
電子部品の管理画面に、ある日「NRND」や「EOL」の表示が出ると、次に何をすればよいのか迷います。
EOLはEnd of Lifeの略で、その部品の生産終了が決まった状態です。
NRNDはNot Recommended for New Designsの略で、新しい設計への採用をメーカーが勧めていない状態です。
二つを分ける最大のポイントは、調達に期限が付いたかどうかです。
置き換えの時期は、メーカーのステータス表示だけでは決まりません。
決め手になるのは、自社の製品が部品の入れ替えを終えるまでに必要な期間です。
この記事では、二つの用語の違い、NRNDがEOLへ進む確率、通知から最終発注までの猶予、置き換え時期の逆算方法、ラストタイムバイの考え方を順に整理します。
読み終えるころには、手元のBOMにあるNRND部品やEOL部品について、今すぐ動くのか、待てるのかを自分で判断できる状態を目指します。
メーカーごとに用語の運用が異なるため、本文では各社の公式ページなどの一次情報を根拠に示しながら説明します。
EOLとNRNDの違いは「調達に期限が付いたか」で見分けられる
EOLは生産終了が決まり、最終発注日が設定された状態
EOLとは、メーカーがその部品の生産を終えると決めた状態です。
NXPの定義では、EOLの部品は最終購入日まで注文でき、その注文分は最終納入日までに出荷される予定とされています。 nxp
EOLになった時点で、いつまで買えるかという期限が生まれます。
期限が生まれると、選択肢は二つに絞られます。
代替品へ移るか、期限までに在庫を確保するかです。
どちらを選んでも、時間との勝負になります。
EOLは、調達の自由度が下がり始める合図だと考えておくと整理しやすくなります。
NRNDは新規設計への採用を勧められない状態
NRNDは、すでに使っている設計では引き続き使えるものの、これから始める設計には向かないとメーカーが示した状態です。
TIは、NRNDの製品を既存の設計向けには提供しつつ、新規設計では代替品の検討を勧める状態と説明しています。 ti
出典:Texas Instruments「Product life cycle」
NXPの定義では、既存の顧客は引き続き注文でき、生産中止の決定はまだなされておらず、最低限の供給期間の約束も守られるとされています。 nxp
つまりNRNDは、すぐに買えなくなる合図ではありません。
先の見通しが読みにくくなった合図です。
この違いを押さえておくと、NRNDを見て慌てて全数交換を始めるような過剰反応を避けられます。
違いを一覧表で確認する
| 項目 | NRND | EOL |
|---|---|---|
| 意味 | 新規設計への採用を推奨しない | 生産終了が決定している |
| 既存製品への供給 | 継続されるのが一般的 | 最終発注日まで |
| 期限 | 通常は示されない | 最終発注日と最終納入日が示される |
| 通知 | 公式な通知がない場合もある | 生産中止通知(PDN)などで知らされる |
| 新規設計 | 避ける | 採用しない |
| 取るべき行動 | 監視と代替候補の検討 | 置き換えの実行、または最終購入の判断 |
表の最後の行が、実務上いちばん大切です。
NRNDは「準備する段階」、EOLは「実行する段階」と覚えておくと、社内での説明もしやすくなります。
日本の現場で「EOL」が広い意味で使われる理由
日本の現場では、EOLという言葉が、生産終了だけを指さないことがあります。
JEITAのセミナー資料で日本無線は、EOLを、生産中止、生産中止予定、新規設計非推奨の三つを含む言葉として扱っています。 jeita
出典:[JEITA ECALGAセミナー資料「日本無線における新規設計非推奨情報の活用事例」](https://ec.jeita.or.jp/download/ECALGA seminar_20180524_5.pdf)
たとえば、社内の会議で「このICはEOLらしい」という発言が出たとします。
その発言が、生産終了の決定を指すのか、新規設計非推奨を指すのかで、必要な対応はまったく変わります。
生産終了なら最終購入の検討が必要で、新規設計非推奨なら監視と候補選定から始めれば足ります。
会議の最初に「EOLは何を指すか」を一言そろえるだけで、判断の質が上がります。
NRNDからEOLへ進む確率と、メーカーごとの意味の違い
NRNDになっても、多くの部品はすぐには終わらない
NRNDになった部品の多くは、すぐには生産終了になりません。
ただし、一定の割合は着実にEOLへ進みます。
JEITAの資料では、2011年以降に調べた約28万点のうち、EOL部品は約1.4万点で約5%、新規設計非推奨の部品は約2,800点で約1%でした。 jeita
新規設計非推奨だった部品を追跡すると、1年後も約83%は同じ状態のままで、約17%が生産中止予定または生産中止へ移っていました。 jeita
2年後でも約65%は新規設計非推奨のままで、約3割が生産中止予定または生産中止へ移っています。 jeita
この数字は、ジェイチップコンサルティング社が提供した、2016年から2018年にかけての追跡結果です。
現在の市場にそのまま当てはまるとは限りません。
それでも、多数派は残るが、2年で約3割は動くという感覚をつかむ材料になります。
3割という数字は、様子見で済ませるには小さくありません。
NRNDは、無視もせず、慌てもしない、中間の対応が合う状態だと言えます。
NRNDの情報は、気づかないまま見逃されやすい
NRNDの情報は、EOLに比べて目に入りにくい傾向があります。
同じ資料では、新規設計非推奨はEOLの予備群と考えると、情報の発信が少ないと指摘されています。 jeita
さらに、取引先からの情報は発注がないと出ないことが多く、新規設計非推奨はほとんど発信されないとも述べられています。 jeita
そのため、メーカーからの連絡を待つだけの運用では、NRNDに気づけない部品が出てきます。
メーカーのウェブサイトや部品データベースを、自社のBOMと定期的に照合する仕組みが必要になります。
仕組みの作り方は、後半の「部品ライフサイクルを仕組みで管理する」で整理します。
同じNRNDでも、メーカーによって意味が違う
NRNDという3文字は、メーカーごとに込められた意味が少しずつ違います。
TIは、NRNDに指定するのは、品質や長期の製造能力に影響しうる問題がある場合に限ると、自社の方針ページで述べています。 ti
一方、TIの担当者によるフォーラムの回答では、NRNDは新規設計を始める顧客にとってリスクが高いと判断した場合に使われ、サポートを十分に提供できない点が理由として挙げられています。 ti
同じ回答は、その件のNRNDが生産能力とは無関係であり、NRNDをEOLの標準的な最初の段階とみなすのは誤解だとも述べています。 ti
別のスレッドでは、TIの担当者が、動きの乏しい部品をNRNDにし、その後にJEDECの慣行に沿った通知とともに最終購入を提示する、という一般的な流れを説明しています。 ti
同じメーカーの回答でも、スレッドによって強調点が違います。
NXPは、NRNDを廃止の決定がまだ出ていない状態として定義しています。
オムロンは、NRNDの製品は将来生産中止になる可能性があるため、新規設計での使用を勧めないとしています。 omron
出典:オムロン「Not Recommended for New Designs」
つまり同じNRNDでも、「サポート面の注意」から「廃止の予備群」までの幅があります。
そこで、使っているメーカーごとに、NRNDの定義、廃止判断の有無、サポート範囲を一枚にまとめた「NRND辞書」を作っておくことをおすすめします。
新しい担当者が入っても、判断のぶれを抑えられます。
NRNDを経ずにEOLになる部品もある
NRNDの表示がないから安心、とは言えません。
オムロンは、生産中止を予定している製品が、事前にNRNDにならない場合もあると注記しています。 omron
また、公開しているNRNDの一覧は参考情報であり、すべてのNRND製品が載っているわけではなく、内容も変更されうるとしています。 omron
NRNDはEOLの前触れになりやすい一方で、必ず出る前触れではありません。
NRNDの有無だけでなく、PCNやPDNなどの通知、メーカーのウェブサイト、販売元の情報を組み合わせて見る姿勢が大切です。
なお、NRNDが元に戻る例も報告されています。
TIのフォーラムには、ある部品のステータスがNRNDとアクティブの間を行き来したと指摘する投稿があり、担当者はその部品が量産中で新しい案件にも使ってよいと回答しています。 ti
NRNDは判決ではなく、現時点の状況を示す表示です。
重要な部品がNRNDになったときは、メーカーの窓口に今後の見通しを問い合わせてみる価値があります。
JEITAの資料も、顧客の反応が、メーカーの生産調整の判断材料になりうると述べています。
継続利用の意向を伝えることが、供給の判断に影響する場合もあります。
EOL通知から最終発注までの猶予は何か月か
PDN、LTB、LTSの意味
EOLの通知は、PDNと呼ばれる文書で届くのが一般的です。
PDNはProduct Discontinuance Noticeの略で、生産中止通知のことです。
LTBはLast Time Buyの略で、最終発注のことです。
LTSはLast Time Shipの略で、最終出荷のことです。
PDNには、最終発注日と最終出荷日が書かれていることが多く、まずこの二つの日付を確認します。
TIのPDNには、最終発注日、最終納入日、対象製品の識別、該当する場合は代替製品が含まれると案内されています。 ti
出典:Texas Instruments「Product change notification (PCN)」
通知を受け取ったら、まず二つの日付を社内カレンダーに入れることから始めてください。
業界標準と各社の運用
通知の猶予には、業界標準が定める最低ラインがあります。
JEDECのJESD48Cは、通知の日から最低6か月は最終発注を受け付け、12か月は最終出荷を認めるよう、サプライヤに求めています。 infineon
JEDECのページによれば、後継のJ-STD-048Aは2025年12月に公開されており、JESD48に代わる文書です。 jedec
本記事の6か月と12か月は、従来版の記載に基づく数字です。
改訂版で変わっていないかは、最新の規格文書でご確認ください。
各社の運用には、違いがあります。
MaxLinearの方針では、特に別の記載がなければ公開日から最終発注は6か月、最終出荷は12か月とされています。 maxlinear
また、生産中止品の注文は、キャンセルも返品もできない扱いになります。 maxlinear
出典:MaxLinear「Policy and Procedure」
TIは、最終発注を通知から12か月以内、最終納入を発注期間の終了後6か月までとする標準スケジュールを公開し、業界標準より長い猶予だと説明しています。 ti
最終発注までの猶予は、6か月から12か月の範囲に収まる例が多いと言えます。
個々の部品では、必ずPDNに書かれた日付を優先してください。
通知は遅れたり、届かなかったりする
通知は、いつも十分な余裕をもって届くとは限りません。
J-STD-046は、変更後の製品の初回出荷日の90日前までに、製品変更通知(PCN)を出すことを求めています。 z2data
出典:Z2Data「3 Key Things to Know About Product Change Notifications」
PCNは、製造拠点や材料の変更などを知らせる文書で、生産中止を知らせるPDNとは別物です。
ただし、Z2Dataのデータベースでは、2019年から2021年のPCNの65%が、90日の期限内に顧客へ届いていませんでした。 z2data
これは特定のデータベースの結果ですが、期限どおりに届く前提で運用するのは危ういことを示しています。
DigiKeyの解説では、ディストリビュータへのステータス変更の通知は、変更が決まった時点か、そのわずか前になることが多く、事前の通知はほとんどないとされています。 digikey
出典:DigiKey TechForum「部品状況:生産中止品になるまでの過程」
さらに、販売元が取り扱いを終了した場合でも、メーカーのサイトではまだアクティブな可能性があると、同じ解説は注意を促しています。 digikey
ディストリビュータの表示だけで、メーカーの状況を判断しないことが大切です。
通知を待つ運用は、猶予が短くなる前提で組んでおくと、手戻りを減らせます。
置き換えるタイミングは「所要期間からの逆算」で決める

部品の時計と製品の時計を並べて見る
置き換えの開始時期は、部品のステータスではなく、自社の置き換え所要期間で決まります。
理由は、時計が二つあるからです。
部品の時計は、メーカーが握っています。
製品の時計は、自社が握っています。
置き換えの判断とは、二つの時計のずれを見ることです。
簡易的には、次の式で考えられます。
置き換えの開始期限 = 想定する最終発注日 − 置き換えの所要期間 − 余裕期間
NRNDの時点では最終発注日が分からないため、保守的に、通知から最短6か月で最終発注が締め切られる場合を想定します。
所要期間が、その猶予より長いのであれば、通知を待ってからの対応では間に合いません。
次の表は、その考え方を目安としてまとめたものです。
| 置き換えの所要期間 | 動き出す時期の目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 6か月未満 | EOL通知後でも間に合う可能性が高い | 最終発注まで最低6か月ある標準を基準にした場合 |
| 6か月から12か月 | NRNDの時点で候補選定を始める | 通知後に動くと最終発注の期限と競合する |
| 12か月を超える | NRNDの時点、またはその前から動き、LTBの併用も検討する | 通知後の最終出荷期限を超える可能性がある |
この表は、JESD48系の最低ラインを基準にした目安です。
メーカーによって猶予は変わるため、使っている部品のメーカー方針を確認して調整してください。
所要期間の内訳を分解する
所要期間は、いくつかの工程に分けて見積もると、抜けを防げます。
- 代替候補の調査と選定
- 回路、基板、ソフトウェアの修正
- 試作と評価
- 規格、認証、顧客承認の再取得
- 量産切り替えと旧部品の在庫消化
- 想定外の手戻りに備えた余裕
見落としやすいのは、4番目の承認と、6番目の余裕です。
JEITAの資料は、代替品の性能が異なれば回路の再設計が、形状が異なれば基板の再設計が必要になり、設計時間とコストが大きくなると述べています。 jeita
また、開発の後半でEOL部品が見つかるほど手戻りが大きくなり、納期確保のために最終購入や在庫確保へ走りやすいとも指摘しています。 jeita
早く気づくほど、選べる手段が増えます。
遅く気づくほど、在庫を積む以外の手段が減ります。
具体例(数値は説明用の仮定です)
産業機器に使う電源ICがNRNDになったとします。
代替品の選定に2か月、基板修正と評価に3か月、顧客承認に4か月、量産切り替えに3か月かかるとします。
合計は12か月です。
もしEOL通知から最終発注まで6か月だった場合、通知を待ってから動くと、置き換えが終わる前に最終発注が締め切られます。
この場合は、NRNDの時点で候補選定を始め、必要に応じてLTBを併用する判断が現実的です。
一方、複数のメーカーから同じ外形、同じ定格で供給されている汎用のチップ抵抗が置き換え対象なら、事情は変わります。
候補の選定と評価で1か月から2か月ほどで済むなら、通知後の対応でも間に合います。
同じNRNDでも、動き出す時期は部品ごとに違います。
NRNDで動く部品、待てる部品
NRNDの時点で動き始めたほうがよいのは、次のような部品です。
- マイコン、FPGA、電源ICなど、ソフトウェアや回路への影響が大きい部品
- 供給元が1社に限られている部品
- 製品の保守期間が長い機器に使われている部品
- 規格認証や顧客承認の再取得が必要な製品の部品
待てる可能性が高いのは、次のような部品です。
- 複数のメーカーに互換品がある汎用部品
- 同じ外形、同じ特性の代替品が容易に見つかる部品
- 製品の残りの寿命が短く、保守期間も限られている場合
判断の軸は、影響度、代替の難しさ、製品の残り寿命の三つです。
NRNDになったから即交換、でも、NRNDだから放置、でもありません。
三つの軸で部品を分けておくと、限られた人手を、優先度の高い部品に集中させられます。
開発フェーズ別に、やることを決めておく
新規設計ではNRNDとEOLを採用しない
新規設計では、NRNDとEOLの部品は選びません。
メーカー自身が採用を勧めておらず、将来の調達に不安が残るためです。
JEITAの資料も、EOL情報を早く察知して新規設計への適用を防ぐことが、発注者にとって重要だと述べています。 jeita
設計の入口で止めることが、最もコストの低い対策です。
試作だけで終わる案件など、やむを得ず採用する場合は、理由と想定される影響を記録に残しておくと、後から経緯を追えます。
量産中は、監視と準備を同時に進める
量産中の製品では、NRNDを見つけたら、まず影響範囲を洗い出します。
どの製品に使われているか、年間の使用量はいくつか、代替品の見当があるかを整理します。
整理ができたら、前章の三つの軸で優先度を付け、候補選定の開始時期を決めます。
優先度の高い部品は、メーカーの窓口に今後の見通しを問い合わせておくと、判断の材料が増えます。
保守・補修フェーズでは、最終購入と代替を組み合わせる
保守や補修の期間は、部品の寿命より長くなることがあります。
TIは、自社製品のライフサイクルが一般に10年から15年で、それより長くなることも多いと説明しています。 ti
たとえば、15年を超えて保守する機器があれば、部品のライフサイクルより製品の寿命が長くなる場面が現れます。
その場合は、最終購入だけに頼らず、代替品へ移れる設計の余地を残しておくと選択肢が広がります。
製品の保守期間と、部品の供給見通しを、企画の段階から並べて見ておくことをおすすめします。
代替部品の選び方と評価チェックリスト
代替は三つのパターンに分けて考える
代替は、大きく三つに分けられます。
一つ目は、同じメーカーが推奨する代替品への切り替えです。
二つ目は、他社の互換品への切り替えです。
三つ目は、回路や基板の再設計を伴う切り替えです。
JEITAの資料は、メーカーの推奨品があれば探す手間が省け、形状や性能が同じなら検討や評価の時間も短くて済むと述べています。 jeita
まずは、PDNや製品ページに書かれた推奨代替品を確認します。
見つからなければ、他社の互換品を探し、それでも難しい場合に再設計を検討します。
手戻りの大きさは、おおむね一つ目から三つ目へ向かって大きくなります。
評価項目のチェックリスト
代替品の候補が出たら、次の項目を確認します。
- 電気特性:電源電圧、絶対最大定格、温度範囲、起動シーケンス
- 外形と実装:パッケージ、ランドパターン、放熱特性
- ソフトウェア:レジスタ互換、ドライバの変更有無
- 信頼性と認証:規格適合、必要な再試験
- 供給面:リードタイム、最小発注数量、複数調達先の有無
- ライフサイクル:代替品自身のステータス
最後の項目は、見落としやすいポイントです。
代替品がすでにNRNDだったり、同じ系統の部品だったりすると、数年後に同じ作業をもう一度行う可能性があります。
代替品を選ぶときは、価格や特性だけでなく、そのライフサイクルも必ず確認してください。
顧客や規格への通知が必要になる場合がある
部品の置き換えは、自社の製品の変更として扱われる場合があります。
顧客との契約や業界の規格で、変更通知が求められる製品なら、顧客への通知期間も所要期間に含めます。
Analog Devicesは、J-STD-046に沿って、変更の実施の90日以上前に通知を出し、顧客には30日以内の受領確認を求める運用を公開しています。 analog
出典:Analog Devices「Quality Systems」
自社が部品メーカーとして通知を出す側になる場合も、通知を受ける側になる場合も、同じ考え方が使えます。
通知の期間を、置き換えの計画に最初から組み込んでおくと、日程の見積もりが現実に近づきます。
ラストタイムバイで失敗しないための考え方
LTBは置き換えの代わりではなく、時間を買う手段
LTBは、置き換えが終わるまでの時間を稼ぐ手段です。
置き換えそのものの代わりにはなりません。
在庫を積んでも、製品の保守期間が終わるまで足りるとは限らないためです。
LTBに頼りすぎると、置き換えの判断が先送りされ、いずれ同じ問題に戻ってきます。
置き換えを進めながら、移行が終わるまでの橋渡しとしてLTBを使う、という位置づけをおすすめします。
数量は、移行が終わるまでの需要で考える
数量の目安は、次の式で考えられます。
LTB数量 = 置き換え完了までの需要 + 保守に必要な数量 + 安全在庫
ここで大切なのは、需要予測を保守的に見ることと、置き換えの遅れも織り込むことです。
JEITAの資料は、最終購入で在庫を確保する際に、見込みが外れると資産の損失につながると指摘しています。 jeita
MaxLinearのように、生産中止品の注文がキャンセルも返品もできない扱いになるメーカーもあります。 maxlinear
一度発注した数量は、あとから減らせない場合があります。
多く買いすぎれば資産の損失になり、少なく買えば欠品になります。
発注前に、営業担当や購買、設計、品質の担当者で、数量の根拠を共有しておくと安心です。
保管と調達先にも注意する
長期保管する部品は、保管条件の管理が欠かせません。
湿度や温度の条件、保管できる期間は、部品ごと、メーカーごとに異なります。
メーカーの仕様書やパッケージの表示を確認し、社内の保管ルールに落とし込みます。
また、メーカーが生産を終えた後の調達は、非正規の流通経路で偽造品に当たるリスクが一般に高まると言われています。
可能な限り、メーカーや正規代理店から、期限内に確保することを優先してください。
部品ライフサイクルを仕組みで管理する
BOMを定期的に照合する
個人の注意力に頼る管理は、続きません。
BOMとメーカーのライフサイクル情報を、定期的に照合する仕組みが必要です。
DigiKeyの解説によれば、多くのメーカーは一定の期間ごとに有効な部品を見直し、廃止の傾向にある場合などにステータスを更新します。 digikey
見直しがメーカー側で定期的に行われるなら、自社側でも定期的な照合が必要です。
頻度は、製品の重要度や部品点数に応じて、自社で決めてください。
部品ランクで使用を制限する
照合の結果を、設計の入口に反映させる仕組みも有効です。
JEITAの資料によれば、日本無線は、入手したEOL情報を部品ランクとして社内の部品情報システムに登録し、使用の制限を促しています。 jeita
たとえば、生産中止の決まった部品は禁止、新規設計非推奨の部品は制限、といった区分です。
設計者が部品を選ぶ画面でランクが見えれば、気づかないまま採用する事故を減らせます。
小さな組織でも、表計算ソフトで部品ごとに区分を付けるだけで、同じ効果を得られます。
判断の記録を残す
最後に、判断の記録を残すことをおすすめします。
なぜNRNDの部品を使い続けたのか、なぜその時期に動いたのかを、短くても残しておきます。
担当者が変わっても、判断の筋道が引き継がれます。
顧客や上司への説明でも、根拠として使えます。
現場で起きやすい失敗と防ぎ方
次の五つは、判断の場面で起きやすい失敗です。
- NRNDを品質不良と誤解して、必要以上に早く全数を交換してしまう
- ディストリビュータの在庫表示だけを見て、メーカーの状況を確認しない
- 代替品自身のライフサイクルを確認せず、数年後に同じ問題が再発する
- LTBの数量を、需要予測だけで決めてしまう
- 関係者の間で、EOLという言葉の意味がそろっていない
一つ目は、メーカーによってNRNDの意味が違うことを知らないと起こります。
二つ目は、販売元の取り扱い終了と、メーカーの生産終了が別であることを知らないと起こります。
三つ目から五つ目は、本文で説明した確認の習慣と、社内での用語の統一で防げます。
どれも、特別な知識より、確認の順番を決めておくことで減らせます。
よくある質問(FAQ)
EOLとNRNDの違いは何ですか?
EOLは、メーカーが生産を終えると決め、最終発注日などの期限が設定された状態です。
NRNDは、新規設計への採用を勧めない状態で、既存の設計向けには供給が続くのが一般的です。
NRNDは廃止の決定を意味しないことが多く、メーカーごとに定義が異なります。
NRNDの部品はまだ購入できますか?
一般には購入できます。
NXPの定義では、NRNDの部品は既存の顧客が引き続き注文できる状態とされています。 nxp
ただし、在庫や納期は販売元によって変わるため、発注前にご確認ください。
NRNDになったら、すぐに置き換えるべきですか?
すぐに全数を交換する必要はないことが多いです。
新規設計では使わず、既存の設計は、置き換えの所要期間と部品の重要度に応じて動き出す時期を決めます。
所要期間が長い製品ほど、NRNDの時点から候補選定を始めておくと安心です。
NRNDからEOLまでは、何年くらいかかりますか?
一定ではありません。
JEITAの資料で紹介された追跡では、NRNDだった部品のうち、1年で約17%、2年で約3割が生産中止予定または生産中止へ移っていました。
この調査は2016年から2018年のもので、現在の市場にそのまま当てはまるとは限りません。
EOL通知から何か月で買えなくなりますか?
通知の内容によって変わります。
JESD48Cは、通知から最低6か月の最終発注期間と、12か月の最終出荷期間を求めています。
TIのように、最終発注を12か月以内、最終納入を発注期間終了後6か月までとするメーカーもあります。
実際の日付は、必ず個々のPDNで確認してください。
LTBはどれくらい買えばよいですか?
置き換えが完了するまでの需要に、保守に必要な数量と安全在庫を加えて考えます。
発注後にキャンセルできない場合があるため、過剰な発注は資産の損失につながります。
数量の根拠を、設計、購買、品質の担当者で共有してから発注してください。
PCNとPDNは何が違いますか?
PCNは製品や工程の変更通知で、J-STD-046が、変更後の初回出荷日の90日前までの通知を求めています。
PDNは生産中止通知で、JEDEC規格のJ-STD-048の対象です。
どちらも部品管理では重要ですが、求められる対応は別です。
ディストリビュータで取り扱い終了と出たら、EOLですか?
必ずしもそうとは限りません。
DigiKeyの解説では、販売元が取り扱いを終了しても、メーカーのサイトではまだアクティブな場合があると説明されています。
メーカーの公式ステータスで、あわせて確認してください。
まとめ
EOLは、生産終了が決まり、調達に期限が付いた状態です。
NRNDは、新規設計への採用を勧められない状態で、廃止が決まったとは限りません。
置き換えの開始時期は、メーカーのステータスではなく、自社の置き換え所要期間から逆算して決めます。
所要期間が、通知後の猶予より長い部品は、NRNDの時点から動き出すのが安全です。
LTBは時間を稼ぐ手段で、置き換えの代わりではありません。
最初の一歩として、次の三つを今日から始めてみてください。
- BOMの中から、NRNDとEOLの部品を洗い出す
- それぞれの置き換え所要期間を、工程ごとに見積もる
- 使っているメーカーのNRNDの定義を、一枚にまとめる
この三つがそろうと、通知が届いたときに、慌てずに動けるようになります。
参考にした一次情報
- Texas Instruments「Product life cycle」
- Texas Instruments「Product change notification (PCN)」
- NXP「Product lifecycle」
- オムロン「Not Recommended for New Designs」
- Analog Devices「Quality Systems」
- MaxLinear「Policy and Procedure」
- JEDEC「J-STD-048A」
- JEDEC JESD48C(Infineon掲載)
- JEITA ECALGAセミナー資料「日本無線における新規設計非推奨情報の活用事例」
- DigiKey TechForum「部品状況:生産中止品になるまでの過程」
- Z2Data「3 Key Things to Know About Product Change Notifications」










