が世界最大のEVメーカーとして君臨していることも、BYD Electronicsにとって巨大な追い風となっています。
EV向けの「スマートコックピット」、ADAS(先進運転支援システム)関連機器、車載通信モジュールなどの製造を一手に引き受けており、外部顧客への依存度を下げつつ、安定した成長基盤を確保しています。
中国国内のサプライチェーンに深く根ざした垂直統合モデルは、コスト競争力において他社を圧倒しています。
第7位:Celestica (セレスティカ)
〜ハイパースケーラーの信頼を勝ち得た高成長株〜
CCS部門の爆発的成長:
カナダに本社を置くCelesticaは、トップ10企業の中で最も高い成長率(前年比20%超)を記録した企業の一つであり、売上高は96.5億米ドルに達しました。
この成長を牽引しているのは、Connectivity & Cloud Solutions(CCS)セグメントです。
Celesticaは、ハイパースケーラー(Google, Amazon, Meta等)向けに、HPS(Hardware Platform Solutions)と呼ばれる独自設計・共同設計のハードウェアを提供しています。
これには、AIデータセンター向けの高性能スイッチ、ルーター、ストレージサーバーが含まれます。
単なる製造受託にとどまらず、設計段階から深く関与するJDM(Joint Design Manufacturer)モデルが奏功し、データセンター投資の拡大を最も効率的に収益化しています。
第8位:USI (Universal Scientific Industrial / 環旭電子)
〜SiP技術のリーダーシップ〜
小型化技術の粋:
USIは、世界最大のOSAT(半導体組立・試験受託)企業であるASE Technology Holdingの子会社であり、SiP(System in Package)技術における世界的リーダーです。
2024年の売上高は約607億人民元(約84億米ドル)でした。
SiP技術は、Wi-Fiモジュール、スマートウォッチ、TWS(完全ワイヤレスイヤホン)などの超小型デバイスに不可欠であり、USIはこの分野で高いシェアを持っています。
しかし、2024年はスマートフォンやウェアラブルデバイスの市場成長が鈍化したため、売上高は前年比で横ばいから微減となりました。
今後は、SiP技術を車載ミリ波レーダーやパワーモジュールに応用することで、自動車分野での成長を目指しています。
第9位:Sanmina (サンミナ)
〜高信頼性市場のスペシャリスト〜
産業・防衛・医療への特化:
Sanminaは、「High Mix, Low Volume(多品種少量生産)」かつ複雑な製造要件を持つ製品に特化したEMSです。
2024会計年度の売上高は76億〜81億米ドルで推移しました。主な顧客は、防衛・航空宇宙産業、医療機器メーカー、半導体製造装置メーカーなどです。
2024年は、通信インフラ市場における顧客の在庫調整(5G投資の一巡など)の影響を受け、減収となりました。
しかし、地政学的不確実性が高まる中、米国内に高度な製造拠点を持つSanminaの重要性は、防衛・セキュリティの観点から再評価されています。
第10位:New Kinpo Group (新金宝グループ)
〜東南アジア製造のパイオニア〜
タイ拠点の優位性:
台湾のNew Kinpo Group(子会社のKinpo ElectronicsやCal-Compを含む)は、2024年の売上高が約1,644億台湾ドル(約51億米ドル)となり、前年比で微増を記録しました。
同社の最大の特徴は、数十年にわたりタイでの製造基盤を築いてきた点です。
米中貿易摩擦以降、多くの企業が中国外への生産移管を模索する中、既にタイに巨大なキャパシティとサプライチェーンを持つNew Kinpoは、その受け皿として機能しています。
プリンター(HP向けなど)、外付けストレージ、スマート家電などの製造が主力であり、派手さはないものの、堅実な需要に支えられています。
3. 次点および注目のEMSプレイヤー:トップ10を追う実力者たち
トップ10には入らなかったものの、特定のニッチ分野や技術力で存在感を示す企業群(Runners Up)についても分析を加えます。
MMIのトップ50リストにおいて、これらの中堅企業は業界全体のイノベーションと安定性を支える重要な役割を果たしています。
Plexus (プレクサス)
- 売上規模: 約40億米ドル (FY2025)
- 特徴: 「Engineering First」を掲げ、製品の設計・開発段階からの深い関与を強みとします。航空宇宙、防衛、医療ライフサイエンスの分野で非常に高い評価を得ており、大量生産を行わない代わりに、極めて高い利益率と顧客ロイヤルティを維持しています。
Benchmark Electronics (ベンチマーク)
- 売上規模: 約26億米ドル (FY2024)
- 特徴: 半導体製造装置(Semi-Cap)向けの精密加工やエンジニアリングサービスに強みを持ちます。AIチップの需要増に伴い、半導体製造装置の需要も拡大しており、Benchmarkはその恩恵を受けています。
Fabrinet (ファブリネット)
- 売上規模: 約34億米ドル (FY2025)
- 特徴: 光通信コンポーネント(Optical Packaging)の製造における絶対的なリーダーです。AIデータセンター内では、サーバー間を高速で接続するために大量の光トランシーバーが必要とされており、NVIDIAやCiscoなどを顧客に持つFabrinetは、AIインフラブームの隠れた本命銘柄として注目されています。
Venture Corporation (ベンチャー)
- 売上規模: 約27億シンガポールドル (FY2024)
- 特徴: シンガポールを拠点とし、東南アジア(マレーシア等)に展開。ライフサイエンス機器や分析機器などのハイエンド産業製品に特化しており、高い技術力を背景に高収益を維持しています。
SIIX (シークス)
- 売上規模: 約3,023億日本円 (FY2024)
- 特徴: 日本企業として唯一、グローバルEMSランキングの上位に食い込んでいます。商社機能を併せ持つ独自のビジネスモデル「グローバル・ビジネス・オーガナイザー」を展開し、特に日系自動車メーカーの海外展開を部品調達と製造の両面から支えています。
Zollner Elektronik (ゾルナー)
- 売上規模: 10億ユーロ超
- 特徴: ドイツに本社を置く欧州最大のEMS。欧州の産業機器、鉄道、自動車産業に深く根ざしており、高品質・小ロット生産において圧倒的な信頼を得ています。
4. セクター別詳細分析:成長の源泉とリスク要因
4.1 AI & クラウドインフラストラクチャ:唯一無二の成長エンジン
2025年のEMS市場において、AI関連ハードウェアは他のすべてのセクターを圧倒する成長率を記録しています。
- 技術的複雑性の増大: H100やBlackwellといった最新のAI GPUを搭載したサーバーは、従来の空気冷却では熱処理が追いつかず、液冷(Liquid Cooling)システムの導入が必須となっています。FoxconnやWistron、Celesticaは、液冷配管の溶接品質管理やリークテストなど、高度な製造技術への投資を行い、これが高い参入障壁と利益率の源泉となっています。
- サプライチェーンの変化: 従来、ハイパースケーラーは台湾のODM(Quanta, Wiwynn等)に直接発注する傾向がありましたが、AIサーバーの需要が急増し、サプライチェーンの冗長化が求められる中で、EMS企業の製造キャパシティとグローバルな展開力が再び必要とされています。
4.2 自動車(EV & ADAS):踊り場と長期的成長
EV市場は2024年に一時的な成長鈍化(EVの冬)を経験しましたが、電動化と電子化(SDV: Software Defined Vehicle)のトレンド自体は不可逆です。
- Tier 1化するEMS: Jabil(売却前)、Flex、Pegatron、Zollnerなどは、従来の自動車部品メーカー(Tier 1)の下請けではなく、自動車メーカー(OEM)に対して直接、ECU、インバーター、充電器、ADASカメラモジュールなどを供給するケースが増えています。
- チャイナ・リスクの回避: 米国のインフレ抑制法(IRA)により、バッテリーや重要部品の北米生産が求められています。これに対応するため、EMS各社はメキシコ(特にモンテレイなどの北部地域)への投資を加速させ、「Voltage Valley」と呼ばれるEV供給ハブを形成しています。
4.3 医療・産業機器:安定のアンカー
景気変動の影響を受けにくい医療機器や産業用ロボットは、EMS企業のポートフォリオにおいて「安定剤」の役割を果たしています。
- 規制対応の壁: 医療機器(FDA認証など)や航空宇宙(AS9100認証)分野は、認証取得と維持にコストと時間がかかるため、一度契約を獲得すると長期間の関係が続く傾向があります。PlexusやSanmina、Benchmarkはこの分野での「スティッキー(粘着性のある)」な顧客基盤を武器にしています。
4.4 コンシューマーエレクトロニクス:成熟と新たな波
スマートフォンやPCは完全に成熟市場となり、買い替えサイクルの長期化がEMS企業の売上を圧迫しています。
- AI PC / AIスマホへの期待: 2025年後半から2026年にかけて、オンデバイスAI(端末内でAI処理を行う機能)を搭載したPCやスマートフォンの普及が始まると予測されています。これに伴い、より高性能なプロセッサ、大容量メモリ、放熱部品の実装が必要となり、PegatronやUSI、BYD Electronicsにとっては単価上昇のチャンスとなります。
5. 地政学的戦略とサプライチェーンの未来図
5.1 「チャイナ・プラス・ワン」の成熟と課題
2025年現在、「チャイナ・プラス・ワン」はスローガンから実務のフェーズへと移行しました。
しかし、それは単純な移転ではありません。
- コスト構造の変化: 中国以外の拠点(インド、ベトナム、メキシコ)は、インフラの未整備、熟練労働者の不足、部品サプライチェーンの未発達により、初期段階では中国よりも製造コストが高くなる傾向があります。EMS企業は、このコスト増を顧客(AppleやDellなど)に転嫁しつつ、自動化投資によって効率化を図るという難しい舵取りを迫られています。
- 重複投資の負担: リスク分散のために複数の国に工場を持つことは、固定費の増大を意味します。これが、規模の小さいEMS企業にとっては収益圧迫要因となっており、業界再編(M&A)を促すドライバとなっています。
5.2 インド:次なる巨人の覚醒
インドは、政府の生産連動型優遇策(PLIスキーム)を背景に、急速にEMSの集積地となっています。
- Foxconnの賭け: Foxconnはインドを「第2の中国」と位置づけ、数十億ドル規模の投資を行っています。これは単なるiPhone組立だけでなく、半導体製造やEV製造までを見据えた包括的な産業基盤の構築を目指すものです。
- Tata Electronicsの台頭: Wistronのインド工場を買収したTataグループは、インド地場企業として初めてiPhoneの最終組立に参入しました。これにより、外資系EMSと地場財閥系企業との競争と協調という新たなダイナミクスが生まれています。
5.3 北米回帰とニアショアリング
メキシコは、北米市場へのアクセス、低い労働コスト、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)による関税メリットを背景に、EMS投資のホットスポットとなっています。特にサーバーラックの最終組立(重量があり輸送コストが高い)や、自動車部品の製造において、アジアからのシフトが顕著です。
6. 結論と将来展望
2025年のEMS業界は、AIという強力な成長エンジンと、地政学という複雑な制約条件の狭間で、新たな均衡点を探っています。
売上高ランキングの上位企業、特にFoxconnやWistronの成功は、市場の変化に対する「スピード」と「技術的適応力」がいかに重要かを証明しました。
今後の展望として、以下の3点が重要となります:
- AIバブルの持続性: AIインフラ投資は少なくとも2026年までは堅調に推移すると見られますが、その後は実需に基づいた調整局面が来る可能性があります。EMS企業は在庫リスク管理を徹底する必要があります。
- サステナビリティ(ESG): 大手顧客(Apple, Microsoft等)はサプライチェーン全体のカーボンニュートラルを求めており、再生可能エネルギーの導入や廃棄物削減が、契約獲得の必須条件となります。
- 業界再編: 規模の経済が効かない中堅EMSや、特定の技術を持たない汎用EMSは、大手による買収や淘汰の対象となるでしょう。
EMS産業はもはや「下請け」ではなく、テクノロジーの実装と普及を支える「インフラストラクチャ」としての地位を確立しました。
2026年に向けて、各社がどのような進化を遂げるか、その動向から目が離せません。
免責事項: 本レポートに含まれる財務データや市場予測は、2025年初頭時点で入手可能な公開情報および調査資料に基づいており、将来の成果を保証するものではありません。各企業の決算期や会計基準の違いにより、比較には一定の留意が必要です。





