
結論:国内EMSの仕事量は「横ばい」ではなく「高付加価値分野から緩やかに回復」
2026年8月時点の国内EMS・基板実装業界は、全国一律の繁忙状態ではありません。
結論を先に言えば、数量は前年並みから小幅増、金額はそれ以上に増加し、AIサーバー、データセンター、半導体製造装置、産業用ロボット向けを中心に仕事量が上向いています。
一方、車載、FPD、民生機器の一部では生産調整や地域差が残っています。
経済産業省の生産動態統計をJPCAが毎月整理している「電子回路基板生産動向」を本稿で集計すると、2026年1〜5月の電子回路実装基板の部品搭載点数は約62.2億点で、前年同期比2.5%増でした。
生産金額は約1,410億円で、同7.1%増です。
数量より金額の伸びが大きいことから、単純な大量生産の回復というより、高密度、多層、大型、高信頼、高放熱、検査・トレーサビリティを伴う高付加価値案件の比率が高まっているとみるのが適切です。
ただし、直近の2026年5月だけを見ると、部品搭載点数は約11.54億点で前年同月比2.7%減、生産金額は265.7億円で同2.2%増でした。
月単位では数量が弱く、価格・製品構成によって金額が支えられています。
3〜5月の3か月合計では、搭載点数が前年同期比2.3%増、生産金額が同10.9%増となるため、短期の振れをならせば「数量は緩やかな回復、金額は比較的強い」という姿が見えます。
30秒で分かる2026年の国内EMS仕事量
- 全国平均:横ばいから緩やかな回復
- 数量:2026年1〜5月の部品搭載点数は前年同期比2.5%増
- 金額:同期間の電子回路実装基板生産額は前年同期比7.1%増
- 強い分野:AIサーバー、データセンター、半導体製造装置、ロボット、高信頼産業機器
- まだら模様の分野:車載、EV関連、FPD、一般民生機器
- 地域:東北、北陸、近畿、中国、九州で電子部品・AI関連の強い材料。東海は生産増加基調だが車載の内訳に差
- 先行き:今後3〜6か月は改善方向。ただし、部材価格、メモリー不足、物流、為替、人手不足が生産の制約
国内EMS・基板実装の「仕事量」は何で判断するのか
国内EMSだけを対象に、受注残やライン稼働率を毎月公表する公的統計はありません。
そのため本稿では、仕事量を一つの数字だけで判断せず、次の情報を組み合わせています。
- 電子回路実装基板の部品搭載点数と生産金額
- 国内向け電子部品出荷額
- 工作機械、ロボット、半導体製造装置など主要顧客業界の受注
- 日本銀行の全国短観と地域経済報告
- EMS企業や基板関連企業の決算、設備投資、新サービス
- XなどSNSで確認できる納期、部品不足、価格改定、案件募集の投稿
ここで注意したいのは、「電子回路実装基板の生産統計」と「EMS企業の売上」は完全には一致しないことです。
EMSには基板実装だけでなく、部品調達、筐体組立、完成品組立、検査、修理、物流などが含まれます。また、メーカーの内製実装も生産統計に含まれる場合があります。
それでも、部品搭載点数と生産金額は、国内の実装工程に流れる仕事量を知る最も直接的な公開データです。
公的統計で見る国内基板実装の仕事量
1〜5月累計は数量2.5%増、金額7.1%増
2026年1〜5月の電子回路実装基板は、部品搭載点数が約62.2億点、生産金額が約1,410億円でした。前年同期比では、搭載点数が2.5%増、生産金額が7.1%増です。
月別の搭載点数は、次のように推移しています。
- 1月:前年同月比3.6%増
- 2月:同1.9%増
- 3月:同4.3%増
- 4月:同5.2%増
- 5月:同2.7%減
3月と4月は比較的強く、5月は反動や稼働日、製品構成の影響を受けたと考えられます。
生産金額は次のとおりです。
- 1月:前年同月比1.5%増
- 2月:同1.0%増
- 3月:同16.1%増
- 4月:同14.1%増
- 5月:同2.2%増
生産金額は、すべての月で前年同月を上回りました。
この差が重要です。
もし全国のEMS工場が同じ仕様の基板を単純に多く作っているだけなら、搭載点数と生産金額は近い伸び方になりやすいはずです。
実際には金額の伸びが大きいため、部材価格や人件費の上昇に加え、高多層基板、ビルドアップ基板、放熱基板、大型基板、高信頼実装、X線検査、機能検査、リワークなど、単価の高い仕事が増えている可能性があります。
高多層・ビルドアップは強く、モジュール基板は弱い
同じJPCAデータで2026年1〜5月の裸基板を見ると、10層以上の多層基板の数量は前年同期比36.9%増、ビルドアップ基板は15.9%増でした。
一方、フレキシブル基板は0.4%減とほぼ横ばい、モジュール基板は29.3%減です。
これは、すべての基板分野が同じ方向に動いているわけではないことを示します。
AIサーバー、通信、半導体製造装置、計測機器などで必要になる高多層・高密度領域は強い一方、特定の民生機器やモジュール用途では調整が続いていると考えられます。
国内EMSの営業や調達では、「業界全体が良いか」ではなく、どの顧客分野、どの基板仕様、どの工程が伸びているかを見る必要があります。
電子部品の国内向け出荷も二桁増
JEITAによると、2026年5月の電子部品グローバル出荷額は3,533億円で前年同月比15.3%増、うち日本向けは612億円で11.6%増でした。
品目別では、次のようになっています。
- 受動部品:前年同月比19.4%増
- 接続部品:同12.9%増
- 変換部品:同10.6%増
電子部品の日本向け出荷が増えていることは、国内の機器生産や部品在庫積み増しが一定程度動いていることを示します。
ただし、出荷増には価格上昇も含まれます。部品出荷額の増加を、そのまま実装枚数の増加と読み替えるのは危険です。
実装統計と組み合わせて、「量は小幅増、金額は強い」と判断するのが妥当です。
仕事量を押し上げている5つの需要分野
1.AIサーバー・データセンター向け
2026年の最大の牽引役はAI関連です。
日本銀行の2026年7月地域経済報告では、次のような企業の声が紹介されています。
- 東北:データセンター向け製品が高水準生産
- 北陸:データセンター向け電子部品の受注が急増
- 近畿:供給能力不足から他用途の生産ラインを流用
- 中国地方:データセンター向け電子部品の受注増と稼働率引き上げ
- 九州:データセンター向け半導体製品を増産
地域をまたいでAI・データセンター関連の能力増強が進んでいます。
OKIは2026年3月、AIサーバー機器向けEMSを開始しました。
大型・多層基板の実装、部品調達、システム組立、検査、1万ピン超のAI半導体のリワークまで提供し、2026年度に10億円の売上を目標としています。
こうした案件は搭載点数だけでなく、熱対策、反り対策、X線検査、機能試験、トレーサビリティ、リワーク技術を必要とします。
国内EMSにとっては、枚数以上に工程数と技術工数が増える分野です。
2.半導体製造装置・先進パッケージ向け
日本半導体製造装置協会は、2026年度の日本製半導体製造装置販売高を、前年度比26%増の6兆5,502億円と予測しています。
日本市場販売高は10%増の1兆5,835億円となる見通しです。
AIサーバー向け先端ロジック、HBMを中心としたDRAM投資、2nmロジック量産準備が背景です。
一方、FPD製造装置は5%減の予測で、装置業界の中でも明暗があります。
半導体製造装置は、次のような多数の実装基板を使用します。
- 制御基板
- 電源基板
- センサー基板
- モーター制御基板
- 通信基板
- 検査ユニット
装置1台当たりの基板枚数が多く、多品種少量、高信頼、長期供給が求められるため、国内EMSと相性の良い市場です。
工作機械受注も2026年6月に前年同月比52.8%増、内需45.5%増となりました。1〜6月累計でも総額35.7%増、内需22.8%増です。
装置・産業機器関連の制御基板需要には、先行きの追い風があります。
3.産業用ロボット・自動化設備向け
日本ロボット工業会によると、2026年4〜6月期のロボット受注額は前年同期比40.0%増、生産額は24.3%増でした。
国内出荷額は3.7%増にとどまる一方、需要先には差があります。
- 電気機械製造業向け:前年同期比16.3%増
- 自動車製造業向け:同16.6%減
- 電子部品実装用ロボット輸出額:同40.9%増
つまり、ロボット・自動化市場は全体として強いものの、国内の自動車設備だけは弱さが残っています。
EMS側では、次のような引き合いが期待できます。
- マウンターや検査装置そのものの生産
- 工場自動化用の制御基板
- 搬送機器
- 画像処理機器
- センサー関連
- 省人化設備用基板
4.車載・電装向け
車載は「悪い」のではなく、メーカー、車種、地域、EV・HV・内燃機関で差が大きい分野です。
2026年5月の国内乗用車メーカー8社の国内生産は前年同月比0.9%減で、ほぼ前年並みでした。
一方、日本ロボット工業会の自動車製造業向け国内出荷額は、4〜6月期に16.6%減です。
地域別には、次のような違いがあります。
- 東海:輸送機械の生産が増加基調
- 中国地方:新型車需要を背景に自動車部品工場が高稼働
- 関東甲信越:EV需要が想定より弱く、HVやガソリン車向け設備へ投資配分を変更
- 九州:中国での日本車販売低迷を受け、自動車部品を減産
車載EMSは一括して判断せず、顧客の生産計画、搭載車種、仕向け地、パワートレイン、新型車の立ち上がりを個別に確認すべきです。
ADAS、電源、インバーター周辺、センサー、通信、照明など電装化の恩恵を受ける領域は底堅い一方、特定EVプログラムや中国向け依存度の高い案件には注意が必要です。
5.医療・計測・防衛・社会インフラ向け
医療、計測、防衛、鉄道、電力、通信などは、AIほど急増していなくても国内EMSの安定稼働を支える分野です。
量産規模は小さくても、次のような仕事が発生しやすい特徴があります。
- 長期供給
- 設計変更管理
- 修理
- 再設計
- 旧部品の置き換え
- 実装後の組立・検査
- 少量再生産
特に部品の生産終了が増える局面では、代替部品評価、基板改版、少量再生産の需要が増えるため、多品種少量型のEMSに有利です。
ニュースとSNSから見える現場の温度感
「全国的な満杯」より「成長分野の能力不足」が目立つ
企業ニュースでは、AI・高密度実装への新規参入や能力増強が目立ちます。
OKIのAIサーバー向けEMS開始に加え、メイコーは2026年度の電子機器事業売上高を、2025年度の426億円から660億円へ引き上げる計画を示しています。
一方で、EMS各社の全案件が増えているわけではなく、車載や従来型産業機器の一部では生産調整もあります。
大手企業の計画を、業界全体にそのまま当てはめないことが重要です。
調達面では、価格と納期の上昇圧力が確認できます。
P板.comは原材料、物流費、エネルギー、人件費の上昇を理由に、2026年9月から実装サービス価格を約14%改定すると発表しました。
基板製造サービスも約15%値上げし、5月には国際物流と原材料供給のリードタイム長期化を理由に、標準納期を4日から5日へ変更しています。
Xでは、実装業界ニュースアカウントが5月の電子回路実装基板生産額265.7億円、前年同月比2.2%増を共有しています。
また、基板実装会社のアカウントでは「電子部品の納期改善の兆しがない」「展示会でも部品が入らないという声がある」といった投稿が確認できます。
ただし、SNSは統計調査ではありません。
投稿は困り事や営業告知に偏りやすく、同じ内容が拡散されることもあります。
本稿ではSNSを需要量の証明には使わず、部品不足、納期、価格、採用、設備増強の兆候を早く捉える補助情報として扱っています。
今回確認できた範囲では、「全国の実装ラインが一斉に満杯」という投稿傾向よりも、次の動きの方が明確でした。
- 特定部品の不足
- 材料・物流コストの上昇
- AI・高密度分野の供給能力不足
- 人手不足
- 一部工程の納期長期化
地域別に見る国内EMS・基板実装の仕事量
地域別のEMS受注額を直接示す公的統計はありません。
以下は、日本銀行の2026年7月地域経済報告、地域別製造業DI、電子部品・電気機械・輸送機械の企業ヒアリングを中心に、本稿が独自に整理した評価です。
地域別DIは地域間の単純比較に適さないと日本銀行も注意しているため、評価は絶対的な順位ではなく、各地域内の方向感としてご覧ください。
| 地域 | 現在の仕事量感 | 主なプラス材料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 北海道 | 標準〜やや弱い | 設備投資は緩やかに増加。半導体関連投資の波及余地 | 鉱工業生産は横ばい圏内で一部弱め。現時点のEMS量産集積は限定的 |
| 東北 | やや強い | 電子部品・デバイスと輸送機械が回復。AI向けライン増設、高水準生産 | 大型投資の一巡、人材確保、地域・顧客による差 |
| 北陸 | 強い分野あり | データセンター向け電子部品の受注急増、増産、新工場計画 | AI依存度、材料調達、能登復旧に伴う人員・工事制約 |
| 関東甲信越 | 標準〜やや強い | AIサーバー向け電子部品輸出、半導体・自動車関連の求人増、生産用機械 | 電気機械と輸送機械は全体では横ばい。EV関連は弱い案件もある |
| 東海 | やや強い | 生産・輸出が増加基調。AIサーバー向け電子部品の増産と能力増強 | 車載はメーカー・車種差。原材料と輸送リスク |
| 近畿 | 強い分野あり | 京都でデータセンター向け電子部品の供給能力不足。半導体製造装置も堅調 | 地域全体の生産は横ばい。一般機械・素材では差がある |
| 中国 | やや強い | 電子部品・デバイスが緩やかに増加。AI向け受注増、岡山・広島の車載高稼働 | 化学の弱さ、人材不足、顧客集中 |
| 四国 | 標準〜やや強い | 電気機械が持ち直し、AI半導体関連の能力増強計画 | EV関連の収益悪化、メモリー価格・レアアース調達 |
| 九州・沖縄 | やや強い | 電子部品・デバイス増加、半導体製造装置、データセンター、国内調達切替 | 北九州の自動車部品は弱い。化学・素材、物流、人材の制約 |
北海道:将来の半導体波及は期待できるが、足元は標準以下
北海道の鉱工業生産は「横ばい圏内ながら一部に弱め」とされています。
設備投資は緩やかに増加していますが、現在の基板実装・EMS仕事量を全国上位とみる材料は多くありません。
半導体関連投資が装置、保守、制御盤、センサー、電源などへ波及する可能性はあるものの、量産EMSの実需として表れるまでには時間差があります。
東北:AI・電子部品・装置関連が回復
東北は「持ち直し」が明確です。
電子部品・デバイスと輸送機械は回復し、AI関連需要を背景に、次の動きが報告されています。
- データセンター向け製品の高水準生産
- 電気機械の生産ライン増設
- 先端半導体向け材料の能力増強
山形、宮城、福島、青森などの電子部品・装置・EMS集積には追い風です。
ただし、人材確保と賃上げ負担が増産の上限になりやすい点には注意が必要です。
北陸:データセンター向け電子部品が地域の強さを牽引
北陸は、今回の地域調査で最も強い電子部品関連の声が出た地域の一つです。
データセンター向け電子部品の受注急増を受けた新工場建設、増産継続、今後5年程度の高水準受注見通しが報告されています。
EMS、基板、セラミック、コネクター、受動部品、製造装置部品など、周辺企業にも仕事が波及しやすい環境です。
関東甲信越:AI・半導体装置は強いが、全体は横ばい
関東甲信越の鉱工業生産は、基調として横ばいです。
電気機械と輸送機械も全体では横ばいですが、長野・新潟・山梨周辺ではAIサーバー、通信設備、半導体、自動車関連の受注・求人増が確認されています。
一方、群馬の輸送用機械ではEV需要が想定より弱く、HVやガソリン車向けへ投資を振り替える動きがあります。
商社営業にとっては、県単位よりも「顧客の最終用途」で見込み先を選ぶ地域です。
東海:生産増加基調、AIと車載の両輪。ただし車載内で差
東海は地域全体の輸出と生産が増加基調です。
AIサーバー向け製品は生産能力を引き上げて量産が進み、今後も能力増強投資が計画されています。
輸送機械も生産増加の声がある一方、EV、輸出先、原材料調達によって案件差があります。
岐阜ではレシップ電子が、受注増加に対応する基板実装新工場へ約11億円を投資し、2025年からの稼働を計画しました。
車載だけでなく、半導体製造装置やロボット向けも狙う動きです。
近畿:AI向けは供給能力不足、一般分野は横ばい
近畿全体の生産は横ばいですが、京都の電子部品ではデータセンター向け需要急増により、能力増強だけでは足りず、他用途の生産ラインを流用しているとの声があります。
半導体製造装置の輸出も堅調です。
大阪・京都・滋賀・兵庫には産業機器、計測、医療、電子部品、装置メーカーが集積しており、高信頼・多品種少量EMSに追い風があります。
中国:AI電子部品と車載が同時に強い地域
中国地方の生産全体は横ばいですが、電子部品・デバイスは緩やかに増加しています。
岡山ではAI関連のデータセンター向け電子部品受注増により稼働率を引き上げ、今後数年間の高水準受注を見込む企業の声があります。
自動車部品でも岡山・広島で高稼働が報告されています。
AIと車載の両方が動く一方、人材不足と顧客集中がリスクです。
四国:電気機械は持ち直し、部材価格が重い
四国の生産は横ばいですが、電気機械は緩やかに持ち直しています。
松山では、AI関連の半導体製品受注増を受けた能力増強投資が計画されています。
一方、高松では次の課題が報告されています。
- EV関連事業の収益悪化
- メモリー調達価格の急上昇
- レアアースの代替調達
- 材料価格の転嫁
受注は改善しても、部材制約によって実際の生産・利益が伸びにくい可能性があります。[7]
九州・沖縄:半導体は強いが、自動車は地域内で明暗
九州・沖縄は設備投資が高水準で、電子部品・デバイスの生産は増加しています。
具体的には、次の動きが報告されています。
- 熊本:半導体製造装置向け部品の海外出荷増
- 鹿児島:データセンター向け半導体製品の増産
- 大分:電子部品工場の自動化投資
- 長崎:海外調達比率の高い部品を国内調達へ切り替える動き
一方、北九州では中国向け日本車の販売低迷を受け、自動車部品の生産・出荷が減少しています。
同じ九州でも、熊本・鹿児島・大分の半導体・装置系と、北部九州の車載系では仕事量の方向が異なる点が重要です。
今後3〜6か月の見通し
基本シナリオ:秋から年末にかけて緩やかに改善
今後3〜6か月の国内EMS仕事量は、全国平均では緩やかな改善が続く可能性が高いとみます。
理由は、半導体製造装置、工作機械、ロボット、電子部品の先行指標がプラスであり、AI関連の能力増強が複数地域で進んでいるためです。
経済産業省の2026年6月鉱工業生産も前月比1.3%増で、7月と8月の製造工業生産予測はともに上昇でした。
ただし、仕事量の増加がそのまま生産数量になるとは限りません。
次の部材が不足すれば、受注残は増えてもライン投入できない可能性があります。
- メモリー
- 特定半導体
- コネクター
- 基板材料
- レアアース
- 樹脂
- 溶剤
P板.comの価格・納期改定やSNSの部品不足の声は、この制約を示しています。
上振れシナリオ
AIサーバー、HBM、先端ロジック、半導体製造装置の投資が予測どおり拡大し、部品供給が安定すれば、2026年後半は高多層・高密度・高放熱・検査工程を持つEMSで繁忙度が上がる可能性があります。
生産用機械、制御盤、画像検査、ロボット、電源、センサーまで波及すれば、関東甲信越、東海、近畿、東北、九州を中心に受注が厚くなります。
下振れシナリオ
次の要因が悪化した場合、受注があっても部材不足や採算悪化で生産が止まる可能性があります。
- 中東情勢
- 国際物流の停滞
- 原油・樹脂・溶剤価格
- 為替変動
- 対日輸出管理
- メモリー価格
- 完成車の海外販売
- 人手不足
- 人件費上昇
また、AI向け需要が強すぎて部品や設備が集中すると、一般産業機器や民生品向けの納期が延びる副作用も考えられます。
商社営業・調達担当は何を確認すべきか
商社営業が優先して訪問したい企業
2026年後半は、単に「基板実装会社」を広く回るより、次の条件に当てはまる企業を優先すると効率的です。
- AIサーバー、通信、半導体製造装置、生産設備向けの実績がある
- 高多層、大型基板、BGA、LGA、微細部品、高放熱、厚銅に対応する
- X線、3D-AOI、SPI、機能検査、トレーサビリティを強化している
- 新ライン、マウンター、検査装置、省人化設備を導入している
- 部品調達、代替提案、EOL対応をEMS側で引き受けている
- 採用を増やしている
- 派遣人員を募集している
- 休日稼働を検討している
提案商材として、次の分野が有望です。
- はんだ材料
- メタルマスク
- キャリア・治具
- 耐熱テープ
- 洗浄剤
- 静電対策
- 温度プロファイル関連
- 検査治具
- リワーク
- トレーサビリティ
- 省人化設備
仕事量が増えるほど、消耗材だけでなく、段取り時間、歩留まり、検査工数、人手不足を減らす提案の価値が高まります。
調達担当がEMSへ確認したい質問
調達側は、見積金額と納期だけでなく、次の質問で実際の余力を確認できます。
- 現在のSMTライン稼働率と、3か月先の受注残はどの程度か
- ボトルネックはマウンター、異形挿入、手はんだ、検査、組立のどこか
- 長納期部品と代替候補は何か
- 基板・部品支給とEMS一括調達で納期はどう変わるか
- 新規品のNPI枠、試作枠、量産枠は分けて管理されているか
- 二次調達先、代替工場、BCPはあるか
- 価格改定の要因は部材、人件費、物流、為替のどれか
「ラインが空いている」と「希望納期で完成品を出せる」は同じではありません。
マウンターに余力があっても、部品未入荷、検査治具未完成、手はんだ要員不足、顧客承認待ちで出荷できないことがあります。
そのため、EMS全体の稼働率だけでなく、工程別に確認することが重要です。
毎月チェックしたい7つの指標
国内EMSの仕事量を継続的に把握するなら、次の指標を毎月または四半期ごとに確認してください。
- JPCA「電子回路基板生産動向」の実装基板搭載点数と生産金額
- JEITA「電子部品グローバル出荷統計」の日本向け出荷
- 経済産業省「鉱工業生産」と製造工業生産予測
- 日本工作機械工業会の受注速報、特に内需
- 日本ロボット工業会の電気機械向け・自動車向け国内出荷
- 日本銀行の短観と地域経済報告
- EMS・基板関連企業の納期、値上げ、採用、設備投資、新工場のニュースとSNS
搭載点数だけが増えれば「量の繁忙」、生産金額だけが増えれば「価格または高付加価値化」、両方が増えれば「実需拡大」の可能性が高まります。
さらに受注、求人、納期、設備投資が同じ方向に動けば、景気判断の確度が上がります。
よくある質問
2026年の国内EMS・基板実装業界は忙しいですか?
全国一律の繁忙ではありません。
2026年1〜5月は部品搭載点数が前年同期比2.5%増、生産金額が7.1%増で、全体は緩やかに回復しています。
AIサーバー、データセンター、半導体製造装置、産業用機器は強く、車載、FPD、民生機器の一部はまだら模様です。
どの地域のEMS仕事量が多いですか?
公開情報では、東北、北陸、近畿、中国、九州でAI・電子部品・半導体関連の強い動きが確認できます。
東海は生産全体が増加基調で、AIと車載の両方が動いています。
ただし、都道府県別のEMS受注統計はないため、実際には企業と最終用途ごとの確認が必要です。
車載向け基板実装は回復していますか?
国内生産はおおむね前年並みですが、EV、HV、車種、メーカー、仕向け地で差があります。
ADASや電装化関連は底堅い一方、特定EV案件、中国向け依存、自動車設備投資には弱い部分があります。
AI需要は国内の一般的な基板実装会社にも波及しますか?
直接AIサーバー基板を実装しなくても、半導体製造装置、電源、冷却、通信、検査、搬送、工場自動化などを通じて波及します。
ただし、高多層、大型基板、高放熱、X線検査、トレーサビリティなどの対応力によって、受注機会に差が出ます。
SNSだけで仕事量を判断できますか?
判断できません。
SNSは部品不足、納期、値上げ、採用などの兆候を早く見つけるには有効ですが、投稿者や内容に偏りがあります。
公的な生産統計、受注統計、企業決算と組み合わせて使うべきです。
まとめ
2026年8月時点の国内EMS・基板実装業界は、数量ベースでは小幅な回復、金額ベースではそれを上回る成長となっています。
2026年1〜5月の電子回路実装基板は、部品搭載点数が前年同期比2.5%増、生産金額が7.1%増でした。
直近5月は搭載点数が2.7%減った一方、生産金額は2.2%増です。
このため、国内EMSの仕事量は、単純な生産枚数よりも、高付加価値化と工程の複雑化によって増えていると考えられます。
今後3〜6か月は、次の分野が牽引し、全体として緩やかな改善が見込まれます。
- AIサーバー
- データセンター
- 半導体製造装置
- ロボット
- 生産設備
- 高信頼産業機器
ただし、車載、FPD、民生分野は一様ではなく、部品不足、物流、材料価格、人件費、人材確保が実際の生産を制約します。
営業では「どの地域が良いか」だけでなく、どの最終用途が伸び、どの工程がボトルネックになっているかを確認してください。
調達では、EMSの総合的な空き能力ではなく、部品調達、SMT、後工程、検査、組立ごとの余力を確認することが重要です。
地域別のEMS・基板実装会社を探している方へ。所在地、対応工程、得意分野を比較できる「国内EMS企業612社データベース」をご活用ください。新規調達先の探索、代替サプライヤー調査、営業リスト作成の時間を短縮できます。

出典
- JPCA「業界動向/電子回路基板生産動向」(出所:経済産業省生産動態統計月報)
- JEITA「電子部品グローバル出荷統計 2026年5月動向概況」
- 日本半導体製造装置協会「半導体・FPD製造装置 需要予測(2026年7月)」
- 日本工作機械工業会「2026年6月分 受注速報」
- 日本ロボット工業会「2026年4〜6月期 受注・生産・出荷実績」
- 経済産業省「2026年6月の鉱工業生産・出荷・在庫指数」
- 日本銀行「地域経済報告(さくらレポート)2026年7月」
- OKI「AIサーバー機器向けEMSを開始」
- メイコー「2025年度決算説明会資料」
- P板.com「2026年の価格改定・標準納期変更のお知らせ」
- 日本自動車工業会「2026年5月生産統計 更新情報」
- Jisso News(X)「2026年5月の電子回路実装基板生産額」
- スター電子(X)「電子部品の納期に関する投稿」
- レシップ電子「プリント基板実装の新工場を建設」
- 日本自動車会議所「乗用車メーカー8社の2026年5月実績」
※本稿の数値は、各公表資料を2026年8月4日時点で確認し、一部を本稿で再集計しています。地域別の「仕事量感」は公的なEMS受注統計ではなく、地域生産、業況、企業ヒアリング、設備投資ニュースを組み合わせた独自評価です。投資判断、発注判断、生産計画では、各社の最新情報を個別に確認してください。












